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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第四章
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21/25

状況確認

お待たせしてすみません

とりあえず、本編をどうぞ

「……そうか、それはすまなかった」


 セシリアの説明を聞いたオードは、和人や木崎が拍子抜けするほど素直にそれを信じた。

 場所は先程までセシリアたちが捉えられていたテントの中。セシリアの一声で、ひとまず剣を納めたオードに、これまでの経緯を説明したところだ。

和人たちが別大陸から来たと聞いた時のセシリアやフィアーゼの反応から見て、木崎の騙った設定は、かなり無茶があるものだと思っていたが、そうではないのだろうか。

 そこまで考えて、和人は


(いや、違うな……)


と内心思った。

 オードの瞳から、警戒の色が抜けていない。今は皇女の手前、その判断に従うが、個人的に和人たちに気を許したわけではない、と言うことだろう。むしろ、少しでも変な真似をしたら、即座に叩き斬られそうだ。

 警戒心が強いのは、親子共通らしい。和人が自分のことを棚に上げてそんなことを考えていると、そこで初めて、フィアーゼが口を開いた。


「……ところで父上」

「なんだ?」

「レルクルのラムダールが包囲されたと聞いたのですが……本当ですか?」


 確かに、と和人はフィアーゼの疑問に頷いた。

 先ほど本人とフィアーゼから聞いたのだが、オードは騎士団の団長らしい。そのような人物が、自分たちの本拠地が攻められているときに、王都から離れたこのような場所にいるとは、考えにくい。

 しかし同時に、王都レルクルが攻められていない、と言うのも妙である。今しがた壊滅させたオレス軍の説明がつかなくなるからだ。

 この場にいる全員のいぶかしげな視線を受けて、オードは言った。


「オレス軍は、馬鹿らしいほど多くの兵を引き連れていたが、その練度はひどい物でな。一度、数に物を言わせて攻めてきたが、まったく話にならんかった」


 農民を駆り出し、数で戦うオレス。十二騎士団を常備軍とし、有事の際には傭兵や冒険者などの、戦闘を生業としたものを雇う、いわば少数精鋭型のミリシア。

 両極端な両軍の決着は、今回は後者に軍配が上がったらしい。


「それで、オレスの方も懲りたようで、セシリア様を捕らえる部隊の成果を待つことにしたらしい。今も一応包囲はしているが、攻めてくる気はなさそうだ」


 オードはそう言って「だから、」と続けた。


「オレス軍が気を抜いている間に、私がセシリア様を守るように仰せつかったというわけだ。――まあ、結果として間に合ってなかったがな」


 オードは自嘲気味に笑うと、すぐに表情を引き締めて、今度は和人達に鋭い視線を送った。


「ところで、別大陸の騎士殿とやら。我が国の皇女様を敵軍に引き渡したのは、何か意味があって――それも、こちらが納得できる意味があってなのでしょうな」


 肝の小さい者ならば、口を開けなくなってもおかしくない視線を受けて、しかし平然と「はい、もちろんです」と答えたのは、和人ではなく木崎だった。

 オードは自分の殺気一歩手前の視線を、いかにも学者然とした男に受け流されて少し目を細めたが、それを口に出すことはなく尋ねた。


「して、その意味とは?」

「はい。まず前提としてですが、和人くんは剣を武器にした五百程度の敵なら、一人で何とかしてしまいます。――まあ、敵の力量にもよりますけどね」

「……冗談ではなさそうですな」

「ええ、冗談はあまり好きではないのです。もちろん、五百人が五百人とも死に物狂いでかかってきたら、それは厳しいでしょう。今回のように、戦意の低い相手だからこそ、言えることです」


