参の話 廻る世界の前日談(後)
後編です
さて、この勇者キャラは立っているのか?
なんかもう既に勝手に動くんです、キャラが
「素晴らしい戦いでしたわ!わたくしまだ興奮が収まりません!!」
「はは、ありがとうな。俺にとっても、今日の一戦は大事な試合になったよ」
「初めてであれだけの聖剣の力を引き出すなんて!やはりコウヤ様は聖霊の御子なのですわ!!」
「ハハハ、大げさだよ」
ある意味御前試合(昼前だったし………我ながら寒いな)を終えた俺は、ヴァロンさんと鍛錬の約束を交わし練兵場を後にした。
彼も副隊長という仕事柄忙しいようだが、新しくできた友人のためならば苦にはならないと快く引き受けてくれた。
本当にいい人だな。
そして今は、昼食を食べおわり、メルに案内してもらい城の中を探検してる最中だ。
三日目にしてやっとかとも思わなくもないが、まぁ、色々立て込んでたんだし、仕方ないよな。
メルも試合を見てからはいつにも増して笑顔が華やいでるし、そんなに俺が勝ったのを喜んでくれてたなんて、なんか、嬉しいな。
きゃいきゃいと明るいメルと話しながら、俺たちは色々な場所を見て回っていた。
城の中心部にある謁見の間の場所に始まり、兵器庫、大ホール、大食堂にサロンや、左塔にある書庫、右塔にある大臣の執務棟など、様々なところを都度俺に説明しながら、歩いていく。
メルは神殿も見せたがっていたようだが、城から少し距離があり、今から出て見に行くのは躊躇われたのでそれはまた今度となった。
現在は、一回の正面中央の大講堂を覗いているところだった。
俺は、その荘厳な雰囲気と、豪奢かつ繊細な細工がこれでもかと散りばめられた大講堂に圧倒されていた。
やはり、世界は変われどこういった建物の厳かな雰囲気は変わらないようだ。
「ほへぇー、やっぱ城って広いんだなぁ」
「神殿の立地はここよりも高い位置にありますの。もっと広いのですわ」
「へぇ、神殿は標高が高いのか。そういえばこの城って、他のよりはでっかい方なのか?」
腕に抱きつくメルに問いかけると、彼女が答えを返そうとして――――
「ファージール城はこれでも最低限の機能に絞られていると言われております。たとえば隣国、セルバランカ皇国の大皇宮などは、世界一壮大な建築物とか」
「ッ!!」
「へぇ―――え、誰?」
突如聞こえた柔らかな声。その声に後ろを見れば、ぽやぽやとした柔らかな笑みに、栗色のウェーブが掛かったロングヘアの美少女が立っていた。
身に纏う淡いピンクのドレスはファンシーで実に彼女によく似合って――――
って!?
俺はその少女を見たことがあった。
「姫様?何でここに?」
ここ、ファージール王国の姫様その人であった。
彼女は俺の問いに、変わらぬ笑みで答える。
「勇者様のお姿をお見かけしたものですから、何をしてらしたのか気になりまして」
「ああ、ちょっと城の中を案内してもらってたんです」
そういえば、メルが静かになったな?
そう思って彼女を見れば、俺の腕に抱きついたままむっとした顔で、姫様の方を見ていた。
何か既視感が………ああ、フィオレにもこんな感じだったな。
なんだろ、姫様とも仲悪いのか?
いかん、美少女同士が仲が悪いなんて、非生産的だ!
…………いや、何を言ってるんだ俺は?電波が……
そんな俺をよそに、メルは姫様に噛みつくように言葉を投げつけた。
「イリーナさん、一国のお姫様がふらふらと出歩いてるなんて。よっぽどお暇なのかしら?」
「あら、あらあらあら!メルさんお久しぶりね!もう、最近こちらに会いに来られなかったでしょう?折角の幼なじみなのだから、もう少しお顔を合わせましょうよ?」
「くっ!態とですのよ!!それに、生憎わたくしは忙しいんですの!お暇な貴女と違って!!」
「そうなの?……最近はフィオレさんもあまりお話出来ないし。少し、寂しいわ」
「くぅっ!そ、そんなことはどうでもいいんですの!今はわたくしがコウヤ様をご案内して差し上げてるのですから、お邪魔しないでほしいですわ!」
………これは、メルは、姫様が苦手なのかな?
