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I have a dream

 司祭様が俺と光秀が入ってきたのと同じ扉から入ってきた。

 金色・・・よりは少し淡い、クリーム色? カスタード色? いや栗色が近いだろうか。イリスの金色ように激しく自己主張したりはしない落ち着きのある優しい栗色の髪。肌の色は白人ほど薄くなければ黄色人ほど濃くもない肌色。微笑みをたたえる顔にくっついている少しばかり垂れているたれ目が優しそうな印象を与えてくれる。ここまでなら・・・いやここまででも十分に美しく、日ノ本の民ではあり得ない特徴もあって人々の目を引くことは間違いないと思うが・・・やはり悲しいかなこれが男のさが、恐らく美しくも可愛らしい顔よりも、その大きな胸の方が大衆の目を集めてしまうであろうことは容易に想像できた。

「Oh my, everyone … and then Mr. stranger, what happen here? (おやおや、皆さん・・・それと見知らぬお方も交えて、いったい何のお話ですか?)」

 おおう、なんだろう、この・・・何となく安らぐ声は。ただ声を聴いただけだと言うのになんだか優しい気持ちになった気がする。これが司祭様の力なのか?

「おはようございます司祭様。こいつは・・・そういえば俺はまだお前の名前を聞いていなかったな」

「そうだったか? じゃあ今から司祭様に名乗るからそれを聞いてくれ」

 光秀が英語を聞き取れるのかは知らないけどな。というかこいつさっき司祭様に俺を紹介しようてしていたけど話していたのは日本語だったよな?

「Nice to meet you, Pastor. My name is Takahisa Kato.(初めまして、司祭様。私は加藤貴久です)」

「Oh!(おお)」

 司祭様が優しそうなたれ目をわずかに見開いて驚いている。

「おい、うっかりしていたが俺は異国の言葉で話されても理解できないんだが」

 今更気づいたのかよ、やはりこいつはみっちーとは別人だな、うん。

「Takahisa?(貴久?)」

「貴久?」

 光秀が司祭様と同じ言葉を口にした。

「それだ、貴久が俺の名前だ」

 あんまり織田方の将に名を名乗りたくはなかったが、これでも一応は礼拝堂の中だ、神が見ているかもしれないから、嘘はあまり言いたくはない。一応商人ってことになっているし名字があっても不思議ではないだろう。

「ん? 越後の・・・貴久?」

 ち、さすがはとりあえず明智光秀。その繋がりには気がついたか。

「は~、やめてくれよ、どいつもこいつも行く先々で同じことを言う」

 いかにも辟易したと言った感じで光秀のことを見る。

「旅先なら大丈夫だと思ったのに・・・どいつもこいつも名前が同じだからって・・・」

「人違いなのか?」

「そうだよ。越後にいるときなんか無能の方の貴久だって言われて傷ついてるんだぞ」

 ちょっと過去の苛立たしい思い出を思い出して本当に怒っている感じで光秀に言い返してやる。

「それは済まなかった、許してくれ」

 う~んこの程度で誤魔化せてしまうとは・・・光秀ってちょろいなー。

「Takahisa?(貴久?)」

 おっと、司祭様のことを完全に忘れていた。

「Yes?(何でしょうか?)」

「You are native of this country right? / You are people of Giapan right?(あなたは日ノ本の方なのですよね?)」

「Yes, though I just drop by here on my way back trip, I lived far from here.(はい、ここには旅の帰りに寄っただけで住んでいる場所はとても遠いですけどね)」

「Why can you speak the same language as us?(なぜ私たちと同じ言葉を話せているのですか?)」

「 It's because of an effort, I wanted to talk with everybody. (頑張ったからです、皆さんと話したくて)」

