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生き方を忘れてきた私たちは  作者: 奈良ひさぎ
第参章 最後ノ魔術師
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参拾弐、奏ノ計画

「で、その落ち着きようからするに、全部知ってたな?」

「全部ではありませんが、奏から計画は聞かされていました。近いうちに星芒市は突き崩す、と」

「突き崩すのは一向に構わんが、京都にすら黙っとくってのは話が違うだろうよ」

「私もまさか、三嶋さんや他の主任にも伝えていないとは思っておらず……ご迷惑をおかけしております」

「まあいい、時期が早いか遅いかってだけだ。もともと吹田は京都に立てるような義理もねえからな」


 三嶋さんの言葉を、京都研究所が魔術に適合できなかった人の集まりという話の後に聞くと意味深だ。直接口には出さなくとも、未来を見据え魔術研究を進める吹田より、過去を顧みる京都の方が下であるという暗黙の了解があるのだろう。


「今はどのような状況か、お聞きですか」

「『レベル1』の施設は崩壊したと聞いてる。まあ星芒のインフラ握ってる『レベル2』がやられ、神の話をやってる『レベル3』が世間に漏れるとまずいから、そこを優先で守るためにさっさと放棄したって可能性もあるだろうがな」

「神様を一般人の目に触れさせるわけにはいきませんからね」

「いずれはお披露目するにしても、今はまだ耐性がなさすぎる。せめて素地がねえとな。しかし、奏は本気で一人で片ァ付ける気なのか? 吹田の人間すら動員せずに?」

「奏の魔術練度は吹田でも一、二を争います。その面では心配ないかと」

「いざとなりゃ吹田や京都は駆けつける準備ができるだろうが、つくばが味方してくれるとは限らないんだろ? まだ懐柔はしてねえだろうし」

「増援が来る前に、片をつけるということだと思います。実際、『レベル2』を陥落させてしまえばこちらのものですし」


 レベル2が星芒市のインフラを司っていることを初めて聞いた。というより、星芒市についてはまだ聞いていないことだらけなのだが。


「奏の計画も、『レベル2』を陥落させるところまでをいかに素早く行うかがカギになっています。電力や水道といったインフラを遮断できれば、研究活動はおろか生活もままならなくなります。陸の孤島と化した星芒市から実験対象の女性たちを救い出す方法はその時に考えればいいと、優先度を下げているようです」

「ちょっと待て。インフラ遮断すりゃ、つくばも落ちるだろ」

「ええ」


 元はつくばの第三研究所が分派して、星芒市という街を作り上げたらしい。その名残でインフラ設備はつくばと星芒市で共用しており、どちらかが陥落するともう一方も止まる仕組みになっているという。


「いや――むしろ、それが狙いか」

「どういうことですか」

「星芒市のトップはあのババアだが、つくばのトップは国だ。生活すら困難になりゃさすがに国も無視できねえってことで、国を引きずり出して大事にするってことだろ」

「柏柚香から取り返した後、つくばの研究所も蓬さんが所有しているんじゃ?」

「表向きはそうだが、実際のところは国の管理下にある。もともと超能力の研究は国のプロジェクトだから、完全にお嬢さんの好きにさせるわけにもいかねえんだろうよ」


 星芒市が陸の孤島になろうが放置されるかもしれないが、国が直接面倒を見ているつくばが同じ状況に陥れば話は別、ということらしい。上層部の人間にすらほとんど計画を打ち明けずに一人で行動して、そんなに上手くいくものなのだろうか。


「あいつはな、根っこのところで誰も信用しちゃいねえんだよ。京都の人間しかり、髙橋しかり。藍ですら怪しいと俺は思ってる」

「……」

「そうなのか?」

「確かに普段から、何を考えているか分からないところはありますが」

「現に藍は、京都には義理立ててると思ってた。一人で対応せざるを得ないってより、自分以外の誰も真の意味で信用してないから一人でやるってことなんだろう。……まあそれよか、京都がしんどいのは星芒とつくばが止まった『後』だ。それに備えなきゃならねえ」

「何があるんですか?」


 その続きは、藍が巻き取ってくれた。


「星芒市の動きが止まることはつまり、神様がこちらの世界に降りてくる障壁がなくなることを意味します。神様が降りてくることによって、超能力の有無にかかわらず私たち全員がその姿を視認できるようになります。同時に神様の方は、私たちの生活に直接関与できるようになります」

「そんなことが本当に……」

「ちなみに、その場合視認することによる精神への重篤な影響は起こりません。星芒市に妨害されている状態は、例えるなら小さな点に虫眼鏡で光を集めているような感じです。火が出るほど極端に光が集中するのと、広範囲に太陽の光が当たるのではその影響が全く異なると言えば、理解いただけるでしょうか」

「なんとなく。ただ、広く薄く影響はするんだな」

「そう考えています。自然に浴びる放射線と同じく、健康被害の出ないレベルですが」


 藍が話を戻した。神様がなぜ降りてこようとしているのか、降りてきて何をするのかという話だ。


「簡単に言えば、超能力という力の没収。それが神様の目的です」

「没収……?」

「超能力の研究を中止し、神様に返上する。それが神様とまともに交渉するための第一歩になります。直接聞いたわけではないので信憑性はと尋ねられると困るのですが、うちの母が初めて神様と接触した際、この世界の運命に干渉するための条件として、それを突きつけられたと聞いています」


 『転生者』の力を使って超能力の研究を始めたことが、神様の怒りを買ったという話を前に聞いた。人間の分際で手を出してよい領域ではないということなのだろう。蓬さんは誰にも分かり得ない未来を安心できるものに変えるため、神様と交渉しようとした。


「わざわざ降りてきて没収するくらい、神様は怒ってたのか」

「そこです。超能力の研究に手を出したことが神様の怒りを買ったという話。私たちはこれまで、その理由が神の領域に接触したからだと考えていました(・・・・・・・)。実際には、違いました」


 そこで藍が三嶋さんに目配せをした。藍に任せて流れを見守っていた三嶋さんが立ち上がり、俺たちを二階の一番奥の部屋へ案内する。フィクションでよく想像される、怪しい雰囲気を纏った研究室の景色がそこにあった。薄緑色の液体で満たされた、人ひとりがすっぽりと入りそうなほどのサイズの容器がいくつも壁に沿って並んでいた。


「過去を顧みる研究――その本質は、ヒトという生物の遺伝子情報の解析です」

「超能力を獲得できる人間とそうでない人間では、どこに差があるか。初めは超能力の側が人を選んでるだけで、調整さえすりゃ誰でも超能力の獲得自体はできると思われてた。ところがどうも、そういうわけじゃねえらしい」


 藍がおもむろに採血によく用いる容器を取り出した。側面には俺の名前が記載されている。


「結論から言いましょう。私たちとあなたとでは、人種が違うのです」

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