10 ようこそフロンティアへ4
10 ようこそフロンティアへ4
いつのまにやら天蓋付きのベッドで寝ていたようだ。ここはひとつあれをせねばなるまいて。
「知らない、天井だ」
異世界転移して知らない天井見るのは元ネタとそんなに関係ないような気がする、どういうことなんだ・・・などと考えながら体を起こしつつ、ぼーっとしてるとシエラがやって来た。手にはゴスロリ服に魔女っ娘帽子を持っている。自分の体を見るとネグリジェだった。生地はふわふわなめらかで素晴らしい肌触りである。が、パンツの輪郭がうっすらわかる。…これ、すこし透けてないか?
「御召し物をお取替えします」
シエラに手早くお着換えさせられる。凄い手際だ。私が全力で走ってても並走しながら着替えができそうな勢いだ。ゴスロリ魔女っ娘幼女が完成した!帽子には帯が付いていて、園児の帽子の様に固定できるみたいだ。
「時刻は午後4時を少し過ぎた程になります。何かご予定はございますか?」
うっとり顔でシエラが訪ねてくる。急にこちらに来たし、特に予定は無い。無難に周辺探索かな、学園は…いつでも見れるし、テンプレ通りに商店街を冷やかしつつ冒険者ギルドに行ってみようかな。そういえば
「ねぇシエラ、私って冒険者としての登録って新しくできるの?」
「おできになるかと。その場合は新しくギルドカードを御作りになればG、ないしFランクから始められます。ギルドでお嬢様のアカデメイアのカードを出せば、その場合は高ランク扱いになるかと」
なんだその複数アカウント、アカデメイア学園の方は住民票みたいなものだからいいのか、な?
「じゃあ、ギルドカード作りにいこう」
というわけでマルタの街に繰り出した。フロアから出る際にシエラがフード付きの魔導士が着そうなローブを着せてくれた。帽子を背中の方にずらしてフードを被ることもできる。お~、ここでこの帯が活躍するのね。
「くっしやき!くっしやき!」
商店街は学園を出てすぐの様だ、まずは串焼き、これは外せない。おいしい串焼きを食べて見せる。私も道具屋の娘、この世界に流通する貨幣と物価は分かるぞー。
鉄銭貨が10枚で銅貨1枚、同様に銀貨、金貨、白金貨という順番に桁と貨幣が繰り上がっていく。鉄銭貨1枚が日本円で大体10円くらいである。白金貨1枚で十万円くらいの価値になる。鉱物の価値が低いように思われるが、この世界では鉱物資源は沢山産出するものらしい。よくよく考えてみれば、金の剣、銀の剣とか日本で再現したらすごい値段になるよね。
中世やそれ以前の時代だと銅、良くて青銅が唯一扱える金属だったりして鉄なんて貨幣として扱えない、白金はそもそも冶金できないただの鉱石屑。簡単な鉄器も温度が足りなくて無理だったりするんだが、この世界では魔法があるので白金や鉄も比較的容易に冶金され、産出量も多いので貨幣として使えるらしい。
まぁとにかく串焼きである。私はお小遣いとしてシエラから50万円くらい貰った。具体的には各貨幣を五枚ずつである。
「おじちゃん、くしやき二本ちょうだい!」
味に煩そうなコワモテなスキンヘッドのおっさんに注文する。
「おう!銅貨四枚だ、毎度!…お嬢ちゃんはこんなに食べきれないだろう、少し少なくしておくから銅貨三枚でいいぞ」
木の串というか棒に肉ブロックが刺さっている串焼きが炙られて、いい匂いがしている。
「はいお待ち!熱いから気ぃつけな!また来てくれよ!」
一本をシエラに渡す。
「頂きます」と受け取るシエラ。私も肉塊に齧り付く。程よく柔らかくなった肉にタレの甘味と旨みとすこしのスパイシー、この少し雑な仕上がりがまたいい。
夢中で食べつつシエラを見るとお上品な動作で止まることなく肉を口に収めていた。見てても咀嚼している素振りが感じられない。あれ口の中どうなってるの?とりあえず口内ミキサーのようなものを想像しておく。
肉を食べ進める。そろそろおなか一杯になるかという段階になって串焼きを食べ終わった。
「おいしかったね~」
「はい、おいしゅうございました」
シエラが満更でもない幸せそうな顔をしている。やはり肉か、心のメモ帳に『シエラは肉で釣れるかも』と書いた気になる。往々にして思い出せないんだけどね。
食後は商店街を歩きつつ冒険者ギルドの方へ向かう。場所柄かかなりの人が往来している。多くの人がこちらを一瞥するが、すぐに興味を無くしたように視線を逸らす。たまに凝視してくる奴が居るがシエラがそちらに一瞥くれると慌てて目をそらす。フハハ、こっちみてんじゃねーよこらぁロリコンども(上目遣い)ぶっとばすぞぉ~(シエラが)。
