38 大戸5
38 大戸5
ギルドの中でテーブルが雑に置かれている一角に、今回の開拓派遣メンバーが集合している。補給物資をギルドから受け取り、ちょうど作戦会議をしている最中だ。
[教師デルハルト]「では我々学園組は後方支援と言う事か」
[駆出しツカサ]「僕らも少しは強くなったつもりです。今回は保険アイテムがあるので、ここは全員で奇襲でもいいと思います!」
[大剣ディルジール]「お前らまだEかDランクだろ?話を聞いた限りじゃAランクパーティでも勝てない敵の可能性がある。いくら死なないと言ってもホントは連れていくのも遠慮したい所なんだぜ。正直足手纏いだ」
[猫又郎]「今回は敵の殲滅よりも偵察が目的、にゃ~。後方支援、その場から逃げるだけなら大丈夫だと思う、にゃ~」
[朧う~]「別に剣を振り回すのだけが戦いではない。退路の確保、後方支援も大事だぞ。ほら、イージスの盾の上でファランクスで後ろからポセイドン発射で最強だろ?」
[過激リュウゲン]「俺は攻撃以外に能が無いんだが」
[鉱夫ランダイト]「小僧、慣れれば両手に槌を持ちながら酒が飲みながら夜番もできるぞ」
……。
ツカサ達四人組とその引率の先生騎士デルハルト、茶色うーたん三匹でアカデメイア学園チーム、又郎さんと大剣マッチョがリーダーのパーティー『ハーテイン』が冒険者ギルドチームとして分かれて動くことになった。
作戦としては最初に、魔の手に落ちた開拓村へ偵察しながら接近。
村の状況をある程度把握した後に、ギルド組が威力偵察(奇襲して敵の反応を観察)で村に向かい、学園組はその後方支援と退路の確保である。
制圧できそうならそのままギルド組は掃討を開始、学園組は村の簡単な復興や拠点造りを開始する。制圧が無理そうならそのまま撤退戦をしつつ退却する。
そういう計画になった。
悪くないが、村を一夜にして壊滅させるような奴らと戦うギルド組が少し心配である。
簡単な地図を囲んで各自準備、確認をしつつ、飲み物を片手に卓を囲んでいる中、気になったので聞いてみる。
「又郎さん、ギルド組はその『面』が居た場合は大丈夫なの?かなり危険だと思うんだけど…」
「朧にゃん、その場合は正面切って戦ったりしないにゃ。『面』はその名の通り、お面がそのまま浮いていてとても強いけど、移動はゆっくり、にゃ~」
強敵の割に意外だ、私の勝手な想像では相手の周りをクルクル回るくらい速いと思ってたけどそうでもないのか…。後これも聞かなくては、
「それで、ギルド組は身代わり人形は持ってるの?」
「八束太刀師匠に頼み込んで何とか貰って来たにゃ」
師弟関係だったのね。開祖直伝とか期待が持てる。そして全員復活の保険があるならいい。無いなら私が直接現地に行こうかとも思っていた所だ。だって、ワンチャン君ら死ぬよね?
それで、地図に必要な情報を書き書きしながら作戦の流れを復習する。時空アイテムボックスから【マジンの指】を取り出して差し棒の代わりにしようかと思ったが、気づいた。魔法が使えない…。
試しに光魔法の『ライト』をうーたんボイスで詠唱して発動してみる。
≪闇をはらえ――ライト≫
地図の上にファンタジー御用達のふわっとした発光体が浮かぶ。詠唱すれば発動するようだ。
魔力はうーたんの魔力を消費している。なるほどね。
そして更に気づいた。普通に真理の魔眼は使えていたことに。普段から魔眼をホイホイ使ってたからうーたんで魔眼使えてたこと違和感覚えなかったわぁ。
さて準備も整ったのでそろそろ出発である。東列島の魔物や妖怪は夜型の輩がほとんどなので、今の夕方くらいの時間帯は、人間の感覚だと暁の少し前くらいであろうか…奇襲に持って来いの時間になりつつある。作戦が始まった。
ギルドのある開拓村を出て、更に東の方向、山寄りの道を進んでいく。場所も分かっているのでサクサクと歩いていく。獣道より多少マシな程度の山道を1時間程進み、地図で確認した偵察ポイントに到着した。今我々が居るのは山の斜面で、麓の壊滅した村を見る事が出来る位置だ。
全員に村の状況が分かるように、風魔法で巨大な望遠レンズっぽい物を作る。
≪彼岸にうつろう影は――風の標よ現せ――テレスコープ≫
小声でぼそぼそと魔法を発動、さて観測開始である。
こりゃ酷い。村の建物は紛争地域の最前線と言った有様で、無事な物は一軒も無い。文明を憎んでいるかの様な徹底的な破壊の跡ばかりとなっていた。
既に悲鳴は無く、そこには物言わぬ人間の骸だけがあった。男も女も子供も老人も、転生者と思われる冒険者も食い散らかされてバラバラの身体の残骸が一か所に纏められている。
「ああ……」
誰かが呻いた。私だろうか、ツカサ達だろうか。どちらでもいいが、作戦通りにしなければ。
「落ち着け、計画通りに行くぞ」
デルハルトが一声かける。それでやっとこれからやる事を思い出したのか、学園組が配置につき始める。相手に気づかれてないので動揺が収まって落ち着くまで時間を空けてゆっくり準備していく。
学園組ではエリカが中心に、ギルド組では神官風のディアンヌが中心になって支援魔法を各員に掛けていく。どちらも出し惜しみ無しで、次々と魔法を重ねていく。
