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最後は伊勢との対戦だが、残念ながら負けちまった

 さて、大津もなかなか強かったがなんとか吉原は勝ち抜き、もう一方の長崎丸山と伊勢古市の対戦は伊勢が勝って、吉原と伊勢での決勝となった。


「なんだかんだで勝ち残るとは江戸も侮れねえな」


「それはこっちも同じことを思うぜ。

 公許でない伊勢の古市遊廓が最後まで残るとはな」


「そりゃ伊勢は禁裏御料だからな、お武家様で一番偉い将軍様でもそうそう直接は口出しはできないさ」


「なるほど、京島原以上に能楽舞台などが揚屋に残ってるのはそれもあるか」


「それはそうだ、舞はそもそも神様に捧げるためのものだからな」


「なるほど」


 もともと奈良時代から平安時代においては遊女は神社で巫女として神に仕えながら歌や舞・踊りを行っていた者たちが発祥だという。


 平安時代の白拍子もその系統で本來は巫女による巫女舞・神楽舞が原点であり神をおろして憑依させた際には一時的に異性への「変身」をすると思われていたのだな。


 これは須佐之男や日本武尊が女装、天照大御神や神功皇后が男装を行ったという説話などが元らしい。


 さらに言うならもともと古市は伊勢神宮の外宮と内宮をつなぐ3.5キロほどの参道沿いの丘陵地帯に位置し伊勢参りが廃れていた戦国期には民家もほとんどない辺鄙な場所だったが、江戸時代に入り平和になって伊勢参りの参拝客の増加とともに、宇治古市として独立して最初は茶立女・茶汲女と呼ばれる遊女をおいた水茶屋や飯盛旅籠ができそこから太夫を抱える大見世もできはじめた。


 他にも芝居小屋や浄瑠璃小屋も数軒あるというのが、吉原を先取りした感じになってる。


 古市は門前町なのでその他の見世物小屋などもあったりするのだな。


「俺は京の島原を目標にしていたが、能舞や浄瑠璃なんかは伊勢も参考にすればよかったな」


「おう、俺たちは島原程お高く止まっちゃいないしどんどん参考にしてくれていいぜ」


 古市では吉原や島原・新町などのような格子前に座って遊女を選ばせるわけではなく、揚屋での遊女の能舞踊りが遊女の顔見世として使われ、舞台の上に踊り手は左右より十名ずつ「よいよいようやな」と掛け声をかけて踊りながら、中央で行き違いになり、反対側の通路に消えていき客はたとえば右から来た5番目の遊女というような選び方をしているようだ。


 これは京の三条河原での遊女歌舞伎にかなり似ていると思うからさすがに直接は取り入れられないけどな。


「そうか、とりあえず明日はよろしく頼むぜ」


「ええ、こちらこそ。

 なんでしたら今日は禊ぎで榊原温泉に行かれてはどうですか」


「ああ、温泉は良いな」


「温泉での湯垢離で穢も疲れも落とせますよ」


「じゃあちょっといってみるか」


 俺たちはのんびりと榊原温泉へ向った。


 もともとは伊勢神宮参詣前に身を清めるために湯垢離(ゆごり)で開かれたらしく、皇室や宮家、公家などは参拝前にはいっていたらしい。


 だが江戸時代では一般開放されている。


 しかしながらそこへの入口は東門ひとつだけで、不審者の侵入を防げるようにしている。


「吉原のもんだが温泉を使わせてくれるか」


「ええ、どうぞ」


 まあ俺たちはともかく皇室や宮家の御方に何かあったりしたら大変だしな。


 伊勢からは10kmくらいあるからちとばかり遠いのが欠点だが、温泉に入ればその疲れも吹き飛ぶ。


 湯帷子を着て皆で温泉に入るのは最高だ。


「いやー、疲れも吹き飛ぶな」


「全くでやすなー」


「ほんにええ湯ですわ」


 江戸時代初期は温泉も湯屋も男女混浴が普通なのだが、一応素っ裸ではなく腰巻を身に着けたりする。


 まあ濡れればスケスケなんだけどな、といってもこの時代は裸に対して恥ずかしいという感覚はあまり強くはなく母親や乳母さんが乳児に授乳するときも男の前でも普通に乳房を出して授乳するし、暑い時は男女とも上半身裸だったりすることも少なくない。


 だから別に俺が助平心を出して混浴させてるわけではないぞ。


 温泉を堪能したら古市に帰り夕食を食べて寝たら翌日は決勝戦だ。


 今日も伊勢が上座。


 まあ、これはやっぱりしょうがねえな。


 そして対戦が始まった。


 まず先鋒は小太夫にかわって総角が古市の先鋒と対面してる。


「お願いします」


「お願いします」


 そして全体的にさいの目の良さで古市の太夫に総角は負けてしまった。


「ああ、すんまへん、負けてしまいやした」


「ありがとうございました」


 俺は総角をせめるようなことは当然しない。


「まあ、しゃーない、古市にはお伊勢さんの加護があるかもしれん」


「そいつは厳しいでやすな」


「ああ、だが大丈夫さ、まだまだ勝負はこれからだ」


 そいて吉原の次鋒は勝山だ。


「勝山、今日も頼むぞ」


「あい、わかってやすよ」


「お願いします」


「お願いします」


 そして勝山が今日も勝った、追い詰められてからが強いのはさすがだ。


「さすがだな」


「いえいえ」


 次は中堅戦。


「よーし、花紫続けてたのむぞ」


「あい、がんばってきやすよ」


 そして中堅戦が始まった。


「お願いします」


「お願いします」


 中堅戦も花紫がなんとか勝った。


「よしよし、さすがだぜ」


「あい勝ててよかったでやすよ」


 そして副将高尾の出番だ。


「わっちで勝ちをきめたいでやすな」


「おう、頑張ってくれよ、高尾」


 そして続く副将戦 


「お願いします」


「お願いします」


 しかしここでまさかの高尾が敗北。


「相手のサイコロの出目が神がかり的だったな」


「あい、くやしおす」


 そして大将の紅梅の出番だ。


「よしこれで勝敗が決まる、頼むぞ紅梅」


「あい、頑張ってきやす」


「お願いします」


「お願いします」


 最初に一度勝ったのだがその後まさかの2連敗で残念ながら負けてしまった。


「すいまへん、負けてしまいやした」


「ああ、お伊勢さんの地元じゃ厳しかったのかもな」


 残念ながら今年は準優勝で終わったがみんな頑張ったし悔いはない。


「また来年頑張ろうぜ」


 伊勢は京の島原も江戸の吉原も倒したということで全国に名を響かせそうだな。


 今年は伊勢参りがさらに流行するかもな。

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