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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う  作者: 水源
寛文2年(1662年)

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飲む打つ買うは基本的な男の欲望だ

 さて、俺は早速とばかり、品川に室内遊戯場を作らせることにした。


「吉原では、なんだかんだで人が集まっていたし、品川でもそれなりに需要はあるだろう」


 そして吉原から品川に向かい、吉原から品川に出向させた龍に様子を聞いた。


「龍、客入りはどうだ?」


「へえ、最近は良くなっていやす」


「そうか、そいつは良かった」


「こっちの刺し身は、吉原よりずっと新鮮でうまいですからな」


「まあ、そりゃしょうがねえ。

 吉原じゃあ日本橋経由だが、こっちは品川湊から直接仕入れられるからな」


 しかもこの時代じゃ、冷凍冷蔵されてるわけじゃないから、輸送中に痛むのが当たり前だ。


「旨い酒を飲めて旨い魚が食え、いい女も抱けるってのはかなりの強みだと思いますぜ」


「まあ、そうだな」


「ここの主人も下女と同じ飯を食わないといけないのかと、最初はぶつぶつと言ってましたが、食事内容がわかったら喜んでましたからな」


「俺から言わせりゃ、飯と睡眠と運動にある程度金と時間をかけなきゃ、金になるものもならないってだけの話なんだがな」


「そりゃ、今でこそ吉原は大方そうなりましたけど、それは普通じゃねえですぜ」


「ま、そりゃわかってるさ」


 平成だとあまりそういうイメージはないが、昭和くらいまでは”飲む打つ買う”つまり酒を飲んで博打を打って女を買うというのは、男の娯楽つまり楽しいことの最たるものだとされたのだ。


 尤も平成の人間にはそうはならなかったのはいろいろ理由があるが、一つにはファミコンのようなビデオゲームなど新しい娯楽の出現と、そういった娯楽で育った人間が大人になったあとも、ゲームを続けることで娯楽の種類そのものが増えたこと。


 さらにはまずはテレビ、そしてパソコンとインターネット、トドメはスマホの普及に伴う、娯楽の多様化と低コスト化が著しくすすみ、高度経済成長期の昭和と違いバブル崩壊からは、ずっと景気が低迷していたこと。


 終身雇用制の崩壊で、会社や上司に対しての関係性の継続の必要性の低下で、会社の飲み会の必要性を若い人間は感じていないなどがあるだろう。


 特にスマホの普及により、SNSやソシャゲ、無料小説投稿サイトなどの存在が当たり前になると、場所を選ばずに時間をつぶしたり、娯楽を楽しむために必要な費用は大きく下がった。


 まずはテレビの価格が比較的安くなって、家庭に一台以上が普及することで、映画や劇などは大打撃を受けたし、野球や相撲などをみるために球場や国技館などに行って高いカネを払う必要もなくなってしまった。


 そしてTVアニメのサザエさんで波平さんやマスオさん、ノリスケさんはよく酒を飲んで顔を赤くしながらお土産を持って返ってくるが、今の若い男性にはなぜそんなことするのか理解できないように思う。


 サザエさんが新聞に連載されていたのは、戦後から高度経済成長時代で、アニメもそれに基づいているので作中にはコンビニもテレビゲームも出てこないし、スマホどころか携帯電話もプッシュホンもなく電話は黒電話だったりする。


 フネさんは常に和服だったり、磯野家の裏の勝手口から元気よく挨拶し、家に中に自由に出入りをして注文を取り、醤油やみりんといった調味料やお酒などの必要なものを届けに来る三河屋の御用聞きのサブちゃんがいたり、ムショ出たての押し売りも出てきたり、今では殆ど見ない屋台で飲み食いしている場面も結構あったりするのだが。


 話を戻すが、例えば居酒屋でちょっと飲み食いしたら3000円とか5000円くらいにはなるのは珍しくないだろう、月に10回も飲めば3万円から5万円はかかるというわけだ。


 キャバクラやガールズバーの売上が落ちてるのも、自分の好みであるかもわからず、話が合うとも限らない女性を隣に座らせて、お酒を飲み必要であれば酒を飲ませ、好きなようにカラオケも歌えないのに長い拘束時間があるという時点で安上がりとは言えないと言えるな。


 ギャンブルに関してはもっとかかる可能性が高いし、風俗は2時間で2万とかだしな。


 そう考えるとネットサーフィンやSNSなら基本的に無料、ソシャゲの課金も月1万円なら飲む打つ買うに比べれば遥かに安いのだろう。


「そういう存在があんまりないってのは遊郭の経営者としては助かるってもんだがな」


 遊郭というのは酒を飲む場所でもあるし女を買う場所でもあるし、室内遊技場では金をかけないにしても若くて可愛い女性と碁や将棋、麻雀などで対戦できるわけだからそりゃ男は集まるよな。


「問題は品川じゃ教養のたぐいはほとんど教え込んでないことか」


「ですな。

 三味線なんかはともかく碁打ち、将棋指しなんてことができるおじゃれはそういませんな」


「吉原の中見世や小見世から希望者を募って品川に越させたほうがいいか?」


「そうですな」


 女の碁打ちや将棋指しはやっぱ少ねえからな。


 とはいえ、吉原から碁や将棋のできる女性を品川へ移すにしても、本人たちが納得して移ってもらわないことには、一種の左遷だと捉えられかねない。


 吉原の中見世や小見世で働いている者からすれば、せっかく身につけた教養を生かせる場所ができたとしても、「品川へ行け」と一方的に言われれば、今いる店から追い出されたように感じる者がいてもおかしくない。


「だったら、まずは品川に人を集めるところからだな」


「人を集める、ですか?」


「ああ。品川でも客が集まる、銭を稼げる、ここで働くのも悪くないと思ってもらえれば、吉原から移ってくれる者も出てくるだろう」


 俺がそう言うと、龍も納得したように頷いた。


「なるほど。それなら無理に人を動かす必要もありませんな」


「そういうことだ。人を移したいなら、まずは移りたいと思える場所を作らねえとな」


 そう考えると、室内遊戯場を作るだけじゃなく、品川そのものをもっと賑やかにする必要がある。


 吉原から無理に人を引っ張ってくるんじゃない。


 まずは客を集めて、品川を「ここで働いてみたい」と思ってもらえる場所にする。


 そうすれば、碁や将棋のできる女性にも声をかけやすくなるだろう。

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