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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
序章 物語の始まり編
12/53

主従契約?

序章完結です。

 時間を少し遡る。


「痛ってぇ、なんなんだよいきなり。殺す気か?いや、殺す気なのか。」


 僕ーーー如月悠一は一先ず傷の手当てをするためになぜか常に持ち歩いている針とこれまたなぜか常備してる糸で多少強引に傷を縫い合わせた。その後旅行鞄から適当な大きさの布を取り出し包帯のように巻き付けて傷口をふさぐ。すぐに血が滲んできたがないよりましだ。


 しばらく意識を失っていたためか少し頭が痛い。それに貫通創からは多量の血を失ったがかろうじて生きている。


 あの時、直前に奇襲を察知した僕は咄嗟の機転でどうにか対処した。


 飛来してきた矢は相当の威力を持っており当たり所が悪いと僕は衝撃でばらばらになっていただろう。だから、僕は敢えて垂直に貫通させた。


 貫通するということは防御を破るのと同時に突き抜けてしまうということでもあり、それは威力が充分に伝わらないことと同義だ。威力の殆どを後ろに突き抜けさせられるので一先ずばらばらにはならずにすむ。


 あたる場所もなるべく調整し肺の片方が破れたがかろうじて心臓は無事だ。


 とはいえ、それはあくまで机上の空論。いくら突き抜けたとはいえかなりの衝撃を食らったのは明白であり、墜落するときも体勢的に受け身がとれなかったのでそのダメージも大きい。おまけに胸に穴が空いてるので出血も多く放っておくと出血多量で死ぬだろう。


  続いて今後の方針を考える。もちろんやることは決まってる。ルリを助けにいく。問題はそれをどうやって実行するのか。


 例え気を付けていたとしてもあの矢は厄介だ。無策で突っ込んでもまた餌食になるだけだ。それに衝撃で全身が痺れていて体に負担がかかる絶生拳はおろかまともな格闘術すら使える気がしない。どうにかたどり着けたとしても兵士にあっさりとらえられる未来しか見えない。


「ああ、ダメだ。頭に血が昇らないや。」


 どうやら思った以上に血を失ったらしい。まともな思考が出来ない。意識も朦朧としてきた。


「何をするにしても。まずは休んでからだな。」


 そう結論付けて横になる。


 不意に空を見上げるとやけに大きい鳥が飛んでいるのが見えた。ただの鳥にしては大きすぎる。あれも魔獣だろうか?


 ぼんやりとした思考の中、無意識にその鳥に手を伸ばした。

  

 この時の僕はある種のトランス状態になっていた。だからここで僕が発した言葉は後の記憶には残らない。


「その翼寄越せ。」




 その後、僕はとある方法で塔の屋上にルリを見つけて上空からダイブした。


 本当はルリの傍に着地するつもりだったんだけど落下の衝撃が思ったより強くて何度も回転受け身をとっているうちにだいぶ距離が離れてしまった。


 『神徒の騎士団』は突然の闖入者に戸惑いつつも約二週間の訓練の賜物か即座に陣形を整える。一之瀬を筆頭とした前衛が各々の武器を構えて前に出て雫等の後衛は魔方陣を準備する。


 僕を扇状に囲むような陣形で暫し警戒していた『神徒の騎士団』だが、闖入者が僕だと分かると数名が驚きの声をあげた。


「先輩!?」

「馬鹿な!死んだはずじゃ?」


 何で僕は死んだことになってるんだろう?まあ、いいか。


 問題は彼らが僕を認識しても警戒を緩めていないことだ。試しに一歩踏み出してみると武器を握り直してより鋭く睨んできた。


「無駄だ、如月。いくらお前でも俺達全員を相手にすることはできないぞ。」


 『神徒の騎士団』を代表して団長の一之瀬が警告した。どうやら彼らは僕を敵と認識しているらしい。王国は僕の造反を『神徒の騎士団』に伝えたようだ。もしその辺の情報共有がされていなかったら味方のふりをして近づいて不意打ちでルリをかっさらうことが出来るかなとも思ったがあてがはずれた。


 戦闘を回避することは出来なさそうだし一之瀬の言う通り『神徒の騎士団』全員を素手で相手にするのは難しい。なので何故か地面に突き刺さっていた剣を引き抜く。フミ姉曰く絶生拳は実戦においてありとあらゆる状況に対応できるように研鑽された武術でありそのため素手の技が主なので絶生()という名称だが、剣や銃など、この世に存在する全ての武器に対応している。


