31 エルサル正教国10
31 エルサル正教国10
理の神との念話を終えた。ノイルの件は解決かな?
ノイルに報告と時間跳躍は隠れて使えと言ておこうかと思ったが馬車が見えてきてしまった。
…奴はそういう事を一々言わずとも自分で解決できる逞しい男だ。時間遡行とか究極のチートスキルじゃんね。まぁ何かあったら私が後から何とかできるだろう。
それよりもグングニルの様な槍だ。シエラは何時ぞやの再現の様に見えていたのか、気が気じゃなかったよう、心配かけてすまん。とりあえずもう仕舞ったから安心だ。やっぱり死蔵だ、死蔵安定っと。
馬車が来たので乗り込む。色々とあったからか、少し気分が高ぶっていた様だ。私は慰安旅行に来たんだからまったりと観光しないとな。
ふぅ~。よし、外を眺めてのんびりと馬車の旅だ。…しかしあまり気に留まる場所がなくエルサル大聖堂に到着した。ここは押さえておかねば…降りる。
「おっきい…」
正門へと続く石畳から見ても大きい。ゴスロリ…じゃなくて、ゴシック建築だったかな? 巨大で、整然として荘厳で見る者を圧倒し惹きつけてやまないといった外観だ。映画やアニメの世界に出てくるような感じだ。地球で似たような建物を挙げるなら、シャルトルにあるノートルダム大聖堂なんかが近いだろうか。
建物に向かう人、あるいは出て来る人が大勢いる。
その流れに沿って進む。
人込みに飲まれると特に幼女は大変なので、シエラに抱き抱えて貰って移動する。腕を下に伸ばして私のお尻を下から支え、片腕をお腹の前に回す持ち方である。この抱え方だと私の目線があまり高くならずに目立たず、ジェットコースターのバーの様にがっちり固定されてる。私は両手が空いているので良い感じ。シエラは相当に筋力が試されるが、空のダンボール箱を持っているかのように余裕だ。流石である。
日本人は倣うのが特技である。文明人の条件反射で流れに沿って来てしまったが、人混みの様相は信者っぽい人ばかりで少し不安になる。
そうしていると入り口まで来て受付が見えてきた。神官風でキラキラ系の服を着た男女が8人くらいで来場者を捌いている。
『観光』『巡礼』『午後のミサ』
と三つの立て札が掲げられている。ここは無難に観光の方に分かれて並ぶ。前方の人が銅貨を払って何かを貰っていたので、私も銅貨を6枚ほど出して並ぶ。そして受付へ。
大人は銅貨一枚、子供は保護者が居ればタダらしい。銅貨を一枚渡し、蔓でできたリストバンドの入場券らしき物を二つ貰う。手首に巻き付けた。
受付が済んだら後は自由に見て回って良いみたい。
動線に沿いながら一階、二階、三階とゆっくり鑑賞しながら回っていく。
女神像、祭壇、ステンドグラス、整然とした礼拝堂、壁を大きく使った彫刻、大きな鐘、パイプオルガン、なんぞ縁の有りそうな装飾品、ギロチン、服、本、冠、錫杖、剣、杖、等々……緻密な細工で古めかしく、味のある物が多い。
はへー、美術館に来た感じだわ。どういう縁の物か分からないが、見てるだけでも楽しい。
大きな礼拝堂が一階、二階、三階と吹き抜けていて、内部空間が相当に広く視界が通る造りになっている。
一階は他に大きな部屋が四つあり、そこは自由に入れる。他の部屋の扉前、廊下へと続く場所には神官風が立って通せんぼしている。二階は二部屋入れる、三階も二部屋入れる様で、後は通せんぼされている。トイレは各階にある。四階もある様だがそちらは階段で通せんぼである。
隠されると何があるか知りたくなっちゃうのが人情である。回覧してる感じで透視の魔法で色々と見て回る。探知だとすぐに全容がわかっちゃうのでつまらない。やっぱチラリチラリ見るのが良いのよ~。
特に変なものは置いて無いっぽい。儀式や式典なんかで使うであろう品、展示に出さない品、武器と食料。事務系の部屋、…会議に使いそうな部屋では神官風が卓を囲んでなにやら話し合っている。ミサの予行練習の風景、警備の中枢っぽい部屋などであった。
おや、地下に空間があるぞよ?暗くてよく分からないな。人は居ないみたいだけど…入り口を辿ってみると、一階の小さな部屋の様だ、そこにしか出入り口が無い、そして神官風が二名立っている。
トイレだ!トイレに駆け込むよ!いえ、普通に二階の奥の方のトイレに行きます。人が少なそうだしネ。
トイレに入る。誰も居ないかな~?っと、神官風の女性が一人出てきた。はいこんにちは。幼女とメイドが一緒に個室に入って行っても何もやましい事は無いんだよ?
