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お久しぶりです

 とっても気を抜いていたので思いっきりびっくりしてしまった。具体的に言うなら背筋を伸ばしてあごを引いてかちんと固まってしまった。

「・・・」

 だがしかし、その後に何も言葉が続いてこない。

 普通この流れなら「何者だ!」くらいは続きそうなものなのだが・・・。

「・・・」

 だからだ、当然声のした方、俺から見て左手の方向へ振り向いたのだが・・・。

「・・・」

 そこには、はっきりと言ってしまえば無様に組み伏せられた、みっちーではなく明智光秀がいた。

 光秀が地面に倒された音さえ聞こえなかった。声が聞こえ、びっくりして一瞬固まってしまった後、振り向いたその時にはすでに俺の眼下に・・・何度も言ってしまうが無様に転がされた明智光秀がいた。布か何かの猿ぐつわを噛まされ、両手を重ねた状態でつかまれ、おそらくは俺に知っている人物かどうかを判断させようと考えたのであろう髪を捕まれ前を向いた状態で地面に・・・縫い付けられたと言いたくなるような光秀がそこにいた。

 まあ言うまでもないが組み伏せているのは小太郎だ。他の三人、くーちゃんと向日葵がイリスをつれて俺の視界には、ではなく俺たちの視界には入らないところに隠れているようだ。イリスが光秀を見て何か叫び出したりしないかちょっと心配だ。

「・・・」

 とりあえず今どうなっているのか・・・を考えるにはいささかどころではなく情報が足りないか。

 だがしかし、だからといって目の前で険しい表情をしている光秀に、今の状況を尋ねるのもおかしい。なんだかいかにも敵を見ているような目だしな。

 いっそのことイリスに特攻をさせてみようかとも考えてしまったが、万が一にでも光秀が「おのれ邪教の信徒め~!」とか言い出さないとも限らないからには、やらせるわけにはいかない。

「「「・・・」」」

 とかこっちが必死になって考えていたというのに、だ。

「にゅ~?」

 光秀の顔を見ながら考えるのもなんだか気まずかったから、顎というか頬に手を当ててここから遠い未来、我らの地元に本拠地を置く某プロ野球球団でも選手やコーチとして活躍された○藤博さんのような格好をしながら考えていたため、いつの間にやら光秀の顔の隣にしゃがみ込んで頬をつんつんしているイリスに全く気がつかなかった。

「「「・・・」」」

 いったいどうしたものか。

 光秀のこの沈黙を、敵意がないととればいいのか、それともただあっけにとられているのか・・・わからぬ。

 そしてまた○藤博さんのような格好で考えていると。

「だー!」

 よくわからないが、急にイリスが草陰に向かって大きく手を上げながら「だー!」とか叫んでいる。

「おおー、やっぱりイリスちゃんに頼むのが一番手っ取り早かったね」

「貴久じゃあ考えるだけ無駄」

 そしてその叫びを合図にしたように、くーちゃんとひまわりが草陰から姿を現した・・・ん? どうして小太郎もそこから出てくるんだ?

 またもや気づかぬうちに小太郎が移動していた。今回は先ほどまで光秀を組み伏せていたという状況があったから、いつものただ単に突然移動するのよりもよっぽど驚いているのは内緒だ。

「ずいぶんと手荒い挨拶をありがとうな」

 小太郎が消えて自由になった光秀が、自力で立ち上がり猿ぐつわを外しながら話しかけてきた。

 顔には苦笑いを浮かべている。でもその声音にはわずかながらの不満は感じたが、怒りは感じられなかった。

 俺の感じでは、親友のちょっとした悪ふざけに笑いながら悪態をつく、といった風に感じられた。

「だがまあ・・・」

 そう言いながら、光秀がイリスを高い高いみたいな感じで抱き上げた。

「おー! ・・・お?」

「「「・・・」」」

 一瞬、空気が固まった。

「・・・イリスがこの様子なら、お前は俺の知っているお前で変わっていないんだなって言おうと思ったんだが・・・すまんがイリスの気持ちを日ノ本の言葉で俺に教えてくれ、複雑な気持ちだ」

