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参の話 廻る世界の前日談(前)

長すぎた感があるので、前後編に


「……………」


「どぉしたよ。無言で突っ立ちやがって。何しに来たんだテメェ?」


常と変わらぬ闇の中。

相対する二つの陰。

しかし一方は押し黙り、苛立ち始めたもう一方は、少し声を荒げた。


「その、だな………」


「告白三秒前の女みてぇな面しやがって。俺との逢瀬を楽しみたいってか?」


「いや………」


「あれだよ?男がやっても全然うれしくも何ともないぜ?むしろ気色ワリィ。帰れ」


「くっ!人が黙っていればゴチャゴチャと!!私は君に告白しに来たのではない!」


「逢瀬をってのは否定しないときたか………ははぁ、テメェは男色だったか。いや、初め見たときからそうじゃねぇかと思ってたんだ。相手は誰だ?あの洟垂れか?名実ともにあの洟垂れの女房役ってか?ギャハハハハハ!!」


「気色の悪いことを抜かすなっ!!私は女性が好きだっ!!」


「大声でそんなこと喚くなよまったく。発情期かエロガキめ」


「っ〜!?こ、の………」


一転、子供のようなやりとりを繰り広げる二つの影。それは、仲が良さそうな、本当に子供のようで―――どこか遠いやり取り。


そこで押し黙った片方を訝しみ、もう一方の影が胡乱な視線を投げかけると―――


「―――ありがとう」


「あ?」


そう、呟いた。

それは小さく、しかししっかりとした音の波は、相手の耳へと届いていた。


「いきなりどういう風の吹き回しだ?テメェが、俺に礼を言う?」


「ああ、君の知識のお陰で、私は大切な女性ひとを失わずに済んだ」


始めのやり取りにあった軽さを感じさせず、声の主は神妙に言葉を発する。


それは、紛れもない『感謝』の情念。


「…………あぁ、ああ、そうだ。そうだった。前のアレか。アレのことか」


「どれかは知らんが、多分それだろう。私は本当に、君に感謝している。ありがとう」


眼前の人間が、『彼』を打ち負かしここに閉じ込めた人間が。

『彼』に頭を下げ、礼を述べている。


それが妙に可笑しく、オカシく感じられ、『彼』は、表情を崩す。

ニヤニヤ、ニタニタ。

そういった悪辣な笑みへと。


「なんだテメェ。前のアレはそう言うことか。オイオイ、水臭ぇな。そんぐらいなら俺にかかりゃあ一発で解決だったぜ?」


「……そういうわけには行かないだろう」


「そうだ、感謝してるんだろ?なら、出せ。こっから」


「それとこれとは、話が別だ」


『彼』にかかれば、シリアスな空気も一瞬で喜劇と化す。

真面目な相手に不真面目を。

真摯な相手の揚げ足取りを。


それこそが、『彼』の生の楽しみ方。


「で、そんだけか?もっと感謝の念を述べてってもいいんだぜ?」


「ああ、これだけだ。君と話すのはひどく疲れる。それに大して有益でもない。却下でお願いする」


「そうかぃ。ああ、そうかぃ………クソめ、また暇と暇と暇しかない生活か。流石に飽きが来るぜ?―――いっそ殺せよ」


「それは………できない。『殺し方』が、解らない」


「だろうな。前言撤回だ。誰がテメェみたいな男色野郎に殺されてやるかよ」


「ッッ〜!!?まだ言うか!!」


「ヒャハハハハハ!!」


「もういい!これ以上用はない!!」


怒りに顔を紅潮させた、今にも爆発せんばかりの人影は、ヅンヅンと足並み荒く、出口へ向かっていった。


それを見送る『彼』は、馬鹿笑いを止め、するりと言葉を発した。


「なぁ、■■■。テメェで作ったんだから解んだろ?ここに居てみろよ。暇で死ねるって意味、よぉく解るぜ?」


