9 オラが郷の……。
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あとで聞いた話である。
轟音を聞いて何事かと走って集まってきた郷の大人達五人は、倒れていたアルカスに気づき、慌てて彼を家の中に運び込んだ。
敷き藁の上に寝かせてもアルカスは目を覚ます様子はなく、看病役の一人を残して、郷の大人達はいったん外に出た。
違和感があった。いつもと景色が違っていたように感じた。
理由はわかっていた。
アルカスの家の前、巨木が立っていたはずの場所には大きな穴が空いていた。穴はおそらく根のあとだと思われた。
つまり、巨木が消えて無くなったのだった。爆発音はその巨木を消し飛ばした際の音だろうと推測できた。
大人四人全員が穴を覗き込んでいた。そのうちの一人、バイドが呟いた。
「これは--」
やはり穴を覗いていたゼロンが頷いた。
「……法術、だろうな」
「……やっぱり法術か。狼も素手で倒したんだろ? 武器を持っても勝てねぇよ。アルカスは本当にすごい奴だ」
「……跡形もないな。残っているのは……葉っぱが数枚、か。いったいなにをどうやったらこんなことになるんだ?」
「そういう奇跡を生み出すのが法術だろうが」
バイドが唸った。
「……それにしてもとんでもねぇな。アルカスがすげぇのは知っていたけど、ここまでか。ってか、これが法術? 法術って兵隊さんが使う奴だろ? こんなのが戦場では使われてんのか? こえええ」
「安心しろ。お前が徴兵されることはねぇよ」
兄が軍に入っているのが自慢のアラウが、
「でも、都に行って軍に入ってるトサムの兄貴が言っていたのは、ここまでではなかった気がするがなぁ」
「でもこれ法術なんだろ?」
「トサムが郷に帰ってきたときに見せてもらったことがあるんだけどよ。ハッって言ってバンって鳴って、なんというか盾をへこます、みたいな」
「説明下手すぎだろ。それにトサムはまだ兵士じゃないか。兵士と将軍とかじゃレベルが違うだろ。アルカスが将軍くらいすごいって事じゃないか?」
「トサムは幹部候補生だ!」
「……うーん。でもなんか盾をへこますのと違いすぎるよな。盾と木では違うのか?」
「わからん。でもなんでできるんだ?? アルカスは選抜の儀前だから法術を習ったわけじゃないだろ? 法術って習わなくてできるのか? 法術って確か幻力とかいう力を使って使うんだよな?」
「知らねぇ。ただトサムはできなかった」
「選抜の義前でこれか……」
バイドがつばを飲み込み、もう一度穴を覗き込んだあと、
「英雄だな。アルカスは英雄になることが決まってる」
ゼロンが頷いた。
「ああ。間違いない。賭けてもいい」
ずっと黙っていたホロが何かに気づいたように顔を上げた。
「……俺の娘、八歳だけどアルカスと年齢的にちょうどいいと思わないか?」
「あ、お前ずるいぞ! 俺の娘は十五歳だけど全然範囲内だろ!」
「俺の奥さんだってまだ若くて美人だ!」
「奥さんがアルカスと結婚? ってかお前離婚する気か?」
「それはできん!」
「……あれ? そういえばアルカス、姉いたよな」
「あー。いたいた。美人だよ」
「つまりそいつと結婚すればアルカスの義理の兄になれるってことか!?」
男たちの目の色が変わった。
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