09 ようこそフロンティアへ3
09 ようこそフロンティアへ3
生まれ故郷の村から、マルタ連合国の首都マルタにあるアカデメイア学園の敷地のどこかに転移した。一瞬のホワイトアウトの後に、すぐに視界が明瞭になる。見回すと石造りで全方位を囲まれた部屋で、正面に頑丈そうな鉄扉がある。地下室かな。
「無事転移したみたいですね。体は大事ないですか?」
「大丈夫、特に問題ない」
「魔力の適正が壊滅的な魔力音痴の方だと、転移魔法で気持ち悪くなる人がいるんですよ。そういう人は転移門を形成してから転移しないといけなくて大変なんですよ」
「へぇ~、見た目だけ違うのかと思ったがそういう使い分けがあるわけね」
「ええ、そういう細かい部分をこっそり試してみるのも良いかと思います。…こっそりお願いしますね?。では、ご案内します」
やはりここは地下だったようだ、地下は総じて石造りのようで、鉄格子のある小部屋や実験室のような部屋が並んでいる。階段を上がって地上に出ると、座学メインっぽい整然とした棟と、実験とか出来そうな棟に挟まれた芝生の庭に出た。噴水周りは石で舗装されていて、他所は花壇やら植木が脇に配置されている。地面は土か芝生で整えられている。遠くに塔が合計四本見える。丁度、学校の敷地の四隅に塔があるようだ。
「どうです?なかなか立派な学園でしょう?」
「真っ白い髭が似合う大魔法使いが校長してそうな良い学校だね」
「塔が四本見えると思いますが、短い二本の塔が正門を挟んでます。長い二本の塔は建物の多いエリアと学校の所有する山を区切るように位置しています」
「なるほど分かりやすい」
「男子寮は正門から入って右、女子寮は正門から入って左にあります」
「女子寮はあっちねっ!」
まだ見ぬ美しき花園の場所がわかり、自然と駆け足になっていた。階段昇るの大変そうだし一階の隅の部屋に住むんだ。面倒見のいいお姉さんと相部屋になって可愛がってもらうぞ~。
「待ってくださいっ!」
後ろから抱えあげられてしまった。ダリアはリュックもあるのに手を伸ばしたまま私をスイっと持ち上げた。筋力Aだっけ?ハンパないわ。
「朧ちゃんには塔に住んでもらおうかと」
「え~、ご飯は?お風呂は?女の子は~?」
「女子寮側の大きな塔の最上階フロアを差し上げます。専属のメイドさんが付いてきますし、お風呂もありますよ。実験用の部屋も付いてきて魔法の練習・実験もできますし、ほかの階層にも専攻の先生と生徒が塔に住み込んでますので女子寮より便利だと思います。それに、女子寮だと鼻持ちならない貴族の御令嬢とか、常に護衛の付いてる自称[商人の娘]の王家の人とか居て面倒ですよ」
「転移者だけじゃないんだ?」
「はい、転移者だけだとテロリスト養成学校みたいに地域住民に思われてしまいますからね。先生は現地雇用ですし、生徒はここを出たら世界に出てかなければいけませんから」
「ふーん、色々考えてるのねー」
「…とにかく今は試験的に開校してる段階なので、女子寮は腹黒い御令嬢が縄張り争いして棲み分けしてる最中だと思います。新入りを待ち受けるアリジゴクみたいなものです。朧ちゃんが行ったら愛玩ペットにされちゃいますよ」
「金髪ドリルの巣窟かぁ、もっとレベル上げてからにしよ……(ブルブル)」
「ここが朧ちゃんの住む塔です」
気づいたら持ち上げられたまま塔まで来ていた様だ。塔の前で地面に下ろされる。
「おっきい…」
チェスの駒のルークを巨大に、長細くしたような外観をしている。ルークの最上部に小さい尖塔が乗っているような塩梅だ。
鉄枠の木製の分厚い扉を開けてみると、中央部に螺旋階段とエレベーターがあり、その手前に受付のカウンターがある。一階部分はこの受付のある大きなホール、食堂、浴場、客室があるようだ。玄関ホールと食堂はかなり開放的な作りになっている。
受付のカウンターに座っていた人間の茶髪の若い受付嬢がこちらを見るなり手元でなにやら作業をし始める。すると階段やエレベーターよりも奥にある廊下からメイドさんが一人やって来た。