嘲りがなりを潜めたその声には、何が含まれていたのか。


それは誰にも解らない。


しかし、それを聞き取ったもう片方は―――蒼髪の青年は、確かに足を止めた。彼が何を思ったのかは定かではない。

しかし、淡々と『独り言』を述べだした。


「―――この『牢』は、私の管轄だ」


「あん?どしたよ藪から棒に?」


それはあくまで『独り言』故に、『彼』の声には答えない。


「私には、ここの術式を維持させる義務がある」


「…………」


「―――だから、時々。極たまに。この牢まで来なければならない」


「…………クッ」


「ならば、ついでに囚人の様子をうかがうのも、私の仕事の一つなんだよ。解ったか■■■」


最後は語りかけるように、『独り言』は占められた。


「……ククッ、クッハハハハハッ!!ヒヒッ!!城勤めも大変だわなぁ!■■■様ともあろうテメェが牢番か!?いいね!いいねぇ!精々仕事に励んでくれよ!!」


「君に言われずとも当然だろうが」


それだけを言い残し、彼は去っていった。



「クックッ、素直じゃねぇなぁアルディレイタ。まぁ、だからこそ、退屈しねぇ――――」


『彼』は、久方ぶりの娯楽足り得るナニカを見つけ、上機嫌に嗤った。


暗闇に響くのは、その嗤い声一つ――――






sideコウヤ


突然だが、俺は今練兵場って所にいる。


何を言ってるかわからねーと思うが、俺だって(ry


いや、まぁ紆余曲折………そうでもないが、それなりに色々あったんだ。


「勇者殿は、やはりその聖剣を抜かれたか……」


「えっ?ああ、意外と簡単に」


騎士さんが語りかけてくる。

俺は聖剣を持って、目の前にいる騎士さんと対峙していた。

向こうもやる気らしく、まさに抜刀直前と言った風体だ。


「フッ、頼もしいお言葉だ……では、尋常に参ります!」


「あ、はい……って、え?」


「せぁあああっ!」


「うぉおああああ!?」


いきなり切りかかって来たぁぁぁ!?


初撃を何とかして横に飛んで避ける。


瞬速と呼べる早さで切り出された騎士の刃は、俺がさっきまで立っていたところに突き立った。


「―――僭越ながら、その腕、見定めさせていただく」


ギラギラと闘志に燃える騎士さん。


くっ!?こりゃあマジで命に関わる!


逃げ………待て、さっき決めたばかりだろ!?

戦うってのは、こういうことを体験することだ!


いいさ、やってやる………戦ってやるさ!!



そもそも、何故こうなったのか。

話は今朝へと遡る。



聖剣を手に入れたあの後、我が身のことのように喜んでくれたメルだったが、その報告のために神殿の方にいったん戻ると言った。


別れ際にひどく名残惜しそうな顔をしていたから、『また明日会えるだろ?』と言ってやれば、笑顔になってくれた。


「ああ、本来ならば一秒たりとも離れとうはございませんのに。メルはすぐに戻って参ります!」


やる気に満ちているようで――何に対するかは知らないが――なによりだよ。


メルと別れた俺は、これからどうしよう?と悩んだのだが、ふと気がつけば執事さんが目の前にいらっしゃるじゃないか。


「お疲れ様でした勇者殿。選定の儀、見事果たされましたようで何よりでございます」


「いえ、俺の力じゃあありませんよ。本当に、剣が選んでくれたみたいな………」


あまりにも手応えが無かったので、それらしく言っておいた。


「今はお疲れでしょうから、どうぞお休みください。陛下へは私めがお伝えしておきましょう。明日、朝餉の席で改めて勇者殿からお伝えいただくということでよろしいでしょうか?」


