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銀翼館のメイド奮闘記  作者: 島田莉音
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混沌と波乱の訪問者〜前半〜


今回、少しギャグ感があります。

注意して下さい










「ぎっ…《銀翼館》に女性の姿だとっ……⁉︎」







若き国王シリウスは隠密が送ってきた書類を見て、勢いよく立ち上がる。

煌めく銀髪の髪と瞳を持つ彼は、王族の衣装に身を包んでいるからか…芸術品のよう美しかった。

シリウスの右腕…同じく若き宰相のブレイジングは「落ち着いて下さい」と国王を嗜める。こちらも落ち着いた濃茶髪に翠色の瞳を持つ美青年だ。

「女性の姿というよりも…メイドらしいですけどね」

「でもだよっ⁉︎僕の可愛い弟がっ‼︎女性に興味も何もなかった弟がっ‼︎メイドを雇ったんだよっ⁉︎凄くないっ⁉︎お兄ちゃん、感動だよっ⁉︎」

シリウス(二十七歳)はまるで子供のようにキャーキャー言っている。ブレイジングはそんな彼を見て冷たい視線を向けた。

「シリウス様。口を開くと馬鹿がバレますからお黙り下さいまし」

「酷くないっ⁉︎」

「はぁ…面倒だな」

「本音漏れてるよっ⁉︎」

「スミマセンネ」

ブレイジングはワザとらしい謝罪を口にする。

シリウスは拗ねたように頬を膨らませた後…嬉しそうに微笑んだ。

「メイドだってなんだっていいよ。ブレイジング、《銀翼館》に行くからスケジュール調節しておいてね」

「チッ……」

「し〜た〜う〜ち〜っ‼︎」

「リョウカイシマシタヨー」

ブレイジングは面倒そうな顔で恭しく一礼する。





こうして……《銀翼館》に国王訪問の知らせが届くのだが……それが波乱を巻き起こすことになるのだが…それはまだ、誰も知らなかったー……。













◆◆◆◆◆







(…………あぁ…疲れる……)





ラナはゆっくりと目を覚ます。起きて早々疲れると感想はなんだというのだ。

《銀翼館》に勤務してから早くも三日目。地味に仕事のハードさに彼女は顔を険しくしていた。

朝の四時に起きて…取り敢えず《銀翼館》の本館の掃除。

次に朝食の準備。幹部達が起きてきたら…給仕をして、片付け。

その後、洗濯物をして…住居館の掃除。幹部達の各部屋の掃除片付け。

昼食の準備をして、給仕、片付け。

それが終わり次第…衣服の解れ直しやその他雑務。

夕飯及び必要な物を買いに出掛けて…夕飯の準備、給仕、片付け。

各部屋にも浴室はあるのだが、一応大浴場なるものもあって…使わない日もあるが、水周りなのでその準備などなど……仕事は尽きやしない。

それを一人でこなしていたというマルクの凄さにラナは感服するばかりだった。

「あー…今までと違う筋肉を使ってる気がする」

肩を揉みながら起き上がる。ラナに与えられた部屋は幹部達と変わらない部屋だった。

整った調度品、広い部屋。

メイドにこんなにいい部屋を与えてくれた。大丈夫なのか…と聞いたら、部屋だけは無駄に余っているからいいと言われて、その好意に甘えて使わせてもらっている。

ラナは立ち上がると、クローゼットを開くといつものメイド服を取り出して着替え始める。

因みに…このメイド服はマルクが作った(入手した?)らしい。

ラナは着替え終えると、寝ていたベッドを整えて部屋を後にする。

キッチンの方に廊下を歩いていたら…マルクがいつものピンクのフリルエプロンをつけて、こちらに歩いて来ていた。

「おはようございます、起こしに行こうとしたところです」

「おはようございます。あんなに散々と口にを酸っぱくして言われりゃ…そりゃあ起きるわ」

「口に気をつけなさい」

「スミマセンネ」

ラナは悪態つくように顔を顰める。

そう…初日の夜、メイドのなんたるかを三時間コースで教え込まれ……取り敢えず、思ったことは…マルクはラナに取って小姑同然のような嫌な存在だということだった。

(……嫌な存在というよりも面倒な存在…?)

