第11話 十二個の珠
お読みいただき、ありがとうございます。
第七章「選ばれし名、選びゆく道」も、
いよいよ折り返しを過ぎました。
第7話から第10話まで、
慎悟たちはそれぞれ別の場所で、
それぞれ別の夢を見ていました。
青い珠。
白い珠。
桃色の珠。
紫の珠。
銀色の一文字が刻まれた、
色違いの珠の夢です。
今話では、その夢が一箇所に集まります。
寿満寺の朝。
宿坊の一室に、十二人が顔を揃えます。
十彩獣団の十人。
そして、美奈子と莉奈。
それぞれが見た珠の色と、
刻まれていた文字を、
一人ずつ確かめていきます。
翔一が調子に乗り、
友紀と健太に同時に突っ込まれる、
いつもの空気も少しだけ残しました。
ただ、今回の朝は、
いつもの合宿の朝とは違います。
寿蒙が席を立ち、
白い壺を抱えて戻ってきます。
壺の中に何があるのか。
慎悟の脇腹に何が起きるのか。
そして、画面の向こうに流れる速報は何を告げるのか。
読み進めながら、
ぜひ「珠の数」と「一文字の意味」に注目してみてください。
それでは、第11話「十二個の珠」をお楽しみください。
七月二十七日、早朝。
寿満寺の境内には、まだ夜の涼気が残っていた。蝉の声が一匹、また一匹と重なり始め、朝露を含んだ木々の葉が、差し込み始めた朝日にわずかに光っている。寺の屋根の向こうには、抜けるように青い夏空が広がっていた。
北潟慎悟、坪江南海、山室綾実、波松伊織の四人は、それぞれが見た「珠の夢」について語り終え、無言のまま宿坊への短い坂道を歩いていた。
昨夜、勝川市近郊の平永寺で何が起きていたのか、この四人はまだ何も知らない。
慎悟は歩きながら、何度か無意識に右手を脇腹へ添えた。悪路漢の刀・松影によって刻まれた傷は、朝になっても鈍く痛む。表面は塞がっているはずなのに、内側には焼けた鉄線のようなものが絡みついている感覚が消えない。
「慎悟、本当に大丈夫?」
真っ先に気づいたのは南海だった。
「大丈夫だ。歩ける」
嘘ではない。だが本当でもない。南海はその答えに納得していない顔をしていたが、それ以上は言わず、慎悟の意思を尊重するように隣を歩き続けた。
四人の間には、もう一つ別の空気が漂っていた。先ほど境内で、慎悟と南海がキスをしていたところを、綾実と伊織に見られている。慎悟と南海は時折互いの視線を避け、綾実は必要以上に触れないよう気を遣い、伊織は静かに黙っていた。
(翔一がいなくてよかった)
慎悟は内心そう思う。もしこの場に翔一がいたら、十中八九からかわれている。想像すると、張り詰めていた空気の隅に、ほんの少しだけ笑いが差した。
しかし、四人の頭を本当に占めているのは恋愛の話ではなかった。
慎悟――「理」。
南海――「慈」。
綾実――「澄」。
伊織――「浄」。
昨夜、別々の場所で眠っていたはずの四人が、同じ夜に、色も文字も違う珠の夢を見た。偶然という言葉で片づけるには、あまりに符合しすぎている。
特に伊織の夢では、「浄」の白珠が、凍珠との戦いに直接作用していた。ただの夢と割り切るには、あまりにも生々しい重みを持った夢だった。
(夢ってだけで済ませていい話じゃないな)
慎悟は胸の内でそう考えながら、宿坊の廊下へ足を踏み入れた。
その途端、奥の部屋から複数人の話し声が聞こえてくる。普段の朝の雑談とは明らかに違う、妙に高ぶった声色だった。
「だから、本当に書いてあったんだって! 『情』って!」
友紀の声だ。続いて翔一の声が重なる。
「いや待てって! 俺なんか『勇』だぞ? なんか急に主人公っぽくね?」
「朝からうるせえ」
健太の、低く伸びた声。
慎悟たち四人は思わず立ち止まった。南海が小さく呟く。
「……まさか」
部屋へ入ると、十彩獣団の残る六人と、脇出美奈子、指中莉奈が顔を揃えていた。担任の大溝奈緒と、住職の池口寿蒙の姿もある。
慎悟を見た友紀が勢いよく立ち上がる。
「お兄ちゃん!」
「友紀、お前も……夢を見たのか」