 まああの状況で抱き上げたのなら、考えられるイリスの反応は「おおー!」とか言いながら万歳して喜ぶとかだろう。しかしながら今のイリスは、よく分からないが首をかしげて「にゅ?」みたいな顔をしている。光秀に聞かれずとも俺だって気になっている。

「イリス」

「にゅ~?」

 光秀に抱き上げられたままのイリスに・・・あー分かった気がしないでもない。今いつぞやのりょうのとっても失礼な言葉を思い出した。

 疑問はおおよそ解決したが、やはり本人に聞かず憶測で言うのはまずかろう。

 だからイリスと目線を会わせて話しかける。

「Were not you happy that you held?(抱っこは嬉しくなかったか?)」

 抱っこと言おうか高い高いと言おうか、ちょっと迷ったがまあどちらでも意味は通じよう。

「Hmm. I was happy, but I thought a cuddle wasn't high like a papa!(んー、嬉しいけれど、パパほど高くはないなって思った!)」

 笑顔で酷いことを言うな、イリス・・・も。

 話そうと思ってイリスと目線を合わせる必要がなかった時点で怪しいとは思った。そしてその瞬間に段蔵とりょうのやりとりを思い出した。

「たかいたか~い!」

「わーい! たかー・・・兄ちゃんほど高くないけどわーい!」

 あのやりとりは段蔵とりょうという組み合わせだから微笑ましく見れていただけで、他の気のおけない間柄でも何でもない人にそんな態度をとろうものなら、あまりにも申し訳ない。

「よし分かったとり、あえず俺にあまり聞かせたくないことなのはよく分かった、だからなにも言わなくていい」

 イリスの言葉が聞き取れた訳ではないようだが、とりあえず俺の反応を見て何となく聞かない方が良さそうだと言うことは感じ取ったようだ。きっと苦笑いか何かしているのだろう。

「それで、この人は誰かな? 貴久」

 挨拶がわりの・・・お芝居? まあ何でもいいか。

 光秀が俺に声をかけてからここまでの流れが一段落ついたと判断したのだろう。くーちゃんが結構鋭い感じのする笑顔で問いかけてきた。

 んー、俺からしたら敵意むき出しとでも言いたくなる表情ではあるのだが、それでも一応は笑顔で聞いてきているし、雰囲気的にも敵意や殺気は感じられない・・・普通に紹介するべきだろうか?

「えっと、まずはくーちゃん、こっちの男は光秀、明智光秀だ。前に尾張に来た時に礼拝堂で会ったんだ。尾張でくーちゃんに会うほんの少し前にな」

「ふーん。礼拝堂でってことは、天主教の教徒なのかな?」

「いや違う。表向きはな」

 表向きとか普通に言うあたり、もしかしたらばれたのかな? 俺が成政に言っちゃったからばれたのかな? まあいつまでも隠し通せはしなかっただろうからあまり気にはしないが。

「それで貴久、こちらの女性は?」

 何となく気安い感じがするが、光秀の感覚からしても俺は友達くらいのものなのだろう。だからこそ、その俺と親しいように見えているくーちゃんにも、同く友達のように接しようとしているのだろう。もしかしたら、くーちゃんの鋭い感じの笑顔も、光秀には緊張しているとか嫌われているとか、そんな感じに見えているのかもしれないな。

「この子はくーちゃん。俺の奥さんだ」

「なんと・・・すでにこれほど可愛らしい奥方を得ていたとは、うらやましい限りだな」

 はーっはっはっはーーー! いいぞいいぞ-! もっと羨ましがれ-!

 いやー実に気分がいい。どうしてだか分からないがくーちゃんを褒められるととっても気分がいい!

「そうだろうそうだろう、自慢の奥さんだもっと褒めてくれてかまわんぞ。でも手を出したりしたら殺すのは一度ではすまさんからな。六道輪廻を巡って何度でも殺してやるからな」

「ははは、そこまで愛し愛される仲とは、本当にうらやましい限りだ」

 そうだろうそうだ・・・愛し愛・・・される?

