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草津の湯はやっぱり賑やかだった

 さて、日光の参拝が終わったので、今度は草津の温泉に向かうことにする。


 草津は真田のお殿様こと真田信之公の沼田藩の領地にある。


 そこへ向かうには日光からはまず日光裏街道とか館林道と呼ばれる街道を西に歩き、沼田へ向かう。


「真田のお殿様のお城があるだけあって栄えてますな」


「そうだな」


 沼田からは真田街道と呼ばれる道を西に歩き、信州街道、続いて草津街道へ入って草津に到着。


「うわ、なんか臭いですな」


「ああ、もともと草津は臭水(くさうず)という言葉が元だって話だしな」


 草津温泉は日本を代表する名泉の一つであり、日本三名泉の一つに数えられるなどかなり有名な温泉。


 しかしながら実は信濃などの温泉と違い草津に関する古い記録はあんまりない。


 ここの温泉の発見者については、日本武尊や僧である行基、源頼朝などの名前が挙げられているがちゃんとした記録では残っていないようだ。


 だけども室町時代には草津を訪問した著名人が文章に多数現れるようになってきており、戦国時代には武田氏が上野を抑えた際に、草津の湯治客からとる湯銭を真田が重要な財源としていたと記録に残っていたりするらしい。


 真田の領地はほとんど山間部にあるので、米などの農作物はほとんど取れなかったから湯銭は重要な財源らしいな。


 そして神君大権現は健康オタクだが意外なことに温泉にはほとんど興味がなく、戦国武将にしては温泉に関する逸話がほとんど無かったりするようだ。


「さて、手続きをしたら早速温泉に入るか」


「そうしやしょう」


 この江戸時代初期は草津温泉には現代のような内湯はなく、露天の温泉に好きに入り、湯宿は基本的に素泊まりだったりもする。


 飯は別にどこかで食べるか自分で調理するというわけだな。


 必要な手続きをして湯銭を払ったら、温泉の側にある屋根付きの脱衣所で服などを脱いで男はふんどし、女は湯文字とかをまいて温泉に入る。


 湯文字は巻きスカートのように腰部から膝までをおおうもので、水につけた時に浮かんでまくれあがらないように鉛のおもりが縫い込まれているものだ。


 もっとも皆上半身は裸だがこの時代は女性が人前で赤子に授乳したりすることが、恥ずかしいとは思われない時代なんでおおらかなもんだけどな。


 現時点でも草津の湯屋は60軒ほどあり、湯治客もたくさんいる。


 湯銭は10日につき100文などで宿賃や飯代はまた別なのでそれなりに金がある人間でないと使えなかったりはするんだけど。


 草津温泉は強酸性の酸性泉もしくは硫黄泉で湯温も高く、この時代にはかなり恐れられていた出来物が悪化して死に至る皮膚病に対してとても高い効能があったので、全国から湯治客がやってきた。


 もっとも江戸時代の草津温泉は、山の上での冬の生活が困難だったので毎年10月8日に草津の住民全員が山を降りて翌年の4月8日に再び山に戻って温泉宿や食べ物屋の営業を始めるのだが、その間は伊勢の御師と同じように各地を廻って草津の湯の効能を宣伝したり湯の花などを配って歩いて宣伝していたらしいけどな。


 ちなみに湯治客は湯にはいる前に、住所や檀那寺の宗派を明示した上で、「逗留時に死亡の場合には当地で埋葬してくださってかまいません」という誓約書を書かされる。


 これは湯治に来る湯治客には病気で衰弱しているものなども多くて、ヒートショックで心不全などを起こして死亡する浴客も多かったためだ。


「ふう、ちと熱いがやはり温泉は良いな」


「まったくでんな」


 でも清花は足をちょこっとつけたら泣き出してしまった。


「やー! あつー」


「あら、清花にはちょっと熱すぎるみたいですね」


 草津温泉の源泉は大変高温で50度から90度くらいだから、少し冷まして入るわけだがそれでも熱く感じる場合がある。


「おーい湯もみして温度を下げてくれー」


「はーい」


 女性たちが湯もみ板と呼ばれる木の板で温泉のお湯をかき回し、湯温を下げるのが特徴的な湯もみを行ってくれる。


 冷たい水でうめれば確かに温度は下がるが温泉成分までもが薄まって効能が失われてしまう。


 なので、成分を薄めずに比較的低温な空気をお湯に混ぜ込んで撹拌することで温度を下げるわけだ。


「もう大丈夫だと思いますよ」


「清花ーもう大丈夫だぞー」


「だいじょー?」


「ちょっとだけ脚を入れてご覧なさい」


 清花が恐る恐る足を入れると今度は大丈夫だったようだ。


「だいじょー」


 楽しそうにパチャパチャしてる清花は可愛いぞ。


 しかし温泉の効能を薄めないで温度を下げるためとは言え水をかき混ぜるのは大変だな。


 ちなみに温泉宿は基本的に部屋を貸すだけなのだが、手続きの際に旅館の番頭は「通い帳」というスケジュール帳みたいな物を持ってやってきて、泊まる客はこれに滞在期間と期間中に必要なものを書き込み番頭に渡すと、必要な代金が記されて返ってくるので、それで金額の交渉が成立すれば、客が外湯で風呂に入っている間に江戸時代のレンタルサービス兼質屋のような損料屋が、書かれてるものを全て揃えて湯屋の部屋に運び込むので金さえあれば何も持ってくる必要はなかった。


 それこそ寝具の布団や寝間着、ふんどしなどの下着、鍋釜などの調理道具や茶碗や湯呑・箸などの食事道具、燃料の薪や炭、食べ物の米・塩・味噌、寒い時は火鉢や着物整理のためのたんすなどまで何でも揃うんだから大したもんだ。


 さらに自分で食事の支度をしたりするのは面倒だという人間には、期間中に専属料理人や女中を雇うこともできるくらいだ。


 もっとも、金持ちでなくても、部屋には野菜や川魚、煮物などの惣菜を売る棒手振りが部屋にやってきて安くうってくれるから金がなければないでなんとかなったりもする。


「吉原旅籠の部屋にもこういう方式を取り入れるのもありか」


「そうかもしれませんな」


 ちなみに温泉は5箇所あるがどこに何回入っても、湯銭は一律同じだ。


 また、金を出せば一箇所を貸し切にすることも可能だがこれかかなりの贅沢とされている。


 浴槽の広さや深さ、温度、泉質なども違ったりするので入り比べるのもなかなか楽しい。


「なかなか良かったな」


「ほんに」


 後は草津街道・信州街道から中山道に入って江戸に戻るだけだ。


 最後の四宿である板橋宿だが甲州街道の内藤宿よりはずっと活気があるようだな。

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