友紀の目が、まん丸に見開かれた。
「“も”って……お兄ちゃんも?」
その一言で、部屋の空気が一気に変わった。
慎悟、南海、綾実、伊織の四人も、珠の夢を見たことを明かす。さっきまで軽口を叩いていた翔一の顔から、笑みがすっと消えた。
「……ちょっと待て」
翼が眼鏡の位置を無意識に直す。彼が考え込むときの癖だ。
「一人ずつ整理しよう。色と、書かれていた文字を」
誰からともなく頷き、十二人が車座に近い形で座り直した。
まずは十彩獣団の十人から。
「俺は青い珠だった。銀色の文字で――『理』」
慎悟が口を開くと、自分自身、その一文字に少し引っかかりを覚えた。これまでの自分は、理屈より先に仲間を助けようとしてきた。だからこの「理」という文字は、今の性格をそのまま表しているのではなく、何か足りないものを指し示しているのではないか――そんな感覚があった。
「私は赤。『情』」
友紀が続ける。翔一が何か言いかけ、友紀に先んじられる。
「何?」
「何も言ってません」
誰かが小さく笑った。強張っていた肩が、わずかに下がる。
「あたしは……桃色だった。『慈』」
南海が視線をわずかに逸らしながら言う。他人を気遣う彼女の性格そのままだったので、誰も強く異を唱えなかった。
「俺は淡い水色。“静”」
蓮が言うと、翔一が「それも納得しかないな」と返す。蓮は軽く肩をすくめただけだった。
「僕は緑色。“誇”」
翼が言う。自信や傲慢という意味ではなく、自分の判断と役割へ責任を持つ、という意味に近いのではないか――翼自身がそう小さく付け加えた。
「オレンジ。“勇”」
翔一が繰り返す。
「やっぱ主人公じゃね?」
そう茶化した瞬間、友紀と健太の両方から同時にツッコミが飛んだ。翔一は肩をすくめて黙る。
「黒。“耐”だ」
健太が短く言うと、翔一が「お前だけ修行僧みたいだな」と言い、健太が「殴るぞ」と返す。いつもの空気だが、どこかぎこちない。
「私は黄色……“希”」
歩美が言う。希望などという大げさな言葉を、自分が持っていいのか。歩美の視線が、一瞬だけ宙をさまよった。美奈子が、これまで歩美に助けられてきた場面を思い出すように、小さく頷いた。
「紫。“澄”」
綾実が言う。普段から感情を整理し、周囲を見つめる彼女らしい一文字だが、綾実自身は単純な性格診断のようには受け止めていない目をしていた。
「白い珠でした。“浄”です」
伊織が言った瞬間、部屋の空気がわずかに重くなる。慎悟と綾実は、伊織が見た夢――凍珠との戦いに関わる夢――を知っている。だが、この場で全員へ詳しく蒸し返すことはしなかった。
これで十人。十彩獣団の全員が、同じ夜にそれぞれ異なる珠の夢を見ていたことになる。
「十人全員……」
翼が確認するように呟いた。
だが、話はそこで終わらなかった。
美奈子がおずおずと手を上げる。
「……あの」
全員の視線が集まる。
「私も、見ました」
淡い月光のような銀色。文字は「祈」だったという。
「美奈子ちゃんまで……?」
歩美の声が、わずかに裏返った。美奈子は胸元へそっと手を添えた。
「夢の中では……握っていると、不思議なくらい安心したんです」
美奈子は十彩獣団ではない。その事実が、部屋の空気を一段と静かにさせた。
すると、莉奈も静かに口を開く。
「私もです」
莉奈の珠は、黄色よりも濃く、橙よりも柔らかな山吹色。文字は「仁」。光狐との結びつきを思わせる、柔らかな光の珠だったという。
これで十二人。十彩獣団の十人、美奈子、莉奈――全員が同じ夜に珠の夢を見ている。
翔一が指を折りながら数えた。
「十二人……」
今度は軽い調子ではなかった。
「いやいや。さすがにこれ、“みんな同じ夢見ました。偶然です”では済まねえだろ」
「偶然と考える方が難しいね」
蓮が静かに同意した。
翼が中心となって整理を始める。
「色は全員違う。文字も違う。でも珠という形状は共通している」
「それに、本人の性格や役割と完全に無関係とも思えない」
