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生き方を忘れてきた私たちは  作者: 奈良ひさぎ
第弐章 霞んだ記憶を頼りに
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拾捌、超能力の光と闇

「もしもし」

『……マリンか』


 陸君が記憶を取り戻すきっかけを作るために、蓬さんの協力を仰ぐというのは自然なことだった。真鈴さんが星芒市にいた頃、蓬さんにお世話になっていたのだから、真鈴さんと同じ境遇だった陸君も蓬さんと知り合いである可能性が高い。それを期待して電話をかけると、蓬さんの声はあちこちに反射して不思議な感じに聞こえた。それでも突然電話をかけた以上、用件を伝えねばと思いその通りにする。蓬さんは一通り俺たちの話を聞いた後で、「……なるほどね」と独り言のようにつぶやいた。


「よもさんは、陸さんのこともご存じですよね」

『陸君のことはよく覚えているよ。当時から、自分の記憶に無頓着なところはあったが……そうか、五年経っても』

「陸さんも私と同様に、星芒市を出るのを手伝ってくださいましたから。女性どうしから生まれた女性である分、私の方が脱出するのはずいぶんと遅れてしまいましたが……」

『マリン、陸君の記憶喪失の原因は心当たりがある。ただ、』

「ただ……?」

『治すためには、今の君たちでは想像も及ばない事象に首を突っ込まなければならない』


 蓬さんの言葉の数々、それからふう、というため息すら虚しく部屋に響いて電話越しに聞こえた。暗くて狭い、独房のような場所にいるのではないかという想像が自然となされた。


「それは……よもさんの現状とかかわりがありますか」

『大いにある。すまないね、病状が悪化してしまって、一人部屋に隔離されているんだ』

「もしかして、星芒市の方に捕まったり……」

『それはないよ。安心してほしい』

「……よもさん、本当のことを言ってください」

『……そうだった。キミに嘘はつけないんだったね』


 蓬さんの返答に悪意があるとは到底思えなかったが、少しでもごまかそうという気があれば勘づいてしまうのが真鈴さんだ。つまるところ、嘘は通用しないと思った方がいい。


『捕まっているというのは、半分本当で半分嘘だ。ただまあ、私が悪いことだから仕方ない』

「……もっと、私たちにも分かるように説明してください」

『それにはレベル3以上の情報を知ってもらわなければならない。そこまで来ると、もはや引き返すのは不可能だ。もし二人が普通の夫婦として、今後幸せに暮らしていきたいのであれば、ここで電話を切ってほしい』


 俺は真鈴さんと顔を見合わせる。これ以上進む勇気と、覚悟があるかどうかの確認だ。


「知ってしまったら……どうなるんですか」

『レベル3以上は内部でも限られた人間しか知らない。行き着く先は、救世主(ヒーロー)か、死かだ』


 死という言葉。それは柏菖蒲と対峙した時ですら、わずかに脳裏によぎった程度のものだ。それがそんなに身近にあるものなのか。そんな命の危機を覚えなければならないような場所が、本当に日本国内にあるのか。


「……それでも、前へ進みますと言ったら?」

『サポートはする。私のできる範囲でね。だが、すでに病の身にある私が、キミたちの命の危機に駆けつけて、助けられるかどうかは分からない』

「もしも、何かと戦わなければならないのだとしたら、それは私や玲央さんが太刀打ちできるものですか」

『最悪の場合の話をしよう。その場合、キミたちの力では到底及ばない。それどころか、人類そのものが敵わない。星芒市が外に出したがらないのは、情報だけではないんだ』

「でも、私たちがここで引き返してしまったら、これからも犠牲者が出続ける……私のような人が、また増えてしまう。そうですよね?」

『そう考える時点で、キミは救世主(ヒーロー)になる資格があるのかもしれない』

「見なくていい悪意があるとするなら。それを私自身が食い止められるなら。星芒市で生まれ育った以上、それをする権利も、責任もあると私は思います」

『それは私とともに、茨の道を進む覚悟を決めたと、受け取るよ』


 ごほごほ、と咳き込んだ蓬さんが、何度か深呼吸をしてから話を始める。真鈴さんと出会わなければ、知る由もなかった話だ。


『超能力の話は、どの程度知っている?』

「星芒市で行われているのが、超能力を用いた人体実験ということは知っています」

『では、星芒市において超能力がどのような扱いを受けているのか、その話からするべきか』


 がたん、と扉が開くような音がした。電話越しの遠いところで何やら会話するのが聞こえた後、蓬さんが戻ってきた。


『すまない、大した予定ではなかったよ。さて……超能力研究の歴史は、2000年代初頭にまでさかのぼる。当時の超能力は、他の並行世界からやってきた人間たち、つまり転生者の力を借りたり、あるいは奪ったりして成り立っていた。それを表向き主導していたのが、国政政党の科学立国日本。そしてその政党を傘下に収めていた宗教法人、聖域なき浄界だ』

「聖域なき浄界……聞いたことがあります。大阪を拠点に、カルト的な支持を集めていたとか」

『あれは実際にカルトだったよ。初代会長の姪、二代目会長の娘である私が言うのだから間違いない』

「よもさんが……!」

『ただ、宗教として団体を発展させていきたい派閥と、超能力の研究者集団として世の中に貢献したい派閥とに分かれていたけれどね。私は後者の派閥に味方して、かつての聖域なき浄界を潰し、産総研に似た一般社団法人を立ち上げた。2024年のことだ』

「その頃って、よもさんはまだ……」

『ああ。まだ二十歳だった。けれど団体を一つ作り上げて、トップになれるくらいの権力はあったということだね』


 俺たち一般人が耳にした「この国では秘密裏に超能力研究が行われていた」というニュースと、その研究計画を凍結するという宣言は、他ならぬ蓬さんが流したものだった。研究者の代表なのだから、コメントや声明を出すのは当然と言える。しかしその宣言があってもなお、超能力研究は続いたということになる。


『ちょうどその頃、過激なフェミニズムを主張する与党の女性議員がいた。部下をこき使い、反対する活動家を暗殺しているといった、黒い噂まで流れていた議員だ。私は政界との縁を切るために聖域なき浄界を潰し、新しい団体を立ち上げたが、人望がなかったのか研究員の何人かに情報漏洩をされ、よりによってその議員に目をつけられてしまった。彼女の部下には旧財閥系の金持ちの家の出も多くて、私の団体を買収するなどお手のものだった。かくして、つくばに置いた私の研究所は、女性どうしで子どもをなし、生きてゆくフェミニズムの究極形といえる世界を作るための場所に作り変えられてしまった』


 話は想像以上に入り組んでいて、しかも闇が深かった。同時に悪い予感が俺たち二人にはあった。そこまで蓬さんが話すということは、まだ何かあるのではないか、と。そしてその予感はきっちりと当たっていた。


『その議員の名前は、柏柚香(かしわゆずか)……柏菖蒲の母親。つまり、マリン、キミのお祖母さんということになる』

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