出会う少女
グルディオスは待っていた。
ユーリのギルドカードは更新に時間がかかる、その為、酒場に置かれた椅子に座り待っていた。
魔界にも取り入れるべきか……?
ギルドの存在は、先の戦争の最中にすでに知っていた。
国、都市の防衛線、またはこちらが攻め込まれる時に、身にまとう装いがバラバラの集団がいた。彼らは平均的な練度で考えると、弱い。
だが、時折、本当に人間か、と疑問に思うほどの存在が現れる。
彼らは一つの場所にとらわれず現れる。
それが、我々にとっての脅威と好機を生じさせた。
カウンター前に立つユーリを見る。
奴もまた、その一人であった。
「ギルド……。考慮すべきである」
もっとも、独立心と野心が強い魔族では成り立たぬかもしれぬが。
「はい、更新終了いたしました」
ユーリは差し出されたギルドカードを受け取った。
魔王城に5年居た為仕方ない事ではあるが、やはり出費はいたい。
今までの優良冒険者記録に傷がついたなぁ。
優良冒険者となれば、心なしか受付の対応が良くなる。これは冒険者内での噂話の一つなので、真偽のほどは定かでない。
ふと、前を見ると受付のおばさんがこちらをじっと見ていた。
それは探るような目であり、計られている、という事が分かりやすく気づけるものだった。
「お兄さん、あんた凄腕なんだろう?」
ギルド式会話術が崩れた。という事は、ここからは一個人として接してくる。
大方、カード発行日を見たのだろう。
確か自分がカードを発行したのは十五年ほど前。
戦争を生き残ったという事実。長らく依頼を受けていないが、冒険者が評価される項目に加わったのだろう。
ただ、凄腕だというのはどうだろう。
「いやいや、運が良かっただけですよ。俺はあまり前線にも出なかったし」
「あははは、そうかい、そうかい。なぁに生き延びたって事実がある。大事な事じゃないか」
「そういうもんですか」
中年の受付嬢はそう言って、ユーリの肩を叩く。
ユーリはこの人当たりの良い女性の行動を快く思った。
こういった人は感情の機微に聡い。
自分が冒険者として活躍していた際、似た性質を持った人にとてもお世話になった。
よく気にかけてくれた事に、今も感謝の気持ちがある。
王都に行った際の用事が増えたな、とユーリはやらなければいけない事として、位置づけた。
中年の受付嬢が、注文はと聞いてくる。
ユーリは自分とグルディアスの分の飲み物を頼み、待っている剃髪の大男の下へ向かった。
グルディアスはユーリを見ると、
「ギルドは登録制度を設けているが、それは何の意味があるのだ?」
「ギルドは依頼の仲介をしているんだ。ギルドがある事で依頼の発注、受注ができやすくなった。つまり、一般人にはありがたい事ばかりだ」
「仲介という事は、ギルドにも何かしらの利益があるのか。そして、ギルドは自らに所属する冒険者の名が大きくなる事で、勝手にギルドの名も挙がるという事か」
「まぁ、そんなもんだ」
お待たせしました、と中年の受付嬢がテーブルに水を置いていく。
そして、グルディアスの方を向き、
「あんた大きいねぇ。やっぱりあんたら凄腕なんだろう?」
「なに、体だけが大きくなった。肝心の腕はからっきしだ」
ユーリは口に含んだ水を吹き出さないように必死だった。
ギルドを出ると、既に日は落ちかけていた。
ユーリ達は村長に紹介された家に向かおうと、歩みを始める。
その途中、二人はこの村に来た時にみた少女を見かけた。手には水が入った様子の桶がある。
長い茶色の髪、少し気弱そうな印象を受ける大きな瞳を持った彼女は、ユーリ達に気が付くと走り寄り、
「貴方たちは冒険者ですか?」
少しばかりうるんだ瞳を携えて、そう言った。
ユーリは、この村には何かがあると踏んでいる。それは今までの出来事、人の動向を見ての判断だ。そして、振られなければ関わるつもりはなかった。
だが、今、少女が得体も知れない自分に向かい、関わらせようとしている。
なら、
「ああ、そうだよ。といっても、俺だけだけど」
ユーリの言葉に少女は少しの期待を抱いたように、目を輝かせた。
彼女は持っていた桶を地面に置き、ユーリの手を握った。
「お願いします! お父さんとお母さんの仇を取ってください!」