「あ、そうですか。わかりました。じゃ、お願いします」



そして翌朝。

つまりは今日の朝食の席でのことだ。


聖剣を手にしたことを伝えると、王様はしたりといった風に満足そうに頷いていた。


二日連続で朝からプレッシャーが続くのかと思ったけど、今日はそんなこともなくて。


王様は機嫌が良さそうだった。

俺も昨日よりは飯が喉を通ったよ。


食べ終わって、食後のお茶(紅茶だった)を飲んでいるとき、ふと考えた。


昨日は装備と知識。

物語的には、勇者旅立ちまでのテンプレートだ。


さて、今日は何をするんだろうな、なんてのんびりと思ってた。


そんな時、王様が切り出したんだ。


「勇者よ。そちの腕前、我に見せてはもらえるかな?」


「腕前ですか?」


「ああ、そちの腕を疑うわけではない。聖剣に選ばれし者ならば、それだけで確かな証明にもなるだろう」


「はぁ、でも、俺は………」


平和な現代の日本で育った俺は、平凡な高校生だ。

竹刀ぐらいなら握ったことはあるけど、真剣なんかとはまったく縁がなかったと言ってもいい。


戦ったことなんか、それこそケンカ程度しかない。


そりゃ、昨日はフィオレとの会話の中で、前向きに行こう、勇者になるのを受け入れようとは一応決めたけどさ。


いざ剣を振れ。

そう言われると、どうしても恐怖が先に立ってしまう。


渋る俺に、王様は何を勘違いしたのか、大丈夫だと言ってきた。


「何、ほんの腕試し程度だ。相手はこちらが選んだ我が国きっての使い手。安心して全力を出すがよい」


いや、それはまったく安心できないでしょう。


何だ我が国きっての使い手って。


しかし有無を言わせぬ王様の言葉に、あれよあれよという間に、俺は鞘に収めた聖剣を背中に、練兵場へと向かっていた。


石造りの城内を歩くと、妙に音が反響しているようだ。


………うん。流されてるなぁ、俺。


俺にこんなに主体性がないなんて、まぁ薄々は気づいてたけど、予想以上だ。


やっぱり、ぐだぐだ考えてると出遅れるのか?



「コウヤ様!わたくしは貴男のお力を信じております!頑張ってくださいませ!」


「そう言われてもなぁ……」


「貴男には聖霊様がついておられるのですから!」



いつの間にか現れ、俺のすぐ側に来ていたメルが励ましと応援の言葉をくれる。


自分と同じ年頃の美少女が、俺を応援してくれてるんだ。


これは、男として意地を見せないわけにはいかないな。


そうだ、前向きに考えろ!


今からやるのは腕試し、つまりは実践じゃない。

ならここで剣の使い方に慣れたらいいじゃないか!


うん、もしダメダメだったら、鍛えればいい。

初めから強い人なんている訳ないんだから。


と、そろそろ通路の趣が変わってきた。

練兵場に着く頃だろう。

薄暗い廊下に、外部の光が射し込んできた。


俺はパン、と両手で頬を張り、不安や雑念を振り払う。


「うっし!気合い入ったよメル!格好悪いとこは見せられないからな!」


「はいっ!お気を付けて!」


笑顔が眩しいメルの声援を背中に、俺は光の中へと踏み出して――――


『『『ワァァァァァァア…………』』』


「え」


呆気にとられた。


見渡す限りの人、人、人!観客席が埋まってるじゃないか。


よく見れば王様も、妃様も、姫様も、なんか勢ぞろいだ。

………うーん、フィオレの姿は見えないけど…………あ、メルも上の席に回ったらしい。

あそこから応援してくれるのか………


って!これじゃまるで!

勇者のお披露目のつもりかよ!?

そんなオオゴトだったのか!?


練兵場は、城の裏手にある騎士宿舎に隣接するように存在した。


騎士同士の鍛錬・決闘に使われるそこは、サッカーができるぐらいの広さはありそうだ。


ふと見渡せば、そのど真ん中に、ポツンと立つ一人の人影が目に入る。


アレが、俺の対戦相手だろうか?


緊張してきたな………

徐々に早鐘を打つ心臓を落ち着かせて一歩一歩近づけば、その男、騎士の容貌がはっきりと解った。


身長は180センチを越えていそうで、175センチの俺より目線一つ分高い。


体は細身、しかし鍛え抜かれたと解るような筋肉の付き方をしていて、仁王立ちなのに立ち姿も様になっている。


顔は、精悍な、という言葉が似合うだろう。

男性にしては長めの、後ろで縛られた金髪が兜の下からこぼれており、鋭いブルーの目は、隙無くこちらを睨んでいる。


戦ったことがない俺でも解る。

あの人は、相当に強い。


まさに強者の覇気が滲み出ていると言うのだろうか?