言い立てるメルに対して、常にぽやぽやした姫様はあんまり気にしてない感じだし。
しかしまさかこんなところで意外な繋がりを聞いたもんだ。
フィオレと、メルと、姫様が幼なじみ。
まぁ、そう言われたらそんな風にも見えるな。
だいぶ気安い感じだし。
普通ならお姫様相手にはもっとこう、弱気になりそうなのに、メルは全然引いてないし。
そういや、今日はフィオレには会ってないな。
いや、賢者ってぐらいだし、忙しいんだろうな。
姫様もそんなこと今言ってたし。
一方、姫様はメルの言葉を聞きつけたらしく、あら?と一言。
「ならば私もついて行ってよろしいかしら?」
「はぁっ!?」
「え、別に、構いませんよ?」
なんていい考えかしら、と手を叩き合わせる姫様に、メルは素っ頓狂な声を上げていた。
そこまで反応しなくても。
「いいじゃないか。城の持ち主さんなんだし。悪いことはないだろ?」
「コウヤ様がそう仰るなら………えぇい、忌々しい女ですわ。折角の時間を台無しに………」
例によって不機嫌そうに、後半は何かを呟くメルだったが、一応の賛成は貰えた。
「じゃ、行きましょうか姫様?」
「はい!」
そう言って歩き出したはいいが、大半の施設はもう回っていた。
時間も夕焼けがきれいな頃合いだし、後少し経てば夕食だろう。
まぁ、ブラブラ散策する感じでいいか。
そうなると、歩き慣れてるだろう姫様は暇だろうと、専ら会話に勤しむことにした。
「あの、姫様。そういえば、こうやってお話しするのは初めてですよね?」
「そう言えば、そうかしら?そうね、勇者様のお顔は何度も見させていただいたけれど、お話しするのはこれが初めてね」
思い返せば、初めては視界の端に写ったことで、以降食事などで顔をあわせるも会話になったことはなかったな。
姫様もそれに気づいたようで、
「じゃあ、勇者様のお話し聞かせていただけるかしら?」
とのたまわれた。
まぁ、時間つぶしだし、いいかな?
隣で黙っちゃったメルが怖いけども。
「そうですね、まずは、その勇者様っての、変えてもらっていいですか?なんか、むず痒くて」
「あらあら、では、コウヤ様?で、よろしいかしら?」
「あ、全然OKです。すいません、姫様にこんなこと言っちゃって」
「構いませんわ。では、私も姫様ではなく、イリーナと。そう呼んで下さいな」
そう仰る姫様は、実に可愛らしいのだが、流石に姫を呼び捨てはまずいだろう。
「イリーナ様?」
「イリーナ」
「……イリーナ、姫?」
「イ・リ・ー・ナ」
「………イ、リーナ」
「はい!」
「――ハ、ハハハ」
にこり、と満面の、満開の笑みを浮かべる姫様に、思わず乾いた笑いが漏れた。
な、何だ、この圧迫感ッ!!
ドドドドドドドと、爆音かき鳴らす効果音が流れてきそうな姫様の笑顔の圧力に、思わず屈してしまった。
まぁ、本人が許可してるし、いいか。
「……フン、姑息な手でコウヤ様の気を惹こうなんて、なんと必死なのかしら。コウヤ様はわたくしの勇者様ですのよ。貴女みたいな女には死んでも渡すものですか…………」
メルはなにやら呟く以外は静かだが、先ほどからオーラが怖くなってきた。
「それにしても、今日のコウヤ様の剣は素晴らしかったですね。私思わず見ほれてしまいました。ああも聖剣の力をお使いになるなんて、まるで先代勇者様の再臨だと、皆コウヤ様に期待しておりましたよ?」
「ハハ、光栄ですねー」
「………コウヤ様が素晴らしいのは当たり前ですわ。聖霊様の使わされた最強の御方なのですから。だから貴女なんかには釣り合わないのよ、わたくしこそがコウヤ様のお側に…………」
前門のぽやぽや、
後門のぶつぶつ、だと!?
そんな危機的状況乗り越える主人公みたいなスキル、俺にはないって!?
