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怖くて悲しいお話たち  作者: 天野秀作
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引き寄せる車――ナナちゃん奇譚㉘

 引き寄せる車

 先日一年ぶりにナナちゃんと会う機会があった。何度も言うようだが、私たちはそんな関係ではない。ただの飲み友達である。開口一番ナナちゃんは言う。

「車買い替えたんよ」

「え、そうなん? もうチンクエチェントじゃないんや」

「あれめっちゃかわいくて気に入っててんけどな、狭くて人あんまり乗られへんから」

「ナナちゃんとこ、娘さん二人やったんちゃうの? あれでも十分やろ」

「そうやけど、娘も6年生と4年生で大きくなって、友達とかいっしょに遊びに行く機会も増えたんよ」

「なるほどなあ。まあチンクはスリードアで後ろも狭そうやもんな」

「うん」

「ほんで、何買ったん?」

「シエンタ。もちろん中古やけど。一個前のやつ」

「ほー。一個前でもけっこうええ値段したんちゃう」

「うん。それがな、年式と程度の割にはかぁなり安かったんよ」

「へえ、良かったやん。お買い得物件やな」

 私は笑いながら言ったが、ナナちゃん、笑っていない。真顔である。新しく車買い替えたようには見えない。

「何か不満でもあるの?」

「うん、聞いてくれる?」

 まず納車時、そのナンバーに驚いた。

 購入契約時に希望ナンバーを頼まなかったのがいけなかった。偶然とはいえ、42―74。し、に、な、よ――死になよ である。千分の一でこのような番号! ナナちゃんは嫌だなと思ったが、登録してしまったものはどうしようもない。あきらめることにした。

 乗り始めると、乗り心地はけっこう快適である。ところが、やたらと人や自転車が目の前で飛び出したり、四つ角で前を横切る車と遭遇したり、あるいは狭い道で対向車に遭遇したりする。以前の車では考えられないほど高頻度でそういうことがある。もはや偶然とは思えない。まるで自分が引き寄せているのではないか? とさえ思える。

 それでも気を取り直して、納車日の夜、後ろに娘を乗せて家の近くを軽くドライブした時のこと。娘の様子を見ようと、何気なくルームミラーにちらりと目を遣った。

 天井から黒い物が垂れ下がっている。ナナちゃんは一瞬、目を疑った。間違いない。あれは〝人の腕〟だった。腕がだらりと天井から垂れ下がっていたのだ。

 そして納車の翌日、お彼岸の墓参りに行った時のこと。ナナちゃんの家のお墓は山の霊園の高いところにあった。そこまで行く道は、車一台がやっと通れるほどで、しかもカーブが多い。

 ナナちゃんは注意深く狭い上り右カーブを曲がろうとした時、運悪く対向車と遭遇してしまった。「またや」そう思ったが、徐行していたし上りであったため、ナナちゃんの車はすぐに止まれた。ところが下りの対向車は高齢ドライバーでおまけに徐行もしていなかったらしく、ブレーキが間に合わず、ナナちゃんの車の右前にドンという音と共に衝突する。

 幸いなことに乗っていた人皆に怪我はなかったが、納車二日目にして、右前は派手に潰れてしまった。

 修理代は30万もかかった。納車翌日にディーラーに事故車を持ち込むと店員は目を丸くして驚いたらしい。まあ修理代は保険で直ったので痛手はない。車を直すついでにナンバーも希望の物に再取得してもらった。千に一つしかない気味の悪いナンバーともおさらばである。

 でもナナちゃんは一つだけどうしても気になるところがあった。購入時に詳しく聞かなかったが、確か『修復歴あり』の中古車であることを思い出した。そこで店員に尋ねる。

「あの車、今更なんやけど、修復歴ありってどこを直してたの?」と。店員はすぐに資料を調べて言う。

「ああ、ルーフですね。天井を全部交換しています」

「天井?」

「横転とかなら天井だけ破損することはないでしょうから、おそらくですよ、おそらく、落下物か何かでしょう」

 それを聞いて、ナナちゃんはすぐに御車祓いに行ったそうだ。



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