第2話:姉妹の旅路とサクサク極厚カツサンド
そしてビビアンとシルヴィアを乗せた乗り合い馬車は、王都を出発して北の街道を進んでいた。窓の外に広がるのどかな風景を眺めながら、姉妹は久しぶりの水入らずの時間を楽しんでいた。
「お姉ちゃん、お弁当ありがとう。すごくいい匂いがするわ」
「ふふっ、今日は特別に気合を入れて作ったからね。さあ、冷めないうちに……いや、冷めても美味しいのがコレの真骨頂よ」
ビビアンがバスケットを開けると、中には分厚いパンに挟まれた極厚カツサンドが美しく並べられていた。使用しているのは、かつて騎士団に殴り込みに行く前に仕込んだ、あの特製ポークカツレツと同じ製法で作られたものである。
「うわぁ……! でも、カツサンドって時間が経つと、パンがベチャベチャになっちゃわない?」
シルヴィアの疑問に、ビビアンは得意げに指を立てた。
「そこがプロの腕の見せ所よ。秘密はパンの湿気対策とマスタードバターにあるの」
カツサンド最大の敵は「水分」だ。カツに染み込ませた特製ソースや肉汁がパンに移行すると、せっかくのサクサク感が台無しになってしまう。
「だから、軽くトーストした食パンの片面に、室温に戻して柔らかくしたバターと粒マスタードを混ぜ合わせたものを、端から端まで『これでもか』ってくらいたっぷり塗るのよ」
バターの油分が強力なコーティング(防水壁)となり、ソースの水分を完全にシャットアウトする。さらに粒マスタードの酸味と辛味が、重くなりがちなカツの脂をさっぱりと中和してくれるのだ。
「いただきます……!」
シルヴィアが大きな口を開けてカツサンドを頬張る。
サクッ!という小気味良い音が馬車の中に響いた。数時間が経過しているにもかかわらず、衣のサクサク感は見事に保たれている。そして、パンの間に閉じ込められていた豚肉の強烈な旨味と肉汁、フルーティーなソース、ピリッと刺激的なマスタードバターが口の中で横溢し、味蕾への暴力的なまでの美味しさを感じた。
「美味しいっ! お姉ちゃん、これ最高よ!」
「でしょ? レッドも今頃工房で泣きながら食べてるわよ」
満面の笑みを浮かべる妹を見て、ビビアンは頬の傷を撫でながら優しく目を細めた。