誰か助けてくれと内心叫んでいると、俺たちはいつの間にか大講堂の裏手側の建物にまで来ていた。
人気が無く、いかにも寂れきったその建築物。
そこは大講堂を挟んだ城からの死角になっており、俺はその時に初めてそれを見た。
―――なんだろう、凄く、気になるな………
「なぁ、メル、イリーナ。あれ、何かな?」
「はい?」
「アレとは………ああ、アレは、所謂牢獄ですの」
同時に振り向いた二人のうち、メルが答えてくれる。
「庶民の牢獄はまた別の場にありますが、あそこは高貴な身分の者や大罪を犯した者を収容する牢ですわ。まぁ、近頃は聖霊様の教えに刃向かうような愚か者は殆ど出ておりませんが」
「てことは、殆ど使われてないのか。だからこんな寂れてんだな」
続けられた説明に、所謂上等監獄なんだな、と納得する。
寂れきった理由も、解った。
―――ただ、何というか。
よくわからない。
だけど何か、ドス暗い『何か』がそこに、居るような気がした。
気が付けば、背中の聖剣が、少し熱く、熱を帯びている。
まるでそこに討つべき『仇敵』がいるかのような反応―――
「―――そう、近頃は」
心底嫌悪を表したような表情で、メルが牢獄の方を睨みつける。
自身の疑念もあいまり、気が付けば俺はメルに訪ねていた。
「あそこに、『何か』居るのか?」
険しい表情のままのメルに代わり、緩やかな笑顔のままの、イリーナが答える。
「先代の勇者様達、五人の英雄達が、魔王を討ち果たされたとき。魔王は確かに、この世から消え去りました。それで、世界には平和が戻りました―――しかし、一つ、憂いがありました」
「憂い?」
「先代魔王には、一人の親友が居ました」
魔王の、親友?
どこかで聞いたようなフレーズ―――あっ!
思い出した、昨日、最後にフィオレに聞こうとしていたことだ。
あの後流れる状況を前に、すっかり忘れていた。
「その、親友が憂いだっていうのか?」
「はい。魔王は、魔族にして希代の呪術師。魔導師とは対局に位置する悪しき存在。そして、そんな彼の親友も、また一流の呪術師でした。一説には、魔王すら越える術師であったと」
一流の………昨日フィオレが言っていたことが思い返される。
『強力な呪術は、まさに何でもあり』
そんな反則的な敵を二人も前にして、それでも世界を守りきったという先代勇者が、ひどく遠い存在に思えてきた。
いや、俺の無力感は後だ。
「その『親友』は、英雄の一人『大賢者』が打ち倒しました。しかし、止めを刺すことは出来なかった」
イリーナは淡々と、普段の浮き雲のような笑顔のまま、冷えた声音で語り続ける。
「だから、『大賢者』は、その『呪術師』を封印という形で抑えるしかなかったと聞きます」
此処まで言われれば、嫌でも解る。
つまり、そういうことなのだろう。
あそこには――――
「居るのか、その、『魔王の親友』が」
「―――はい」
イリーナは、そう言い切った。
「―――魔族の長、魔王はただ、討ち滅ぼすべき存在。聖霊様の敵、つまり我ら人間の怨敵ですの」
押し黙っていたメルが口を開いた。
しかし、そこには隠しきれない嫌悪の感情がありありと含まれている。
「魔王の親友は、わたくしたちにとって最悪とも言える存在でしたわ」
「そんなに、悪どい奴だったのか?確かに、魔王と連んでる時点で大概に駄目だろうけど。でも、そいつも呪術師ってことは魔族なんだろ。だったら、魔王とどう違うんだ?極悪非道で血の涙もない、とか?」
俺はふと気になった。
まぁ千年前の存在が生きていることについてはいい。魔族は長生きだって聞いたし。
ただ、メルの口振りでは、その親友とやらは全く持って許せない、そんな不倶戴天と言っても過言ではない存在らしい。
一体何をしたらそんなこと言われるんだ?
こちらを一瞥し、メルは答える。
「ソレが最悪と言われる理由、最たる理由は―――ソレが『人の身』であったということですの」
『人の身』―――つまりは、人間?
そんなバカな。
「え、いや、人間?人間は呪術使えないはずじゃあ………」
そこでまた、脳裏に昨日の一言が浮かぶ。
『地獄のような状況でも折れない精神力の持ち主なら―――』
「無理じゃ、ないのか………」
俺がそう呟けば、メルはコクリうなずく。
「忌々しい限りですわ。聖霊様を裏切り、あまつさえ呪術に身を堕とし。そのような者が生きていると言うだけで、憤怒の炎に身を焦がしてしまいそう」
「しかし、今やその彼も地下深くの大牢獄、大賢者謹製の魔術要塞『大戒牢』に封じられています。文献でしか残らぬ彼の者の存在ですが、『大戒牢』が作動しているならば、『呪術師』は地下に居るはずです」
メルに続けてそう言うイリーナだったが、俺は心底驚いていた。
そんな反則みたいな存在が、出発地点の地下深くに眠ってるなんて。
しかもそれが元・人間?