 英語を話したくて頑張ったのは嘘だと言えるほど嘘ではないが、実を言うとドイツ語の方が話せるようになりたかったのは内緒の話だ。理由はただベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調の合唱をドイツ語で歌ってみたかったからだ。第4楽章の主題は合唱のところの歌詞にシラーの詩『歓喜に寄す』が用いられることから『歓喜の歌』としても親しまれている。この時代に音楽を録音できる機器はないからいつでもどこでもきけるなんてことはないからちょっと残念だ。

「Oh I see. Though late, my name is Luís Fróis. You may call me Luís or Fróis, any way its convenient to you.(そうなのですか。遅くなってしまいましたが、私の名前はルイス・フロイスです。ルイスでもフロイスでも、呼びやすい呼び方で呼んでくださって構いません)」

 おおう、これまた有名人が出てきたな。

 一般の方々はルイス・フロイスという人物のことを知っているのだろうか? 知っている人は当然知っていると思うが、日ノ本で天主教、正確には天主公教会てんしゅこうきょうかいことキリスト教の布教をしていた人だ。将軍足利義昭を擁して台頭していた織田信長の信任を獲得して主に機内で布教活動をしていた。そんでもって俺としては一番注目したいのは、第一線を離れ、日ノ本におけるイエズス会の活動の記録を残すことに専念するよう総長に命じられ、全国をめぐって見聞を広め日ノ本におけるキリスト教宣教の栄光と悲劇、発展と斜陽を直接目撃し、その貴重な記録を残したこと、そしてこの記録が後に『日本史』とよばれることになったことだ。

 それとは別にちょこっとだけ気になるのは来日が史実よりも数年早いことだが・・・今更こんなことは気にしない。

「By the way, what Iris has been doing since a little while ago?(ところでイリスは先程から何をしているのですか?)」

 え? 何してるように見えますか? ずっと黙って俺の脚にくっついてるだけですけど?

「She got attached to me.(懐かれてしまいました)」

「 My my! That's a good thing! I feel that it is important for everyone to get along with everybody.(まあまあ! それはいいことですね! みんな仲良く、それが一番です)」

 ルイスさんが優しそうな微笑みに嬉しさを上乗せしてきた。これは強烈だ。

「 Yes but now I'm troubled. Iris said she wants to come along to my place. Although I already said many times to her that it is far.(いやでも困っているんですよ、イリスが俺の住んでいるところまでついてくるって言っているんですよ。何度も遠いって言っているのに)」

 よしこれでルイスさんがとめて・・・。

「I'll come along with Papa, it's okay right?(パパについていく! いいでしょ?)」

「Yes, of course. You're free to do what you like, because people are capable of that(ええ、もちろんですとも。好きに生きていいのです、人はそれができるのですから)」

「Eh!? it's okay?(ええ⁉ いいんですか⁉)」

 おい、キリスト教ってそんな宗教なのか⁉ 俺全然知らないけど少なくともやりたいことをやって良いなんて宗教ではなかったと思う!

 あとなんだか言い方が『泣いて、いいのですよ。だから人は、泣けるのですから』に似ていた気がする。ちなみに俺はSEE〇ならラク〇よりカガ〇がいいけど、DESTIN〇ならラク〇がいい。『ラク〇がいい!』とは無関係だからな!

「Of course that is if you're okay with it.(もちろんあなたが良ければですけど)」

 あんまりよろしくないから駄目だって言ってほしいんですけどね。

「But I can't afford to take the other children. It will be sad for them to have last farewell like this, no? I fear they will be sad if Iris gone.(でも他の子まで連れて行く余裕なんてありませんし、これでみんなと今生の別れになってしまうのもみんな悲しいでしょう? みんなもイリスがいなくなるのは嫌だと思いますし)」

 しかしここでルイスさんはびっくりな言葉を告げてきた。

「Takahisa, people can express their own opinion, but cannot force it unto others. If someone felt that It's a coercion, then they just mistake it for fear.(貴久さん、人は誰かに意見することはできます、しかしそれを強制することはできません。人がそれを強制だと感じたのなら、それは恐怖と間違えているだけです)」

 うわー、個人的にはたいへん共感してしまうが、今はイリスを諦めさせたいから困るだけだ。

「Papa(パパ~)」

 ぬおおぉぉーーー! やめてくれーーーー! そんな嬉しそうな顔でぎゅっとしないでくれ! パパと呼ばないでくれ! 連れて行きたくなってしまうだろうか!