『敵対勢力:32人 総合戦闘力:38 危険度:C-

 開放率(アンロックレート):7% 状態(コンディション):オールグリーン』


 剣を握った直後それらの情報を含めこの剣が持つ能力及びその使い方と特性等の膨大な情報が脳に直接流れ込んでくる。


 あまりの情報量に一瞬頭痛がして顔をしかめた。それを隙と見て取った一之瀬が即座に身体強化を発動し弾丸のような速さで踏み込みとともに身の丈ほどある両手剣を振りかぶる。


『攻撃予測 :物理攻撃 斬撃 威力:B+ 速度:C- 精度:D+ 脅威度:10』


 そのような情報と共に一之瀬の剣と僕の間に予測線が網膜に表示される。僕は唇を噛んで頭痛を振り払い『獣』を発動する。同時に予測線と重なって『死』の気配が読めるようになり、表示されていた脅威度が0に変わる。


斜刃(しゃじん)!」


 叫ぶと同時に僕が放ったのはただの下から上への斜め切り。されど幾度も同じ型を繰り返し殆ど反射で打てるようになったその技は常人の知覚速度を遥かに凌駕するある意味異次元からの攻撃となる。そしてその威力は『英雄』の全力の一撃にも匹敵する。僕と一之瀬、互いの刃が衝突して切り結ぶ。


 漫画とかならここで鍔競り合いに移行して言葉を交わすところなんだろう。実際一之瀬も口を開きかけていた。だが僕は空いてる左手で一之瀬の顔面を思いっきり殴った。何故かって?勿論、鍔競り合いになったら身体強化を使えない僕がそのうち押されるに決まってるからだ。ついでにちょっと前にこいつを一回全力で殴るって決めてたし。


 絶生拳の使い手が放つ全力の一撃をもろにくらった一之瀬は鼻血を出し白目を剥いて気絶した。リーダーを早々に失った『神徒の騎士団』は次の行動を決めあぐねているようで陣形が乱れ始める。


「雷光斬!」 


 その隙を見逃さず、僕は腰だめの構えから最速の抜刀術で静乃に急迫する。一切の小細工無しに一直線に迫ってくるこの技にかつて一撃で倒された静乃は無理に受けようとせず曲刀(シミター)を最小限の角度で触れあわせ後方へ移動して受け流した。高威力の技を受け流されて僕の体は大きく右に流れる。そこに『神徒の騎士団』随一の速さを持つ静乃の刃が僕を両断せんと迫る。だが、


平刃(へいじん)!」


 僕は流れに逆らわず体を駒のように回転させカウンター気味に神速の水平切りを放つ。攻撃中で防御がおろそかだった静乃は受け身もとれずに吹き飛ばされる。


 絶生拳の剣技は基本となる斜め切りの斜刃(しゃじん)、水平切りの平刃(へいじん)、縦切りの縦刃(じゅうじん)、刺突の突刃(とつじん)の四つを体捌き等を組み合わせて応用した攻撃技及び初動の抜刀術と幾つかの防御術で構成されている。しかし威力、速度共に優れてある代わりにフォロースルーが大きく技後の隙が生じやすい。そこで技後の体勢からそのまま次の技に繋げる連鎖刃(チェイン)という技法を駆使して流れの中に次から次へと技を繰り出し、敵の攻撃や受けられた反動の威力をも吸収しながら遠心力で段々と加速していく。これが絶生拳における剣術の型の一つ、流水の型だ。


 一之瀬、静乃と主要な前衛メンバーが次々と倒されてさすがに危機感が勝ったのか『神徒の騎士団』が一人また一人と飛びかかってくる。しかし、その尽くが流水の型の流れに呑まれて一瞬で無力化され、五人目を倒した辺りで僕の剣嵐はもはや目で追うことすら困難な速度に達していた。


 やがて僕は前衛を全滅させることができたが、最後の一人の顔には喜色が浮かんでいた。それは彼が重度のマゾヒストだからという理由ではない。多分。


 彼が笑っていたのは後衛が魔法の詠唱を完了していたからだ。魔法部隊のリーダーである雫の合図で僕を襲う必殺の攻撃魔法と倒れた前衛を癒す治癒魔法が発動・・・


「されたら困るんだよね。」


 僕は迫り来る攻撃魔法、そして倒れる神徒の騎士団に向かう治癒魔法、その尽くを切り裂いた(・・・・・)


