11 精霊
11 精霊
「何よりもまず、魔物を倒す方法をあなた達に教えましょう。」
少し、教室がざわついた。
瀬奈は、教卓の前に立つ坂本を見つめた。同時に教室の前の方に見える黒いニット帽が目に入る。
昨日会った少年ーーー大牙だった。
教室の誰もが坂本の話に聞き入っているのに対して、彼だけは興味無さげに腕を組んで、だらしなく椅子の背もたれにもたれかかっていた。
坂本は続ける。
「魔物はその名のとおり、魔法を使います。皆さんの中にも魔物が魔法を使ったところを見た方がいるのではないでしょうか?
魔物の魔法は大変危険です。直撃でもしたら、まず助かりません。」
教室は、静まり返っており物音一つしない。その中で、坂本の甲高い声だけが異様に響いて聞こえた。
「なので!!皆さんにはまず、魔物に対抗する手段、魔力を身に付けて貰います。」
坂本はおもむろに黒板にチョークで文字を書き出す。
小気味好い、チョークの音が教室に響いた。
黒板には、【魔力】と書かれている。
書きながら、坂本は続ける。
「元々、我々人間には極微量ながら、魔力が備わっています。ですが、本当に極僅かなので人間の魔力の量では、魔物に対抗することは出来ません。ですが、一つだけ魔物に対抗できる程の魔力を得る方法があります。…それが、【精霊】です。」
坂本は黒板に【精霊】と書いて、くるっと半回転し、教室中を見渡す。
そして、なにやら指で生徒の数を数えだした。
「…えー、ざっと30人ちょい、まあ、よく集まった方ですかねっ!」
勝手に一人で、うんうん、と頷く。
困惑した生徒達に坂本は笑いかけ、一段と声を大きくした。
「これから、あなた達には精霊と契約して貰います!
30人くらいなら、一度に出来ますからね、さぁ、ちゃちゃっとはじめちゃいましょう!」
パンっと手を勢い良く叩く。
一番前の席の女子が「…え、ええとあの……?」と喉に何かつっかえたような声を出した。
「はい!精霊と契約して貰います!精霊は増大な魔力を持っていますから、契約して魔力を貸して貰うんです。精霊は一番契約した相手なら、従順に従いますから、とても役に立ってくれるはずです。
はいっ!そうと決まったら早速始めましょう!!別の教室に色々準備してありますからそこに移動しましょうね。さぁ、皆さんついてきて下さーい」
意気揚々と教室のドアを開け、廊下に出て行く坂本を、困惑しながらもぞろぞろと追って行く生徒達。
それに続こうと瀬奈が立ち上がったときだった。
いつの間にかと瀬奈の目の前に人影が見えた。
大牙だった。
手には、昨日貸した瀬奈のパーカーが握られている。
「…ん」
よく耳をすまさなければ、聞こえないような声で、パーカーを瀬奈の前に突き出してくる。
そんな無愛想な渡し方なのにも関わらず、意外にもパーカーは洗濯され、アイロンまでもがかけられているようだった。
「洗濯なんてしなくても、良かったのに。ーーー昨日は、ありがとう。おかげで助かったわ」
パーカーを受取りながら微笑むと、大牙は居心地が悪そうに視線を逸らし、小さい声で「…ああ」とだけ答えた。
昨日はあんなに輝いて見えた瞳が、今日はなんだか錆びた鉄のように輝きを失っている。
「何か、あったの?顔色があまり良くないように見えるけど」
そう言うと、大牙はやはり決まりが悪そうに視線を合わせようとしない。
「いや、なんもねぇけど」
まるで独り言のように話す大牙を見て、瀬奈はその不自然さに気付いた。
慣れていないのだ。
人と話すことが。
もしくは、家族や近しい人以外と会話することが。
ふっと、自然と笑いがこみ上げてきてしまった。
まるでーーー昨日見た頭部の耳のせいもありーーー獣みたいだと思った。
慣れていない者に対しての警戒心が人一倍強いのだ。
だが、昨日会っているし、パーカーを貸してもらってもいる。だから、どうしたらいいのかわからず、視線を合わせようとしない。
なんだかそれが、厳つい外見とそぐわないような気がして、可笑しくなってしまった。
そんな瀬奈の様子を見て、大牙は眉を寄せて睨む。
「…なんだよ?」
「ごめんなさい、なんでもないわ。…それより」
笑いをかみ殺してから、大牙を見ると肩にしおれた通学かばんを背負っていた。
「バックは置いていってもいいんじゃないかしら?誰も盗みやしないはずよ」
瀬奈が通学かばんを指差しながら言うと、大牙はやっと目を合わせて答えた。
「いや、もう帰るからいいんだよ」
「え?だっていまから…」
「精霊だとかなんとか意味わかんねぇし、興味もねぇから。今日だってそれ返しにきただけ。」
言って、早々と教室を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと!」
気づけば、瀬奈は呼び止めていた。