綾実が付け加える。ただし誰も、珠がそのまま今の性格を表している、とは断定しなかった。
慎悟は「理」について、心の中で考え続けていた。自分はこれまで、仲間を守りたいという感情だけで前へ突っ込んできた。しかし「理」という文字は、それだけでは足りないと告げているのではないか。希望だけを見るな。現実も見ろ。救いたいという言葉にも、責任を持て――そんな声が、胸の奥から聞こえた気がした。
友紀の「情」。南海の「慈」。伊織の「浄」。歩美の「希」。それぞれが、現在すでに持っている性質なのか、それともこれから必要になるものなのか、誰にも分からない。
「もしかすると、今の僕たちを表しているのではなく、これから必要になるものなのかもしれない」
翼がそう推測を口にしたが、それ以上の答えは誰も持っていなかった。
ここまで黙って話を聞いていた寿蒙だけが、ほとんど笑わずに座っていた。十二人分の証言を聞き終えると、少しの沈黙のあと、静かに立ち上がった。
「……少し待ってください」
「寿蒙さん?」
慎悟が呼びかけるが、寿蒙は説明をせず部屋を出ていく。残された十二人は顔を見合わせた。
「今の“少し待ってください”って、絶対なんかある時のやつだよな」
翔一が小声で言うと、翼も静かに頷いた。
「僕もそう思う」
数分後、寿蒙が戻ってくる。両手には、白い陶器の壺が抱えられていた。前日、無縁墓の石室から絵巻物とともに発見されたものだ。
その壺は、不気味な呪物というよりも、人間とも鬼とも違う、古く、静かで、穏やかで、しかし計り知れない霊気を纏っていた。美奈子が息を呑む。莉奈の光狐も、かすかに反応するように揺れる。
「皆さんが話していた夢と、これが無関係とは思えません」
寿蒙はそう言い、ゆっくりと蓋へ手をかけた。時間をかけ、慎重に開封していく。
蓋が完全に開いた瞬間、壺の内部から淡い光が漏れ出した。
青。赤。桃。淡い水色。緑。橙。黒。黄。紫。白。銀。山吹。
派手な閃光ではない。数百年間眠っていたものが、ようやく持ち主の前へ姿を現したような、静謐な光だった。
全員が声を失った。壺の中には小さな珠が並んでいる。夢で見た珠と、色も、大きさも、質感も、そして銀色の一文字までまったく同じだった。
「……同じだ」
慎悟が呟く。翔一が壺を覗き込む。
「十二個……?」
「いや」
翼が首を振り、数を数え直す。
「もっとある」
その一言に、部屋の空気が一段と張り詰めた。
十二人に対応する珠の他にも、複数の珠が壺の中に残っている。誰のものか分からない。まだ持ち主の現れていない珠が、確かにそこにある。寿蒙自身も、その正体を知らないという。
寿蒙が、壺の中から青い珠を取り出す。表面には、夢で見たものとまったく同じ銀色の文字――「理」。
「慎悟君」
「……はい」
「持ってみてください」
慎悟は手を伸ばしかけて、一瞬ためらった。夢と同じことが起きる保証はない。むしろ、何が起きるか分からないことの方が、指先を鈍らせる。だが、確かめなければ前へ進めない。
覚悟を決め、青い珠を握った。
その瞬間――脇腹の痛みが、完全に消えた。
軽減ではない。麻痺しているような感覚でもない。まるで最初から傷などなかったかのように、痛みそのものが消え失せていた。
無意識に庇っていた右脇腹。浅くなっていた呼吸。微妙に傾いていた背中。それらが、すっと元に戻っていく。
真っ先に気づいたのは南海だった。
「慎悟?」
慎悟は自分の脇腹へ触れる。
「……痛くない」
「本当に?」
歩美が身を乗り出す。
「完全に消えた」
夢と同じだ。身体が軽い。頭まで冴えている。慎悟は確かめるため、意図的に手を開いた。珠が掌から離れる。
一拍おいて――
「――っ!」
激痛が全身を貫いた。慎悟の身体が折れる。南海が反射的に支えた。
「慎悟!」
「お兄ちゃん!」
友紀が真っ先に駆け寄る。慎悟は歯を食いしばりながら、もう一度珠を握った。痛みが即座に消える。
部屋に静寂が落ちる。翔一でさえ、冗談を口にできなかった。
