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吸血少女は牙隠す。 〜どうやら彼女、吸血鬼と呼ばれるのは心外だそうです〜  作者: 青葉 ユウ


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3-2 夜の独り歩きは危険だよ?





 旅の疲れがあるから今日一日は部屋で休む。

 夕食中にネリメアがそう話していた。

 そこに俺も同意して、噂話の件を触れるのは止めておいた。

 元々出歩くつもりがないのなら不安を煽る必要もない。


 そう思って、忍足で宿を出たのだが――


「今日は部屋で休むって話だよな?」


 夜をひっそりと照らす宿看板の灯の下、ネリメアが俺を待ち構えていた。


「うん。ギルもそうするって話してたのにおかしいね」


 荷物を詰め込んだ斜めがけ鞄がネリメアの背にない。

 身体ひとつの身軽な装いだった。


 嘘をついた申し訳なさから襟首を掻く。

 困ったと思った俺の心情が態度に出ていた。止めようとは思わない。


「あのさ、ネリメア」


 目の前にいるネリメアが幼馴染だったなら、どんな言葉で言い包められるだろうか。

 そんなことを考えて彼女に語りかける。


「部屋にいるならと思って言わずにいたけど、あの噂は本当なんだ」


 ――ラオリスで不審死が増えてるから不用意に近づくな。


 要約するとたった一言で片付く噂だけれど、ネリメアと出会う前に商人や村の人々から聞いた時には様々な憶測で脚色されていて、元の話が誰にも分からない有様だった。

 そんな噂話をネリメアは微塵も信じていなかった。不安になる素ぶりも全く感じさせない。


「殺人犯は多分まだいるから、ネリメアはひとりで出歩かないでほしい。俺が絶対捕まえるからさ」


 だから「頼むよ」と言葉で縋った。


 吸血鬼の存在は秘匿されるから、俺の独断で口にはできない。

 人間の脅威となる全ての魔族を滅ぼした――そう帝国が宣言してから百余年が経っている。


 吸血鬼という魔族がこの世に存在しているという事実を、皇室は隠蔽したいらしい。


「ギルについていくなら安心でしょう?」

「もし俺が想像してる存在が犯人なら、ネリメアを守りきる自信がない。悪いけど」


 宿で待っていてくれ、と沈黙にのせる。


(スリィだったら)


 口を尖らせてわざとらしく不貞腐れながら「ギルがそこまで言うなら」と渋々頷く。無茶しないでね、と単身で出向く俺の身を案じてくれる。


「今日は良くても明日は? ギルがその人をどうにかするまで、私は宿から出れないの?」


 口元を覆うストールに触れた彼女の指先が、その微笑みを強調していた。


「私そこまで気ぃ長くないよ」


 ふとした拍子に似ていると感じるけれど、元の性格は似ていない。

 そんな当たり前のことに瞠目する。


「それは……」


 ひとつの区間を成り行きで共に旅しただけで、それ以前は見ず知らずの他人だったのだ。

 そんな俺にネリメアの行動を制限する権利なんてない。

 彼女の身を案じることで、俺の望み通りの行動をするよう彼女の良心に付け入ることしかできない。


 目論見が外れて当たり前だった。


「そうだよな。――――そう、なんだけど」


 それでも彼女が危険に晒されるのが嫌で、引き止める方法を探す。


 幼馴染にも、幼馴染を殺した吸血鬼にも重なる彼女。

 どうにも俺の判断力を鈍らせる。


「私を心配してくれてるのなら一緒に行こうよ」


 頷くことを前提とした、応えなんて分かっていると告げるかのような微笑みだった。


「ギルが私を心配してくれるように、私だって心配なんだよ」


 雲に覆われていた月明かりが、微かな隙間から彼女を照らす。


「私の瞳を役立てて? そうしたらギルは私の行動を把握できるし、協力もできて一石二鳥だよね!」


 ネリメアの最大限の譲歩だった。


 少しばかり共に旅してきた俺の気持ちに寄り添ってくれた提案。

 それでも引き下がらずに彼女の良心に縋れば、切実さに免じて宿に残ってくれるかもしれない。

 そんな一縷の望みさえ、月明かりの元で輝く真紅の瞳の前では頷きにしかならなかった。


 幼馴染(スリィ)も同じだったのかもしれない。





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