 木崎の台詞に、オードがいぶかしげに眉をひそめた。


「その言い方だと、まるで戦う前から敵が戦意の低いことが分かっていたようだが……」

「はい。それに関しては、こちらにもそれなりの確信がありましたから」

「確信?」

「ええ」


 木崎は頷くと、芝居っ気たっぷりに、指を一本立てた。「セシリア様から聞いたのですが、今回の竜討伐隊の人数は三十人弱。さらに、伝説の竜とやり合うというのですから、その人数を減らしていることは想像に難くない。――実際、和人くんがいなかったら、文字通り全滅していたんですからね」

 嫌味にも聞こえるセリフを、一切の棘を含まずにしゃべれるのが、木崎のすごいところだ。和人が妙な部分に感心してる間に、木崎の説明は続く。


「それに対して、オレス軍の用意した兵力は五百。明らかに過剰戦力です。まあ、万全を期したのでしょう」

「つまり、何が言いたい」


 取り繕うことをやめたオードの低い声に、木崎は表情を崩さず言った。


「つまり、兵の誰もが成功を疑っていなかったわけです。苦戦するなんて、これっぽっちも考えちゃいなかった。当然、オレス兵たちに命を懸ける気なんて、さらさらない。そんな時に想定外の事態が起きたら、そりゃあ浮き足立ちますよ。子供の遠足に、猛獣が襲い掛かったみたいなもんです」


 木崎の最後の比喩に、和人は少しふきだした。オードはそれを不愉快そうに横目で見て、ゆっくりと頷く。


「なるほど、理にかなった考えではあるな」

「恐縮です」


 木崎が頭も下げずにそう返すと、オードは「で?」と、語調を改めた。


「仮にその前提とやらが正しいとして、だ。それならば、なぜ和人殿をぶつけなかったんだ?」

「不確定要素があったもので」

「それは?」

「魔導士です」


 木崎は真顔のまま、そう答えた。


「先ほど話しましたが、我々の大陸には魔法がありません。よって、魔法がどのようなもので、どの程度脅威になり得るか――それが分からない以上、うかつに仕掛けるわけにはいかなかったんです」

「ふん、ならばどうするというのだ?」

「分断させればいいのです。一般兵と魔導士とを」


 どうと言うことでもない。そう言うように、木崎は軽く肩をすくめて見せた。その言葉に納得したように、オードが浅く顎を引く。


「それで、潜入か……」

「はい、その通りです」


 木崎はそう言って頷いた。

 簡単な話だ。人を動かすのは、味方だけ。敵がオレス兵だったことも、大きな要因だ。瞳の色が、信用を買うのに一役買うのだから。

 さらに言うならば、オレス兵の魔導士部隊の隊長を倒せていたのも、大きかった。それを餌に、敵の魔導士を敵部隊から引きはがすことができたのだ。

 木崎がたてた策は、シンプルそのものだった。

 フィアーゼとセシリアを捕らえ、さらに瞳の色を利用して、オレス軍に取り入る。内部で一定の信頼を得たら、魔導士を引きはがす。その後、敵の力量しだいでは殲滅。それが無理そうであるなら、セシリアたちを連れて、一時撤退する。

 細かく見れば、粗削りで穴の多い作戦だが、あの一種追いつめられた状況下では、仕方ないことだと言えるだろう。

 なんにせよ「勝てば官軍」である。たらればを言い出せばキリがない。残るのは、セシリアたちを怪我させることなく、五百ものオレス軍を追い払った、と言う事実だけだ。

 それが分かっているのだろう。オードは明らかに粗削りな感が否めない木崎の策については、一切言及しなかった。代わりにオードが、「最後になるが――」と言って口を開く。


「――もし、オレス兵の練度が高く、さらに逃げることすらできなかったら、どうするつもりだったのだ」


 ここで初めて、木崎が一瞬言葉を詰まらせた。それはほんの一瞬。困ったわけではない。はっきりと答えていいものか、迷ったのだ。

 その一瞬の沈黙を埋めたのは、黙したままだった和人だった。


「当然、そのままオレス軍にいたでしょうね。あなた方とは敵同士です」

「セシリア様は?」

「見捨てたでしょう」

「っ!――貴様!」

「勘違いしないでいただきたいのですが――」


 怒気を発したオードを遮って、和人は言った。


「私たちはセシリア様に仕えているわけではありません」

「……」

「こちらとしては、必ずしもあなた方に味方する必要がないわけです。たまたま、こちらで最初に出会ったのがセシリア様たちだった。それだけです。自国の皇女を大切にする気持ちはわかりますが、こちらに押し付けられても迷惑です」


 言い終えてから、和人はゆっくりとオードを見た。


(怒るかな?)