「夢の中でも同じだった。握れば痛みが消える。離せば戻る」
慎悟が言うと、翼が冷静に分析を始める。
「なら、治癒ではない可能性が高い」
「傷そのものを治しているわけじゃない……?」
歩美が確認するように呟く。
「おそらく」
寿蒙が静かに応じた。「鬼気か、痛みか、あるいは身体そのものへの負荷か――何を抑えているのかまでは、私にも分かりません」
慎悟は、これがあれば戦えるかもしれない、と一瞬思いかけた。だがすぐに思い直す。痛みがないことと、傷が治ったことは、まったく違う。「理」という文字が、その考えを戒めているような気がした。
寿蒙は続けて、残る十一人にも対応する珠を渡していく。
紅珠は友紀の「情」、桃珠は南海の「慈」、淡珠は蓮の「静」、翠珠は翼の「誇」、橙珠は翔一の「勇」、黒珠は健太の「耐」、黄珠は歩美の「希」、紫珠は綾実の「澄」、白珠は伊織の「浄」、銀珠は美奈子の「祈」、そして陽珠は莉奈の「仁」――色と一文字が、一人ずつ手のひらへ収まっていく。
それぞれ持ち主へ渡された瞬間だけ、珠はごくかすかに輝いた。派手な能力の発動ではなく、まるで持ち主を確かめるような、静かな反応だった。
美奈子は銀珠を両手で包み込む。指の隙間から漏れる銀色の光は、どこか銀玲杖に似ていた。
「……温かい」
莉奈の周囲では、光狐の霊気がふわりと揺れる。
伊織は「浄」の白珠を見つめたまま、しばらく動かなかった。夢の中の光景が蘇る。清澄弓。凍珠弩。白い光。放った一射。倒れた凍珠。そして、同時に消えた布目優の命。
現実に、同じ珠が存在した。つまり、あれをただの夢だったと切り捨てることは、もうできなくなった。
伊織の指が、わずかに震える。珠を包む掌に、最後まで力が入りきらなかった。
慎悟はその表情を見つめながら、自分が斬牙の消えた境内で告げた言葉を思い出す。
「次に会った時は、凍珠から優を取り戻す」
救える保証などどこにもない。それでも、自分は確かに約束した。その責任が、今、静かに胸へ戻ってくる。
綾実は伊織の指の震えに気づいていたが、何も言わなかった。ただ、隣に立った。言葉ではなく、距離で支えるように。
重い沈黙が部屋を包んだ、その時だった。
奈緒のスマートフォンが、短く震えた。日常的な通知音。だからこそ、その場の異様さが際立った。
奈緒は何気なく画面を見て、表情を変える。
「先生?」
友紀が声をかけると、奈緒は無言のままニュース画面を全員へ見せた。
画面上部に「速報」の文字。見出しにはこうあった。
『平永寺町周辺で恐竜のような巨大生物を複数目撃』
深夜から早朝にかけて、複数の住民から通報。山間部で巨大な影が確認され、警察が周辺への立ち入りを控えるよう呼びかけている――そう書かれている。この時点では、平永寺で起きた事の全貌までは報じられていなかった。
「……恐竜、ね」
奈緒が呟く。慎悟たちの視線が交錯した。昨夜見た絵巻。四百年以上前の焔羅。覇竜十傑。五天王。十二体の角を持つ鬼。十一体の巨大な鬼僧正。そして、恐竜。
「場所も問題だ」
翼が言う。平永寺町は、勝川市近郊――美里たちの活動地域と重なる。
「夢だけじゃない。絵巻だけでもない。現実側でも何かが動いてる」
蓮の声が、静かな部屋に落ちる。
寿蒙は手の中の白い壺を見つめていた。前日、無縁墓から発見された絵巻。壺。珠。寿蒙自身が見た、四百年前の焔羅の夢。そして、今朝届いた恐竜の目撃情報。
慎悟は「理」の蒼珠を、もう一度強く握りしめた。傷の痛みは消えている。だが、握りしめた指先は、まだ冷たいままだった。
自分たちが寿満寺で掘り起こしているものは、昔話ではない。
歴史の記録でもない。今、現在進行形で起きている出来事なのだと、慎悟はようやく理解した。
十二人を見渡す。それぞれ異なる色、異なる一文字の珠を手にしている。そして壺の中には、まだ誰の手にも渡っていない珠が残されている。
