表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生き方を忘れてきた私たちは  作者: 奈良ひさぎ
第参章 最後ノ魔術師
30/33

参拾、未来ト過去

「未来への希望を見据え、それに向かって邁進する力。過去の知見を顧みて、今の自分の糧とする力。いずれも重要なものであり、そこに優劣は存在しません。とはいえ、どちらがより多く、より質の高い研究成果を出せるかという点において、吹田と京都は競い合っていますがね」


 興味があるのは未来と過去のどちらかという髙橋さんの問いに、俺は「過去」と答えた。まだ未確定で、今の自分の行い次第でいかようにも変わる未来を追うのは、髙橋さんのような科学者の役目だと思ったからだ。俺はまだ、過去に何があったかをあまりにも知らなさすぎる。そしてまだ知らない過去にこそ、今後起きるかもしれない最悪の未来を回避するためのヒントが隠れていると思った。


「未来を探求する魔術研究もまた、ある意味では過去を見つめ直すものです」

「ではどうして、あえて『未来の研究』と呼んでいるんですか」

「私たちが復興させた魔術は一代限り、誰にも引き継げない代物だからです」


 魔法が存在するかもしれないし、しないかもしれない。並行世界に行けないし見られない俺たちにとって、そこは永遠に不確定のままだ。その不安定性を利用して生まれた魔術は、生まれながらにして多くの縛りを持っている。その中でも最も大きいのが、出力が使用者によって大きく依存する点。出せる炎の威力が変わるくらいならマシな方で、そもそも魔術に不適合な人もそれなりの数いるという。


「自分が知らないだけで、本当は存在するかもしれないものに対する想像力は、人によって異なります。時にそれは本人の知能指数とも相関しますが、一見自分に関係のないものを豊かに想像できる人ほど、魔術への適性が高くなります。逆に狭い世界で生きている人は、場合によっては魔術に接触するだけで死に至ります」

「……っ!」

「超能力それ自体、適合する人間を選り好む傾向がありますが、魔術は特に顕著です。魔術に認められなかったために、京都研究所に移った者も多くいます。藍さんもその一人です」


 藍がうつむいた。あたかも超能力や魔術そのものが人格を持っているような言い方だった。そしておそらく、それは事実なのだろう。藍が奏に対し劣等感を覚えている始まりもそこなのかもしれない。


「超能力研究の根幹には、この世界の人間全員に超能力を付与し、それを標準にする思想があります。魔術はその思想に真っ向から対立するという意味で、現状先の見えない研究になります」

「それでも、……私の兄は、希望になり得ますよね?」

「ええ」


 髙橋さんは、奏を最後の魔術師、と称した。魔術研究を続ける限り、超能力をみなに付与することは叶わない。一般社団法人とはいえ研究費の調達が重要になる中で、魔術研究は真っ先に中止になるか、規模を縮小するのが自然だ。だが超能力の研究者で奏以上に魔術に適性のある人間はいないし、これから現れることもないという。それが吹田にこれだけの規模の研究所を構え続けられる理由なのだろう。


「吹田研究所が星芒市の悲劇を終わらせることがあるとすれば、それは奏君でしょう。そのことはここにいるみなが理解しています」

「そんなに、彼に命運をゆだねているんですね」

「超能力研究には常に、負の側面が付きまとっています。今いる研究者がどれだけ心を入れ替えたとて、超能力研究の草創期にたくさんの人を犠牲にしてきたという事実は覆らない。命の犠牲を前提とする科学に未来はないと、主張する方もいます」

「……」

「下市さんはどうですか?」

「どう、って……」

「今後の超能力研究が、人の犠牲を伴わないという保証はありません。これからの人類の発展のためにその側面に目をつぶるか、あるいは技術の飛躍的な向上のチャンスをなかったことにするか。その判断は下市さんのような、善良な一般市民に委ねられています」


 そんな判断を一般人に任せるな、と本当は言いたかった。だが、一度超能力というものに携わってしまったら、人が死ぬことを良しとする技術や学問をやめるべきか、その判断もできなくなってしまうのかもしれない。一度足を踏み入れてしまったら二度と後戻りできないというのは、こういうことだったのか。


「吹田研究所――奏が星芒市の悲劇を終わらせるとして。その後に続くものは、なんですか」

「その答えは京都にあります。もしもさらに足を踏み入れてもよいとおっしゃるのなら。あるいは、超能力研究をこれからも続けるべきか、その判断材料として必要なのであれば。藍さんの案内で、京都研究所もご覧になることを強く勧めます」


 その時だった。突如けたたましい、本能的に嫌悪感を覚える警告音が主席研究員室に響き、俺と藍から見て右にあるディスプレイにぱあっと電源が入って人が映し出された。ライオンのたてがみのように赤い髪が逆立ち、それがワイルドな顔立ちによく似合った中年の男性だった。


「髙橋! どうなってる」

「用件を簡潔に」

「つくばの連中から、星芒でひどい爆発があったと連絡が入ってる。つくばも京都も関知してねえ。まさか、吹田がなんかやったんじゃねえだろうな」

「……奏君にはもう少し、穏便な方法で進めてほしいとお願いしたはずなんですがね」

「奏? あいつのせいか、今荒事起こしたらどうなるか、分かってやってんだろうな」

「もちろん。今回で星芒市の息の根を完全に止めるつもりで動いていますから」

「京都の知らねえところで事を起こすなと何度言やあ分かる? 吹田派(こっち)のトップはあんただけじゃねえんだぞ」

「星芒市の人間を皆殺しにするために、京都にわざわざ許可取りが必要なのですか? 無実の女性を散々食い物にし、犠牲にしてきた彼らに、今さら期待できる人権などありませんよ」

「……ッ!」

「藍さんと下市さんはこちらにいます。今から向かわせますよ。どのみち招集するおつもりだったでしょう」

「……さっさとしろ!」


 今度はぶつん、と乱暴に通信が切れた。吹田や京都のトップという話が出たことからして、おそらくあれが藍の上司である三嶋さんなのだろう。


「突然のことでびっくりしているでしょう」

「……」

「実は、星芒市を亡き者にする計画は既に進行しています。奏君と藍さんが最初にあなたに接触したその瞬間から。その話は藍さんが詳しいですから、直接聞いてください」


 そう言うと、髙橋さんがその場で立ち上がり、手を振りかざした。その動きはまるで、フィクションの中で魔法使いが杖を振り魔法を繰り出す動作そのものだった。髙橋さんが魔術を発動する。そう気づいた時には、俺と藍は別の場所に飛ばされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