そうこうしているうちにでかい冒険者ギルドに着いた。酒場兼食堂の建物が隣接しているようで、どこからともなく喧騒が響いてきている。これぞ、ザ中世の繁華街。さてさて、大き目の両開きの扉をくぐり中に入る。まずはサッと見渡して内部を把握する。ついでに真理の魔眼を奔らせて人外系の脅威が居ないか確認する。
シエラが腹パンすれば一発KOするレベルしかいないな、よしオールクリア。
受付嬢らしい人物がいるカウンターへと歩いていく。人の並んでいない、栗色の髪のお姉さんの正面に立つ。両の足を地に着け堂々と立った!ふんぞり返った!しかしカウンターが邪魔でお姉さんの顔が見えない!……。
深い絶望に包まれていた私をシエラが後ろから抱え上げる。おお、気が利く。
「冒険者登録をしにきた!」
抱えられているという無様を帳消しにしようと意気込んでいたせいか、なんとも言えない出だしになってしまった。おっと、落ちちゃうからしっかりシエラに掴まらないと。
「はい…失礼ですが、12歳以上でしょうか? 原則として冒険者登録は12歳以上からとなっています」
「え、あ、えっと、・・・・・・」
めのまえが まっくらに なった。
「お嬢様、学園の身分証を…」
シエラの言葉が私を闇の中から引き戻した。言われたとおりにアカデメイアの身分証を無言でカウンターに置く。
「…こちらお読み取りしていいですか? はい、少々お待ちください」
受付嬢のお姉さんが私の身分証を持って奥に消える。…10分くらいして帰って来た。
「必要な手続きをしますのであちらへどうぞ」
職員に案内されて二階の一室に通される。あれぇ?カウンター越しの棚に未使用っぽいギルドカードとか積んであったんだけど。これはあれかな、ただもんじゃねーなってちやほやされちゃう?えーこまっちゃうなー。ご機嫌になった。ふへへぇVIP様だぞ~、でも世を忍んでるからな~。
「やぁ、こんにちは。今日は冒険者登録をしにきたと聞きましたが…どうぞこちらに…。僕はマルタ支部のギルドマスターをしているキースといいます」
20台後半くらいに見える黒髪茶眼の中肉中背で中世的な、少し童顔っぽい青年がそういって接待してきた。真理の魔眼で見てみると、…仙人らしい。
物理防御がS、他の能力値はA~Bで歴戦を思わせる経歴で、様々な武術が扱えるらしい。特に大剣が得意なようだ。カタログスペック以上の能力を発揮するバランス防御型タイプだな。戦闘で一人居るとめっちゃ活躍するタイプだね。
その後、冒険者になりたい動機(面白そうだから)を聞かれたり簡単な質疑の問答の後に、冒険者の説明になった。どうやらアカデメイアのカードから色々と情報が読み取られたようだ。本当は適正を見たりするらしいのだがその辺は省略された。
「冒険者のランクはSからGまであって、Sランクはそうそういませんね。国に一人居るか居ないかくらいです。AランクからGランクまではピラミッドになっていて、Aランクは騎士1000人力以上、Bランクは騎士100人力に届くかどうか、Cランクが兵士100人力、Dランクが兵士10人力、Eランクが兵士より少し強いくらい Fランクが見習い兵士とか盗賊下っ端くらい、Gランクは一般人です。それでSランクはAランクよりも強い人がなります。これがランクの大雑把な目安ですね。クエスト依頼は、例えばBランクの人はBからGまでの依頼を受けることができます。パーティーで受注する場合はパーティ内で一番高ランクの人が基準になります。受注した依頼が………………
っは!?説明が長くて魂が持ってかれるところだった。
「…細かいことはギルド手帳に書いてあるから、時間のある時に見てみてね。いちおう規則なので、朧さんはFランクからスタートになるね。それで、スタート直後だけど、すぐにランクをBまで上げられるけどどうする?」
「Fのままでいいや、あんまり目立ちたくない」
「わかりました…どうぞ」
数打ちの光沢のない鈍い鉄の色をした小さいカードを受け取る。穴が開いていて、紐を通せる様になっている。冒険者はみんな首から下げてたな。私もやってみよう。
「受付に言えば対応してくれるから何かあったら相談してね。冒険者はガサツな人が多いけど、極悪人は滅多に居ないから、あまり虐めちゃだめだよ」
そうしてギルドカードを手に入れた。ギルドの外は夜になっていて、まばらにある建物から光があふれている。今日はもう帰って寝よう。やっぱベッドで寝ないとダメだよ。