 そして気がついた。今にも普通の笑顔が崩れて蕩けきった表情になってしまいそうなのを必死になって堪えながら俺の腕に抱きついているくーちゃんに。

「パーリィー!」

 どこかの世界で奥州の独眼竜あたりが叫んでいそうな言葉が口をついて出た。なんだかこの叫びも久しぶりな気がして懐かしさも感じてしまう。

「・・・」

 犯人である向日葵が、視線だけでも容易に人を殺せてしまうのではないかと思えてしまうほどの殺意を感じさせる目で睨んできている。

「あ、焦るな向日葵・・・」

「・・・」

 恐らく頭の中では、祝言を挙げていない以上は自分は奥さんではない、みたいな感じでぎりぎり理性を保っているのだろう。しかしまともに反応を返さないのは、それなら北条も同じだろう、としっかりと分かっているからに違いない。

 ・・・詰まるところ、こうなってしまえば俺が安全にこの場をのりきる方法はひとつになってくるわけだ。

「それでだ、光秀。こっちの子は向日葵・・・俺の奥さんだ」

 「それでいい」そんな言葉を一つ頷くだけで示した向日葵は、落ち着いて見せてはいるが、顔を真っ赤に染めながら、ゆっくりと落ち着いた感じで、しかしながらやっぱり顔はくーちゃんと同じく蕩けてしまいそうなほどの幸せに染めながら、俺に抱きついてきた。

「・・・やっぱり、とか言ってはいけないんだろうな」

「そう言ってくれないなら助かる」

 どうしてこの件で、とか言いたくもなるが、恐らくくーちゃんの顔に見覚えがあったのだろう。

 くーちゃんと言う確証はなかったが、その後の俺の対応を見て、そして後は噂と照らし合わせてと言ったところだろう。

 最初にくーちゃんに友達っぽく気安い感じで声をかけたのは、とりあえず何かあっても俺の友達って感じで逃げようとしたのか、もしくは組み伏せられた意趣返しかってところだろう。

 でまあいったい何の話をしているのかといえば、俺が誰なのかという話である。

 前に尾張に来た時、俺は光秀に景虎や晴信の夫である加藤貴久ではないと言った。それが今、前に来た時にでも顔を覚えておいたのであろう北条氏政が、違うとは言っていたが加藤貴久の奥さんであると言っている。恐らく、俺とくーちゃん、北条氏政との縁談は、北条氏康殿が声高らかに吹聴しているであろうこともあって耳に入っているのだろう。結果、俺が景虎や晴信の夫である・・・いや、景虎と晴信とくーちゃん、そして向日葵の夫である加藤貴久・・・力と言うのは言い過ぎかもしれないが影響力のある加藤貴久であると考えたのだろう。

「それで、あんたはどうしてこんなところに来たんだ?」

 おっといけない、俺が奥さんがどうのこうのと考えていたら、どうしてここに地下に潜ってまで来たのかと言うことがすっかり頭から抜け落ちていた。

「えっとだな、たまたまこっちに来る用事があって、ついでにと思ってルイス様達に会いに礼拝堂へ行ったんだ。そしたらな・・・まあここに着いたわけだ」

 一応地下通路を通ったみたいなところは言わないでおく。意味はあまりないだろうが、それでも光秀がルイス様達の味方であるかどうかがまだ分からない以上は、あっさりと地下通路の話をするのもまずかろう。

「・・・会ってどうするんだ」

 うむ、味方だな。

 隠そうとしていないのか効果があると踏んだのか、光秀が少しばかり顔を険しくしてきた。警戒しているのか何なのか・・・怖くはないがこっちも身構えてしまう。

「どうもしないさ。今のところは、ただ会って、イリスの気が済んだら発とうと思っているよ」

 ん~、イリスの気が済んだら、か。イリスのためとかなんだかんだ言いながら、本当は、俺がイリスの笑顔が見たかったとか、そんな自己満足のような気もかなりしてきている。

「・・・ま、お前のことは信じているからいいけどさ・・・こっちにもこっちの都合ってものがあるんだ。悪いんだが、今回は諦めてくれ」

 そんな言い方をされてしまうと「いったい何があったんだ!」とかすご~く聞きたくなるんだが? これはむしろ聞いて欲しいのか? そう解釈して・・・いいのかもしれないが、聞く必要はなさそうだ。