 棘のある言い方をしたのはわざとだ。これにどういう反応を示すか。それで、オードという男を試すつもりだった。

 とはいっても、和人がオードに言ったのは、オブラートに包まない本音である。もしもミリシア皇国が和人たちを、まるで手下のように扱うつもりなら、即座に出ていくつもりだ。ミリシアに拘らずとも、ほかにも巨大な国家が四つはあるのだから。

 しかし、ミリシアに身を寄せるのがベストなのは確かだ。瞳の色で考えるならば、オレス帝国でもいいのだが、先ほど派手に喧嘩を売ったばかりであるため、頼りづらい。

 ミリシアには恩を売っている。言うまでもなく、セシリアの命を救ったことだ。こちらの世界に何のつてもない和人たちからすると、国――それも大国に貸しがあるというのは、とても大きい。この世界で生きていくための足がかりとして、是非とも利用したいところだ。

 しかし、かと言ってミリシアの機嫌を損ねぬように、ミリシアの顔色を伺うのも本末転倒である。この世界では異常で――異質な和人たちが、それでもこの世界で生きていこうとするなら、何かに頼ることはあっても、何かに頼むことがあってはならない。あくまで自立して生きていかなければならないのだ。

 果たしてミリシアは、自分と木崎が身を寄せるに足りるか。和人が見つめる中、オードはゆっくりと首を振った。


「……確かに、その通りだ。すまない、こちらも少し、気が立っていたようだ」


 オードはそう言って、生真面目な表情で和人を見た。「改めて、わが国の王女を救っていただき、礼を言う。本来ならば、すぐにでも然るべき礼を返すべきなのだが、ご存知のとおり、こちらの都合で少し立て込んでいる。申し訳ない」

 そう言って頭を下げるオードを見て、和人は内心「へえ……」と思った。


(頭は回るが、頑固ってやつかぁ……。こりゃあ、レアだな)


 今まであまり出会ったことのない人格の持ち主に、若干の興味を引かれる。

 まあ、しかしハズレではない。頭の固い頑固者より良いのはもちろんのこと、融通は利くが頭の回らないやつよりも数段マシである。


「お礼だなんだって言うのは、あんまり気にしないでください」


 考え込んだ和人の、その沈黙を埋めたのは木崎だった。


「僕たちだって、人並みに情ってもんがあります。セシリア様達にここまで関わっておいて、簡単に『はい、さよなら』とは言いませんよ。」


 実際のところ、和人と木崎は必要とあらばセシリアたちを切り捨てる気だったのだが――そしてそれを、先ほど暴露していたのだが――そこに関しては、誰も突っ込まなかった。

 それをいいことに、木崎は続ける。


「僕らはこの大陸の人間ではありませんし、どこかの国に、特別な思い入れはありません。だったら、最初に出会った人たちに協力するのも、吝(やぶさ)かじゃあないです。報酬とかお礼とかは、そのあと考えましょう。――和人くんも、それでいいかな?」


 木崎の問いは、文字どおりの意味だけではない。言外に『この国でいいよね』と聞いているのだ。和人は顎を軽く引いて、賛同の意を示した。


「そうか、感謝する。礼は必ず」


 木崎と和人のやりとりを見て、オードはそう言った。そのまま、続ける。


「では、王都へ案内しよう。馬は向こうに用意させてある」


ええと、すみません

この一年ほど、私が何をしてたかというと、受験勉強してました。はい

とりあえずひと段落着いたので、再開します

これからも、よろしくお願いします

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