第4話:海戦における合理的一斉掃射
黒翼号のすぐ横で巨大な水柱が上がり、甲板に激しい水しぶきが降り注いだ。
接近してくるのは、血塗られた髑髏の旗を掲げる老舗の巨大海賊船だ。すでに何発もの威嚇射撃を放ち、黒翼号を沈めにきている。
「野郎ども、刃を研げ。気合で敵船に乗り込むぞ」
ヴァルクが大剣を抜き放ち、海賊たちが雄叫びを上げたその背中を、硬い扇子がピシャリと叩いた。
「気合で大砲の弾を避けるのですか? 却下します」
セレスティアが片手に海図を開き、冷ややかな視線でヴァルクを睨みつけていた。
「あんな旧式の帆船相手に白兵戦など、無駄な負傷者を増やすだけです。操舵手、面舵いっぱいで旋回。敵の射線から完全に外れた位置で待機しなさい」
「姉御の命令だ、急いで舵を切れ」
甲板長が叫び、船員たちが一斉に動き出す。黒翼号はなめらかに波を切り、敵艦の側面へと素早く回り込んだ。
「砲手、左舷の大砲に弾を装填」
セレスティアは風に濡れた指先をかざし、目を細めた。
「現在の風向きは南南東。潮の満ち引きと波の周期から計算して……今です。波の頂点に達した瞬間、一斉掃射しなさい」
セレスティアの扇子が鋭く振り下ろされた。
腹の底に響く轟音と共に放たれた砲弾は、計算し尽くされた放物線を描き、敵船の急所である水面ぎりぎりの船体を的確に撃ち抜いた。
鈍い音を立てて敵船のマストがへし折れ、敵艦の甲板から悲鳴が上がる。破孔から大量の海水が流れ込み、あっという間に巨大な船体が傾き始めた。
「姉御、敵の奴ら、白旗を振ってやすぜ」
見張りの海賊がマストの上から声を上げた。セレスティアは双眼鏡を下ろし、冷たい海風に髪をなびかせながら即答した。
「降参ですか? 却下します。徹底的に再起不能にしてください。ここで中途半端に情けをかければ、再び面倒なことになりますわ」
──撃ち方、始めっ!
無慈悲な命令が下され、二度目の斉射が敵船を完全に海の藻屑へと変えた。
無傷で完全勝利を収めた黒翼号の甲板は、一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声に包まれた。
「完璧な陣形と非情な指揮、最高に痺れるぜ」
ヴァルクが目を輝かせ、興奮を隠しきれない様子でセレスティアの肩を抱き寄せようとする。
セレスティアは扇子でその腕の進行をピタリと制止し、静かに息を吐いた。
「歓喜に浸るのは後です。今のうちに海に浮いている有益な積荷の回収と、消費した弾薬の在庫計算に取り掛かりなさい」
冷徹に指示を出し続ける彼女の横顔を、ヴァルクは惚れ惚れとした熱い眼差しで見つめ続けていた。











