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きみのねむるまち(プロット)  作者: 大枝 岳
高校編
60/183

大人

苦い思いも淡い想いも、全てが季節と共に運ばれる。

良和が寄居へ帰って来る朗報に喜び合うが、街にはある不穏な噂が流れ始めていた。

 岳は平静を取り戻すと学校へ再び登校し始めた。がらんどうになった三年生の教室を眺めては寂しさを覚えたが、知恵から学んだ事は岳を一回り成長させていた。

 昼休み。テニスコートで煙草を投げ捨てると岳は吐き捨てるように呟いた。

 米田と純は健康的にサッカーボールを転がしている。


「俺、やっぱガキは好きになれないわ。大人の女がやっぱりいいぜ」

「フラれた癖して偉そうに言ってんじゃねーよ!」

「萩野さん…慰めてくんねーかな」

「がっちゃん、それじゃ娼婦だよ」

「仕方ねーなぁ…行くぞ」


 米田の誘いで階段を上がる女子達のパンツが見えるという「穴場」まで三人は出向いた。ミニが流行っていた時代だったので、女子のパンツを比較的容易に見ることが出来た。


「岳、これで元気だせよ。な?」

「ノーパン来ないかな」

「わお!がっちゃん、今のコ紫だったよ!」

「マジで!?」


 三人が腰を屈めながらはしゃいでいると、萩野が「気持ち悪っ!」と吐き捨てて通り過ぎて行った。

「いやぁ、腰が悪くて…」と言い訳していると岳の携帯が鳴った。

 久しぶりの良和からの着信だった。


「おぉ。元気してる?」

「あぁ。なんとか。あのさ、鉢形に引っ越す事になったから」

「マジで!?」

「うん。アパートで一人暮らし。不動産やってる親のおかげだぜ」

「すっげー!」

「だから、まぁ、またよろしく」

「大歓迎だよ!また遊べるな」

「うん。遊ぼうぜ。色々忙しいからまた連絡するわ。じゃあ」

「あいよ」


 電話を切ると岳はすぐに純に今の話を伝えた。純は目を丸くしながら喜びを身体中から爆発させた。


「マジかい!やったぁ!これでまた遊べるんだ!」

「おう!みんなで入り浸ろうぜ!」

「おいおい、誰の話だよ?」


 困惑している米田に岳は自信満々の笑みで答えた。


「まんげハローだよ!」


 米田を無視して岳と純は夢中で良和が引っ越してきた後の事を話し合った。


 そして訪れた卒業式当日。

 式が終わると岳の携帯が鳴った。着信は知恵からのものだった。


 いつもの下駄箱の横。卒業証書を持った知恵が立っていた。

 ひと月ぶりに見たその姿がやや大人びて見えのは、髪が黒くなっている為だとすぐに気付く。

 岳は見惚れそうになりながらも、平静を装う。


「卒業おめでとう」

「じゃーん!っていう程のもんでもないけど。卒業しました」


 中学のものより「重厚」と言った皮のカバーに入れられた卒業証書を知恵は誇らしげに広げた。


「すげー。こんな馬鹿高校でも証書はしっかりしてるんだ」

「証明書だよ?あたりまえじゃん。ていうか君、こんな高校でも卒業できなかった時は死ぬまで馬鹿にするかんね」

「分かった。絶対卒業だけはする」

「まぁ…元気でいてくれたらそれでいいよ。色々ありがとう。君のおかげで私の高校最後の数ヶ月はとても充実していたよ」

「なんつーか…出会えて良かったです。この人好きになって良かったなって、そう思える人でした」

「ふふ、言うね。何か落ち着いてるのがムカつくけど。私も出会えて良かった」

「ありがとう」

「ありがとね」


 そう言うと二人は握手をして別れた。

 近々一度会おう、という約束と共に。

 群れの中へと消えて行く知恵の姿はやはり華奢で、見慣れたその姿は気を抜くと寂しさで泣いてしまいそうで、岳は精一杯堪えた。


 酷く落ち込んでいた時期の岳を勇気付けたのは純の何気ない一言だった。

 純はピザポテトを食べながら何気ない様子で言った。


「携帯番号知ってるんだし、いつでも連絡取れるじゃん。いつか挽回出来るかもよ?」


 その言葉は岳を大いに勇気付け、同時に少しだけ未来を見る目を持たせてくれたのだった。

 春には良和が寄居に帰って来る。もう少ししたら後輩も出来る。辺りを見渡せば何もかもが悪い事ばかりという訳ではなかった。


 しかし、岳は日常の寂しさを紛らわすように当時流行り始めていた留守番電話を利用した出会い系まがいのサービスを使い始めていた。

 そこで知り合った何人かとメールのやり取りをしているうちに一人、岳は気になる女の子が出来た。

 無論、顔は見たこともないので博打だった。


 純は興味本位で岳に手解きを受けてそのサービスを利用したが、メールのラリーが続けられずにすぐに匙を投げた。

 二人はいつか純と佑太が水を掛けられたコンビニで座り込んで話をしている。


「なんで女ってどいつもこいつも面倒臭いんかなぁ」

「みんなとりあえず自分の話し聞いて欲しいんだよ」

「俺だって話し聞いて欲しいんさ。そういうのがっちゃんマメだもんなぁ」

「まぁ、元々聞き役だしね」

「あー、女の話しは聞きたくない。耳が腐りそうだ」

「松久さんの話しだったら?」

「あ、それならずっと聞いてられるわ」


 座り込む二人は誰かが近付いて来る気配を何気なく感じた。

 顔を上げると岳と同じように煙草を吹かしている。その少年は同じ男衾中学出身の田代だった。

 田代は指だけを上げて二人に挨拶をした。

 相変わらず目つきが悪い。


「よう。久しぶりじゃん。純君もがっちゃんも元気かよ」

「あぁ、おかげさまで」

「俺もバンドやりながら元気だよ」

「バンドやってる噂聞いたぜ。ロックだろ?俺もよぉ、長渕はすげー聞くからよ。ライブやる時は言ってくれよ」

「あぁ、分かったよ」

「がっちゃん、ロック貫こうぜ」


 そう言って田代は拳を突き出した。岳はしぶしぶと言った様子で拳を合わせる。

 田代が店内に消えると純は盛大に噴出した。


「おいおい!長渕ってロックだったんかい!?フォークじゃねぇの!?ロック貫こうぜだって!ダッセー!」

「クソダッセーんな!やっぱ地元はキャラが面白いわ!」


 純がミルクココアを口に含んだタイミングで岳が田代の声色を真似し

「貫こうぜ」

 というと、純は再び盛大に噴いた。今度はミルクココアと共に。


 純のバイクの件に関してはある程度ほとぼりが冷めた頃であったが、街では不穏な噂が広がっていた。

 それは「小嶋組」と名乗るヤクザの組員が、高校生相手にパーティー券の購入を迫ったり脅迫して金品を奪ったりしているというものだった。


 一年最後の終業式。サングラスやパンチパーマといった得体の知れない数人組が校門に立っていた。

 獲物を狙うような目で行きかう生徒を眺めているが、これといって何かする訳でも無かった。

 その様子があまりに不気味で、新たな噂はすぐに広められた。

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