ひと段落したらマナポーションを飲んで魔力を回復させる。
迷ったが、今回私は防御と遊撃に徹しようと思う。化け物達をぶち殺して回りたい衝動が湧き上がってくるが、それは彼らに任せる。やべーのが居るだろうことが確定したので、撤退戦の準備をする。学園組も配置についているが据わった目で村の方を見ている。
ギルド組が入り口の近くに寄り、狩人スタイルのサルヴァンが弓を布で擦り始めた。どうやら何かのスキルのようだ。暫くして念話が飛んできた。
[ディアンヌ]『学生組、聞こえるかしら?』
[カスミ]『聞こえてるわ』
[ディアンヌ]『敵が多いわ、それにカースドマスクも居るみたい。奇襲で又郎さんが切り込むから、マスクを倒しきれなかった時点で撤退よ』
[朧う~]『そういう事ならキングうーたんを連れてって』
[ディアンヌ]『確かに、あの兎さんならいけるかもしれないわね』
キングうーたんをギルド組に加える。もう布陣も決まったようだし、念の為こちらでも探知魔法をかける。
≪見る者も無く――語る者も無く――知る者だけがいた――エリアサーチ≫
お、危ない。隠蔽付きの魔法でなかったらバレていたかも知れない。
廃屋の周囲を魔力がうっすらと回っている。パッシブスキルである。下手に魔法で干渉してしまうと気づかれる様だ。
骸の山の近くの廃屋の奥の方に赤鬼が7体、天狗が2体、それと…鬼面と埴輪面を顔に付けた天狗がいる。あれ?これヤバくね?ほうれんそう、ほうれんそう…
[朧う~]『ねぇ私も探知掛けてみたんだけど、あの廃屋の奥のお面って二枚あるし、天狗が付けてるみたいだけど大丈夫?』
[ディアンヌ]『え、二枚?マスクは浮いてるんじゃなくて?』
[朧う~]『そうそう、天狗はタダのお面じゃなくて、ヤバいお面を装備してるの。寝てるけど』
[又郎]『に、二枚かにゃ~…』
その後、色々と相談した結果、突入計画はこうなった。又郎さんとキングうーたんが速攻で一枚づつ面に攻撃。即座に離脱。直に建物の中に攻撃魔法を打ち込んで離れ、お面を倒せてたら掃討に移ると言うことに。
倒せる前提ではないので、学園組はもう逃げる位置に、サルヴァンとディアンヌもかなり後ろに下がる。
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お面が二枚なんて聞いてにゃいにゃ~!でもここまで来てしまったしやるしか、にゃい…。未知なる強さを感じる朧にゃんのゴーレム人形の『キングうーたん』もいるし、後ろ向きは良くないかにゃ、がんばるにゃ~。
っといういつも通りのフニャケタ思考回路でなんとかポジティブになろうとする。
もう猫被るのはここまででいい―――私はメガネをそっとケースにしまう。世界が明瞭な像を結び、手が届きそうだ。動いてる味方の油断しきった首を刈り取りたい衝動を抑え、味方だと、守るべき物だと思い込み前を見る。
今日の獲物は面に赤鬼と天狗だ。天狗は魔物でない種かもしれないが、この村を襲った時点で万死に値する。確実にここで殺す。面は無理かもしれないが、一枚くらいはヒビでも入れてやる。
愛刀の【叉切】を抜く。構える。夷羅波の【渦】が完成する。隣をふざけた造形の兎が付いてくる。廃墟の中へ入り、奥へ進む。
渦の圏内に赤鬼が入るがまだ我慢だ……もっと近づく…この扉の向こうに敵が密集して寝ている。よし、面が二枚圏内に入った。私の殺気を読み取ったのか、兎人形が槌を構える。…適当に合わせてくれ。
「っし」
『シュシュシュシュシュシュシュン』
一瞬で渦内の敵を扉越しから連続で切り付けた。結果を見ずにもう一度、お面を粉みじんにするように刀を振るう。
「っし」
『シュシュシュキキキキキキキィーン』
っち、手ごたえが硬い。
「う~」
『ッド』
私の二連撃が終わると同時に兎人形が部屋に槌を振り上げながら飛び込んで、鬼の面に槌を振りぬいた。既に天狗と半数の赤鬼は輪切りになっている。
その上で、ほぼ無傷のお面が二枚見えていたが、傷の多い鬼面は槌の一撃で粉砕したようだ。ものすごい力だ。あの槌と打ち合ったら私の愛刀も無事では済まないかもしれない。槌は変な形に変形していた。もう打撃力が生み出せそうに無い。
『「ァあっ!」』
埴輪面が動き出した。脳に直接響くような声がした。怒りに満ちた気が駆け巡り、この場の空気が厳かになる。何らかの強力な範囲効果を及ぼしている。これはヤバい。兎人形がこちらに離脱する時に槌を丸ごとと、片腕を肘から食われた。
『「あっ、ぼっ、あっ、ぼっ」』
透明な円錐形の腕?の様な物が埴輪面の後ろから二本浮かび上がり、近くにある物を手あたり次第掴んでは、その丸い口に押し込む。天狗も赤鬼も、死んでようが生きてようが突っ込む。埴輪面はとても硬いので口を通過して向こうに行く血肉と、面でミンチになって飛散する血肉に分かれていた。面が真っ赤になる。
『「ぁあっはっはっははぁ!」』
血濡れた面の目が愉悦を形取る。オーラが半端ではない。これは逃げたほうが良さそうだ。
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