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無茶

「手を貸すのは構わないよ、貴久がそうしたいのなら」

 小太郎の笑顔に、ある意味ころっとやられてしまった俺・・・たちだが、まああまりその事を話していても得るものがないと諦めたのかなんなのか、存外早く追求と言うか尋問と言うかが終わった。

 輪になってみんながみんなを見られる状態で・・・話し始めるのはまあいつも通り。そして・・・。

「で、だよ貴久」

 こうしてずずいっと前のめりになって俺に迫ってきたくーちゃんを皮切りに。

「今貴久が、具体的に何をどうやって手を貸そうと考えているのか聞かせて」

 同じくずずいっと迫ってきた向日葵によって輪が壊れてしまうのもまあいつも通りだ。

 ついでにもう一つ、イリスが俺の膝の上に座ってにこにこしているのもだいたいいつも通りである。話の内容なんてわかってはいないだろうが、それでもイリスだって話を聞く権利はあるし、仲間はずれにするなんて間違っている。何より、イリスから遠慮するならともかく、俺たちからイリスを外すなんてそんな寂しいことはしたくないしな。

「えっと・・・だな・・・」

「先に言っておくけれど」

「もしも信長を嫁にしようだなんて考えているのなら」

「間違いなくお二人に刺されるでしょうね」

 ・・・気のせいではないのだろう。くーちゃんと向日葵の言葉に当たり前の様に小太郎が混ざり、二人がそれを不思議に思うこともなく当たり前の様に受け入れている、これはみんなが言う頭のおかしい人がまた一人増えたことを意味しているに違いない。

「・・・そうするつもりはない」

 まあ信じてもらえてはいないのだろうな。みんなの目が座っているような気がする。じと~っとしているような気がする。

「一応今のところ何をしたらいいのかなんてことは分かっていない。できることと言うのなら、信長を尾張に送り届けるってことくらいなら考えはした」

 送る、つまるところ護衛とでも言い換えようか。

 だが実際のところ、信長だってここまで護衛の一人もつけずに一人でここまで来たと言うわけでもあるまい。となれば、何も俺達が護衛をする意味などないわけだ。

「あー・・・でも護衛と言う名目で尾張まで行っちゃうのもないことはないか~」

「そこから西へ進めるのか、それとも東へ返されるのかが問題ではありますが」

「清洲まで送ってしまえばこっちのものでしょ。こんな時にわざわざ国外れまで送ってなんてくれないだろうしさ」

 なるほどなるほど、確かに信長を清洲にまで送ってしまえば、美濃路を通って墨俣、美濃まではすぐだ。尾張国を出てさえしまえば、どこへ行こうとむこうは手を出せまい。

「くーちゃんの考えは、その通りに進めばそれはそれでいいかもしれないけれど、やっぱり一緒に行くのは危険の方が大きいし、そもそも信長本人だって、今は尾張に入れるかどうかだって怪しい」

「そうだねー、まあどっちにしても、尾張じゃなくて目の前の本田勢に渡したらそこで終わり、とてもでは言わないけど尾張まではいけないだろうね」

「そこまで行ければ、我々の事情を知っている織田殿でしたら、お礼をするなりなんなりと言って清州に招くのではないでしょうか?」

 なんだかんだと言っても、今の尾張での最高権力者は織田信長、これは間違いない。それならば、本田のところなりなんなり味方のいるところに戻してあげさえすれば悪いようにはされない、と考えることもできるか。

「無理、だって今目の前に来ているのは本田、織田じゃない。信長を送り届けても、下手をしたら偽物だって切られて終わりかもしれない。よしんばそこまではうまくいったとしても、その後私たちを尾張にいれるようなことはない」

「やっぱりそうだよねー」

 んー、三人の話している内容は理解できているのだが、だからと言って俺は話し合いに参加できるほどの知識やそれをもとに案を考える頭を持ち合わせていない。悔しいが、ここはみんなの案を聞いて、良いと思った案と悪いと思った案についてだけ詳しく聞いていくとしよう。