「Pastor (Sister/Mother) Luís! please stop Iris!(ルイス様! イリスを止めてよ!)」

 よーしビルその調子だ、ルイスを説得してくれ。そしてルイスはイリスを説得してくれ。

「And why do you want to do so, Bill?(ビル、どうしてそうしたいの?)」

「Because this person is a merchant! It is the same as those who sold us!だってこいつは商人なんだよ! 俺たちを売った奴等と同じなんだよ!)」

 ああ~ビルよ、恐らくその理由ではだめだ。

 俺は事の結末を悟った。

 そして案の定というか予想通りというか、司祭様が優しそうなたれ目を若干厳しくしてビルを見た。

「Bill, on what reason did you judge Takahisa as a bad merchant?(ビル、あなたは何を根拠に貴久さんが悪い商人だと判断しているのですか?)」

「Bu, but... He's... He is a merchant...(だ、だって・・・こいつは商人で・・・)」

「The clothes you are wearing right now, the rice you've been eating this morning, everything are neccessities that I bought from the merchants. And yet you still judge it on your own that Takahisa is a bad person just because he is a merchant? Isn't it just you with your own ego, destroying the opportunity of Iris to become happy?(あなたが今着ている服も、朝食べたお米も、みんな私が商人の方から買ってきたものです。それなのにあなたは商人だからという理由だけで貴久さんを悪い人だと決めつけるのですか? イリスが幸せになれるかもしれない機会を、あなたはあなたの都合だけで潰してしまうのですか?)」

「・・・(・・・)」

 ビルが口ごもってしまった。ビルよ、これを経験にして成長しろよ。今度からは感情論ではなくきちんと根拠を持った理論で説得するように。

「And then Takahisa, will you take good care of Iris?(それで貴久さんは、イリスを大切にして下さるのですか?)」

「...Yes, because I intended to do so.(・・・ああ、俺がそうしてやれるあいだはな)」

 いいよな? もともとあの長屋はこういう子たちのために建てたわけだから、これは景虎だって納得してくれるよな? ・・・女の子しかいないのは偶然であって故意ではないと分かってもらえるよな?

「Then, please take good care of Iris.(では、イリスのことをよろしくお願いします)」

 ルイスさんが頭を下げてお願いしてくる。改めて重い責任がのしかかってきたと言う感覚が湧いてきた。

「Iris, I'll ask you again one last time(イリス、最後にもう一度確認しておくよ)」

 俺は一度イリスを脚から離して、できるだけ真剣な顔と雰囲気を作ってイリスに話しかける。

「My house is far from here. Just going there might already be hard for you, and you might not be able to meet again with everyone here. Even so will you still come with me?(俺の家はここから遠い、家まで行くだけでもとても辛いかもしれない、そしてもうここにいるみんなとは二度と会えないかもしれないんだぞ? それでも俺と一緒に来るのか?)」

「 I can't meet with everyone anymore?(会っちゃいけないの?)」

「 It's not you can't meet, it's very difficult just to meet with them.(会っちゃいけないわけじゃない、会うことがとても難しいんだ)」

 話が理解できていないのかと思ったが、イリスは話を聞いたうえで笑顔で返して来た。

「Then it's fine! I just have to make it so I can call everyone!(なら大丈夫! 私が皆を呼べるようになればいいんだよ!)」