「Iris!(イリスだ!)」

 いつだったか聞いたことがあるようなないような? そんな声が場に響いた。

 未だに分からないが、恐らくお寺だと思われる建物のえんから、小さな異国の女の子がイリスを指さして叫んでいた。

「Oh dear. It is really Iris.(あらあら、本当にイリスちゃんですね)」

 そして続いて出てきたのは・・・なんだか懐かしさを感じる笑顔だった。

 金色・・・よりは少し淡い、クリーム色? カスタード色? いや栗色が近いだろうか。イリスの金色のように激しく自己主張したりはしない落ち着きのある優しい栗色の髪。肌の色は白人ほど薄くなければ黄色人ほど濃くもない肌色。微笑みをたたえる顔にくっついている少しばかり垂れているたれ目が優しそうな印象を与えてくれる。

「It's been a long time, it is Lewis.(お久しぶりです、ルイス様)」

 はて、この態度が正しいのかどうかは分からないが、自然と頭が下がってしまった。結構深く腰を折った。

「Oh? Oh, it is good! You are Takahisa whom Iris took to!(まあ? まあまあまあ! あなたはイリスが懐いていた貴久様ですね!)」

 掌を胸の前でそっと合わせて、顔には驚きなどではなく嬉しさだけをいっぱいに貼り付けて、ルイス様が俺の名前を呼んできた。覚えていてくださったとは・・・とても嬉しい。

「Pastor!(ルイス様~!)」

 そして、ルイス様の姿を見つけたイリスがぴょんぴょん跳ねながらルイス様に近づいていく。

「・・・諦めるもへったくれもないな」

 光秀が苦笑いで堪えている。頭の中では何かしらの厄介事をどう片付けたものかと思案しているのだろうが・・・まあこっちはこっちでやることをやっておこう。

「ぎゅー!」

 ・・・気のせいではあるまい。ルイス様に抱き上げられ、ぎゅーっと抱きついているイリスの顔が、まともに見えないくらいに埋まっている・・・まあ何に埋まっているかって・・・。

「「・・・」」

 簡単に察することのできる理由で、めらめらと黒い炎を背後に立ち上らせているくーちゃんと向日葵・・・まあ要するに胸がぽよんぽよんなわけですよはい。

「大丈夫・・・大丈夫・・・そうだよ、貴久は小さい方が好みなんだし・・・そうさあんな肉の塊なんてあるだけ邪魔なだけだよ」

 別に小さい方が好みとかそんなわけではないのだが・・・言ったら痛そうだし言わない。

 それにしても、くーちゃんとしても・・・と言うよりも、やっぱり女性としては胸は大きい方が正義とかそんなものなのだろうか?

「・・・・・・・・・・・・切り落とせばすむ話」

 この子は物騒でいけない。

 仕方がないからなのか策略に乗っかったのか、とりあえず向日葵を抱き上げておく。満足そうな顔が少々腹立たしい・・・いや、可愛いな、うん。

「・・・これ、我慢しているからね?」

 ・・・後で何かしなくてはならないな。

 とりあえず、そんなくーちゃんのちょっとばかり頭の痛い悩みをぽっと頭の外に追いやり、向日葵を抱いたままルイス様の前へ。

「Did you lose weight?(痩せましたか?)」

 近づかなければ分からなかったのだが、ルイス様はちょっと痩せ・・・いや、はっきりと言うのならけてしまっている気がする。

 骨が浮いていると言うほどではないから、正確にはけるというのは言い過ぎなのだが、前に会った時の「柔らかい」と言う印象が、なんとなく「優しい」になった気がするのだ。

「Oh, does nothing appear even if you say such a thing?(あら、そんなことを言っても何も出ませんよ?)」

 優しそうな笑顔でそんなことを返してくるルイス様。恐らくは社交辞令とかそんな感じに捉えられたのだろう。

「ん?」

 そんな話をしていると、着物をくいくいと引っ張られる感覚が?

「・・・」

「Hungry(お腹すいた)」

 ちょっと深刻な事態な予感がする。

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