誰が作ったのか。なぜ寿満寺に残されていたのか。なぜ自分たちが選ばれたのか。残った珠は、誰のものなのか。
答えは、まだどこにもない。
ただ一つ、疑いようのないことがあった。
寿満寺で調べている四百年以上前の過去と、今まさに起きている恐竜の鬼の事件は、間違いなく繋がっている。
宿坊の外では、変わらず蝉が鳴いていた。夏の朝。夏休みの高校生なら、部活や遊びの予定を考えているはずの時間。
だが、その宿坊の中で、十二人は四百年以上前から残されていた珠を手のひらに握りしめている。そして誰かのスマートフォンには、恐竜のような巨大生物の目撃速報が表示されたままだった。
慎悟は理の蒼珠を握り続ける。脇腹の痛みは、もう感じない。
しかし、喉の奥に小さな石でも呑み込んだような感触だけは、どうしても消えなかった。
自分たちが調べている「過去」は、終わった出来事ではない。今も、確かに続いている。
そして自分たちは、その「続き」の、どこに立っているのか。
蝉の声だけが、答えを持たないまま、夏の朝に響き続けていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第11話「十二個の珠」、いかがでしたでしょうか。
今話は、
第7話から続いてきた「夢」の答え合わせの回でした。
夢の中だけだと思っていた珠が、
壺の中から現物として現れます。
慎悟が青い珠を握れば、痛みが消える。
手を離せば、痛みが戻る。
夢と同じことが、現実で起きました。
ここで、
一つだけ強調しておきたいことがあります。
痛みが消えることと、傷が治ることは違います。
慎悟は一瞬、
「これがあれば戦える」と考えかけます。
けれど「理」という文字が、
その考えに待ったをかけました。
第七章のテーマは、
「選ばれていても、生き方まで選ばれているわけではない」です。
力を与えられたから、正しいわけではありません。
力を握った後に、何を選ぶのか。
珠は強くなるための道具である前に、
その問いを突きつけるものでもあります。
◇
十二人の珠の文字についても、少し触れておきます。
理、情、慈、静、誇、勇、耐、希、澄、浄、祈、仁。
翼が口にしたとおり、
これは「今の性格」そのままとは限りません。
むしろ、
「これから必要になる心」なのかもしれません。
慎悟の「理」なら、
救いたいという気持ちだけでなく、
現実を見る目を持つこと。
伊織の「浄」なら、
優を救いたい願いと、
戦わなければならない現実の両方に向き合うこと。
読み返してみると、
一人ひとりの一文字が、
また違った顔で見えてくるかもしれません。
◇
そして、壺の中には、
十二個より多くの珠が残っていました。
まだ持ち主のいない珠。
誰のものなのか、寿蒙にも分かりません。
この珠が誰の手に渡るのか。
予想しながら読んでいただけたら嬉しいです。
ちなみに、
作者としては答えを知っていますが、
何も言わないでおきます。
◇
さて、次回のお知らせです。
第12話は、
「寿満寺縁起」
です。
慎悟たちが夢で見た珠。
絵巻に描かれていた焔羅と十体の鬼。
そして、無縁墓に眠っていた白い壺。
それらの手がかりを、
一本の記録が繋ぎ始めます。
書き手は、安土桃山時代の僧・如珠。
四百年以上前の人間が、
何を見て、何を書き残したのか。
そこに記されていた名前は、
慎悟たちにとって、あまりに聞き覚えのあるものでした。
もし、
自分の名前が四百年前の記録に書かれていたら。
それは、
決められた運命なのでしょうか。
それとも、ただの記録なのでしょうか。
慎悟たちは、
その問いの入口に立つことになります。
◇
次回は、
物語の中で最も静かで、最も重い回のひとつです。
ぜひ、お付き合いください。
ブックマーク、評価、感想が、
毎話の執筆の大きな励みになっています。
一言だけでも、
お気軽にお寄せいただけると嬉しいです。
それでは、また次回。
第12話「寿満寺縁起」でお会いしましょう。




