41 大戸8 大戸9
41 大戸8
『ドカーーーン』
後方でうーたん達と埴輪面が廃村もろとも爆発した音がした。私が向いている山の斜面が明るく照らされる。背中を熱波が軽く撫でる。
『ジ、ジジジ…』
爆発の影響か、うーたんとの接続が不安定になる。
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「うっうぅぅ」
吐きそうになった。気づいたらソファーに寝ている自分だった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うー、ふー、なんとか…」
急にうーたんとの念話通信が切れた為か、3D酔いのような気持ち悪さが私を支配する。直に天界ネクターを取り出して飲む。吐き気と気持ち悪さが収まった。精神的にも結構疲れが溜まっているみたいだ。一息入れて落ち着けた。ちょっと屋上に出てみるか。
「シエラ、屋上まで連れてって」
「かしこまりました、お嬢様」
シエラにお姫様だっこされて屋上に出た。廃村の方を向く。灰色の煙が上がっていた。ゴーレムとはいえ、うーたんと村ごと爆破してしまったのはどうなんだろう、という気がしてきた。
でも仕方ないよねあの状況じゃ… 陽が丁度山に隠れる所だった。
「ふぅ」
爆弾を射出したカタパルトのレールを見る。…作っておいて良かったかな。ここで撤退してくる彼らを待とう。
ステンレス製のテーブルと椅子を通販で注文して屋上に置く。シエラに紅茶セットを用意してもらって二人で暫しまったりする。
――緋色の空は巡り、星々がその姿を明瞭にしていく――――爆風の煙か、霧か、月にかかり、朧となりて――――蛙の鳴き声が近くから、遠くから――――合唱は全方位から降り注ぎ、自分はどこにいるのか――
――小さな丸い手は、ティーカップを掴む――――風が吹き抜け銀の髪が頬を、首元を撫でる――――私の橙の眼は、うっすらな朧月をはっきり映す――――改めて自分を感じた――異世界に来たな――と――
――小さな月は、煌々と輝き――
――大きな月が群青を背に従えて――
――龍の様に伸びる霞と煙を纏い――
――すなわち朧となっていたのだ――
――自分とは、世界とは、精神とは、記憶とは、魔法とは、私は、だぁれ?。。。
屋上でのパノラマに絆されて、少しセンチな気分になった。結局ツカサ達にはお節介をしてしまったかもしれないなぁと思いながら、廃村での戦闘の高揚感を醒ましつつ、これからの事を考える。
「うーうぅう?」
居残り茶うーたんが来た。制御室からカタパルトを操作して爆弾を射出したので、どうなったのか気になっている様だ。
「ごめんね」
「…あまりにも埴輪面が強かったから、みんなを逃がすために、ね」
「うぅうー」
なんだか知らないが私を慰めてくれてるようだ。知性のあるゴーレムとしては、主人の私はどう映るのだろうか。
「うーたんにこんな事させる私は許せなくない?」
聞いてみる。
「ううううーうぅうう」
大事にされて飾られるよりも、主人の役に立って壊れる方がいいらしい。役に立つために生まれてきたのだから、役に立ちたい、らしい。
うーむ、私にはわからない感性かもしれない。
天界のゴーレムセットで作られたうーたん、天界にはこういうゴーレムがウジャウジャと居そうだ。良いか悪いか分からないが、ある程度人間味のあるゴーレムに育てられたらなと思う。
私の言う事は聞いて欲しいけど、一言忠言を添えるとかそんな感じだ。まぁ「うー」しか発音しないんだけど。 …。
「シエラは…」
「私はお嬢様が好きです。なんと言いますか、直感的にです」
「そう、私もシエラが好き」
…物事に理由を求めるのは私の悪い癖だ。夫婦にキッカケを聞いても一目ぼれ、とか、とにかく好きになった、とかが多いと聞く。
