37 大戸4
37 大戸4
開店して数十分ほどして、最初の来客が現れた。簡素で動きやすそうな袴に、袖の邪魔にならない羽織りの、少し青みのあるポニーテールの黒髪で黒目の、20歳前半に見える女性だ。
おっと、冒険者のプレート下げてるから冒険者か。ランクの下から鉄-G,F、銅-E、銀-D、金-C、白金-B、ミスリル-A、アダマンタイト-S となっているから、この人は白金でBランクだ。
「御免、店主はいるか。拙者は冒険者ギルドの者だ」
「う~」
「は~い、私がこの店の主だよ~」
「おお、真にかような小さい子が店主とはな…」
「幼女でわるかったね~」
「差し出がましい事を言った、すまない。それで拙者はこの村で開拓の援助支援をしているのだが、冒険者ギルドとしてこの店の商品を買い上げたい。融通してもらぬか?」
「ひょっとして、村長宅の隣の大きめの建物が出張ギルドなの?一括販売は量にもよるかな~、具体的にどれがどのくらい欲しいの?」
「うむ、そうだ。拙者はあそこに居る。ああ、食糧品、数打ちの武器防具、開拓に使うような道具類、生活に必要な物がひと揃い、できるだけ欲しい」
「ん~、店頭に並んでいるものの各種類の物を半分までならいいよ?在庫もあるからとりあえず必要なもの持ってきて~」
「十分だ、では少し見て回ってよいか?」
「もちろんいいよ~」
しばらく女の浪人が店を物色する。こういう言い回しでこういう格好のポニーテイルは妖怪や賊や浪人組や悪代官に捕まって「くっ殺せ!」とか言いそうだよな。いや、「辱めは受けんぞ!」と言って小刀で切腹だろうか…Bランクなら基本敵無しだろうから大丈夫か。そうそう、
「おねーさんのお名前は?私は朧だよ?」
「っは!拙者としたことが…拙者は華代と申す。冒険者で武をしている。宜しくお願いする。それにしても朧殿、ここの品は少し安すぎないだろうか…」
「まぁね~。流通に値崩れが起きそうならもう少し値を上げるかも」
買い取る本人にこういう事を聞くのは上手くないが、この人天然系のポンコツ女侍っぽいし大丈夫だろう。ここのギルドの人間なら流通に明かるいだろうし、どうかな?
「ふむ、この量なら問題ないだろう。…安心してくれ、転売したり悪用するつもりは毛頭ない」
なかなかしっかりしているようだ。天然に見えてたが、なにやらデキるオーラが出てきたな…
「では、これらを頼む」
めっちゃ沢山の物をレジ台に運んできた。休憩中のうーたんを呼び寄せる。
「うーたんにギルドまで運ばせるね。何か注意はある?」
「かたじけない。では、華代の買い物と言付けて受付に申し出てくれぬか?一旦倉庫に運んでもらおう」
レジで会計した端からうーたんに運ばせる。魔道具の念話レシーバーをうーたんに持ったせてギルドに行かせた。華代さんに話を付けて貰おう。なにせ、うーたんは先天性のコミュ障だからね…。
「…ああ、その物達は道具屋の小間使いだ。…そうだ、倉庫の方に運んでもらってくれ。後で整理仕分けしよう」
…お買い上げは白金貨で約10枚分になった。いやはや、買い過ぎだろう。開拓の一助になってくれればいいけどね。
「物資不足の折に、計らい感謝する。かならず役に立てよう。それでは御免」
ここはひとつ
「華代おねーちゃん、そんなに急いでるといい事ないよ?…お仕事ばっかりじゃつかれちゃうよ……」
「そう、だな。ここで物資が目途が立ったのだし、少しゆるりとしても良いか。今日から開拓の応援が沢山くるのだ。若者が多いので、躓かぬようにギルドで便宜を図る必要があってな…手を回す手が足りなくて、正直、猫の手でも借りたい程に忙しい」
そういう所に幼女がお手伝いに行くのも無駄かな。派遣されてくるのは主に、学生10人と先生の小隊だよね。死に戻り復活の手段があるとは言え、死んだ人数分、開拓に乗り出せる人間は減るわけだから…とりあえず初日だし、先の開拓村の様子を見るついでに付いて行ってみるか…うーたんがね!。
「うーたんを数匹、一番危険な方面へ行く開拓集団に同行させてもらっていい?」
「遊びでは無いのだぞ?妖怪や魔物に村ごと更地にされ得る危険な地だ」
「商品の使用状況の調査も立派な商売人の仕事だよ?それに、きっと役に立つと思う」
「…っ、不覚。…なるほど、ただの傀儡かと思っていたが、やるようだ」
念話でキングうーたんに指示し、ゴム棒を抜刀させて華代の後ろに忍び寄らせた。生気のない、ゴムで音も無いうーたんのヤバさ、分かって頂けたようだ。というかホラーだよね。
そういうわけで、派遣するのは…茶色のキングを入れた三匹のうーたんで、装備は…最高が6だとすると4くらいの装備にしようと思う。
主兵装は、ウチの商品のステンレスパイプの先端にゴムハンマーヘッドを付けた物、ポーション2個、魔力を込めると発動する呪文札を、障壁発動の符が2枚、突風を吹き付ける符が2枚である。私が魔力で印字しただけなので、それぞれ10秒ほど効果を維持した後に魔法陣が書き消えてしまうものだ。
ノーマルうーたんの一匹に、念話式で遠隔フルダイブ操作ができる機能を付ける。念話通信式トランシーバーも付けておこう。
通信系は頭部に仕込んである。頭部を破壊されると不通になるので注意が要る。ちなみにうーたんの中枢はクアッドコアである。左右の脳と、左右の腎臓にコアが一つずつあり、記憶は4か所で並列書き込みがなされる。頭は思考、腎臓は姿勢や筋肉の制御を担当している。脳が一つ残れば問題なく活動できる。
「じゃあ、このうーたん3匹を連れてってね」
「うむ、わかった。言っておくが命の…うーたん…の保証はできない」
「わかってるよ~」
3匹を華代にレンタルで貸し出した。ドナドナードナドナ~。私は制御室の脇に置いたソファーにゴロンとする。
眠くなってきたのでアムリタンANを飲む。快眠した後に朝日を浴びたかのような心持になった。
これゼッタイ、ダメなお薬入ってるよね?…きっと奇跡と魔法で出来ているに違いない、ヘーキヘーキ。一応、シエラ用にアムリタンANを一本出しておく。一緒にお薬で気持ちよくなろ?
