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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第二章
9/25

マケス大陸と別大陸

正月やなんやで更新が遅れました。申し訳ありません!

あと、若干風邪気味なので、今回は短めです

 突如現れた謎の男と和人。彼らは、セシリアたちから少し離れたところで話し込んでいて、会話の内容はセシリアたちには聞こえない。しかし雰囲気で、彼らの会話がひと段落したことを悟ったセシリアは、ゆっくりと腰を上げた。

 和人は命の恩人だ。命を救われた相手に、お礼のひとつも言わないことは、一国の王女としての沽券に係わる。登場の仕方から言っても、あの二人はミリシア皇国の人間ではないだろう。自国の恥をこれ以上さらす気はなかった。

 同じように考えたのか、フィアーゼも横で立ち上がろうとしている。そのぼろぼろの体に手を貸して、セシリアとフィアーゼは、互いに支え合うように、和人たちのもとへ歩を進めた。


「……で、俺はそこにいる竜を使い魔にしたってわけだ」


 どうやら和人が、白衣の男に状況を説明していたらしい、と思ったところで、和人がくるりとセシリアたちの方を振りむいた。ほぼ同時に、白衣の男が軽く頭を下げてくる。


「初めまして、僕は木崎清人と言います」


 白衣の男――木崎の言葉に、セシリアは深く一礼した。


「あ、お初にお目にかかります。私はセシリア。ミリシア皇国第一皇女、マケスター・エス・セシリアと申します。助けていただき、本当にありがとうございます」


 言って顔を上げる――が、隣のフィアーゼが続かない。


「ほら、フィアも……」


 小声で促そうとしたセシリアは、フィアーゼの顔を見て固まった。


「フ、フィア……?」


 フィアーゼはまるで敵を見るかのような顔で、目の前の二人を見ていた。いつ拾ったのか、細身のレイピアに手を置き、いつでも抜けるようにしている。

 そして、フィアーゼがぽつりと言った。


「……魔王の仔」

「えっ?」


 あわててセシリアが和人と木崎の顔を見る。と同時に、先ほど和人の顔を見たときに感じた違和感の正体が明らかになった。

 和人と木崎の瞳は、左目が赤色、そして右目が黒色だった。


マケス大陸には、五つの国が存在する。

 最南端に位置する最古の王国・ミリシア皇国。

 そのミリシア皇国と北の国境で通じる、貿易国家・スイパ国。

 ミリシア、スイパ両国との国境を、大陸最大の山脈である竜背山脈で隔てた超武装国家・オレス帝国。

 そのオレスと唯一親交の深いキューバス共和国。

 そして最北に位置する、守護の国・キール護国。

 キール護国の北にも土地はあるのだが、そこは年中氷が張っており、さらに強力な魔物が跋扈しているため、人が住むことは不可能とされている。

 正確に言えば、この五つの国以外にも独立国家を名乗っている国はあるのだが、どの国も「国」と呼べるほど行政が安定していない。よって自他ともに「国」として認められるのは、五つしかない。

 人呼んで、五大国である。

 さて、この五大国だが、敵対していたり親交があったり、あるいはどっちつかずであったりと、複雑な国家関係を持っているのだが、スパイというものは全く存在しない。

 理由は簡単。すぐにばれるからだ。

 マケス大陸内では、交易の自由化のために言語は統一されているのだが、たった一つ、国ごとに大きく違うものがある。瞳の色である。

 ミリシアは蒼。スイパは黄。オレスは赤。キューバスは茶。そして盲目の国・キール。

 五大国は移民などを厳しく取り締まっており、他国籍間での婚姻も認められないので、色が混ざることもない。よって、マケス大陸に生まれついた者は、産まれながらにして所属する国が決められているのだ。

 しかし過去に一度――一度だけ、例外となった人物がいる。

 いや、『人物』と表現してしまうのは、少し拙速が過ぎるかもしれない。それは、果たして人なのか、獣なのか、はたまた魔物であるのかさえも、定かではないのだから。

 蒼、黄、赤、茶、盲目のいずれにも属さない、まるで濡れたように黒い双眸を持っていた人物。それは太古の昔、圧倒的な力をもって大陸中を蹂躙し、ミリシア以外のすべての国家を軒並みつぶした伝説の魔王その人であった。

 今現在、マケス大陸最古の文献は、一千年ほど前に書かれた『大陸録』である、とされているが、それは間違いだ。

 本当の最古の文献は、ミリシアの南の端にある『聖塔』と呼ばれる建物に置かれている。

 その書物の表題は『魔牙覇征記(まがはせいき)』。しかしその存在は、ミリシアの王族と、一部の貴族にしか知られていない。

 この書物が一般に公開されていない理由は、その内容によるものだった。

 『魔牙覇征記』に記されているのは(暗号化されているため、すべてを解読しきったわけではないが)、魔王の侵攻についてだ。

 現在のキール護国の北、様々な魔物が跋扈する北の『極氷の地』で挙兵した魔王は、数多くの魔物を配下として大陸を蹂躙した。その魔王が進んだ進路、および、その力などを『魔牙覇征記』は記している。

 魔王に魅せられ、生涯をかけて魔王に仕えたという人間が、日記調で描いた『魔牙覇征記』の中に、魔王の容姿に対してこのような一文がある。

“わが**様は、人間どもに「魔王」などと称されておられるが、その容姿は我々人間と非常によく似通っていらっしゃる。目は二つ、鼻は一つ、耳は二つ。すべてが人間と同じようについていて、「人間だ」とおっしゃられれば、まったくもってその通りに見える。

 ただ一つ、わが**様と人間とで、決定的に違うものが一つある。

 瞳の色である。

 わが**様は、まるでこの世の闇を覗き込んだような、深い黒の瞳をもっていらっしゃる。それが、**様と我々との、決定的な違いであるのだ。”