ラナは真顔で頷くと、マルクを無視して住居館に向かう。

「今日はユリウス様から朝食時に話したいことがあるそうなので…早く終わらせますよ」

「はいはい」

「返事は一回」

「………………面倒だなぁ……」

「聞こえてますよ」

マルクに監視されながらもパッパッと適度に手を抜きながら掃除を終える。

住居館に戻る時…《地獄回廊》を通って、その場所を見つめた。

初めて通った時は本当に面倒だったが…ユリウスが血液登録というものをしてくれたお陰で、楽に通れて心底ホッとした。

通る度に死に掛けるなんてごめんだ。

そんなことを思っていたら、無意識で皆が食事を取る食堂に来ていつの間にか朝食の準備も終えていたらしい。

今日の朝食はこんがり焼けたトーストとふわふわのスクランブルエッグ、新鮮なサラダ、暖かいコーンスープ、マルク特選のストレートのセイロン紅茶だった。

その時には他の幹部達も食堂に来ていた。

「おはよう、今日も可愛いなラナ」

「…………おはよ…ラナ…」

「おはよう、エヴァとノヴァ」

息をするように甘い言葉を放つエヴァと今だに寝ぼけ眼のノヴァ。

「おはようっ‼︎朝ご飯、まだかっ⁉︎」

「おはよう、準備出来てるよ」

レオンは入ってくるなり、元気だ。

どこかで運動してきたらしく…肩にはタオルを掛けていた。

「………………おはよう…」

最後に…低血圧らしいユリウスが機嫌の悪い顔で現れる。

昨日と同じ順番の現れ方だった。

全員に飲み物を注ぐとラナとマルクも席に着く。基本、使用人メイドの立場であるラナは主人と共に食事を取ってはいけないのだが…《銀翼館ここ》では関係ないと言われて、一緒に食事を取ることになっている。

なんだかんだと言っても、メイドとしての扱いはかなりいいらしい(ラナはメイドをしたことがないからマルク曰くだが)。

「……んじゃ…頂きます…」

『頂きまーす』

皆で朝食を食べ始める。

ここでも皆の性格がよく分かった。



ユリウスは食事を取ることが面倒そうに。


エヴァは取り敢えず普通に。


ノヴァはゆっくりと静かに。


レオンはひたすら勢いよく。


マルクは一挙一挙が優雅に。



ラナはそれを見て、性格がよく現れるものだなぁ…と地味に感心していたりする。

「そうだ…言おうと思ってたんだが」

ユリウスが面倒に口を開く。いつも着用している不思議な白い上着のポケットから一枚の紙を取り出す。






「えーっと…国王が来るんだって」







『はいっ⁉︎』

サラッと重大問題を言い退けるユリウスに全員が思いっきり振り返る。

「うーん…あ、今日だな」

ラナは言葉を失くす。国王がここに来るなんて言われたら驚くに決まっている。確かに…《銀翼館》は貿易拠点というか…第二首都の管理を担当しているらしいが……いきなり国王。

普通の一般人ではまさに雲の上の人だ。

そう思ったのはラナだけではなかったらしく…他の幹部達も呆然としていた。

ユリウスはしれっと言うが、言われたこちらは堪ったもんじゃない。

「ちょっと待って‼︎いきなり過ぎないっ⁉︎」

エヴァが皆の意見を代弁してくれる。

ユリウスは「仕方ないだろ?」と呆れ顔だ。

「忙しい国王がスケジュール調節したら今日になっちゃったんだと」

「……………何故…来るの…?」

「表向きは貿易拠点たる第二首都コンポルトの視察。裏向きは…どうせメイドだろ」

「はぁっ⁉︎」

いきなり話を振られたラナは思いっきり狼狽する。

「……国王あいつのことだから…人の話を聞かないで、メイドを《銀翼館ここ》に出入りする女性の姿だと思って…お節介焼きに来ようとしてるってところだろ」

それを聞いていラナは呆然とする。

「…それって…私の所為……?」

「いや、国王陛下はユリウス様に甘いからだと思うよ」

「…………うん…ユリウス様を…溺愛中……」

エヴァとノヴァの否定に、ラナは困惑する。

何故、国王がユリウスを溺愛しているのかが分からない。ここで働くくらいだから何かしらの関係があるのだろうが……。

(……思ったら…そんなにまだ、皆のことを知らないのよね……)

