第4話:満天の星空とドラゴン・テールの赤ワイン煮込み
その日の夜。
山道から少し外れた開けた場所で、姉妹はキャンプを張っていた。パチっパチっと熾火が時折跳ねる
焚き火の上には、ビビアンが持参した巨大なダッチオーブンが吊るされている。
「さあ、ここからが腕の見せ所よ。『ドラゴンテールの赤ワイン煮込み』!」
ドラゴンの尻尾は、よく動かす部位であるため筋肉質で非常に硬い。しかし、長時間煮込むことでコラーゲンがゼラチン質に変わり、とろけるような極上の旨味へと変化することを狙ってみた。
ビビアンはぶつ切りのうえ塩コショウし、薄力粉をまぶしたテール肉の表面を強火でしっかりと焼き固め、肉汁を閉じ込める。次に加えるのが、洋食の味のベースとなる「ミルポワ」だ。
「別鍋で玉ねぎ、人参、セロリ。この香味野菜に塩を振り、汗をかかせて甘みが出るまでオリーブオイルでじっくりと炒めるの。これがソースに深いコクと複雑な香りを与えてくれるのよ」
炒めたミルポワとテール肉と月桂樹の葉をひとつかみ鍋に入れ、持参した赤ワインをボトル三本分、豪快に注ぎ込む。さらにトマトペーストと水を加え、強火で沸騰させる。
グツグツと煮立ち始めた鍋の表面には、濁った灰色の泡——大量の「アク」が浮き上がってきた。
「ここが一番重要。『徹底的なアク取り』よ」
ビビアンはお玉を手に取り、火を弱火に落とすと、表面に浮いてくるアクと余分な脂を、ひたすら丁寧に、根気よくすくい取り続けた。野生のドラゴンの肉には強い獣臭やクセがある。しかし、このアク取りの工程を妥協せずに行うことで、雑味や臭みが完全に排除され、野性味溢れる肉が、高級レストランで出されるような上品で澄んだ味へと昇華されるのだ。
数時間後。
薪の火が落ち着く頃には、鍋の中の液体は艶やかな暗赤色に変わり、信じられないほど芳醇な香りを漂わせていた。
「できたわよ、シルヴィア」
木の器にたっぷりとよそわれたテールシチュー。シルヴィアがスプーンで肉に触れると、ナイフなど必要ないほど、ホロリと繊維が崩れた。
「あむっ……! ぉ、おいひぃ……!」
口に含んだ瞬間、赤ワインの酸味とミルポワの深いコクが広がり、その後にテールの強烈な旨味と、トロトロに溶けたゼラチン質の甘みが押し寄せる。馬車に揺られ、山賊とドラゴンの襲撃で疲れ、こわばった身体の隅々にまで、栄養と幸福感が染み渡っていく。
「ふふ、よく食べなさい。あんたは昔から、ちょっと細すぎるんだから」
ビビアンは妹の頭を優しく撫でる。
満天の星空の下、焚き火の温もりと絶品のシチュー。
二人は昔話に花を咲かせながら、かけがえのない姉妹の時間を心ゆくまで堪能した。
【最後にお願いです!】
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「二人の両片想いが尊い!」「妹の魔法無双が最高!」
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