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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第三章
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オードVS和人

「なんだ、今のは……」


 押し倒した木崎を助け起こしながら、和人は小さく呟いた。

 魔法のことではない。確かに足元から火柱が上がったのには驚いたが、いまのが魔法だということは、何となくわかる。理解できないものは理解できない、と割り切っている。

 和人が驚いたのは、自分が魔法の発動前にそれを予測できたことである。何となく、しかし強く直感したのだ。

 当然ながら和人の世界には魔法はない。よって、その魔法の発動を経験則に基づく直感で読めるはずがない。魔法による直接攻撃を受けたのは、今が初めてなのだから。

 なまじ、自分の感覚だけに気味が悪い。

 しかし、和人はその疑問をいったんしまって、フィアーゼを守るようにこちらを睨む筋骨隆々の男を見た。先ほどの魔法を放ったのも、この男に違いない。つまりこちらの命を狙ってくる――敵だ。

 普段ならば、容赦なく斬りかかっているところだが、和人は動かなかった。もちろん、男の放つ魔法を警戒していたというのもある。その男の立ち姿に、隙らしい隙がなかった、と言うのもある。しかし、なにより――


(父上、か……)


 フィアーゼはそう言っていた。と、言うことはミリシア皇国の人物なのだろう。少なくとも、オレス人ではないはずだ。

 だとしたら、こちらが狙われている意味が分からない。疑問で足が止まる。

 その隙を突くように、男――オードが動いた。


「アージャスよ、わが名のもとに力を貸し与えたまえ。走るは一筋の炎刃――」


 詠唱をしながら、腰の剣に手をかけてこちらに走ってくる。和人は動かない。どのような魔法が出るか分からない限り、うかつに動くわけにはいかないからだ。もしかしたらその魔法は、木崎を狙ったものかもしれないのだから。


「切り裂き、灼きつけ――フレア!」


 詠唱が終わると同時に、走り抜けた直感に従って和人は後ろにとんだ。


 ゴバッッ!!


 一瞬前まで和人が立っていた地面が、轟音と共に三メートルほど横一文字に裂ける。おそらく熱風の刃で切り裂いたのだろう。そこかしこから土の灼ける匂いがした。

 しかし冷静に観察する暇はなかった。自らが切り裂いた地面を踏んで、抜剣したオードが迫ってくる。


「ちぃっ!」


 和人は腰の刀を抜くと、そのまま切り結んだ。同時に背後で呆然としている木崎に「離れろ!」と叫ぶ。

 あわてて離れた木崎に、オードは和人と鍔迫り合いをした状態で、一瞬目をやる。先に木崎を始末するようにしたらしかった。


「アージャスよ、わが名の――」

「させっかよ!」


 和人はわざと力を抜くと、オードの剣の側面に左こぶしを打ち付けて、その剣筋をそらす。同時に納刀。そして、オードの横を走り抜ける。


 神薙流歩法・水鏡門


 一気に加速。そして――


 神薙流陽刀一式・霞風


 神速の居合の太刀筋。しかし、本当に切り裂くわけにもいかない。故に和人が狙ったのは、オードが着けている鎧の最も分厚い、腹の部分だった。


 ガガンッ!


「――ぬっ」


 腹部への強烈な打撃に、オードが思わず詠唱を中断する。同時に背後に回った和人を危険視したのか、振り向いた。これで、木崎は安全に逃げ切れるだろう。

 ひそかに胸をなでおろす和人を眺めながら、オードは「ほう……」と目を細めた。


「貴様――」

「あ?」

「戦闘訓練も受けていないオレス兵とは思えんな。オレス軍の精鋭か何かか?」

「はぁ?……――ああ、そういうことか」


 やっとオードが襲い掛かってきた理由が分かり、和人は間抜けに息を吐いた。何のことはない。オレス兵と思われていたのだ。


「俺はオレス兵じゃない」


 和人はこれで終わる、と思っていたのだが、オードはそれを鼻で笑った。


「はっ、何を言う。お前の瞳、まごうことなきオレス人の証ではないか。俺の目を節穴と思うな」

「いや、俺は大陸外の騎士で――」

「戯言は聞き飽きた」


 オードは和人の言葉をそう切ると、まっすぐ剣を構えた。


「先ほどは油断した。今度は全力で行く」

「父上!」


 フィアーゼの叫び声にも耳を貸さず、オードは和人に突進する。


「ちっ、聞く耳を持ってない、か」


 和人は半身になって剣を躱すと、体勢を低くした。


 神薙流歩法・水鏡門


 和人はそのままオードのわきを駆け抜け――


「ふんっ」

「っ!」


 あわてて腰の刀を抜いて、首筋に迫った横なぎの剣戟を受け止める。オードはそれを見て、少し目を細めた。


「ふん、なかなかの反応速度だ」

「……バケモノかよ」


 低く、和人はつぶやく。確かに水鏡門は多用すると、ネタが割れることがある技だ。だが、だからと言って二度目で対応してくるとは、尋常な胆力ではない。それはつまり、自分の視覚の情報を、一瞬にせよ無視することなのだから。

 ぎりぎりと刀と剣が押し合う。オードが感心したように、和人の刀を見た。


「ふむ、刀とは珍しいな。しかも美しい――良い刀だ」

「……そりゃどうも」

「銘は何という?」

「月(げつ)狼(ろう)」

「月の狼か、狼の月か……ふん。――どちらにせよ、孤独のよく似合う名前だ」


 オードはそう言って、ぎりぎりと握った剣に力を込めた。体格が大きく違うため、自然と和人が押し込まれる形になる。

 さらに、その状況に追い込みをかけるように、オードの口が動いた。


「アージャスよ、わが名のもとに力を貸し与えたまえ。逆巻き堕ちるは破壊の使徒――」

「……!」


 和人を押し込んだまま、オードの唇が言霊を紡ぐ。


「すべてを焼き尽くせ――」


 必殺の魔法が、放たれようとしたその時――


「オード卿!」


 響いた声に、オードも和人も目を向けた。木崎が天幕から連れ出したセシリアだ。

 オードはその姿を見て、顔をほころばせた。


「セシリア様、ご無事でしたか!少々お待ちください、この賊どもを今すぐ始末して――」

「なりません!」


 先ほどまで、顔色を蒼白にして震えていたとは思えぬほど凛とした声で、セシリアは言った。


「その方々は、私の命の恩人です。丁重にレルクルまでお連れしなさい!」


 その言葉に、オードの体からふっと力が抜けた。まだ、警戒されているが、今すぐどうこうしようというわけではないらしい。

 そんな様子のオードを見て、和人は、


(……ふう、殺さずに済んだか)


 腰の鞘にやっていた左手を下して、軽く息を吐いたのだった。


三章はこれにて終了です

四章に入る前に、設定を書こうかと思っています

それに少し時間がかかるので、本編は少し後になると思います

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