正直、気圧された。

でも、ビビっちゃダメだ。


ゴクリとつばを飲み込めば、騎士さんが口を開いた。


「勇者殿、此度の仕合受けていただき誠に感謝する。お初……ではないのだが覚えておられないだろうからな。名乗らせていただこう。我が名はライナー、近衛騎士隊副隊長、ヴァロン・ライナーという」

「俺は、コウヤ。コウヤ・ツワブキ」


荘厳に名乗りを上げる騎士さん――もといライナーさんに、俺も名乗りかえす。


つぅか副隊長って。

そりゃ強いよな。

さすが王様が王国きっての使い手と言うだけはある、気がする。


ライナーさんは腰に差していた両刃剣をすらりと抜くと、構える。

その姿は優雅ですらあり、まさに熟練の使い手といった動きだった。


「近衛騎士故に、私は魔法を使えるが、今回はあくまで仕合。剣の腕だけで闘いましょう。―――さぁ、獲物を抜かれよ」


魔法なんて使われたら、対処の仕様がないもんな。

助かった、のかな?


さて、これからが本番か。俺は背負っていた聖剣を抜くと、隙無く構えるライナーさんに向けて、白刃を構える。


こうして、俺の初めての戦いの幕は上がった。




「くっ、ぐぁっ!」


「受けるばかりでは意味はありませんぞ!避けるばかりもまた然り!!」


ギャリッ、ギィンと、剣戟の音が練兵場に響きわたる。


解ってたことだが、俺なんかじゃあ到底勝てない。


動き、技術、経験、あらゆる面において、俺はライナーさんに適わない。


観客席のことなんて意識の中からはもうすっ飛んでいた。


目の前の相手をするのがやっとで、他に意識なんか回せない。


何とか、迫り来る刃を受け止め、避けるぐらいのことは出来た。


逆を言えばそれしかできないんだけど。


「シィッ!!」


「っ、ぐはっ!?」


っくそっ!

気を抜いた瞬間に振り上げられた下段からの斬撃に、なんとか聖剣を盾にするが弾き飛ばされる。


ライナーさんは追撃はせず、二人の距離は10メートルほどに開いた。


「ハァッ、ハァッ、ハッ………!!」


「…………」


肩で息をつく俺に対し、息一つ乱さないライナーさん。

開始から五分、ここまで保っただけで奇跡だ。

いや、ライナーさんは勿論手加減してくれているのだろうが。


なんとか聖剣を構えるが、最早勝ちはどちらにあるのか一目瞭然。


しかし、俺は諦められなかった。

初めてならば、仕方ないかもしれない。


だけど、少なくともここで剣を握ったのは俺の意志だ。


その意地は貫きたかった。


「ハッ、ハッ、ハァ…………?」


息が整いだした俺だったが、先ほどから微動だにしないライナーさんが気になり、眉をしかめる。


すると、ライナーさんは待っていたかのように言葉を紡ぐ。


「―――予想以上に対応は良かった。だが、それだけ。貴殿は、戦いを知らない兵士と同じだ。そんな貴殿に、勇者としての責が勤まるとは思えない」


「―――ッ!!」


……確かに、その通りかもしれない。

どんなに息巻いても、所詮俺は戦いを知らない子供だ。

今の俺なんかじゃ、魔王の討伐なんかとうてい適いっこないぐらい、誰にだって解る…………


………でも、でも!

そんなに、簡単に諦めたくなんてない!!


怖じ気付きそうになる足に力を込めて、精一杯に前を睨む。


怯む様子のない俺を見て、ライナーさんは一歩踏みだし、剣をチャキリと肩口に構える。

その青く鋭い目は俺を見透かすかのように、細められている。


「その気概は素晴らしい……が、仕方がない。引導を渡させていただく」


ザッザッと近づいてくる彼に、俺は逃げだそうとは思わなかった。


負けるのは、イヤだけど仕方ない。


だが、ただで負けたくはない。

なんとか一矢報いたいんだ―――その力が欲しい!


そう願った瞬間、聖剣から白い光が溢れ出した。


それには、俺も、ライナーさんも、静まりかえっていた観客席のみんなも驚愕したようで、目を見開いていた。


だが、俺には解った。


その光に触れたとたん、体が軽くなり、どうやればこの剣をもっとも巧く使えるのが、頭の中に『動き』が見えた。


その時、俺は本能的に悟った。


これが、聖霊の加護―――


これなら―――いける!