「ようこそお越しくださいました、ダリア様」
白耳で白髪、黄色い猫目の猫耳メイドさんがやってきて、恭しく礼をしたままそのままの姿勢で硬直する。
「相変わらずですねシエラ、楽にして下さい。それでこちらの…小さいエルフの…大魔導士が朧ちゃんです」
ダリアに私を紹介され、一瞬猫耳メイドのシエラちゃんが目の光彩を縦に細めてこちらを見つめてきた。寒気がして猛獣に睨まれたような気分になった。っと思ったが気のせいだったかもしれない。シエラちゃんは慈愛に満ちた目をしている。
「私が本日より朧様の専属のメイドとして給仕をさせていただきます、シエラと申します」
更に姿勢をきちっと張ってこちらに一礼してくる。手をお腹の前で綺麗に整えて腰を折るやり方で、身長の低い私だとシエラちゃんの顔がよく見える。
「【朧幼女】です、朧ちゃんって呼んでくれると嬉しいk…」
「そういう訳にはまいりません」
速い!レジストされてしまった。
「…うん、今日からよろしくね」
言いながらニコポ面を全面に押し出しつつ、真理の魔眼を発動してシエラちゃんを見る。
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名前:シエラ・チノフィエラ・アラバスター
種族:ドラゴン-[ヒューマン]
性別:♀-[女]
年齢:3856-[17]
職業:メイド
賞罰:大量殺害-[なし]
称号:守り竜、ジェノサイダー、氷雪月華-[なし]
~~中略~~
状態:擬態人間-[正常]
装備:給仕服、猫耳、猫尻尾、魔銀のナイフ、魔銀の鋼線
物理耐久:SS/SS
精神耐久:SS/SS
魔力:S/S
筋力:SS
精神力:S
対物理性能:SS
対魔法性能:S
俊敏性:A
器用さ:A
知力:A
魔力運用効率:S
発動可能魔法種:水魔法、風魔法、光魔法、回復魔法、支援魔法、無属性魔法、生活魔法、固有魔法(竜種)
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えっと、猫耳メイドじゃないよねシエラ…さん
「今後はわたしが朧様の身の回り全般のお世話をいたします。何かありましたら、気兼ねなくお申し付けください」
「シエラ…さん、私のお部屋に連れてって」
「ぜひシエラと御呼びください、それではご案内いたします」
「私も付いていきますよ」
受付を抜けて、三人でエレベーターに乗り込む。塔の高さの割に、地上10階層しか表示されていない、地下は2階まであるようだ。最上階に着く。エレベーターは尖塔まで繋がってないみたいだ。
「ここから上が朧ちゃんのものになります」
「とんがってる所も?」
「そうですよ、…確かあっちの方に応接間がありましたよね」
応接間に移動してソファーに座り込む、テーブルを挟んで対面にダリアが座る。彼女には羽があるためフードの背がもこっとしている。ゆったりなソファーでも結構キツそうだ。
「ダリアの羽ってどうなってるの?それ座るとき大丈夫?」
「魔法で上手いことできるんですよ。飛行するときの翼そのままだと、椅子にはとても座れませんね。今は魔法でリュックくらいに畳んでますけど完全に人間みたいに翼を仕舞うこともできますよ」
「ほへー、便利そうだね~」
シエラが「失礼します」と小声で制しながらリュックを剥ぎ取り脇に寄せ、自然な身のこなしで私の身だしなみを整えてから一礼してどこかに行く。お茶でも淹れに行ったのだろうか。始終私を深い深い慈愛の目で慈しんでいた。あの目は優しいおばあちゃんの目だ。シエラとはこれから仲良くしていこう、うむ。
「良い子でしょう、これからのあなたの身の回りのお世話兼護衛をお願いしてます。見た目は猫獣人?…ですが本気になるとドラゴンになるんですよ」
猫耳つけただけじゃねーか、猫獣人ってもっと猫感ないと無理でしょ、せめて追加で三本ヒゲと猫の手と猫尻尾くらい付けてくれませんかね。ただ猫が二足歩行してるのは器用な猫であって人ではない気はする。まぁ理想の猫獣人は何でも良いんだよ。
「ドラゴンってもっと好き勝手してるイメージなんだけど。ある日ガォーン、パクリッてならない?」