何かあったら伝える様にシエラと残りの茶うーたんズに言って、出張うーたんにフルダイブする。
ふむふむ、パラメーターがオールBの全能感は鬼ごっこの時から変わらない。現在はギルドの建物の中に居るみたい。
武士風、陰陽師風、弓兵風、などなど、和風な冒険者が多い。巫女がいない…まぁ、開拓村だからね、しかたないよね。大戸にはきっといるよきっと…。
ギルドの内装は急拵えな感じだ。建物を転用した感が半端ない。
「…あそこの朧殿の雑貨屋から融通してもらった品を整理する。忙しいとは思うが二人倉庫に回してくれ…向こうで小隊毎に分けていく。…」
ひょっとして華代さんはここで一番偉い人かな?とりあえず倉庫に付いて行ってみる。華代さんが約10人分、開拓に必要そうな物資を分けていく。
内訳としては、食料、杭、ハンマー、大鉈、バケツ、ショベル、ロープ、テント、空間アイテムボックス、ポーション類、予備の武器防具、煙幕玉、狼煙玉、等々である。
二回ほど小分けされたあたりで、傾向が分かったので私も分けるのを手伝う。ギルドの職員と残りのうーたんが品を書類に書いて、それらをアイテムボックスに仕舞う作業をする。
13単位ほど作った所で、貸し出せるアイテムボックスの袋が無くなったようだ。
「これだけあれば暫くは大丈夫か。よし、開拓の依頼を受注した班に配ってくれ」
そうこうして、ある一団がギルドに入って来た。
「!、これは又郎殿、わざわざ大戸からの御足労、痛み入る。それで、ここに来たという事はやはり…」
「華代さん、こんにちわ。そうだにゃ、東の方を奪還するにゃ」
掲示板に出てた人…猫だ。猫の雄が人間っぽくなったタイプの猫獣人だ!灰色っぽいウルフ色で、目は猫目だがスカイブルーだ。しかも細い伊達眼鏡を掛けて浪人の恰好で腰には長物を二本差している。
能力値をざっと見ると、俊敏性がS、その他がAとBで構成されている。【夷羅波流皆伝】【爪の鍬】などの称号を持っている。
他にも人が来ている。というかツカサ一行だ!後は引率の先生は魔法騎士の装いの人だ。名はデルハルト。
それと、何時ぞやに見かけたツンデレ大剣マッチョパーティだ!パーティー名は『ハーテイン』メンバーは、ツンデレ大剣マッチョがディルジール、槍の重装騎士がオルナルド、槌のドワーフがランダイト、狩人スタイルがサルヴァン、神官風がディアンヌである。
一気に色々来すぎだよ~、ちょっと混乱してきた。
「又郎殿、それで、その四人は…」
「大丈夫だにゃ~、保険のアイテムは持ってるにゃ。それで華代さん、そこの兎さんは、見た所ゴーレムみたいにゃけど、新人さんかにゃ~?」
こちらを見た。色々と話すことがあるが、まずは自己紹介から…
「初めまして又郎さん。私は朧、今この兎のうーたんを通じて話してるよ~。大きいウサギが乗ってる建物で雑貨屋やってる…エルフの魔女さんかな?」
人が多くて、そして色々と入り混じってゴチャゴチャな会話になったので省略です。とりあえず私は、マルタに籍を置く先生で、開拓村の支援にやって来た。というような紹介をした。
又郎さんは、先日壊滅した村の奪還に来たらしい。それにあたって、強い班員構成で来たと言う訳だ。
大剣マッチョの『ハーテイン』は手堅い強さで面倒見が良く、ツカサ達のカバーも兼ねての選出の様だ。
ツカサ一行は練習ダンジョンでコツコツとレベリングしてたようで、学園出身ではかなりの仕上がりになっているみたい。
加えて、学園出身者は身代わり人形と転移の符を持っている。それを考慮した総合的な面での選出のようだ。後方支援なら悪くないと思う。
引率の魔法騎士のデルハルトは体育会系の体つきで、能力値も平均Bでまとまっているオールラウンダーで安定性能だ。マルタから来ている。手堅く強く、ツカサの手本になりそうな先生だ。騎士の背中で教育する胸熱展開に期待だ。
ここら辺物語構成がグラグラしてる気がしてもやっとする(^_^;)
次話くらいは遅れてくるかもです