全員がキャラが濃いため、すっかりそんなの気にならなくなっていた。実際はそんなに幹部かれらのことを知らないのに。

「という訳で……」

ユリウスの声に全員がそちらを向く。

彼はは本当に面倒そう…というか呆れ顔で溜息を吐いたと思ったら、ニコリと微笑んだ。

「俺はひたすらに自分のしたいことをするので。後はよろしく」

「いや、接待それはお前がやんなきゃダメだろっ‼︎」

「レオンの言う通りです。国王陛下への接待はユリウス様のお仕事です」

「メイド、紅茶おかわり」

「話を聞きなさいっ‼︎」

ユリウスはもう話は終わったと言わんばかりにラナに紅茶を所望する。ラナは困惑しながらも、ユリウスのティーカップに紅茶を注いだ。

「あ…そうだ」

ユリウスは思い出したかのようにラナを見つめる。

「メイド、今日は少し付き合ってよ」

「え?」

「「「「………………………え?」」」」

それに驚いたのはラナだけじゃなくて、他の幹部達もで。

ユリウスはニコリと微笑む。

「ちょっとメイドのこと、知りたくてさ」

「……………えっ…⁉︎」

ラナは真っ赤になりながら後ずさる。そんなこと、初めて言われた。

周りの幹部達もユリウスがそんなことを言うのを初めて聞いたのか…呆然としている。

「いや、初日のあの廊下に渡った時の映像を見てたんだが……」

「エイゾウ?」

ユリウスはポケットからあの端末タブレットなるものを取り出す。

「えっ⁉︎サイズ感合わなくないっ⁉︎」

ポケットは至って普通サイズなのだが…端末タブレットはポケットよりかなり大きい。サイズ感でいうなら、小箱サイズだ。

「ん?魔法でポケットの中の収納を広げてるんだよ。重さもないし」

ユリウスは端末タブレットを操作すると、画面をラナに見せる。

「……これ…」

「そう、メイドが渡ってきた時の姿。あの日の映像を録画しといたんだ」

初めて見る技術に驚きながら…その映像を見つめる。画面の中のラナはあの日と同じ動きをしていた。

「うわっ…凄っ‼︎」

「……これ……ラナ……?」

「やっぱ強いんじゃん⁉︎」

「……信じられませんね…」

いつの間にか後ろに来ていた他の人達も、画面内のラナの姿を見て、驚愕の声を漏らす。

「この動き、反応速度を見て調べた限り…自国、他国の正式な訓練に基づいた動き方ではないし…どっかの個人で訓練を受けだけ訳でもなさそう。それに…危機察知能力って言うのか?トラップが発動する前、した後の回避行動も早い。こういうのに妙な〝慣れ〟を感じる。そしたら…一体何をしたらこんな動きが出来るようになんのかなぁ〜と思って」

ニコニコと微笑むユリウスはラナは顔を背ける。

トレジャーハンターの娘です。幼少期から危険な遺跡に連れて行かれた所為で、危機察知能力が高くて回避行動も取れます。

サバイバル能力、高いです。

(…………言える訳がないっ‼︎)