ギリ、と塚を握り直した俺に、ライナーさんは驚き醒めやらぬと言った顔で、しかし冷静にこちらを伺っていた。


「成る程……それが『聖霊の加護』。聖剣に選ばれたというのは、名ばかりではないようだ――――宜しい!これが本領か!ならばその力、我らにとくと見せてみよ!!」


彼らしいクールな笑みを浮かべながら、ライナーさんはそう吠えた。


肩口まで持ち上げられた剣は横一文字に構えられ、それが彼の本気の現れだと、解った。


今なら解る。

彼は、本気の一撃で俺を迎え撃つ気だ。


「――なら、乗るしかないだろ!!」


やっと彼の本気を引き出せるんだ!!

一矢報いたい?

そんな甘いもんじゃなかった!


白い光は留まることなく溢れ続け、俺に力を与えてくれている。


「全然!負ける気がしない!!」


俺は聖剣を中段に構えると、体中のバネを引き絞り、一気に地を蹴った。


地面が爆ぜる。


俺は人生で一番速いんじゃないかってスピードのまま、ライナーさんに突っ込む。


「オラアアァァァァァア!!」


「ハァァァアアアァァ!!」


ライナーさんが横一文字に振るった刃が、俺に迫る。


だが!遅い!!


刃が俺を切り裂くと思われた瞬間、中段から大上段にまで振りかぶられていた聖剣を、一気に振り下ろす。


「ウォォォオ!!」


パキィィン、と。

甲高い音を立て、鋼の刃は中程から先が宙を舞う。


それに気を取られることなくすぐさま引き上げ剣は、ぴたりと、ライナーさんの首筋の前で止められた。


「―――俺の腕、どうでした?」


折れた剣を片手に、目を見開いていたライナーさんだったが、ふと笑みを漏らすと練兵場に響きわたるかのような澄んだ声で、それを告げた。


「―――素晴らしい。私の、負けだな」



『『『ワァァァァァァァア…………!!』』』


「きゃあーーー!!コウヤ様ぁーーー!!やりましたわ!!」


同時に沸き上がる歓声の嵐。

メルは勿論のこと、見ていた人達の大半が、驚きと、賞賛の言葉を投げかけてくれている。


「さすが、さすがは勇者殿。貴殿は本物で在られたか。これまでの無礼な真似をお許しください」


ふと見れば、ライナーさんがひざを突き、頭を下げていた。


いや、そんな大それたこと恐れ多いですよ!!


「あ、頭を上げてくださいよライナーさん!?無礼とか、そういうのはいいですから」


「しかし………」


「俺も、いい経験になりました。これが初めての下手くそだったけど、聖剣の本当の力も解りましたし!良ければまた、訓練に参加させてください!これからもよろしく、お願いします」


俺がそう言って手を差し出すと、ライナーさんは降参を宣言したときのような柔らかな笑みを浮かべた。


今気がついたが、この人えらいイケメンだな。

いや、いまは置いとこう。


ライナーさんは立ち上がると、俺の手を取った。

金髪が風に靡き、負けたというのにその姿は清々しさに溢れていた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします、勇者殿」


「コウヤって呼んでください、堅苦しいのは、ちょっと苦手で」


苦笑いで頭をかく俺に、ふむ、と頷くとライナーさんは軽く笑ってこう告げた。


「では私のことはヴァロンで構いません。これからは、そうお呼び下さい、コウヤ殿」


「ああ、よろしく、ヴァロンさん!」


「こちらこそ―――しかし、あれが『聖人』の力か。噂に違わず凄まじいものだ」


「本当に使いこなせたら、俺はもっと強くなれる気がします。だから、よければ俺に剣を教えてくれませんか?」


「――それは、光栄だ。勇者殿の剣の師となれるとは。喜んで、鍛えて差し上げましょう」


お互いに剣を交え、お互いの人格を感じ会うことが出来たのだろう。


笑顔で握手を交える俺たちは、既に友情と言ってもいい絆が出来ていたと思う。


こうして、俺は異世界三日目にして、初めての男の友達、こちらの世界での『兄貴分』と呼べる騎士に出会った。




To Be Continued ………

主人公の名前すら出てこない不思議

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