25 遠征先での日常
王都ディタルスブレゲ、ここでフリーランスギルドに登録するとランクDフリーランサーの活動範囲は王都領の範囲内となる、領とは王に下賜されるか、統治を委任された貴族が治める土地だと思うが、ランクDの活動範囲の王都領とはこれ如何にと思う訳で。
他の貴族の領地にあるギルドで登録していれば活動範囲は領内で何の問題もないが、王領とすると国内のあちらこちらに王の直轄地はあり、それらを含めると王都で登録する方が有利になるという事で、他の領地と同程度の活動範囲にする為に王都領という用語が出来上がっているらしい。
その王都領内にハイペリオン湖という大きな湖があり、その湖の対岸に位置するように二つの街ディノーラとベステノーアがある、今回の行き先は王都から向かって湖の手前の街ディノーラ、湖畔の街というロケーションに魅力を感じて、街見物を兼ねて遊びに行ってみようという事になった、何か残り物の依頼があればそれで路銀稼ぎをしてもいい。
グローブスフィアで見るとディノーラまでは248kmの距離があり、街道とは言え未舗装且つ平坦な道ばかりでもない、異世界の頑健な体で地球の輓馬のような力とサラブレッドの速さを兼ね備えた2頭引き馬車に馭者1人を含めて最大13人乗りの乗合馬車で、途中宿場町に寄りながら日数は7日間掛かかる、1日の移動時間は10時間だが、馬も生き物だ途中休憩も挟めば実質8時間程だとしてそのくらいの日数は掛かるか?身体強化でラエスタまでと同じペースで走れば6時間で120km走る、出来るか出来ないかで言えば出来そうだ、奈津希と相談して7日間も馬車に乗るよりはマシと走って移動する事にした。
「なぁ、この距離って直線距離やないじゃろ?できる所はショートカットでようない?」
「言われてみれば確かに、地図で見た距離に拘ってた」
前回の依頼で山の中を身体強化で走った経験で、道を外れたショートカットの山の中でもすんなり走る事ができ、当初の到着予定地に5時間で到着した、無理する理由もないとバーチャルエリアで休む事にする。
風呂に入ってソファで休んでいると夕食が出来上がったようだ。
「ごはん出来たで〜」
ボア肉の角煮、ボガンの塩焼き、野菜炒め、ご飯と味噌汁
「ここに慣れたら街にいるより遠征してる方を選びそう」
「分かる、慣れ親しんだ設備やもんなぁ」
「飯もそうだよね、味噌に醤油にと、ここでしか食えんし」
「まぁなぁ〜、定番のメシマズじゃなくて食べ物は美味しい世界やけど、味噌も醤油もないもんなぁ」
……
「片付けはやるから、風呂入ってきて」
「助かるわぁ〜、それじゃお願い」
その後はグダグダと休み翌朝に出発して昼過ぎにはディノーラのギルドに到着した。ディノーラは人口3万人の小さめな街、ウシュバノ子爵の領地だ。
受付嬢にこの街の話を聞くと、ここは薬草が豊富に自生していてポーション作りが盛んらしい。
ギルドをあとにし、宿を探しに街を散策する、街からは少し外れるが湖の近くに部屋からの景色が良さそうな宿[湖畔の宿り木]を見つけて、2人部屋を3日間取った、夕朝食付きで1泊1ネラ、3ネラを払って部屋を確認し、窓からは湖が一望出来た、暫く景色を堪能して部屋の鍵をカウンターに戻して再び街に出た。
「いい眺めの部屋やったね」
「湖に小さい船がよぅけおったね」
「漁師さんかな」
「そやろね、ここも魚介に期待できそう」
「少し前まで木賃宿暮らしとは思えなん生活水準の変化だよ」
「ほんまにね、干城が悩む筈や」
「そんな深刻でもなかったでしょ?」
「死にそうな顔してといて、何言いよるの?」