「ドラゴンは堅気で温厚で何かを守るのが本分なんですよ、他の種族から見ると攻撃的に思われる事が多いですね。ドラゴンが国なり種族なりを攻撃するのは、ドラゴンの逆鱗に触れてしまった場合がほとんどのはずです。好き勝手してるというならエルフの方が好き勝手してると思いますよ」
「へぇ~、ドラゴンも難儀な種族だったのか。魔大陸のドラゴンも何かを守ってるの?」
「ドラゴンの周回ルートの中心にドラゴンの巣、というか国がありますね。力の強すぎるアイテム類なんかを死蔵してある、パンドラスターという地殻の底にある、ん~、巨大な宝物庫への扉もそこにあります」
「一気にきな臭い話になって来たよね?そのうち賊が侵入して云々かんぬん一波乱ありそうだよね。もしくは既にいくつか遺失しててその調査とかそういう話なんでしょ?私知ってるよ」
「まぁまぁそう言わずに、この世界のバランスを崩す類のアイテムは全てそこに放り込んであります。天界、魔界は安定してますし、ドラゴン以上に強い種族も居ないのでこの世界も安泰、と言う訳ですよ」
シエラがやってきて、香りの良い、これはダージリンみたいだ、紅茶をテーブルに並べる。角砂糖、ミルク、ハチミツ、レモン、スコーンを音もなく置いていき、軽く一礼してから壁に埋まっている振り子時計の近くで壁の華になる。
絵になるな。ホワイトブリムと猫耳がいい。モノクロの装飾華美でない実用メインのクラシカルなメイド服、猫耳の中のチラリとピンクな部分とかホワイトブリムの合間から見えていて、エロさも何もないのだがチラリズム効果で良く目につく。このメイドさんが私専属かぁ。
って、なんだっけ、パンドラスターってとこが危険な宝物庫なんだっけか。
「私もその、パンドラスター?を気に掛ける必要がありそうだけど」
「パンドラスターはほっといても大丈夫ですよ。あそこは、そうですね、神が顕現しても単身では突破できないと思います。朧ちゃんにはやはりこれから来る転生者を見張ってほしいです。いわれもなく虐殺を慣行したり、怪しい宗教を布教したり、亜人種を滅亡させたりするとちょっと不味いじゃないですか」
「そこ、曖昧だよね。なにか明確な目標とかラインはないの?ふわっふわでのらりくらりしてる間に事態が進行して、実はこうして欲しかったとか言われると困るじゃない」
「ん~、デッドラインみたいなものはないですけど、神々の機嫌がどんどん悪くなってきます。目標という訳じゃないですが、持ちつ持たれつ、切磋琢磨 とかそういう感じで各種族が発展していくと神々は機嫌がよくなります。ライバル同士殴りあってたのに気づいたらお互い美人なお嫁さんを貰って酒場で一緒に飲み明かしていた―みたいな?
具体的に言うと文明レベル、人口レベル、科学レベル、社会レベル、魔法レベル、経済レベルなんかがそれぞれ発展してその総合値が大きくなると良い感じ、みたいな。全てを貨幣価値に換算できるなら、それが流通している総量と移動量が共に多くなっていけば嬉しいですね」
「全然分からないが分かったかも。じゃあ魔族とか魔物なんかはどういう扱い?」
「魔物は見つけ次第駆逐して大丈夫です。知性ある魔族は亜人と同様ですね。性質上、悪逆の限りを尽くすような魔族が発生しやすいですが、魔王領なら魔族は一応同族なので鎮圧されるでしょう。他種族の治めている地域なら暴れる魔族は討伐されてしまうのが常ですね。人間族も魔族領で暴れれば同様になるでしょう。異種族はそういう扱いですね。ただ異種族同士共存している地域もあるので郷に入らば郷に従えですね」
「ふむふむ、ダンジョンはどうでしょう?」
「既存のダンジョンはどう扱っても大丈夫です。新たにダンジョンを作る場合はダンジョン外に出る悪影響をなるべく少なくしてください。ダンジョンで国を囲って嫌がらせとかはやめてください。過去そういうことをする人が居ましたが、酷いです。超難易度のダンジョンを作る場合は、攻略者が死亡した際に入り口で復活する魔法をダンジョンに組み込んでください。過去に一階層はスライムとゴブリンしかいないのに、二階層でケルベロスとシャドーアサシンを詰め込んだランダム転移のモンスター部屋を作った人がいましたが、そのダンジョンは死傷率が高すぎて閉鎖されました。新人冒険者が沢山死んでいったそうです。やめましょう」