そんな恥ずかしいこと、言える訳がなかった。

無理だ。例え…何があっても無理だった。

「いや、その……」

「だから、いっそメイドの身体を調べちゃえば早いかと」

『はいっ⁉︎』

ユリウス以外の全員が真っ赤になって叫ぶ。

彼は「何をそんなに驚いてんだ?」と首を傾げる。

「身体は歴史を物語る、だからな」

興奮したように恍惚とした笑みを浮かべるユリウスに…ラナは危険を感じた。

「……身体を調べられるくらいなら…いいけど……ユリウス様の笑顔が怖いからやだ…」

「主人命令」

「笑顔が怖いっ‼︎だから、嫌だっ‼︎」

「それ以前にラナさんは女性なんですから身体を調べるのは駄目でしょうっ⁉︎」

マルクが真っ赤になりながら叫ぶ。

ラナとユリウスは不思議そうに首を傾げる。

「別に身体を調べるくらいはいいだろ?」

「別に身体を調べるくらいはいいんだけど?」

その言葉にマルクは息を飲む。

フルフルと拳を震わせながら、ビシッと二人を指差した。

「それはは異性同士として駄目でしょうっ⁉︎」

「…………………って…話がうまー…く逸れてる……ねぇ…」

ノヴァの呟きに、マルクがハッとする。ノヴァは冷たい目線を彼に向ける。

「……そんなんだから……マルクは…」

「はいはい、ノヴァ〜。毒舌はちょいっとストップしましょうね〜」

「………………………」

そんなノヴァを嗜める(口を片手で押さえつける)エヴァ。

「取り敢えずレオンも協力してくれよ」

「おう、いいぜ‼︎」

「本人の意思を無視して話を進めないでくれるかなっ⁉︎」

レオンはユリウスに言われて簡単に頷いてしまうし…ドンドン収拾がつかなくなってきた。

そんな時………。






「皆、仲良いねぇ〜」






『っ⁉︎』

なんの違和感もなく、溶け込んでいた人物がいて全員がたじろぐ。

そこにいたのは優雅な微笑みを浮かべる銀髪銀瞳の綺麗な男の人。

その姿は……ユリウスと瓜二つで。

「あ、兄貴」

「やっほ〜ユリウス。お兄ちゃんだよっ‼︎」

ユリウスがそう言う。ラナとユリウス以外の幹部達は一斉にしゃがみ込んで頭を下げた。

「えっ……⁉︎」

ラナはその姿にギョッとする。ユリウスのお兄さんはそんなに凄い立場なのかと。

マルクが代表して口を開く。

「ご機嫌麗しゅうございます、シリウス国王陛下」

「…………………は?」

ラナは硬直する。

ユリウスのお兄さんが…国王陛下?

つまり……訪れると言っていた国王陛下とは……。

「皆、そんなに堅苦しくなくていいよ〜。お•し•の•びっだし☆」

シリウスはピースを作って、ウインクした片目の付近に持っていく。

ラナは真顔で思ったー……。

(……こんな…馬鹿みたいな人が…国王陛下……?)

「お、もしかして…君が噂の女性ちゃん?」

「………は…?」

いきなり話を振られたラナは、国王に向けていいものかと疑うくらいに険しい顔で見つめ返す。

しかし、シリウスはそれをものともせず…微笑み返す。

「お〜君がか〜…なんでメイド服なのかは後にして…君とお話がしたかったんだっ‼︎」

「え?嫌ですよ」

「えっ⁉︎」

「ラナっ…⁉︎一応、その人国王なんだけどっ⁉︎」

エヴァの驚いた声が聞こえるが…ラナは険しい顔のまま、シリウスに答える。

「貴方は私を知ってるかもしれないけど…私は貴方を知らないわ。そもそもこの国に来たのだって五日前なんだから…色々と話が見えなくて困ってるの。だから…まず自己紹介してからにして」

そう言われたシリウスはポカンとする。

周り(ユリウスを除く)は顔面蒼白で何してるんだと、怯えていた。

しかし…それに反応したのは、ユリウスで。

「くふふっ……」

「ん?」

「あはははははっ‼︎やっばいっ…最高だなぁ‼︎メイドはっ‼︎」

「はぁっ⁉︎」

ユリウスは面白そうに目尻に涙を浮かべる。

「はぁ〜……本当に最高…いいキャラしてんね…メイド」

「それはあんたには言われたくないわ」

「兄貴」

「………ん?」

ユリウスはラナの手首を掴んで、引っ張ると彼の腕の中にラナを閉じ込めた。

「っっっ⁉︎」

ラナは真っ赤になって硬直する。

細身な身体に似合わず…ユリウスの身体は意外にもしっかりしていた。

そんなユリウスがゆるりと微笑む。

「俺との約束の方が先約だから…兄貴はだーめ」

「っっっ‼︎」

そう言われた瞬間…シリウスの瞳からポロリと涙が溢れた。

そのままポロポロと号泣し始める。

「めっ…メイドちゃぁ〜んっ……‼︎」

ユリウスの腕の中に閉じ込められたまま、シリウスにも両手を握り締められる。

似たような綺麗な顔が二つも至近距離にあって…ラナはドキドキしてしまっていた。

「僕、ユリウスにこんなこと言われたの初めてだよっ…これも全部…メイドちゃんのお陰なんだねっ‼︎ありがとうっ…愛してるっ……‼︎」

「うわっ…何、ほぼ初対面の私に告白してるのっ……⁉︎」

「メイド、早く調べに行こう」

こっちはマイペース。そっちは号泣。周りは困惑。

ドンドン混沌と化していく食堂。




「…………………………。」





そんな混沌な食堂を見ているブレイジングの姿。彼は面倒そうに溜息を漏らすと…ゴキッと拳を鳴らした。

「…………全員…歯を食いしばりなさいっ‼︎」

『………げっ…⁉︎』

「…………えっ…⁉︎」

全員の絶叫が…その場に木霊こだました。








その後…混沌と化していたその場はブレイジングの力技(ラナは女性なのでセーフ)に寄って、収められたのだが…その時に何があったかは……誰も語ろうとしなかった。







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