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輝けりアイドリア・クラウン ~魔王様がわたし達のプロデューサーです!  作者: 学倉十吾
第六楽章 ――とくと見たか魔王よ、これこそがヒトの持つ〝愛〟の力だ
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【……して、勇者よ。そなたなら、わらわの前で何を歌ってみせる? 此度の対戦に打って付けの曲を、勇敢にも名乗り出た勇者に選ばせてやろう】


 上空から、地上近くまで下りてきたブランコ。それに座すイデアリスの〈使徒〉が、ステージに立つユーフレティカとミューゼタニアに向け、そう語りかける。


【そして、両者の勝敗――その裁定を下すのは誰か。挑戦者たる吸血鬼に選ばせてやろう】


 真っ向から睨み合うは、両勢力の勝敗を背負った二人のアイドル。かつての仲間であっても、今このステージでは背中に背負う物語が違った。


「では〈使徒〉よ、あなたが本当に天上にいる神さまの遣わしたひとだっていうのなら、ぼくの望む曲をこのステージで演奏してみせてよ」


 向かって左方に佇むブランコの君へと向き直ったユーフレティカが、何一つ畏れることなしに、途方もない奇跡を要求する。


「――その曲は〈ヨルノネ〉。謎の作曲家マルーリガス・フェロンの正体――魔王ナラクデウスが、あなたに呪われた意識の中で救いを求めて生み出した、まだ楽譜上にしか存在しない未発表曲だ」


「ちょっ、貴様ァッ! なに勝手におれさまの正体バラしてくれちゃってんだよ!!」


 ステージ外からナラクの抗議の声が届くが、それがいい気味で小躍りを抑えがたいユーフレティカだ。こうして自分が勇者だと明かしたのであれば、連れ立つものが必要だろうから。

 一方で、表情を微動だにしなかった〈使徒〉だったが、遅れて小さな口もとを嬉しそうに吊り上げてみせる。このステージに相応しい〝特別〟を見せてやろうと応じたのだ。

 〈使徒〉が天使に触れる。すると、どうだろう。光のステージに、あるメロディーが残響した。その音を耳にした途端、溢れそうな涙を溜めながらミューゼタニアがあの歌を自然とハミングしだして。ミュゼはもう知っている曲なのだ。このステージでは、そんな奇跡さえ起きる。

 そうして涙をこらえ、ミューゼタニアはユーフレティカに肩を並べ〈使徒〉に向き直る。


「…………だったらミュゼも、奇跡をのぞみます。このアイドリア・クラウンの決着わ、世界中のひとびとが決めてほしい。魔界のみんなと、人界のみんな。勝ち負けなんか超えて、歌でともに笑いあうことができる、あらゆるみんなたちに――――!」


 ミューゼタニアのそんな途方もない願いに、〈使徒〉は指先ひとつで応じた。

 上空におびただしい数の映像が生み出され、円形のステージをドーム状に覆っていく。その先に映し出されたものは、ヴェナントや、リュクテア市街の光景。あるいは、どこかの見知らぬ都市の人々、魔界で暮らす人外たちの砦であっても分け隔てなく映し出される。


【まったく贅沢ものどもめ、今回はわらわの特別ルールじゃ。このステージの映像は、闘技場戦争の影響が及ぶ、すべてのものたちの町へと一斉中継されよう。そして彼らがカードに願った分だけ、そなたらに得点が入る仕組みじゃ】


 その言葉を体現せしめるように、〈使徒〉が手のひらにカードを生み出してひらひらと見せつけてくる。この世界を〈摂理ルール〉――闘技場戦争で縛りつけた元凶である彼女自身までも、ただ一人の観客として参戦する気満々の顔をしていた。

 次第に高鳴り出す、〈ヨルノネ〉の伴奏。〈使徒〉の神秘によって奏でられたそれは、この世界でまだ誰も聴いたことがないような、いかなる楽器であれば出せる音なのかも判然としない、まさに神秘の音色だ。

 序曲を構成する伴奏が、徐々に第一楽章の始まりへと向かう。三拍子のリズムに、韻を刻む太鼓の胴鳴り。金属音やヴァイオリンに似た音が立ち上がってくると、盛り上がりに一呼吸置くための、沈黙の帳が落とされて。同時にステージの明かりが暗転し、


【さあ、祝福されし娘たち。輝かしきアイドリア・クラウンをここに開始せよ――――――】


 最初にステージを支配してみせたのは、ミューゼタニアだ。ユーフレティカに先んじて前に躍り出ると、第一楽章の幕開けと同時に、ほのかなアイドリア・エフェクトを指先に点して、この暗がりをオレンジの明かりで塗り替えた。魔力制御も、もう完璧だ。


