19 気の向くままに2
19 気の向くままに2
行きつけの喫茶店を定めたし、次はどうしようかな?っと考えながら外に出ると、昼になっている。昼食の行きつけも探してると遅くなるだろうし、冒険者ギルド横の食堂兼酒場に行ってみることにする。
その扉は両開きであるが、キッチリと隙間無く閉じる立て付けの良い立派な木製扉であった。ほいっと押し開いて中に入る。扉のどこかに付けられていたであろう鈴がチリリンと鳴る。
見ると、思った通りの内装である。ザ・中世の酒場兼食堂で、ドワーフとでかいおっさんが似合いそうな、そんな感じだ。文字通り色々な人種が、老若男女(女性は少なめだが)問わず居る。転生者らしき人達もいる。
皆がこちらを見た。普通に視線を戻す人も居るけど、じっとこちらを見ている人が結構多い。見せもんじゃねーぞ!
各席、各テーブルはゆったりとした広さで、中世テイストなのにファミレスのような感じで開放的である。ガタイの良いのが鎧の上に外套、マント装備とか、帯剣してる人なんかも居るからだね。現代日本の地下のテナントにある飲食店みたいな狭さが無い。問題が見つけられるようにか、視線が良く通るような造りになっている。
店員にでかい、怖いガチムチスキンヘッドが居る。こりゃ悪い事できないな。喧嘩でも始めようものならば摘まみあげられるだろう。ウエイトレスさんは普通の娘さんがやっていた。かわいい顔立ちの18歳前後かな。酒のボトルがメインに陳列されている棚のある、カウンター席ではさっきのスキンヘッドが無言で酒を客に出していた。あ、笑った。超怖いわ。ふえぇ。わたしはシエラをぎゅっとした。
シエラがスキンヘッドの方を見た。
「なんか酒入れてんのに背筋が寒いねぇ」
スキンヘッドはこちらを見るや「おいルル、ご案内してくれ」と言った。
看板娘らしい人がぱたぱたとやってきた。
「いらっしゃいませー、お二人様ですね。どうぞあちらへ」
とりあえず案内された席に座り、昼食を二人前頼む。『男性ランチ、女性ランチ…』 と実にそっけない感じのメニュー欄だった。私は少な目と付け加えておいた。
今度は口ひげの似合うダンディーなウエイターさんがやってきて料理を置いていった。
料理はドイツの食堂、肉多め、という感じであった。イモ、肉、煮込んだスープ、硬めのパン、葉物野菜のサラダである。味は大味。量は多めである。少な目でもけっこう量があったが何とか食べきる。うぇっぷ、天界ネクターで流し込む。おいしい。ん、お腹が苦しくなくなった? ポッコリ膨らんでいたお腹がちょっとポコリ くらいになっていた。吸収されたのかな?
お会計を済ませる。二人分で銀貨1枚、銅貨8枚だった。安い、紅茶セットより安い。さすがは冒険者の腹の味方だな。
実はもっと安い謎のメニューの…イモとスープ、あるいはパンとスープ…というのもあった。きっと山盛りの硬いパンとイモなんだろうな。そしてスープはしょっぱくて具が少ないんだ。
せっかく隣なので冒険者ギルドの方に行って、目新しいものがないかと覗いてみることに。
「うぶぉあーっ」
ギルドに入ろうとしたら、テンプレ的に両開きのドアから『バカーン、ドサッガシャガシャゴロゴロ』
と転移者らしいハーフプレートメイルに大剣一本の若造がまろび出てきた。
ギルドの中から
「お前にオーガはまだ早い、オークを倒して出直してこい!」
っと一声。こりゃ話を聞かんでも分かるお決まりの案件だな。
「………げほっ、くそ、ちくしょう、ステ的にはタイマンでもイケんだよ、…」
などと呻いていた。暫く遠巻きに観察する。…なかなか起き上がらない。のされてそのままじゃ苦しいだろ。ポーション使えよ。ひょっとして持ってないのかな?いや、ベルトに刺さってるよね。忘れてるのかな?節約中かな?でも回復しないと冒険者家業はやってけないだろう。体が資本なんだからさ。
「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ、………」
息を整えつつギルドの扉を睨んでいる。こちらに気づいた様子はない。なんかギルドに入りづらいじゃないか。中から誰か出てこい、もしくは扉睨むのヤメテ。
「まだいたのかおまえ。…そんな目で見るなよ、いつか連れてってやる。そういう時はポーション使うんだよ、ったく、シロウトが」
ギルドから渦中のパーティと思しき連中が出てきた。青年を殴り飛ばした後に依頼の受注手続きでもしてたのだろう。それで間があったわけか。