まったりと朧月夜を楽しんでいると、東の方からツカサ達がやって来たのが見えた。うーたんも一匹付いて全員いる。流石にキングうーたん達は付いてきてない。後で破片でもあったら回収して造り直す時には角を増やさなきゃな。二階級特進的なね。
ツカサ達を迎えに行っても良いが、そこまで甲斐甲斐しくする必要は無いだろう。私は今屋上で愉しんでいるのだ。そのうちこちらに出向いてくるだろうと思い、見送る。
一行が冒険者ギルドの建物に入って行く所まで眺めていたあたりで紅茶を飲み終えた。さて、店の方に戻るかな。
42 大戸9
店に戻ろうと思い、シエラに声を掛ける。
「シエラ、お店の方までお願い」
「かしこまりました、お嬢様」
再びシエラに抱きかかえられる。シエラの首に手を回して自分を固定しながら思う。シエラは綺麗だな――
「!、お嬢様、どうされたのですか!?」
「んっんっ」
「うー、うー!」
「あ、あぁ、お嬢様、おじょう…さま」
「んっんくっ」
「はぁ、はぁ、はぁ、……あ…ん…んっ」
気づいたらシエラの首筋に噛みついていた。口に芳醇な血の味が満ちている。とてもおいしい。きもちいい。おいしい。いい。
『ちゅぷっ』
「はぁ、はぁ、はぁ、シエラ、私を、抑え込んで」
頭がとてもクリアなのに気分が昂ぶってぼんやりしている様にも感じられる。人生で初めて生き血を啜り、とっても気持ちよくておいしくて頭がおかしくなりそうだ。体に力がみなぎってくる。
普段ではありえない力が出て、シエラの首に顔を近づけようとするが、届かない。シエラの力は万力の様に凄まじくビクともしない。
「はぁ、はぁ、」
欲しい、もっと欲しい。その首のその血、それは舐めるととてもおいしいに違いない。もっと垂らせ、もっと濡らせ。血を髄の中身まで吸い尽くせ。
私は吸血鬼。最強最悪にして快楽と血を求む。私はだぁれ?私は、わたしは、ワタシハ、私だろ?
…魔法で天界ネクターとアムリタンZを取り出す。意図を察したシエラが私を片手で押さえながら瓶を私の口に付けてくれた。そのまま飲み、…正気に戻った。
「ごめん、シエラ」
「いえ、だいじょうぶです、おじょうさま」
吸血衝動に初めてかられた。我が父ダインが吸血鬼の血を引いているから、私もその血の影響を受けたのだろう。最初はどうしても抑えられないと聞いていた。私は血が薄いから大丈夫と言う話だったのだが、こうして血を吸いたくなってしまった。月をずっと眺めていたからだろうか、なんとも困ったものである。
血を吸いつくした後に私の血を傷に流し込まない限り、シエラは吸血鬼にはならない。セーフだ。下級ヴァンパイアだと、血を吸った時に噛みつきが激しく歯茎から出血するのでそのまま相手もヴァンパイアになってしまう。らしい。知識が私から湧き出してくる。
どうやら、吸ってる方も吸われている方も気持ちよくなってしまうらしい。シエラの方を見る。
「……」
切なそうな顔で若干モジモジしながらこちらをみていた。エロいよシエラぁ…。女の子どうしでそんなのだめですよ。なんとかシエラのメス顔を脳内から追い出して、アムリタンZと天界ネクターを取り出しシエラに差し出す。
「…ありがとうございます」
ちょっと躊躇いながらシエラが受け取った。その、満更でもないって態度やめて貰えませんかね? 吸血衝動は収まったのに、こっちまでなんか切なくなってくる。
「だいじょうぶ?」
「…はい、大丈夫ですよ。お嬢様」
この段階になって、いきなり噛みついてしまった事に対する後悔が私を塗りつぶし始める。居た堪れなくなり、そのまま歩いてお店の方に降りて行こうとしたら、シエラが抱え上げてくれた。
「…ありがと」
今度こそお店の方に向かった。
シエラを押さえつけて思うさま血を吸いつくし、快楽に沈み、落ちていく様を見たかった。人間を殺し、吸い尽くし暴虐と快楽の限りを尽くせる確信がある。私はそれでなにも困らない、何もだ。どうしてやらないのか?