 このように、歴史上、黒の双眸を持った者は魔王ただ一人。しかし、片目だけが黒色の人物は、非常にまれではあるが存在した。

 魔王が実在したことを知る者は少ないが、魔王の瞳が黒だった、という事実を知る者は多い。おとぎ話にしっかりとそれが記述されているためである。そのため、黒色の瞳を持つ者たちは、魔王の因子を受け継ぐもの――『魔王の仔』と呼ばれ、魔王予備軍として一般の人々に弾圧された。そのため、十八歳の成人となるまで成長できた者は存在しない。それどころか、親からも忌避される場合が多いため、歳が十を数えるのも稀なことだ。

 しかし今、セシリアたちの前に二人、片目が黒色の人物がいる。そのうえ、木崎の方はおそらく成人しているだろう。もしかしたら和人の方も十八歳を越えているかもしれない。

 大陸の人々――特にミリシア皇国の王族や貴族からすれば、魔王というものは悪の象徴のようなものであり、フィアーゼが剣を構えたのも、当然のことと言える。

 しかし、セシリアたちが和人に命を助けられたのも事実である。セシリアはそっと、フィアーゼの手を抑えて、和人たちに向き直った。


「申し訳ございません。彼女はマクミリアン・フィアーゼ。騎士見習い――とでも言いましょうか。戦いのあとで、少し殺気立ってるようです」

「あーいや、それは気にしないんだけど――」


 控えめに頭を下げると、和人が少し訝しげな口調で尋ねてきた。


「その子はさっきまで、そんなに殺気だってなかったよね?なんで急に、そんな風になったのかな?俺たちが、そんな失礼なことした?」

「和人くん、それを言うなら、今の君の態度が失礼だよ。相手は一国のお姫様なんだから」

「っと、そうか……ご無礼をお詫びします。なにか、こちらに非礼があったのでしょうか?」


 和人が発言を訂正すると、木崎も不思議そうにこちらを見てくる。どうやらこの二人は『魔王の仔』に関わるしがらみを知らないようだ。


(それもそうか)


 とセシリアは内心頷く。もし、それを知れるような環境にいたのなら、彼らはもうこの世にいないだろう。彼らの出身地は瞳の色から見るにオレス帝国のようだが、とてつもなく辺境の地域にいたのか、もしかしたら、世を忍んで生きている者を親として、産まれてきたのかもしれない。

 それを考えると、彼らはこのまま、知らずに生きていくことが幸せなのかもしれない。しかし、一国の王女であるセシリアを助けてしまった以上、彼らは世間に出ることになる。今かくしておいても、その時に思い知ることになるのは間違いない。

 それならば、今ここで説明しておくことがこの二人のためになるはずだ。そう判断したセシリアは、二人に向かって説明を始めた。自分の知りうるすべての情報を、何一つ欠かすことなく話す。一般には伏せられている魔王の存在やそれに関わる瞳の問題も、それを破ったベルセリオスのことも、自分たちがここでベルセに襲われていたこともすべて話す。

 和人と木崎は真剣な表情でセシリアの語りを聞いていたが、セシリアが語り終わると同時に、互いに顔を見合わせた。その表情は、一様に硬い。

 そうだろうな、とセシリアは同情にも似た感情で、目の前の二人を見た。自らが理由もなく弾圧される存在だと分かったわけだ。動揺するな、というほうが無茶だ。

 セシリアが同情のまなざしを二人に向けていたのは、そう長い時間ではなかった。木崎がこちらに視線を向けて口を開いたからだ。


「実はですね」

「はい」

「僕たちは、この大陸の外から来た者なんですよ」

「………………は?」


 思わず呆ける。大陸の外、という言葉が頭に浸透するのに、時間がかかったせいだ。


「マケス大陸の外には、別の大陸が存在し、我々と同じように人が生活している」という意見は、学者たちの間では、長く支持されてきた意見だ。しかしそれを試したものは少ない。

 目には見えないもの――存在すらも定かではないものを見つけるために、今ある暮らしや立場なんかを捨てようと思える人物はそう多くない。大陸内のことだけでいっぱいいっぱいの国からの支援はないので、航海が困難を極めることは目に見えている。

 もちろん、そのようなことは一切無視して、大陸の外の大海原に飛び出した勇気の持ち主は存在する。しかし、彼らの大半は航海に耐えきれずに、再び舞い戻ってきてしまった。残りの少数の行方は知れない。別大陸に居ついたのでは、という楽観的な意見もあるが、帰らぬ人となった、というのが一般的に言われている『常識』である。

 学者たちは別大陸を、その存在への憧れをもって『理想郷(ユートピア)』と呼んでいる。

 自分たちはそのユートピアから来た人物である、と木崎は言ったわけだ。セシリアが一瞬固まったのも無理はない。


「大陸の外、ですか」

「はい……失礼ですが、セシリア様とお呼びしても?」

「あ、はい。構いません」

「では……セシリア様は、大陸の外に出られたことは?」

「いえ、ありません。おそらく、大陸の外に出た者は、この大陸にはいないと思います」

「へえ」


 木崎の目が、妖しく光った気がして、セシリアは訝しげに木崎を見上げたが、木崎は先ほどと変わらず真面目な表情のまま、セシリアを見つめ返してきた。


「セシリア様」

「あ、はい」


 木崎の目に意識を向けていたセシリアは、一瞬だけ、木崎の言葉に反応できなかった。その意識の隙間に、するりと木崎の言葉が入り込む。

 その言葉は、セシリアにさらなる混乱をもたらした。


「実はですね……僕たちは、こことは違う大陸の騎士なんですよ」


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