「・・・」

 なんだかイリスは壮大なことを考えているようだ。

 つまりイリスがどうするつもりなのかはわからないが、俺について来てそれなりの身分になるなりたくさん稼ぐなりするつもりのようだ。

 しかしこれはいけない。

「Iris, I don't know what it is that you want to do, but I dont think you will able to call everyone just by following me. It's so hard to the point it can be said 'it's impossible', still, you're fine with that?(イリス、君が何をするつもりなのかは知らないが、俺に付いて来てもみんなを呼べるようになることはないと思うぞ。絶対に無理だと言えるくらい難しいことだ、それでもいいのか?)」

 実際の俺は商人ではない、確かに身分は高いがイリスはこのまま俺について来てもここにいるのと同じ施設にいるのと同じようなものだ。イリスに何か評価できるような能力があれば何とかしてやれるかもしれないが、現状日ノ本の言葉を話せないイリスがこの先理想に近づくことができるかどうかはかなり怪しい。

「It's okay! I just have to do my best!(いいよ! 私が頑張ればいいんでしょ!)」

 イリスはめげなかった、それどころかイリスの笑顔はさらに輝きを増していた。

 これは・・・すごいな。こんなに幼いのに俺なんかよりもずっと強い意志があるんだ。

 言い方がちょっと傲慢かもしれないが、これは連れて行ってあげよう、それがイリスのためになるなら。

「Alright. Then let's go together.(分かった、一緒に行こうか)」

「Un! thank you, Papa!(うん! ありがとう、パパ!)」

 イリスがぎゅっと抱き付いて来た。

 俺がこの小さな女の子のために何ができるのかはわからないが、それでもこの子が望むなら、力になれるのなら、俺はこの子のために頑張ってみよう。

「Will you really go, Iris?(本当に行っちゃうのか、イリス)」

 ビルが寂しそうに言ってくる。よっぽどイリスのことが心配なんだろう、いい家族だ。

「Yes, I will surely call all of you later so wait for me!(うん、必ず呼ぶから待っててね!)」

 イリスはずっと笑顔だ、それに対してビルは涙をこらえるのに必死だ。

「Okay... I'll be waiting.(うん・・・待ってるから)」

 もうビルは限界だろう、せっかくビルが頑張っているのだ、早く行ってしまおう。

「Iris, come on(イリス、行こうか)」

 イリスに手を差し出すと、イリスが笑顔で握り返してくれる。

 そしてそのまま礼拝堂を出ようと扉に向かって歩き出したその時、イリスが後ろを振り返って大きな声で叫んだ。

「I have a dream! The dream where everyone can eat happily and smile unhesitantly!(私には夢があるの! それは、またいつの日かみんなと何の気兼ねもなく、笑顔で、楽しく食事をすることよ!)」

 これは・・・。

「I have a dream! That one day all the people who sold us, all the people who buy us, and everyone here will eat on the same table together with unconstrained smiles!(私には夢があるの! それは、またいつの日か私たちを売った祖国の人たちと、私たちを買ったこの国の人たちと、ここにいるみんなと、何の気兼ねもなく、笑顔で、楽しく食事をすることよ!)」

 知っていて言っているのかと思うくらい似ていた。

 知っているはずはない・・・。

 キング牧師、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア。アメリカ合衆国のプロテスタントバプテスト派の牧師。

 きっと多くの人が知っているだろう、聞いたことがあるだろう。何処で聞いてのか分からなくても、誰が言ったのか分からなくても、意味が分からなくても・・・。

『I Have a Dream』

 1963年8月28日午後4時前、キング牧師がリンカーン記念館の階段上にて約17分間にわたって演説した時の言葉である。


『I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.(私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。)』


 キング牧師の実際の演説の一部だ。やはり似ている。

 ただの偶然。今から約400年後の話である、イリスが知っているはずがないのだ。

「Therefore, wait for me!(だから、待っててね!)」

 元気にお別れの挨拶をするイリス。もしかしたらこの子は、いつか本当にとんでもないことをするのかもしれない。

「Let's go!(行こ!)」

 今度はイリスが俺の手を引いて歩き出す。イリスは俺を引っ張って扉の前に立ち、自分で扉を開いて外へ飛び出していった。

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