「ではこのまま本田と松平で戦を始めさせますか?」

「信長のやろうとしていること、貴久のしたい信長の手伝い、戦をすると言うよりは、戦で織田を勝たせるって言うのが、二人のやりたいことに合っているのかもしれないね」

 わかっているからだろう、くーちゃんがさらりとそんなことを言う。

「でもそれは貴久が望まない、戦は論外」

 向日葵がすぐに俺の気持ちを言い当てる。

 小太郎の方も、もともとこの案が通るとは思っていなかったのだろう、特に反論も何もしてこない。

「できることねー・・・何かあるのかな?」

 あ、くーちゃんが投げ出した。

 本当に何も思い付かないのか、それともただ面倒くさくなっただけなのか、考えるのを放棄しましたと言わんばかりに、大の字に寝転んで目を閉じてしまった。

「何もないのでしたら、加藤殿が始めに言った、織田を尾張まで護衛するという事でよろしいのではないですか?」

「たぶん護衛すると言いつつも、私達が織田に護衛されて清洲に行くことになると思う」

 たぶん向日葵の言う通りなんだろうな。できるかできないかは置いておいて、信長の護衛として尾張なり清州なりへ行くと言うことは、俺たちからしてみれば織田家の当主に守られながら尾張の国を抜けることに他ならないだろう。

「でも他に何も思いつかないんでしょ? だったらそれでいいんじゃない?」

「尾張に戻ったら、後は信長がどうにかすればいい。それができないようならそこまでの人物だったと言うだけのこと」

 向日葵のなかなかに手厳しい言葉に少しばかり胸が痛んだような気もするが、それができなければ生き残れない、今俺がいるのはそう言うところなんだと言うことは分かってはいる。

 だからこそ、俺も今こうしてあがいているのだ。自分の生きたいように生きるために。

「それじゃあ、家康に話しにいかないといけなんだっけ? さっさと済ませてこようか」

 くーちゃんが大きく勢いをつけて立ち上がりつつも、面倒くさいですと言わんばかりに眠たげな目をしながら頭をかいている。

 くーちゃんからしたら余計な面倒事に自ら首を突っ込みに行くようなものだしな、正直に言えば見て見ぬふりでもして素通りしておきたいところなのだろう。

「面倒ならついてこなくてもいいんだよ」

「嫌だよ、それでまた面倒なことになったら困るもん。今度はついて行ってその場で一緒に考えるよ」

 一緒にいてくれることは頼もしいと思えるのだが、それと一緒に、何かしでかしそうだと言う不安も付いて来てしまうのは、仕方がないことだと諦めるより他にないのだろうか。

「あーそれともう一つ、ついて行くのを駄目とは言わせないよ。もしも城に着いてから何か言われても、貴久が何とかしてよね・・・我儘、聞いてくれるんでしょ」

 ・・・こんなところでこんな我儘を言われても・・・。

「そんなこと、我儘だとは思えないけどな~」

 そんな風にわざわざ我儘だなんて宣言しなくても、一言だけ、普通に「ついて行く」とさえ言ってくれれば、俺もくーちゃんがついて来ることには賛成するし、相手が何と言ってこようと認めさせるつもりだった。最悪、松平のことを無視して信長について行くだけのことだしな。