まぁ、そんなところだろうな、とユーリは思った。
少女はなおも勢いよく、話し続ける。
「……森に盗賊がいて、お父さんとお母さんは殺されました」
「どうして盗賊の仕業だと? 森の中には魔物もいるだろう?」
「あいつら、お父さんたちを村に返しに来たんです。こうなりたくなかったら、食料をよこせって。いつか私たちを殺しにきます」
仇討ちという言葉は、冒険者にとって珍しくはない。それは、依頼の数が多いという事だ。
盗賊、魔物、戦争時には魔族。依頼の内容は様々であったが、仇を取ってほしいと依頼をされることは珍しくはない。
そして、ギルドを通すことのない依頼もまた多い。
一時期、ギルドの依頼が超過密状態となっていたことがある。その場合、普通の依頼であれば待ち続ける。いつかは受けてもらえるからだ。
だが、急を要する依頼、感情に任せての依頼は、速やかに叶えてもらいたいと思うのが当然だ。
そうなれば、ギルドで依頼するよりも個人間で契約を交わしたほうが早い。勿論、冒険者は値段をふっかけるのだが。
グルディアスが少女を見る。少女はおびえた様子を見せるが、それでもユーリの手は離さなかった。
「仇討ちか。なぜ、自分で行わない」
「え……。だ、だって、私じゃ叶わない」
「そうかもしれない。お主はまだ子供だからな。だが、歯向かう事は出来るだろう。それとも、取り逃がす事を考えているのか?なるほど、確かにとり逃せばいつか逆襲に来るだろう。だが、それを気にするのは行動を行ってからでいい」
ユーリはグルディアスを見た。腕を組み、少女を見る姿はどこか威圧的だ。その事も合間り、少女は何も言えないのだろう。
こいつの考えは強者の考えだ。それは肉体ではなく、精神が強靭である。
魔族の社会は、今は安定しているとはいえ、昔は種族同士の殺し合いも珍しくはなかったらしい。魔王による統一が、安定した社会をもたらしたと聞いている。
そんな中、生きてきた古き魔族は、グルディアスのような考えを自然と持っている。
やられたら、やり返す。己が死に絶える、その時まで。
その考えは、人間には不可能だ。少なくとも、精神を正常に保っていては。
今、目の前に立つ少女もそうだろう。
グルディアスの威圧感、そして精神の強靭さ。この二つは、彼女にとっての重圧となって襲い掛かってきている。
ユーリは、少女に話しかけた。
「君は仇を取ってほしいと言った。もし、君の目の前に何もできない状態で盗賊たち、君の両親を殺した奴らがころがっていたら、君はどうする」
「え、そ、そんな事、あるわけ」
「そう、仮定の話だ。だけれど、その時、君はどうする?」
少女は少しの間うつむき、顔を上げた。
うるんでいた瞳は、吊り上げられ、鋭さを持っている。
「殺します。あいつらがお父さんたちにやった事と同じ事をやってやる……!」
「――そうか。君の名前は?」
「あっ、私、リナです。リナ・ダインスです」
ユーリは少女の手を離した
そして振り返り、
「リナ、少し待っているといい。夜になるかもしれないから、家に帰ってもいい。ただ、村長の家の前に、すぐに来れるようにはしておいてくれ」
そう言って、ユーリとグルディアスは歩き去った。
夜。
リナは近所のおばさんの家にいた。
おばさんはギルドの受付嬢をしていて、この村で一番の情報通だ。
おばさんはこの村に来た二人組の冒険者の話をしてくれた。
それは仮定の話を持ちかけた人たちの話。
その中の一人は、ユーリというらしい。
15年前にギルドカードの発行を、冒険者になったのは私と同じくらいの年だと。
謙遜をしていたけれど、彼の腕前はきっと本物だと。
明日、村長と相談をするらしい。彼らに、盗賊の討伐の依頼を持ちかけるかどうか、を。
もし、今ここで、もう話したと言ったら、おばさんはどう思うだろう。
困った顔をして、叱ってくれるのだろうか。こんなことを思う私は、たぶんどこか壊れている。
突然、家のドアが誰かに叩かれた。それは強く、慌ただしいリズムを取っている。
おばさんが慌ててドアを開けると、そこには汗だくになった男の人がいた。
彼は息を整えて、言葉を放ち
「あ、あの冒険者たちが、盗賊を捕まえてきた!」
私に衝撃を与えた。




