エピローグ
「ああ、お帰り。ケイト。まったく第一皇子が登場するなんて! とびっきりの劇を観ているみたいで、笑えたし、ハラハラしたし、いい時間を過ごさせてもらったよ」
私が転移魔法で帰宅すると、ルアンヌはバターのいい香りを漂わせながら、焼きリンゴを作っている最中だった。
「水晶玉で見ていたのですね」
「ああ、そうさ。鼻毛魔法もヅラ魔法も完璧だった。まあ、変身魔法は解除されたようだけど」
「! そうです。第一皇子の件ですが……」
そこで水色スズランについて話すと、ルアンヌは楽しそうに笑う。
「ウィザード帝国の未来の皇太子は、優秀だね。ここの国の王太子と来たら、再婚と離婚を繰り返して。まったく不甲斐ない。それでその第一皇子の補佐官になるのだろう?」
ルアンヌはテーブルに、出来立ての焼きリンゴを置きながら尋ねる。
「はい。乳母のところへ身を寄せるつもりでいましたが、無実は証明されました。補佐官になれば皇宮に部屋を与えられますし、お給金もいただけるので、ちゃんと生きて行けるかと」
「ふふ。立派なことだよ。貴族のお嬢ちゃんはみんな、やれパーティーだ、お茶会だ、で散財ばかりだ。お前さんのように自分で道を切り拓こうとする子を、応援したくなるからね。さあ、熱い内に食べるといい」
「ありがとうございます。……ルアンヌさんは召し上がらないのですか?」
するとルアンヌはワインのボトルをドンとテーブルに置く。
同時にいつの間にかテーブルには、チーズや生ハムのオードブルが並べられている。
「あたしはこれがあればいいのさ」
ルアンヌは嬉しそうにワインの栓を開け、ピカピカのグラスにワインをトクトクと注ぐ。するとそのグラスを掲げ、私にも紅茶の入ったカップを持ち上げるよう、促す。
「ケイト、あんたの禊は完了だよ。無実の罪から解放され、これから自由の身だ。やっぱりあたしのタロットは当たるねぇ。『THE WORLD』。それはすべての準備が整った、完璧な状態。なら次はどうする? 新たな世界へ踏み出すと言うことさ。お前さんはここから卒業し、第一皇子の補佐官として生きていく」
「なるほど……! 私はタロットカードに詳しくないのですが、そんな意味があったのですね!」
思わず目を輝かせると、ルアンヌは「ああ、そうだよ」と笑うと――。
「では禊の完了を祝い、そして未来の皇太子妃に乾杯!」
「!?」
「いやいや口が滑ったかね。とにかく乾杯だよ!」
「は、はいっ。乾杯です!」
こうして紅茶とワインで楽しく乾杯し、夜は更けて行った。
◇
皇宮に部屋を与えられ、第一皇子の補佐官として勤め始めて一ヵ月が経った。
この一ヵ月の間に、いろいろなことがあったのだけど。一番のニュースは、やはり私が正式無罪となったことだと思う。ランジェロは懲役刑を課された上で、彼だけが伯爵家から除名された。スティアナは牢獄ではなく、マローン塔という幽閉施設に送られ、実質そこで終身刑となった。
ヴィンセント第一皇子はルアンヌに招かれ、水色スズランを届けた。するとルアンヌは彼のがんばりを褒め、三日間、隠れ家に滞在することを許したのだ!
同行した私は家事を行い、一方のヴィンセント第一皇子は、朝から晩までルアンヌから、みっちり魔法を学んだ。この時、やはりルアンヌは焼きリンゴを彼に振る舞った。ヴィンセント第一皇子は大喜びで、焼きリンゴを平らげた。
ちなみに私より一歳年下のヴィンセント第一皇子は、丁度、今、三年生だった。日中は学校に行っており、私は暇になる……!と喜んでいたら。皇太子の補佐官として必要だからと、政治や外交について勉強し、宮廷独特のマナーや慣習についても学ぶことになった。さらに同盟国の言語や文化まで学ぶので、とても大変。でもヴィンセント第一皇子を補佐官として支えるためには、必要な知識だ。それに魔法でいろいろと時短もできるので、なんとか頑張れている。
「ケイト」
「はい、殿下。どうされましたか?」
卒業式を来月に控え、学校は最後のテストも終わり、今日から下校時間が早くなっていた。ヴィンセント第一皇子は裏庭にはいかず、すぐに皇宮へ戻ると、私と二人、お茶をしているところだった。
ヴィンセント第一皇子は、ブレザーの制服姿のまま。私はロイヤルパープルのドレスを着ていた。
「来月の卒業式の後のプロムには、ケイトをエスコートしたいと思っています。受けてくれますか?」
「え、ええ。構わないですが、殿下は女性嫌いをかなり克服できたのですよね……? 同級生や特別な方と、行かれないでいいのですか?」
他国の王族や皇族の女性と握手したり、ハグしたりする機会が、これから増えてくる。そこでルアンヌの魔法で、ヴィンセント第一皇子は、女性と握手やハグはできるようになった。確かダンスだってできると聞いていた。
「! ぼ、僕はまだ克服できていないですよ。それに特別な相手なんていないですから!……何より、ケイトはプロムを体験できなかったでしょう。だから僕と行きませんか……」
なぜか最後は消え入るような声になるヴィンセント第一皇子は。まだまだ地味令息の名残がある。それを思うと、披露宴のあったあの日は、本当に頑張ってくれたのだなぁと思う。
「私に気を使っていただいていたのですね。ではプロムへのお誘い、謹んでお受けいたします」
「う、うん。……ありがとう、ケイト。プロムでは……その、大切なことを伝えようと思っています」
サラサラのアイスブルーの髪を恥ずかし気に揺らし、頬赤くしたヴィンセント第一皇子が、プロムの日に何を伝えようとしているのか。その時の私は想像もついていなかった。第一皇子の補佐官として学んだことが、後々大きな意味を持つことも、知る由もない。ましてや。ルアンヌがうっかり漏らした言葉が数年後、現実のことになるなんて……ね。
~ おしまい ~
お読みいただきありがとうございました!
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