「当然、今度は私もついて行くから」

 向日葵のこれは当然とでもいうかなんというか・・・当然の一言で終わりか。

「私もついて行きますので、そうなると必然的にイリスちゃんも一緒に行くことになりますね」

 小太郎の場合はこれが役割か。自分の主とその主が夫と言う男が同じ場所に行くのだ、これについて行かずして護衛と言うのもおかしな話だ。

 そうなると残っているのは俺の膝の上で内容なんて全く分かっていないのににこにこと笑顔で話を聞いているイリスだけになる。

 向日葵は何と言っても残ってくれるとは思えないし、護衛と言う意味合いで小太郎を残していくこともできない。そうなればもう、イリスは連れて行くしかないわけだ。

「よし、行こうか」

 言いながらイリスをひょいと抱き上げて肩車する。

「たかーい!」

 うむうむ、イリスは可愛いな~。

 肩車でこれだけ無邪気にはしゃいでいるイリスを見ると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

「貴久、私も」

 ここですかさず自分もとねだってくる向日葵だが、残念ながらもう俺の肩の上は満席だ。

「向日葵は帰りな、とりあえず行きの間は我慢してくれ」

 かなり不満そうな顔をしながらも、とりあえずは我慢してくれるのか、右腕につかまった状態で動かなくなった。

「・・・何も言わないでよ、絶対に何も言わないでね貴久! 今何か言ったら我儘言うからね!」

 どうやら乗る肩もつかまる腕もなくなってしまったくーちゃんはかなり不機嫌なようだ、刺激しないでおこう。

「じゃあ・・・行こうか」

 このくーちゃんの不満が、城に着いてから爆発したりしなければいいのだが・・・怖いな~。


「別にそんなことしてくれなくてもいいのに」

 城に着き、家康と信長の待つ部屋に通されて、さっそく考えを話した結果、信長から発せられた第一声がこれである。

 どことなく呆れたような、そんな声音で言ってくれたものだからもう心の臓にぐさりと言葉の刃が刺さるわけですよ。

「まあそんな風に返されることはなんとなく予想ができたんだけれどな、これ以外にいい考えも思いつかなくて」

 手を貸すだの手伝うだの言っておいてこのざまと言うのは・・・結構恥ずかしいな。

 思わず頭をかいてしまった。

 ・・・心なしか、信長の目が冷たいような気がする。

「まあ何でもいいわ、大方ついでに尾張を抜けておこうとかそんなところでしょ」

「分かっているなら話が早いね。その通りだよ、これでこっちは義理を果たせるし、そっちも本田だけにだけれど加藤と・・・まあ使ってほしくはないけれど北条の名前を使えるよ」

 名前を使えると言うのは、要するに自分にはこういう力があるんだぞって言っているようなものだからな。その代り使ってしまったら、自分はその力よりも下にいるって言っているようなものだから、使うならかなり慎重にならないといけない。

 しかも、何の力もない俺の名前ならともかく、北条の名前を使うのは、この場にいるくーちゃんと信長の独断で織田と北条が同盟を結ぶようなものだから、あまりお勧めはできない。何せ二人とも、今は相手どころか、自国のことだってどうなっているのか正確にわかっていないのだから。

「名前ねー・・・たぶん使うことなんてないと思うけれどね」

 信長が諦めた様にそんなこと吐き捨てる。

 なんとなくではない、はっきりとわかるくらいに嫌な予感がする。

「お兄さんが城を出たすぐ後のことです」

 そんな俺の表情を読み取ったからと言うわけではない、恐らくはもともと話すつもりであったのだろう、家康が俺が見てもわかるような、意識して作っていますとでも言いたげな無表情で話し始める。

「本田が侵攻してきた、と言うところまでお話しした通りなのですが・・・」

 家康は俺たちのことを見るでも何でもなく、ただ黙って自分の握りしめた拳を見つめている。

 わずかに震えるその手が表しているのは怒りか悲しみか、それとも羞恥なのか不安なのか。俺に見抜くことなんてできないが、こういう状況から察するに、恐らくは怒りか悲しみだろう。このうちのどちらなのかと言うところがとても大切なのだが。

「・・・安祥城あんしょうじょうが、すでに本田の手によって落とされました」

 安祥城、先の世で言うところの愛知県安城あんじょう市にある城だ。舌状台地ぜつじょうだいちの先端に位置し周囲を森と深田に囲まれていて、その内側に土塁や堀があり、天守を持たない平山城だった。

 このころの城主は・・・誰だろうか?

 俺の記憶ではこの頃の安祥城は今川家の城だったはずだ。今川氏の三河乗っ取りのために岡崎城と一緒に城代がおかれていた。

 だがその今川氏はすでにこの世にはなく、この地を治めているのはもう松平氏だ、さすがに史実にないことは俺には分からない。

「おやおや、さすがと言うのは嫌なんだけれど、さすが本田元亘だね、思い切りが良いとでも言うのかな、 猪とでも言い換えたいけれど」

「・・・私が油断したせいです」

 くーちゃんの落ち着いた声音で発せられる挑発が効いたのか、家康が言葉を詰まらせた。

「貴久は覚えていると思うけれども、本多忠勝って子がいたでしょ、実はあの子がその安祥城の城主だったんだけれどね、たまたま今こうして家康に会いに浜松城に来た時に・・・なのか、それともいないと分かっていたからか、そこを攻められちゃってね」

 知らなかった、まさかあの忠勝がすでに安祥城の城主にまでなっていたとは。

 関係があるかどうかわからないが、確か忠勝の父、忠高は第三次安城合戦で討ち死にしたんだったかな。

 わざわざそこに忠勝を置いたのか、それとも信頼から前線に置いたのか・・・まだ本多忠勝と言う人間を知らない俺にはなんとも言えないか。

「なるほどなるほど、同盟国だって油断して守りをおろそかにしたら攻め落とされたと・・・笑ってあげようか?」

 いやいやいや! くーちゃんはどうして家康に喧嘩を売っているんだよ!