リーダーのこのマッチョガイが大剣の前衛、槍と盾と鎧の騎士風が一人、でかい槌を肩に担いだドワーフが一人、狩人スタイル一人、殴りと魔法がイケそうな杖の神官風が一人のパーティのようだ。
「おら」
ツンデレ大剣マッチョがポーションを少年に投げつける。
「時間が無い、いくぞ。場合によっては一泊挟む。今日中に補足するぞ」
ベテラン風のパーティーは足早に外壁の方に向かっていった。
さてギルドに入るかな。若造をスルーして中に入ると皆がこちらに注目していた。傷付いた若造だと思った?魔女っ子幼女先生でした。
皆がなんでこのタイミングで幼女?って感じで内心、ズコーってなっているのを感じつつ、受付嬢に最近の動向的な物を聞きに行く。だってみんなの視線が刺さるんだもん。
数日でそうそう面白い事も出てきてないそうで、人食い鬼襲来!的なイベントが発生している訳ではないそうだ。さっきのパーティの依頼は、魔物の縄張り移動的なものらしい。
「オボロちゃん、Cランクまで上げてオーク集団の偵察とかやってみない?今なら試験フリーでランクアップもセットだよ~?ね?おぼろちゃん、ね?」
なんだコイツ、さっき他人の依頼のことも私にペラペラ喋ったし信用がおけん。
「えー、Fでいいよー。オークってコワイ豚さんだよね? もしも豚さんに囲まれたら、わたしっ…」
「いや、オボロちゃん、楽勝だよね?ギルマスに聞いてますよ?できれば見合った依頼やって欲しいなって思ったり~『氷雪月華』のシエラさんも一緒なら…っひぃ」
嫌な仕事を押し付けようとする受付嬢、面倒だからと幼女ボケで流そうとするわたし、昔バイトでちょろっとAランクやっていたらしいシエラの『黙れメスブタ』の冷たい目線の応酬が繰り広げられ始めた。
このアホっぺぇ受付嬢はそれでも結構食い下がってくる。まぁ話くらいは聞いてみようか。
「豚さん、困ってるの?」
「山から近くにある村からの報告で、川向かいでオークを見かけたというのが多くてですね~、コロニーを形成している可能性が出てきまして。まだ関連の依頼はギルド外から受注来てませんが、早い方がいいだろうということです」
「ほかにもつよい人いっぱいいるよね?」
「ギルドからの発注だとどうしても安い依頼になるんですよね~。被害届はまだ出てないんです。偵察は交戦の危険性があるわりにお安いですし。さらにオークですからね。女性に不人気です」
魔物はある意味二種類に分けられる。瘴気から発生する魔物と、魔物から生まれる魔物である。例えばオークならば、瘴気から発生した個体なら既に成体で、破壊と暴食の限りを尽くす生きたキリングマシーンである。
生殖で産まれるオークなら、集団を形成し動物らしく行動する。こちらに女性がつかまると、苗床にされる可能性がある。オーク種はメスが非常に少なく、ある程度の大きさの生き物のメスを攫ってきて子供を作らないと個体数を維持できない。生まれるオークはキメラではなくなぜか全員オークとなる。
こうなるとつまり、オークのメスに対する意識は「ゼッタイツカマエル!」「ハラマセル!」となる。
が、しかしオークにとって問題が沢山ある。攫った女性に求められる事には、死なずにオークの子供を孕み、出産し、母乳を与え、育てることである。オークにとってこれは至難であるとしか言えない。
そこでオークは必死に片言を覚え喋り、交尾して育児までなんとか努力、交渉するのである。人間の女性はそんなこと嫌なので捕まっても犯されずに監禁されつづけ、そのまま平行線となりやすい。
魔法の使える女冒険者はそのままオークを倒して逃げてしまうだろう。既成事実から入ったり、恋人の命と引き換え、などなど知恵を絞ったりするケースもあるようだが、だいたいが女性の育児放棄や自害、脱走、発狂などで赤ちゃんオークは乳を与えられず死んでしまう。
そうやって失敗してオークは次世代を残せずに全滅の憂き目にあう…と。
そんな訳で、オークとの接触は女性にとって常に監禁生活と隣り合わせである。男にとっては、攫われた村の生娘を救い出して…などと騎士様エンドが期待できるため人気があるようだがオークにとって男・即・殺となるので危険度も高い。
「うーん、むむむ~ん」
暫く黙考して
「いいよ。でも、わたしはFランクのまま」
「お、お請けいただけますか!えーと、では、すみませんがシエラさま、ギルドカードをどうかお貸し下さいますでしょうかぁ……」
『メスブタ、お嬢様の手前、今回は見逃してやる』
的な視線でジロリ、カードがカタリ。
……
諸々と地図で場所も教えてもらって、さて出発である。




