今年の大阪新町はなかなか手強かったよ
さて、今年は8つの遊廓で盤双六を使っての日本の遊郭の頂上を争うわけだが、最初の対戦相手は去年と同じく大阪の新町。
だが去年の惣名主と違って今年の大阪新町の名主は結構やり手らしい。
去年は疲れ切った顔をしていた新町の遊女も今年はやる気に満ちてる。
こっちは観光気分でそこまで急いできたわけでもないが、半月の徒歩の旅をしてきたばかりだし疲れを考えるとちっと不利かもな。
「では江戸と大阪の対局からですね」
俺達は対局の場所へ移動することになった。
伊勢の中でも一番いいらしい揚屋の座敷での対戦だな。
今年は去年の戦績で座敷ではこちらが上座になってるが、大坂の連中はそれに異を唱えることもなく澄ましている。
「今年の大阪はだいぶ手強そうだな」
「いえいえ、お手柔らかに願いますよ」
去年の新町の惣名主とはだいぶ違うようだが遠くから来たんだし一回戦負けは避けたいな。
そして対局が始まった。
まず先鋒は小太夫だが新町の先鋒と対面してる。
去年の新町の太夫はかなり疲れた顔をしていたはずだが、今年は余裕綽々だ。
「お願いします」
「お願いします」
江戸が白、大阪が黒となって、お互いがサイコロを一つずつ振り、大きい目を出した方が先手。
「こちらは5ですな」
「こちらは3ですな」
なので、吉原の白が先手で盤双六が始まる。
囲碁は運の関係する要素がない完全情報ゲームと言われてるが、実際には思考だけで完全に決まるゲームはない、とはいえ囲碁に比べれば盤双六はさいの目という確率という運の要素はかなり大きい。
小太夫が2つのサイコロを振ると5のゾロ目だった。
ちなみに盤双六ではぞろ目を次のようにいう、重一、重二、朱三、朱四、重五、重六、だ。
「さて重五ですな」
ゾロ目の場合はサイコロの出目の数の倍進めることができる。
このルールはダイス4つ分にする場合もあるし、サイコロを2つ振り足すことが出来る場合もあったりするが今回は出目の数の倍進めるので5・5のゾロ目なら10・10進めることが出来るわけだ。
「では一番うしろの駒を2つ10マス進めやしょうか」
盤双六だと1つだけの駒は相手に”切られる”可能性があるのでなるべく同じマスに2つの駒を入れておくに越したことはない、そうすれば取られないだけでなく相手がそこに入れないのでジャマをすることも出来る。
「こちらは朱四でんな、ではこちらも同じようにしやしょうか」
「では、今度はこれとこれを」
「では、それをきらせてもらいましょうか」
「むむむ」
囲碁に比べれば比較的運の要素が強いとは言え、盤双六も戦略性の高いゲームで、適当にコマを進めても勝てるわけではなく、切った駒が復活したときに、進めていた駒を切り返されることもあるのが盤双六の奥の深いところだ。
「むむむ、全部上がられてしまいましたか」
「ありがとうございました」
まずは先鋒の小太夫は2点勝ちを収め、次に1点負けを喫したものの、最後に1点勝ちを収めて3対1で小太夫が勝利した。
「いやあ、今年の新町の太夫はんは、なかなか強敵でしたなぁ」
「ああ、去年とはまるで違うな」
実力差がはっきり出る囲碁に比べて盤双六はお座敷遊びとしてのハードルが低いのだろうが、新町でもきっと特訓してきたんだろうな。
吉原の次鋒は勝山だ。
「勝山頼むぞ」
「あい、わかってやすよ」
「お願いします」
「お願いします」
しかし、去年は無敗で大活躍だった勝山だったが、今年はいまいち不調なのか運が無いのか僅差で負けてしまった。
「あい、すいません」
「いや、こっちのほうが歩き疲れている分は不利だしな」
次は中堅戦。
「よーし、花紫たのむぞ」
「あい、がんばってきやすよ」
そして中堅戦が始まった。
「お願いします」
「お願いします」
中堅戦は花紫がなんとか勝った。
そして高尾の出番だ。
「わっちで勝ちをきめたいでやすな」
「ああ、頼むぞ、高尾」
そして続く副将戦
「お願いします」
「お願いします」
高尾の表情は厳しかったが何とか2勝1敗でかった。
「ふう、なんとか勝ってきましたえ」
こうして大将の紅梅の出番はないまま、吉原はなんとか一回戦を勝ち抜いた。
「うーん、わっちの出番がないのは……なんか複雑でやすな」
「ま、去年も藤乃がそう言ってたがまあ吉原が勝ったんだしいいじゃねえか」
「そうでやすけどね……」
今日は出番がなくても頑張れ紅梅・あと補欠の総角、たぶんいずれは出番はあるぞ。