個室に入りました。まずは鍵を閉めます。消音、意識阻害の結界を張ります。ドアにコンコン検知のサイレント警報を付けます。地下の一室に何もない事を遠隔で確認しドアの裏面と転移門を繋ぎます。一応、防御障壁も展開します。地下に魔法の光を投げ込みます。地下に探知魔法を掛けます。クリア。
地下に移動します。だめだよーセコム入ってないでしょ?セコム入れなきゃー
地下には人が居ない。
まぁ出入り口押さえているからね。牢屋があっる。もう使われなくなって久しいのか古ぼけている。
中は完全に埃が積もっている。
他には倉庫部屋があった。ここも使われていない物が押し込まれている感じである。
お、古いが大きい魔法陣を書いた物がある。どれも数人以上で魔力を注ぐタイプのもので古くて効率の悪そうな物ばかりだ。光魔法の系統が中心で、それでも魔力さえ焼べ(くべ)れば強力な魔法が発動しそうだ。昔の大戦や遠征で使ったものだろう。一応軍事機密だろうからここに仕舞ってあるんだろうな。
他の部屋はと言うと、丁度上に礼拝堂が来る位置にやたらと厳重な鉄扉に閉ざされた部屋があった。窓枠が大きくあり、鉄の板をスライドして中を見れるようになっている。
中を見てみると今まで見たものと毛色の違うものが色々ある。呪われているアイテムと邪悪な魔物の死体が箱に仕舞われている。
真理の魔眼で見ていく。
アイテムは、カタカタと鳴っているギロチン、釘がウネウネ動いている釘バット(こん棒)、刃の部分だけがピカピカの鉈、片方の目玉がグルグル動いているフランス人形、闇魔法が書かれていて開けると自動で捲れる魔導書(便利機能だよね?)、鞘の中で血が固まって錆びて抜けない剣(普通の剣)、切る時に使用者の体力を消費して威力を上乗せする魔剣(仕様だよ)などなど。
魔物は、リッチ、ドラゴンゾンビ、ヘルドックなどの死体が置いてある。ドラゴンゾンビは魔核があるので亜竜で、シエラの親戚ではない。素材をなんとか使いたいのだろう。
上で神聖な儀式やらミサやらをやっているので、それで呪いやマイナス効果を消すようだ。浄化だね。あんまり効果が出ている様には見えないが、いくつか呪いが薄まっただろう物もある。魔物のそれは、特性が経年劣化で薄まっただけだろう。
特に欲しい物も役立ちそうな物も無いので、そのまま鉄扉を戻して引き返す。いや、欲しい物があっても勝手に持ち出さないよ?たぶん。
地下は以上の様だ。転移門を再び出して帰る。
あばよーとっつぁーん。
個室に仕掛けた諸々を解除して、ついでに用を足す。便器は大人用なので、シエラに支えて貰った。
ふぃー。洗面台に行って、またシエラに抱えて貰ってからお手々を洗う。魔法で何でもかんでも用を足すと風情が無いからねー。
そうしていると神官風の女性がツカツカと通り過ぎて入って来た。急患かな?と言うか音で何やってるかわかっちゃうんだよね。この世界にもオトヒメの導入が待たれる。
無言で天界印の漏れない染みないふんわり敷くタイプのを取り出す。もう個室から出てきた、勤務中だったのか急いでいるようだ。もう少しゆっくりしていきなさいよ。ここは人生のレストルーム、みんなの駆け込み寺だよ。
「おねーちゃん、トイレットペーパーはだめだよ?」
「…ありがとう、今日は持って来てなくて」
この世界のトイレットペーパーは正直ただの紙だ。代用は厳しいと思う。地球のトイレットペーパーでもかなり厳しいと思うけどね。お大事に~。もう用もないのでさっさと出ていく。
一通り回って見たので、最後に礼拝堂とそこのステンドグラスを見ていく。陽の光が斜めに入って実に良い。
暫くぼけーっと眺める。一階にミサの準備をしている集団が出来つつある。先ほどの神官さんもそちらの方にツカツカと合流していった。さて、帰りますか。
その後は何事も無く大聖堂を出て、馬車に乗り、学園の修道院まで帰った。丁度日没前くらいになったようだ。もう満足したかな?マリーに挨拶して行こう。
「あ、朧ちゃん、どうっすか?」
「大聖堂がすごかった!おっきかった!」
「あそこは必見スポットっすね~、あ、あそこは地下があるんですよ~。」
「みたよ~、なんか面白いおもちゃがあったね~目玉ぐるぐる人形ちゃんとか~」
「あそこは侵入しずらい場所なんすけどさすがっす」
「だいぶ見て回ったから、そろそろマルタに帰るよ?」
「あー、そうっすか…朧ちゃんの部屋は何時でも使えるようにしとくっすから、好きな時にまた来てくださいっす」
「うん、ありがとうねー」
「転移魔方陣まで送るっすか?」
「部屋から転移門で帰るから大丈夫だよ~」
そうしてマリーと別れ、転移門でマルタの私のフロアの実験部屋に帰った。
色々あった二日間だったかな~っと思いつつ転移してきた自分を見る。あ、シスター装備のまま来てしまったか。貰っておこう。これぞ着服。
今日もアサシンの影を着てなかったな~っと思う。幼女が幼女らしい恰好をして目立つのと、幼女が忍者マントを羽織って目立ちにくいけど浮いてて目立つのとどちらがいいのか、っと。いや、普通に忘れてたんだけどね。
それにしてもここに来ると、帰って来た、という感じがする。どうやら慰安旅行は成功した様だ。さて着替えてから下の食堂に行きますかね~。




