前日譚その6:ないらちゃんの絶望
警察官は父親に説明を託した。
父親は、こういう事は母親から説明するべきだろうと母親に投げた。
母親は、娘が度胸と冒険心でやったことだから説明は不要だろうと判断した。
もしもこの時母親がサイズの合わないミニスカワンピを娘がどのように着こなしていたか確認していたならば、度胸や冒険心とは別次元の行動だったと気付けたはずなのだが……。
両親が娘のイタい思考を見落としたことで、ないらちゃんは夜の街で外国人男性に襲われたという誤解をしたまま次会ったら仕返しされるという恐怖に1人怯えることになった。
あの3人はもう二度と会えない場所に居るとも知らずに。
それでも表面上は平静を装うないらちゃん。
これは狙ってやっていたわけではない。
役者芸の鍛えすぎにより自分の感情表現が苦手なだけで、内心はずっと恐慌状態だった。
そんなないらちゃんに両親は多くない日常会話の中で無自覚に追い打ちをかけた。
父親は国際結婚に興味は無いかと聞いてみたり。母親は夜の街の楽しい思い出を語ってみたり。
事件の後で両親からそれを聞かされた事で、ないらちゃんは絶望した。
姉の姫子に相談しようとしたが、両親の会話より妊娠中なのに夫からひどい扱いを受けていると知り、また絶望した。
優秀で社会的地位が高い両親が何故ここまで親としてポンコツなのか。
その原因は長女の姫子にあった。
姫子は幼少時から【察する力】が天才的に強い子だった。
何も言わなくても親の態度と状況から察して、当たり前のように適切な行動を取っていた。
それ故にこの両親は、子供に言葉で伝えるという親の最重要スキルを学習する機会を失い、ポンコツのまま次女を授かった。
ないらちゃんも同じだった。
言わなくても何でも察する姉に育てられたことで、伝える力が未熟な不器用な子に育ってしまった。
姫子に依存し過ぎていた家族内コミュニケーション。
姫子が嫁いで抜けたことで当たり前のように破綻した。
家族に相談できない悩みを抱え、一人苦しむないらちゃん。
豚骨を噛み砕けないことでさらに追いつめられてしまい、ついに【自殺防止ホットライン】にダイヤルしてしまうのである。
●オマケ解説●
自殺防止ホットラインでコイバナ振ってきた相談員を怒鳴りつけたないらちゃん。
それを芸だと説明したけど、怒ってないとは言ってない。
あの時ないらちゃんはマジギレしていたのだ。
なにもかも滅ぼしてやると思うぐらいに。
明確な悪意よりも無思慮や不作為の方が凄惨な結果を招くもの。
誰も意図しないままに限界まで追い詰められていたないらちゃんは、怒りを爆発させた勢いで日本を滅ぼして異世界に跳んでしまいます。
ひどい。ひどい。