「・・・・・・」

 うわ~・・・家康がものすごい無表情をしているのに、握りしめている拳がたぶん怒りから小刻みに震えてるよ、怖い。

「あははは! そんなに虐めないであげてよ」

 そしてその隣で信長はしっかりと笑っているし・・・家康よりも、周りにいる肝が据わりすぎている方々の方がよっぽど怖い。

「・・・ここは私の城ですよ」

「はいはい、ごめんなさいね」

「そんなに粋がってもね~」

 信長は形だけだが謝ったのに、くーちゃんの方はまだ思いっきり遊んでいるように見える。

 自分の方が上だと言っているのか本当に遊んでいるのか・・・どっちでもいいがとめておこうかな、怖いし。

「あまり無駄な話をしていないで、さっさと本田をどうするのか話せ。私はさっさと貴久といちゃいちゃしたい」

 向日葵も怖いもの知らずだな~・・・もう俺の心の臓は破裂寸前なんだが。

「・・・一応、信長様を捕らえているわけでも何でもない、信長様は用事が終わったら帰ると言っている・・・と言ってはみます。場合によっては信長様に直接出向いてもらうことも考えています」

 ところどころ言葉が途切れているのは、恐らく無理だろうとそう思っているからなのだろう。

 俺も、話して分かってもらえるような状態ではないと考えている。

 そもそもとして、相手は本田元亘と言うことになってはいるが、その本田元亘は家臣にいいように言われて攻めてきている。そんな状態では、いくら話をしても、信長がいるからと戦をやめてくれる可能性のある元亘に話が届く前に話を握りつぶされてしまうかもしれないし、仮に届いたとしてもいいように言いくるめられてしまう可能性が高い。直接会うことなどまず不可能と考えていいだろう。

「それで、当然戦支度はもう初めているんだろうね?」

 くーちゃんが何もかもを分かったうえで、一番可能性の高い現実を突きつける。すでに遊んでいるような雰囲気は消え失せていた。

 厳しい現実かもしれないが、残念ながら俺も、いったいどうしたらいいのかさっぱりわからない。

「まあこうなるわよね」

 涼し気な声音で発せられたそんな言葉が、場に響いた。

 その言葉の主である、こんな状況で、しかも自分が当事者だと言うのに、存外気楽に構えているのは信長だ。

「ずいぶんと気楽にしているな、何か考えがあるのか?」

 信長は真面目にならなければいけないところは真面目になる人間だ、だからこうしていると言うことは、何かしらこの事態を打開する策、もしくはできるかもしれない策を持っていると言うことだろう。

「まあ策と言うほどのことではないんだけれどね・・・」

 ・・・どうしてそう言いながら、俺を見ているその顔に笑みを浮かべた。

 わずかに口の端を持ち上げ、嫌な感じに細められた目は、俺に嫌な予感を与えるのには十分すぎる。

「この状況を何とかするには、要はひとまず私が尾張に帰る必要がある、もう少しいうなら、目の前の織田の軍勢の中に行く必要があるわけよ」

「・・・だからどうした俺を見てにやつくんじゃないさっさとその笑みをしまえ頼むから変なことを」

「手を貸してくれるんでしょ?」

「・・・言うならせめて、真面目な感じで頼む」

 先ほどの家康と同じく、言葉を詰まらせてしまった。

 どうやら俺が何かしなくてはいけないらしい。頼むから変なことを言わないでくれ。

「理由は知らないけれど、どうしてだかあの織田の軍勢の中に、三階菅笠の馬印があるみたいなのよ」

「・・・何が言いたい」

 いや、大方の予想は着いている、でもそれはあくまでも俺の予想に過ぎない、もしかしたら違うかもしれないのだ、だからこうして聞くことは無意味ではないはずだ。

「じゃあ言っちゃうけれど・・・あんたのどうしてだかわからないけれど、不自然なほどに女の子とうまくいくその力で、成政をここでもどこでもいいから、私と話ができるところに呼んできなさい。後はこっちでうまくやるわ」

 こっちの要求通り、真面目な目に真面目な声音で、背筋もぴんと伸ばして言ってくれたことにはそれなりの対応をしようと思うのだが・・・。

「無茶を言うな」

 当たり前の様に俺自身の力でどうにかなるようなことではないことを要求しないでほしい。

 だからこうして、それなりの対応を差っ引いてもなおこぼれてしまうため息を、信長が止める権利などないと思うわけだ。

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