『――ピ・ウル・エイデ アシュタル・メイゼ――』


 口寄せした魔杖に、ミュゼが魂の音を吹き込む。この世界で自分たちしか知らないの詞を、まるで自分の言葉のように喉を鳴らせ、情感を込めて歌い上げてみせる。


『――ミクタル・ノイエン・ミシュマルタム――』


 これは、魔王がくれた歌だ。〈異境〉でひとりぼっちだった自分を、こうしてこの場所に居させてくれてた、あの魔王ナラクデウスを救うための歌。


 ――この〈ヨルノネ〉は、ミュゼが歌えなきゃ。いちばん上手に歌えなきゃ、ぜったいに嘘。


 そう強く想うだけで、もう泣き出しそうになる。


『――ピ・シャステ・エイデ マイノ・フォット・エミネ? ――』


 だから瞳に熱いものを堪えて、溢れ出そうな気持ちの分だけ喉を震わせる。〈ヨルノネ〉という曲名だって、まるであなたの怖い夜を照らす音みたいだと、自分が大好きなあのひとに捧げたものなのだから。


『――ナアス・マイナ・ラプタリーチェ・スネム・エン? ――』


 掠れそうな、儚げなミュゼの歌声。可愛らしくて、なのにどこか切なげな響きが混じって。

 ステージ外周でせめぎ合う、世界中の観客たちが見える。みな、驚きの表情を浮かべながらも、ステージの自分に釘付けだ。

 傍らでこちらのステップに必至で追随してくるユーフレティカが、ときおり視線を送ってくる。彼女は〈ヨルノネ〉を練習レッスンしたことすらないはずなのに、それでもあえてこの曲で勝負を挑んできた。悔しいが物覚えのはやいこの娘なら、決闘も対等の勝負にもつれ込むだろう。


『――フィーン・リィー――』


 歌詞の結びを口ずさむと、掲げた手を隣に差し出す。次はあなたの番だと、情熱を手渡すかのように。


 アイドリア・クラウンとは、アイドルが一つの楽曲を交互に歌い、そして競い合う闘技場戦争の競技形式だ。

 そして次に脚光を浴びたのは、ユーフレティカだ。


『――ピ・ウル・エイデ アシュタル・メイゼ ミクタル・ノイエン・ミシュマルタム――』


 口寄せした魔杖に、ユーが新たな魂を吹き込む。力強い歌声で、天上をも貫くほどに喉を震わせる。どこか不安定さが魅力のミュゼとは対照的な、はっきりとしてどこまでも途切れそうにない、あまりに伸びやかな歌声。


『――ピ・シャステ・エイデ マイノ・フォット・エミネ? ナアス・マイナ・ラプタリーチェ・スネム・エン? ――』


 不可思議だがドラマチックな〈ヨルノネ〉の旋律を、こともなく自在に歌い上げていくユーフレティカだ。歌い手が誤れば意味不明になりかねないこの歌を、完璧に歌姫として演じきってのける。


 ――ねえ、テュテス。戦うことをやめたぼくを恨まないでおくれ。キミの奇跡を借りなくたって、この世界は手を取りあっていける。どうしてだろう、ナラクと再会したら、そんな夢ができたんだ。


 ばかじゃないの、いつもあなたってひとは。そう頭の中で、テュテスという女性の声が聞こえた気がした。


『――フィーン・リィー――』


 二度目の結びで、伴奏に変化が訪れる。変則的になり始めたリズム。さらなる盛り上がりを演出しようとする楽器たちが、明滅を繰り返すステージの光と連動していく。

 ユーフレティカが、晒した額の紋章に指を当てると、映像の向こうの人々を射止めるように差し向ける。そして円を描く動作をすると、〈聖者の紋章〉と同じ青のアイドリア・エフェクトが、さながら打ち上げ花火のようにステージ外周を覆い尽くしていく。

 ステージを取り巻いていた戦場の騎士たちが。映像の向こう側でこのステージを目撃することになったものたちが。そしてあのガベルファウストですら、二人のアイドルが歌い描くこの物語を前に心奪われ、その場に立ち止まることしかできなくなった。

 そしてステージ中央に舞い戻ったアイドルたちが、背中合わせになり魔杖を唇に寄せて。


『――響け 爪弾け――』『――虹を越えた あの空へ――』


 アイドリア・エフェクトの残照を受け、最高潮に高まる伴奏と旋律とともに。

 ここからは協奏曲めいて、ユーとミュゼが代わる代わる歌い。そして慰め合うように身を寄せあって、時にハーモニーをなした歌声を、彼女らの言葉で次々に紡ぎあげてゆく。


『――届け――』『――届かせて この声を――』『――声を――』


 仲睦まじく肩を触れさせて、互いの手を必死に繋ぎ止めて。今度は引き離されるように間合いを開ける、剣を抜くかのごとき舞いをして魔杖を突きつけあってみせる。

 剣に見立てた魔杖で切り結び、ステージ上で交差するアイドルたち。

 膝折り、しなだれてくるミュゼを抱き寄せたユー。手を固く結び、瞳を潤ませて見つめあった二人が、互いの魔杖を向け合うとさらに歌の続きに喉を震う。


『『――声を 高鳴る鼓動を――――――――――――――――――――』』


 比翼の鳥さながらに、羽ばたこうと互いの手を広げたユーとミュゼが、途切れることがないほどに歌い続ける。

 その熱を帯びた視線はもう、

 自分たちを目撃したすべての、あらゆる観客たちだけを見ていた。


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