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生き方を忘れてきた私たちは  作者: 奈良ひさぎ
第参章 最後ノ魔術師
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参拾壱、研究ヲ終ワラセルタメニ

「いたた……髙橋さんもずいぶん、乱暴なことをしますね」


 おそらく髙橋さんは、俺たち二人を瞬間移動させるために魔術を使ったのだろう。それが分かるか分からないくらいのごく短い間に、俺たちは屋外に放り出された。目の前に「伏見桃山」と看板の掲げられた駅を見つけたことで、ここが京都だと分かった。


「あれが、魔術」

「髙橋さんは魔術を使える側の方ですが、精度はまた別の問題ですからね。本当は直接伏見の研究所、三嶋さんの真ん前に私たちを飛ばすつもりだったのかもしれません」

「……それより」


 計画はすでに動いている、と髙橋さんは最後に言っていた。俺を特殊作戦部にわざわざ異動させたのは、俺の力が必要だからではないのか。俺が呑気に吹田研究所を訪れている間に奏が星芒市に攻め入ったとなれば、話は変わってくる。


「先ほどの話、ですよね。研究所までは、ここから少し歩きます。それまでにお話しします」


 駅前の商店街を並んで歩きながら、話を聞く。京都市伏見区の中心部だということは、その活気からしてすぐに分かった。こんなに一般人の暮らしにほど近いところで、死人がごまんと出るような研究をしているというのか。


「まず、あなたに謝らなければなりません。吹田派とつくば派をうまくとりなすという名目で吹田研究所を訪ねていただいたのは、時間稼ぎのためでした。すみません」

「時間稼ぎっていうのは、奏が星芒市に攻め入るための、ってことだよな」

「その通りです。私たちが星芒市を解体すると発言した時、あなたはそれが穏便な方法で行われると思ったはずです。先制で武力行使することが後からどれだけ不利な結果をもたらすか、幹部自衛官であるあなたなら身に染みて分かっているでしょう。あなたが反発して計画を遅らせるリスクを少しでも避けるために、あえて私があなたの案内役を買って出ました」

「だったら、俺は最初からずっと嘘をつかれてたってことか」

「半分嘘ですが、半分は本当です。星芒市の解体そのものに、あなたを動員するつもりはありません。その意味であなたのお力を借りることはありませんが、あなたの真の力が発揮されるのはその後です。星芒市が崩壊し、超能力の研究が止まった後」

「止まった後って、止めるつもりなのか」

「髙橋さんも先ほど、超能力研究の最終目的は人類全員に超能力を付与すること、と言っていましたよね。そして魔術がその目的を果たせないということも。それは京都研究所で過去の超能力の研究がある程度軌道に乗り、つくばと共同研究していたうちの研究室がある成果を出したことで、決定的になりました。そこから私たちの目的は、超能力研究をいかに有用な遺産として後世に残し、発展的に終わらせていくかに変わったのです」


 超能力研究は俺が関与してもしなくとも、そう遠くない未来に終わるものだった。最先端の研究に携わっておきながら、どこかやつれていて、悲観的な考えを持っていそうな話し方だった髙橋さんを思い出して、腑に落ちた。


「これで少しは分かりやすくなったのではないでしょうか。同じ超能力研究に従事している吹田派と星芒市派が、なぜ対立しているのか」

「超能力の研究を終わらせたいか、続けたいか。単純な対立構造……だけど、つくば派はどうなるんだ? 超能力研究を続けたくもないし、やめたくもないなんて選択肢はないだろ」

「つくば派を理解するためには、もう一つの軸が必要です。柏柚香への印象……つくば派は超能力研究を続けるか否かについては吹田派と同じく、縮小させるべきという考え方です。しかし柏柚香という政治家については、好意的な印象を持つ研究者が多く在籍しています」


 柏柚香は政治家の立場で超能力研究を推進し、星芒市という閉鎖的な実験都市を作り上げた張本人だ。蓬さんの一般社団法人を強引に買収し、乗っ取った人でもある。一度表向きに柏柚香が亡くなったことで研究施設は蓬さんのもとに戻ってきたが、星芒市長という形で今も暗躍しているという。


「手段は卑劣そのものですが、政治センスは疑いようもないとの専らの評価ですからね。それに、一度は超能力の実験施設を作る計画が持ち上がっていながら頓挫し、力が弱まっていたところにテコ入れを行って、『つくば派』と呼ばれるまでに復活させたのは柏柚香の実績です」

「恩義があるから、裏切れないってことか」

「ええ。おそらく柏柚香が亡くなってそのままだったなら、また立場も変わっていたでしょうが」


 人間としての柏柚香は死んだ。が、人格を移植したサイボーグとして今も超能力研究の分野の裏で糸を引いているという。そんなことが可能なのか疑わしいが、超能力をいくつか見てきた今なら、あながちあり得ないとも言えない。


「超能力の研究は、近いうちに終わる……どうしてそうなったかの答えが、京都の研究所にあるんだな」

「ええ、ご案内します。奏が京都にも黙って行動したことに動揺しているので、きちんと自分の言葉で説明できるかどうか、自信はありませんが」


 今回星芒市を突き崩すための計画は、ごく一部の人間にしか事前に明かされていなかったという。その対象が、吹田の主任、主席研究員と、藍のみ。吹田と京都は二つで一つという説明を藍はしていたが、そこまで一枚岩でもないらしい。

 伏見桃山駅から少し歩くと、平成時代を思わせるたたずまいの建物が姿を見せた。入口付近にきちんと、そこが京都研究所である旨が書かれていた。


「吹田とは全然違うんだな」

「『聖域なき浄界』は博物館の運営もやっていました。ここも半分博物館、もう半分を研究所として活用していた名残で、吹田ほど規模は大きくないんです」

「そんなカムフラージュの方法が……」

「もうお分かりかと思いますが、先ほど画面越しにいたのが三嶋さんです。京都研究所の主席研究員、トップを務めています。おそらくバタバタしつつ私たちの来訪をお待ちだと思いますので、行きましょう」


 その三嶋さんが、エントランスを入ってすぐのところで仁王立ちしていた。その圧に思わずおののくが、こちらから声をかけるより先に三嶋さんが口を開いた。


「藍、説明はしてくれんだよなァ」

「はい。ある程度計画のうちではありますから、まずは落ち着いて座って話しましょう」

「分かったよ、上行くぞ」


 意外と素直に引き下がる。そのまま喧嘩腰で話が進むかと思いきや、先ほどと同じように京都の主席研究員室に通してもらえることになった。博物館エリアを通り抜け、奥の方にあった「関係者以外立入禁止」の札がかかった扉をくぐると、そこにはもうごく一般的なオフィスの光景が広がっていた。吹田と違う点は、実験室のようなものが存在しないところ。エレベーターで三階に上がってすぐのところに、三嶋さんの居室はあった。

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