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輝けりアイドリア・クラウン ~魔王様がわたし達のプロデューサーです!  作者: 学倉十吾
第六楽章 ――とくと見たか魔王よ、これこそがヒトの持つ〝愛〟の力だ
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 ヴェナント南方国境付近。直前まで凄惨な殺戮が繰り広げられていたこの戦場は、イデアリスの〈使徒〉降臨によって、その在り方を激変させていた。

 神秘による円を大地に描く、光のステージ。争い合う術を失い、途方に暮れたままそれを見届けるしかなくなったリュクテアの騎士たち。悪鬼やガベルファウストですら戦意のやり場を見失い、ただ動向を静観するしかない。この選択をした二人の少女に、すべての結末を委ねて。

 トロネの馬から下りたユーフレティカは、纏っていたマントを脱いで彼女に託す。そしてステージの縁まで歩み寄ると、振り返らずに言った。


「ありがとう、トロネ。でもごめん、ぼくはやっぱりリュクテアのためには戦えない」


 ユーは、リュクテアではなく、あくまでヴェナント代表としてこのステージに立つ選択をした。つまり、魔界勢力とヴェナント間の抗争を終結させるためのアイドリア・クラウンだ。

 どちらが勝利を掴むとしても、リュクテアの命運は変えようがない。愚かな新魔王をまんまと利用し、ただ血みどろの戦争を仕組んでヴェナントを巻き添えにした大罪国。これがたとえ大神官個人の策謀だったとしても、今後の歴史からそう見なされることは避けられないだろう。


「ううん、あんたの決めたことなら、あたし、何も言わないよ。それどころか、いろいろ起きすぎて、まだ頭ん中がグチャグチャなままだ」


 馬上から見送ってくれるトロネの表情はまだ、自分で口にしたとおりに動揺と不安で一杯のものだ。言葉の節々から、今も理性だけで必死に手綱を握っているのが伝わってくる。


「だからさ、あたしにも見せてよ。このグチャグチャを吹き飛ばしてくれるような、今の、そんなあんたの活躍をさ」


 ユーは、どんな言葉を贈るよりも強い、かつての少年のものと変わりない最高の笑顔をトロネに見せつけてやった。

 後方から蹄の音が近付いてきていた。その馬を走らせる人物がナラクだったことに気付き、ユーは思わず驚かされる。


「もう、びっくりしたな。ナラク、あんなに馬に怖がられてたのに、なんで戦場まで出てきちゃったの! 町にいてくれた方が――ううん、そっか。さっきの攻撃で、ヴェナントが……」


 ユーフレティカからナラクに向けられた非難の表情は、すぐさま重苦しい影を落とす。


「馬鹿を言え。こいつはな、《《どこぞの妖精族》》が馬と勝手に結託しやがっただけだ。町も無事じゃないが、おれが加勢する場所はひとつしかないだろう。ほら、こいつを忘れてったぞ――」


 ナラクが彼女に手渡したのは、アイドリア・クラウン用の魔杖だ。いかに声量を誇るユーフレティカであっても、屋外ステージ相手では魔工技術を味方に付けるしかない。


「――あ、ありがと……」


 魔杖を受け取ると、ユーは悲愴さを拭いきれない笑みを浮かべるも、それはまたすぐに勇者として立つもののまなざしに置き換わる。置き換えてみせたのだ、〈聖者の紋章〉を宿したその時から苦悩し続けてきた、勇者エクスとしての意志をもって。


「…………この道を選んだおれを恨むか? いや、愚問だったな。お前がおれを恨もうが恨むまいが関係なしに、物語ってやつの歯車はもう、動きはじめちまったんだから」


「ナラク。おまえにいま聞きたいこと、まだたくさんあるんだ。話したかったことだって、もっとたくさん。でも、すべてが終わってからにしよう。ぼくは、ぼくたちの未来のために、ミュゼを倒さなくちゃいけない」


 再びステージへと向き合うユーフレティカ。ステージの対岸には、相まみえるミューゼタニアの姿がうかがえる。

 一歩踏みだし、〈使徒〉の神秘によって錬成されたステージに上がる。


「じゃあ、行ってくるよ、ぼくのプロデューサー――――――」


 その言葉が、開演の鐘になった。


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