65 文字が読めない者
大図書館入り口の門には初めて見る種類のアンデッドがいた。おそらく警備のアンデッドなのだろう。
そしてそのアンデッドが警備する門を恐る恐る潜り抜け中に入るとほのかに本特有の香りが漂っているように感じられた。
人影はあまり見られないが、ごく少数であるものの小声で意見を交わし合っている人達が数名いるようだ。
中には本の内容を書き写しているのか、一心不乱に筆を動かしてる人もいる。
受付カウンターで少なくない保証金を払った後いろいろ尋ねた結果、大図書館は三階建てになっており一階が一般人に開放され、自由に手にとる事ができる書庫、二階が一般人にも閲覧が可能だが司書にタイトルを言って持ってきてもらうシステムになっている書庫、三階は一般人には閲覧が禁止されている書庫らしい。
結構本格的な図書館ね……。現実世界の図書館と大差ない規模に感じるわね。
「目的の本がありましたら私達司書にご相談ください。」
「ここの本の貸し出しはどうするんですか?」
「紹介状をもった方のみが一階の本に限って貸し出しが可能になっています。紹介状はわが国で一定の立場にある者が発行できます。紹介状がない場合は貸し出しは出来ませんので必要な個所を書き写してください。その際はインクで本を汚さない様にお願いします。汚してしまった場合は保証金から清算しますのでご注意ください」
長々と説明を聞き終えた私達は早速一階の書籍の内容を調べに行く。
§ § §
「エリン、そちらはどうかしら?」
「まだ、何とも……、ミーナのほうには良い本はあった?」
「それらしき物が書かれた本はまだ……」
三人は本棚から書籍を取り出すとパラパラとページをめくりながらあれやこれやと口を交わしている。
私はというと……、正直お荷物だ。何と言っても文字があまり読めないのだから当然と言えるのだが……。
と、いうかおかしくない?なぜ文字があまり読めない私を図書館に連れてきてるのかしら……。
これがヤスコによる嫌がらせであれば、私としてもガツンと言うべきことがあるのだが、ヤスコにとって私と離れるのはよほど必要にかられない限りありえないのだろう。ヤスコからの信愛の結果なのだ。
特に「お姉様と離れるなんて嫌です、考えられません!」などといった言動を感じると何も言えなくなってしまう。
でも常識的に考えると文字の読めない私を図書館に連れてくるなんて、やっぱりおかしいわよね……。でも無理やり引っ張ってこられたわけでもないしなぁ……。
手持ち無沙汰に本棚から書籍を取り出してパラパラとめくってみるものの、所々の単語は拾えるがページの大部分は何が書いてあるかはさっぱり分からなかった。