フィオレの話しでは、常人ならば人が呪術を使いこなすのは異常。
じゃあ、魔王並みと言われたそいつは、どんな地獄を見たんだよ。
俺は背筋に寒気が走った気がした。
呪術師ってのは何でもありなのか………
まぁ、今は封印されてるみたいだし、起きることはないんだろうか安心だ。
聖剣が高ぶっているのは、加護を与えている聖霊とやらの仇敵が側にいるかららしいが、
今の俺では、そんな存在にはどう足掻いたって勝てやしない。
圧倒的な存在の話を聞いてしまうと、自分の今日の戦いで掴んだ経験なんて、まるで意味のないことに思えてしまう。
これじゃいけないな。
うん、今は一歩一歩、着実に強さを磨こう。
ヴァロンさんという剣の師も出来たんだ。
今はまだ地球に帰れないなら、この世界で死んでしまわないように、
今は、強くなろう。
決意を新たにした俺は、未だ険しい顔のメルと普段通りのイリーナの手を引く。
「さ、遅くなっちまった。帰ろうか」
「ふぁい!?コウヤ様ぁん!!」
「あらあらあら、そうですわね」
一瞬で何かが崩壊したメルと、相変わらずのイリーナ。
俺は、先程のことは記憶の奥にしまい、今はただ、出来ることをこなしていくと決めたのだった。
だから、聞き逃していた。
後ろを振り返ったイリーナが小さく、呟くようにこぼした、その一言を。
「―――『魔人』は、今宵はまだ起きません。彼の出番は、何時かしらね?」
―――城内、王の執務室にて、四人の男女がそこに居た。
一人は部屋の主、ファージール国王。
一人は牢獄の管理官、刑部大臣のモルガン。
一人は、昨日大臣と密談していた魔導師の青年、ワレフ。
そしてもう一人、唯一の女性にして未だ年若き少女―――
王はその名を呼ぶ。
「ふむ。話しは聞いておるな、フィオレ・ヘインストールよ」
「はい、陛下」
少女――フィオレは恭しく頭を垂れ、礼を取る。
そんな少女に、王は語る。
「此度、勇者の力を見聞したが、あれは確かに本物だ。これで、本来の『魔王討伐』に問題はない―――だが」
王はそこで一度切ると、未だ平伏するフィオレに頭を上げさせた。
その蒼い瞳をのぞき込みながら、『力』を求める王は語る。
「次善策は常に仕掛けておくものだ。そして、これは次善策などではなく、間違う事なき『鬼札』となる」
王はフィオレからワレフに向き直ると、それについて問うた。
「万事、手抜かりはないな?」
「勿論でございます。賢者殿と予め一度見聞に参りましたところ、問題ないとのお言葉をいただきました」
「ふむ、そうなのか、賢者よ」
「―――はい」
すこしの逡巡の元、蒼い少女は答えた。
フィオレは今、彼女の家系始まって以来、文字通り、その先祖以来の大任を任されようとしていた。
『賢者』を名乗る家系に産まれたものとして、彼女はこの責務を果たさねばならないのだ。
震えそうになる小さい体を、気力で一杯に抱き留めて。
彼女はその言葉を告げる。
「私の『血』において、必ずや制して見せます」
「よくぞ申した。ならば任せよう『賢者』フィオレ・ヘインストールよ。その血を以て、此度の任、必ずや完遂させよ」
鷹揚に頷き、王は高らかに命じる。
それを受けるは、齢にして16の可憐なる少女。
しかし、その瞳に宿る決意は、蒼くたぎる。
「拝命致します。私の身命を賭して『呪術師』の制御、完遂して見せます。
我が『賢者』の称号、そして、我が祖『大賢者』アルディレイタ・ヘインストールの名に賭けて――――」
『大賢者』の血を引く少女は、静かに、世界の戦乱にその身を投じた――――
To Be Continued ………
主人公にして『呪術師』、その名も■■■■■!
次話にて推参!