 よく分からないが剣がそうするように指示したのだ(・・・・・・)


 刀身に触れた魔法は余すことなく聖剣に飲み込まれ、後衛部隊の表情が絶望の色に染まる。剣をかるく振り抜くと蓄積した魔力が破壊力となって放出され後衛部隊を蹴散らした。想像以上の威力だったが一応防御の魔法を張っているものがいたようで死者は出なかったのは幸いだ。


 神徒の騎士団を蹴散らした僕は悠々とルリに歩み寄った。


「お待たせ、ルリ。」

「どうして?」


 軽く声をかけながらウィンクしてやると、ルリは心底意外そうに目を見開き疑問を口にする。僕は肩をすくめながら答えた。


「言ってなかったか?僕は何があっても君の味方だよ。」


 僕の言葉にルリの綺麗な瞳が感極まったように潤みやがてそれを隠すように顔を伏せた。


「あなたが私の王子様。」


 ん?今ルリが何か呟いた気がしたけど小声で聞き取れなかった。まあ、いいか。とにかく今は王都を脱出することが先決だ。既に『神徒の騎士団』は無力化してるので後はルリを連れて逃げるだけだ。そう思った矢先、


「そこまでだ、悠一。」


 そんな声と共に騎士団長のテオングを始め親衛騎士団が続々と現れた。このタイミングで増援か。


「悠一、警告だ。その娘を渡して投降しろ。もうお前に逃げ場はない。」

「嫌だと言ったら?」

「お前を殺す。」


 テオングは短くされど強い意志のこもった言葉で答えた。その瞳には並々ならぬ覚悟、そして殺意が宿っている。歴戦の兵士が放つ殺気は相当なもので気を抜けば僕でも呑まれてしまいそうだ。


 しかし、それで引くわけにはいかない。ルリとの約束を守るために、僕も強い意志のこもった瞳で睨み返す。


 僕の不退転の意志を感じ取ったためか、テオングは一度落胆したように嘆息し、しかし一瞬後には戦場に立つ騎士の顔つきになっていた。


「お前らは手を出さず逃げ道を塞いでくれ。悠一は俺一人で殺る。」

「隊長!?しかし・・」


 テオングは重量感のある武骨な片手剣を抜き部下に指示を出す。


「悠一は魔法が使えないとはいえ並々ならぬ実力者だ。下手に手を出されると足手まといだ。俺以外にやつを止められるものはいないだろう。」


 抗議する部下をぴしゃりと黙らせテオングは剣を上段に構える。

 

「なに勝つ前提で話進めてるんですか。僕だってむざむざ殺られるつもりはありませんよ。」

「余裕ぶるな。俺の弓を受けて生き延びたことは褒めてやるが訓練でお前が俺に勝ったことはない。ましてや足枷を抱えたままこの状況を切り抜けられると思うなよ。」


 あの狙撃テオングがやったのか。ひどいことするな。


 確かに状況はテオングの言う通りこちらが不利だ。実際、僕は一度もテオングに勝てたことはない。身体強化魔法ありきとはいえ単純な剣術勝負でだ。まともにやればルリを守りながらテオングさんを倒すことは難しい。


 そう、まともにやれば(・・・・・・・)


 茶番は終わりとばかりに、テオングさんが無拍子で切りかかってくる。


 単純な速度でみるなら魔力量による身体強化の強さで一之瀬の踏み込みの方が上回るだろう。しかしテオングのそれは長年の鍛練と経験による勘から極限まで無駄を削ぎ落とされていた。絶生拳の曲芸じみた裏技とは違う、実戦の中でどこまでも合理性を追及した神速且つ必殺の剛剣。訓練で手合わせをしたときは何度もその剛剣に押し潰されあわよくば受けきれても流水の型につなげられずに敗北した。


