08 ようこそフロンティアへ2
08 ようこそフロンティアへ2
さて、潤んだ眼の母を背に、村の外へと歩いていく。別れの挨拶を終えたというのに道具屋の玄関からじっと見られている、気がする。ちょくちょく帰ってくるんだから許せママン。
「朧幼女様」
「様づけはやめて」
「では、使徒エレナと」
「エレナちゃんでよろしく」
「エンジェル・マジカル☆エレナちゃん」
「エレナちゃんって呼んでくれなきゃオシゴトしない」
「ではエレナちゃん。いえ、今後の事も考慮して朧ちゃん、と言うのはいかがでしょうか」
「うん、いいよ。それで君は使徒ダリアでいいの?」
「普通にダリアでお願いします」
村と町をつなぐ大きな道を少し外れた茂みで、遠足に繰り出した風貌の幼女と、質の良さそうな灰色の外套を羽織った蒼髪金眼の女性が立ち止まっている。
「それでですね、これから行く学校なのですが、首都マルタにあります」
「ん?エルサル正教国じゃないの?」
「エルサルにアカデメイアの本校がありますが、此度の異世界からの大量転移に際してマルタの方に分校が用意されました。アカデメイア構内は転移魔法陣で行き来ができますから、交通の便の心配はないですよ」
「その転移魔方陣、一般人も使えるの?」
「基本は学校関係者だけですね。厳密には理事長である私の許可が無いと無理です。私から権利を委譲しているので各校の責任者の許可でも利用出来ます。後で履歴を私が事後承認する感じですね」
「理事長だったのかダリア」
「そうです。そして朧ちゃんは学園のアイドルになります」
「学生って意味だよね?」
「学校に住んでるけど授業に出ない不思議な子、もとい幼女です」
「それニートって言うんじゃ…」
「アカデメイア学園、マルタ分校は転移者の為の学校なので、この世界の一般常識や冒険の仕方、魔法や武術などを身に着ける場所になる予定です。個々人が目指す未来像に合わせてコースを選んで貰い、更に必要分を単科で取る方式になります。朧ちゃんには必要なさそうな退屈な授業ばかりになると思いますよ」
「お、おう…?」
「うーん、そうですね…一般教養、歴史、政治、魔法工学、生物学あたりを単科で受けてみるのもありですよ。それとも先生します?朧ちゃんが魔法の先生になるときっと凄い事になりますね。その場合は最低一クラスは持ってもらいたいですが、それだけでも毎日2時間ですよ。あと試験監督もお願いしちゃう感じです」
「ふえぇ、幼女には荷が重い。おとなしくアイドルしてる」
「そろそろいい時間ですね、首都マルタに転移しますよ」
「ダリア、有能」
ダリアがここに立ち止まってからずっと隠蔽しながら構築し続けていた転移魔方陣が完成し、わずかに光る。