お店のカウンターに着いた後で、今回廃村をぶっ飛ばした爆弾は何か確認した所、【ボンちゃんボン】とかいうフザケタアイテム名の爆弾だと言う事がわかった。使う時に魔力を注いで飛ばして、外の袋が破裂すると中の爆弾袋も破裂するというアイテムだ。
ボンちゃんボン、なんとか一応納得した。ちなみにお値段は金貨5枚である。って事は、これ金貨4枚で買って来たのかよ。まぁシエラが魔力を込めたんだろうし、かなりの魔力を込めないと村を吹っ飛ばす威力は出ないだろう。
ちなみにダンジョンで使うとヤバいと思われる。壁は相当硬いが、村を更地にするレベルだとフロアを貫通するだろう。使用者は勿論閉鎖空間での爆風で木端微塵コースだろうな。暫くすればフロアは修復されるだろうし、自爆特攻以上の意味はない。
そうやって棚をぼんやりと見ていると、チリンチリーンと来店を知らせる音がした。実家の道具屋と同じ呼び鈴を扉に付けてみたが、さっそく仕事をしたみたいだね。
[ツカサ]「朧先生!」
[帰って来た茶うーたん]「うー」
[華代]「ここに朧殿が居る。ほらあの可愛らしい女子だ」
[又郎]「にゃ~、かわいい子だ、にゃ~」
[リュウゲン]「はぁあ…俺今回何もしてないぞ↓」
[エリカ]「私なんて、こけちゃいました…」
[カスミ]「エリカは支援頑張ってたじゃない。あたしなんて後衛なのに何もできなかったよ?」
[教師デルハルト]「お前ら落ち込むな。もともと村の復興に行ったんだからそんなものだ。寧ろ取り乱さず、良く生きて帰った」
[ディルジール]「俺もまともに戦えなかった上に剣の刃がかけちまった…」
[ランダイト]「ガハハッ、お前も槌にしたらどうだ?」
[サルヴァン]「普通そんな重い物ブン回せないぞ。かと言って矢代もバカにならんしなぁ。アサシンに転職しようか悩む」
[オルナルド]「サルヴァン、貴様にはやはり弓だろう。矢代と言うがな、俺の自慢の盾がこんなんになったの見てもそんな事言えんのか!これ直すの幾らかかるんだ……」
[ディアンヌ]「貴方たちが魔法得意ならねぇ…」
なんだこいつら、押しかけ強盗集団にしか見えない損耗具合。どうやらギルドで報告した後に、道具屋で装備のメンテナンス、ついでに生活に必要な物を揃えにきたらしい。
「うー、うーうーうー」
「うーうーうーうううううう」
うーたん達が全員集合して、今回の事の顛末を話し合っているようだ。まぁほっといていいかな。…ついでに黄色うーたんも出して混ぜておく。邪魔にならない様に隅っこでな~。
「にゃ~、知っていると思いますが、改めて自己紹介を。大戸の冒険者ギルドのマスターをやっている又郎と言う者だにゃ~」
「初めまして又郎さん、私はここで雑貨屋をやってる…エルフの魔女さんだよ。よろしくね~」
その後、ハーテインのメンバーとも改めて名乗り合った。パーティーでのランクはAランクで、やはり儀に熱い奴らのようだ。埴輪面との戦闘での動きは流石の運びだと思ったよ。
「それで朧ちゃん、…ここで鍛冶なんかやってたりするかい?ランダイトが鍛冶師だから、簡易な設備でもいいんだが…」
ディルジールが私に問うて来た。
又郎さんを含め、装備を損耗した面子がこちらを遠慮がちに見る。
…ツカサをサッと見る。
スッと目をそらされた。幼女から目をそらすのがとても苦しそうだ。情報元は貴様か。まぁ分かるよ、…いいよいいよ。雑貨屋の範囲内、かな。
「ん~、ちょっと待ってて」
お店の部分の二階に上がり、鍛冶、裁縫、などのが出来そうな作業スペースを急造する。アムリタンZグビグビ、ぽぽいっと、コンパクトにするために、天界式鍛冶竈を出してしまった。てへぺろ。
「なんとか鍛冶はできそうだよ~」
下に降りてそう言う。見るからに損耗組の顔色が晴れる。現金な奴らだなまったく。
衝動は何処かへと霧散していた。
だが、それは消えたわけではない。平穏な日常によってカーテンで遮って見えない様にしただけだ。それは常にそこにある。