まるで見てきたかの様に語るダリアさん、ぼくはわるいようじょじゃないよ。
「うん、イジメ、ダメ、ゼッタイ」
「っと、少し長話しすぎましたかね。大体要領掴めてきましたか?」
「転生者を軽く保護観察する神出鬼没の幼女です」
「ええ、良さそうですね。あと、転生者も生き物ですし死亡すると思いますが、順当に死亡したのならそのままで大丈夫ですよ。魔法で蘇生するもしないも好きにどうぞ。無いとは思いますが、魂の強奪のような場面に出くわした場合はできれば阻止してください。その場合、相手は天界か魔界の強力な相手だと思いますので正面から交戦せずに隠蔽系の魔法で逃げに徹してください。おそらく30秒もしないうちに天界から戦闘要員が急行するのでそれまで耐えてください。…大丈夫です、そのような事例は8万年前から起きていません」
それフラグだね。用心しておこう。
「なんか聞いてるだけで疲れたよ…」
「分厚い説明書読んだと思ってください。実際やることなんてそんなに無いですよ。これ渡しておきますね。アカデメイアの教諭を証明するカードです」
黒を基本とした艶のある金属板のカードで『アカデメイア』『魔法科上級教諭』『朧』としか彫られていない。胡乱な物を見る目で眺めていると…
「魔法刻印で必要な事は書かれているから大丈夫ですよ。アカデメイアは文明のある大陸なら必ず一つはありますから、世界で通用する身分証明になります。『魔法科上級教諭』で研究所持ちなら、冒険者ではBランク以上の魔法使い、国民としては爵位持ちくらいには扱われます」
「先生ってそんなに偉いんだね」
「この世界では質の良い教育は金より偉いんですよ」
「はぇ~、私えらいんだね」
紅茶もスコーンもおいしく頂いて間がすこし出来た。いやはや良い昼下がり。
「念話のあれこれは今晩には使えるようになると思います…。いえ、もう使えるみたいですね」
[ダリア]『テステス、聞こえます?』
[朧幼女]『聞こえる、というかこれめっちゃ便利だな!(*´з`)』
「はい、大丈夫ですね。今のが天界の関係者の使うチャット念話になります。今は私と朧ちゃんと、朧ちゃんが先日あった神さまの三人しか使えない回線になります。神が考案した[念話掲示板]なるものは移転者が来た時に開設されるみたいです」
「天界の住人は仕事が早いね。転生者で思い出したけど、どんな感じで転生してくるの?えーと、体を作り直してくるのか、体もそのままで来るのかとか、強さとか」
「あー、まだ話していなかったですね。どうやらポイント制で身体能力値や武術、魔法などの適正、習得、加護、祝福なんかを割り振って新しい体を作って来るみたいですよ。ユニークスキルという尖った能力もあるんだとか。強さとしては、例えばこちらの現役の人間の王国騎士が100だとすると、120くらいだそうです。しかし戦闘経験と錬度に相当な開きがあるため、実質60くらいだと思います。成長速度は通常の数倍早いみたいですね。自己評価や状況分析に優れているそうなので上手くいけば一気に強くなるそうですよ。
強さのポテンシャルはこちらの世界の現魔王や現勇者まで上がるらしいです。冒険者ランクで表すと、上限がAからSランクあたり、平均はBランクくらいまでになる予定だそうです。ダンジョンの最奥に居るようなボスの竜[亜竜]やワイバーンをパーティーで倒せるくらいですね。真の竜種には束になっても勝てないと思います」
「ゲームみたいなんだね。……うん……眠くなってきた……」
気づいたらソファーにもたれ掛かって、瞼が重くなっていた。
「なにかありましたら私に念話してください、・・・っと、おねむみたいですね。シエラ、朧ちゃんをお願いしましたよ」
毛布が体にかかったのを感じつつ眠りに落ちた。・・・・・・。