 故に僕は剣での戦いを捨てる。


 剛剣が僕の体を両断せんと迫る。肩に触れた剣に対し僕は力をこめて抗うのではなく逆に力を抜く。そして半身を後ろにそらして斬撃を受け流し、


逆輪(げきりん)!」


 叫ぶと同時に旋風のごときハイキック。


 直後僕の爪先がテオングさんの側頭部を捉え吹き飛ばした。その後一回転して余ったモーメントを打ち消す。


 逆輪。敵の攻撃をあえて受け、しかし肉体は穿たせず受け流し、同時に極限まで敵を引き付けてカウンターを食らわせる技。


 テオングのように真っ向から勝負を挑んでくる相手にはとてつもなく有効な技だ。


 王国一の騎士が敗れるというまさかの事態に兵士たちは一様に動揺し固まっていた。そんな彼らを尻目に僕はルリに向き直る。


「さて、最強の敵も倒したことだしそろそろ逃げるか。」

「は、はい。でもどうやって・・・」


 ルリの疑問はもっともだろう。何せ僕たちは今、兵士たちに囲まれてる状況だ。動揺して硬直してはいるが僕らが逃げようとしたら当然阻むだろう。だが僕には秘策がある。


 僕はルリの問いには答えずベルトとズボンの間に剣の柄を引っ掻けて固定し、ついでルリをお姫様だっこする。


 その後僕の背中に白銀の双翼が出現しそのまま僕は飛翔した。


 人間が飛ぶという非現実的な光景に誰もが呆けて正しい行動(弓や魔法で遠隔攻撃する)がとれなかった。なので僕は悠々と高度を上げて大空に飛び立つ。


「悠一、飛べたんですか!?」

「うーん、なんか飛ぼうと思ったら飛べた。」


 適当に答えてるように聞こえるだろうが僕自身よく分かってないのでそういう風にしか言えない。


 ルリははぐらかされてると思ったのか疑惑の眼差しを向けてきたが、直後何かに気づいたような顔になると次いで心配そうな顔になった。


「そういえば、傷は大丈夫なんですか?」

「傷?」

一撃必殺(ワンショットキル)・・・テオングに狙撃された傷です。後、地下牢で負傷した分も。」


 言われてみればそうだった。僕は左腕一本でルリを抱え直し、右手で自分の胸の辺りをペタペタと触る。しかしそこには貫通創はおろかかすり傷ひとつついてない。次いで自分の体を見回すが幾つか負った裂傷は見当たらない。


「治った。」

「治ったぁ!」


 僕が出した結論にルリが素っ頓狂な声をあげた。これには僕も頬をポリポリと掻いて苦笑する。


「えっと、昔から傷の治りは早い方だったし。」

「明らかに常軌を逸していると思うのですが・・・」


 ルリは僕の物言いを信じてない様子だったが、超常現象の連続に追求する気も失せたようだ。


「まあ、いいじゃないか。こうして二人とも無事に王都を出られたんだし。」


 僕の言葉にルリは微笑みながら「そうですね。」と返してくれた。


 その後、僕たちは暫く飛行し王都から数百メートル離れた森林の中に降り立った。


 この翼は思ったより燃費が悪い。ここまでくる間にだいぶ息が切れてきた。


「飛行は消耗が激しいからここからは歩きで行こうか。」


 そう言って歩き出そうとしたが、ルリがついてこないので怪訝に思って振り返ると、彼女は僅かに顔を伏せ内股を擦り合わせてモジモジしていた。色白の肌が耳まで真っ赤に染まっている。


「少し、お話ししてもいいですか?」


 やがてルリは上目遣いで躊躇いがちに訊ねてきた。その様子に僕はピンときたので短く「いいよ。」とだけ答えて続きを促す。これまでの流れ的に不自然ではないし僕は急かさず落ち着いてルリの言葉を待つ。


 やがてルリはよりいっそう頬を染めて一度深く深呼吸してから、意を決したように口を開いた。


「私のご主人様になってください。」

「・・・・・・は?」


 予想の斜め上の言葉に僕は呆けた。いや、この場合は斜め下か。どっちでもいいけど。


「ふう、何とか言えました。それではこれからよろしくお願いしますね、ご主人様。」


 そんな僕とは対照的にルリはスッキリした表情でスタスタと歩き出す。


「ちょ、ちょっと待って。」


 やがて僕もフリーズ状態から脱し慌ててルリの後を追う。


 こうして僕らの唯一無二の冒険ピアレスアドベンチャーは幕を開けた。

お読みくださりありがとうございます。楽しんで下さったなら幸いです。

前書きにも書きましたがこの話で序章は完結です。いやー、長かった。これから一度幕間を挟んでキャラたちの人間関係を少し整理してから一章吸血鬼討伐編(仮)をスタートします。話が進むにつれて主人公の特異体質(飛行とか超回復とか)の謎はどういうものかを段々明らかにしていこうと思うので御期待下さい。

また今後は後書きもちゃんと書いていこうかなとも思ってるのでこちらにも少し目を通して見てください。

ご意見・ご感想等は気軽にどしどし送ってください。


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