「あっ!あっち屋台広場じゃない?ちょっと行ってみよう」
「宿の食事もあるから食い過ぎたらあかんでぇ」
魚介の屋台が多いが、ラエスタでは見なかった海老料理の店がチラホラあった、その中で海老の尻尾を三つ串に刺して焼いている屋台があったので、一つづつ食べてみた。
「塩味が効いててビールに合いそう」
「流石にこのナリで飲むわけにはいかんけぇね。あと、ビールじゃなくてエールなんじゃけど」
「あと3年くらいしたら飲めるかな? 特に年齢の制限はなさそうやけど。あと、エールもビールの一種じゃない?」
「ええねぇ。3年後にはお酒をガブガブ飲んで、そのまま朝までヤッちゃうわけじゃね。あと、上面発酵か下面発酵かの違いじゃけぇ、親子みたいな違いなんじゃけど」
「なんでそうなる?」
「なんでそうならんのん?」
「アケスケ過ぎんか? どんなエロゲだよ」
「こっちに来てひと月にはなるけぇね。くるものはちゃんと来たよ?」
「マジで?」
「大マジよ」
「いつか分からんけど、体調悪そうな日とか全然分からんかったわ」
「そりゃあ慣れとるけぇね。それに、この身体は前世より重とうないんよ」
……
「…もう少し街を見て回ろうか」
「ええよ」
暫く街を見て回り、市場に行こう迷ったが、明日の楽しみに取っておこうと宿に戻る事にした。
部屋に戻り、干城はよっこいしょと12歳にあるまじき呟きをしながら椅子に座った
「結構歩いた気がする、万歩計があったら軽く1万歩は超えとったね」
「あんたも爺臭い事言うね〜」
「スマホの万歩計機能使うてなかった?」
「使っとった、運動量の把握は必要や」
「こっちじゃ身体強化で5時間同じペースを維持してるわけだけど」
「あれな〜、魔力で身体機能を活性化させとるんやろうけど、運動量としてはどうなんやろね?」
そんな話に花を咲かせていると夕食の時間になった。
この世界での料理の名前は分からないが、前世基準の見た感じは。
白身魚のムニエル、海老のビスク、殻付きの焼き牡蠣、野菜の上に赤身の魚を薔薇の花に模したサラダ、軽く炙った黒パン。
うん、ここは地球じゃない、あの湖って汽水湖や海水じゃなかよな?とかいうのは一旦忘れよう、ある物はあると目の前の事実を認めるのが異世界の歩き方なんだろう。
湖畔の街ディノーラ、並ぶ料理はハイペリオン湖畔のこの街ならではな豊かな魚介の恵みがふんだんに使われていた。
「これまた美味そうだね」
「このビスク味がものすご濃うて美味しいわ」
「白身の魚味がしっかりしてる、バターとよく合ってる、付け合わせのほうれん草っぽい野菜も魚とバターの味が合わさって美味しい」
「そういや、この国の料理って乳製品をよう見る気がするわ」
「国全体の特産品かな、結構よく使われてるよね」
「この炙った黒パン、ビスクに浸したらめちゃくちゃ美味うなるわ」
「そう言えば、野菜は料理で普通に食べられてたけど、生野菜のサラダって初めて見たような気がする?」
「言われてみればそうかも!ここらの辺は水と土が良いんかねぇ?」
「辛口の白ワインが合いそうなのに飲めないのがツラい」
「分かるわぁ…」
「牡蠣も美味しい、単品でお代わり頼みたい」
「頼めばええんじゃない?」
「う〜ん…やっぱり止めとく。お代わり頼んだら、このバランスが崩れて感動が薄れそうだから」
「一期一会?それもええ考え方だと思うよ」
湧き水の清流はハイペリオン湖に流れ込む、その水の一部は治水により上流から引かれ、畑の潤いとして活用され、この地で生産される野菜は質がよいと評判だった。




