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3月の出代りではうちで働きたいって言うやつがだいぶ増えたみたいだ

 さて、3月は下女・下男などの年季奉公の一年契約満了の月の出代わりの月でもある。


 現代でも3月20日や4月1日は会社では新年度になるのと同じだな。


 もっともうちではいないが、待遇の悪さに契約満了前の途中で逃げ出す者も珍しくないし栄養状態の悪さから病死したりするものも結構いたりはするのだが。


ブラックな職場は昔から当たり前に存在するってことだ。


 俺の遊郭でも長期契約の遊女や若い衆以外に短期契約の針子や飯炊き・風呂炊きなどを行ってる女性もいるし、美人楼や万国食堂・花鳥茶屋・吉原旅籠や工場などなどの遊郭以外の従業員もなるべくは同じ場所で同じ作業内容を継続で働いてもらうようにしている。


 無論働きに応じて役職の昇格によってやることが大幅に増える場合もあるがその場合は当然役職にみあうだけ給与も増やしてる。


 むろん本人が理由も有ってやめたいという場合は無理には引き止めないけどな。


「竜胆、今のところやめたいってやつはいないよな」


「ええ、うちの職場より待遇がいい場所はそうないですからね」


「飯と睡眠と適度な休み、たまに皆でお出かけ。

 それだけでもだいぶ違うよな」


「ええ、美味しい飯というのはやはり良いものだと思いますよ。

 たまにみんなでお寺なんかにお参りをさせてもらえるのも評判いいです」


 21世紀だと飲み会とか慰安旅行はむしろ嫌がられることが多いが、江戸時代では個人での旅行は難しい事もあって去年の江ノ島詣でなどは皆楽しんでいた。


「ま、仕事に対してのやる気は大事だからな」


「むしろ働きたいという希望者が多くて断っている状況ですね」


「うーん、できれば働きたいというやつは皆働かせてやりたいがどうしても働ける人数の上限はあるしな」


「そうなのですよね」


 20世紀後半から21世紀の会社は複数の部署や支社や支店などがある場所だと出向や転勤、部署の配置換えなどが結構あるが、なんで日本の役所や会社はせっかく仕事を覚えてきて社内外の人間関係も構築できてきたところでそれをぶち壊すような配置換え・転勤・出向などをするのか?と外国人は思っていたらしい。


 そして俺もうまくいっている場所の配置換えは無駄以外の何物でもないとおもう。


 上の人間は簡単に仕事に必要な引き継ぎをしておくようにと言うが引き継ぎなど完ぺきにできるわけはない。


 人が入れ替わるとそれだけで大きく作業の効率が落ちたり、新しい人間に仕事を教えなおしたり、人間関係の再構築をしないといけないがこれは非常に無駄だとおもうのだ。


 ちょっと教わっただけで前の人間のやっていたことと同じことを出来るようにはならないのが普通だからな。

 なので前の人間がちょこちょこ戻ってきては教えたりしないといけないわけだが戻ってこれない場合だって多い。


 人間の馬が合うか合わないかというのはなかなかわからないものだが一緒に働く人間がなんとなく気に入らないというだけでもその職場の空気は悪くなり仕事の効率は大きく落ちるものだ。


「他に移りたいってやつはちゃんと話をしてやってくれな」


「ええ、わかってます」


 もっとも現場の人間が人間関係の悪さから入れ替えを希望している場合はまた別なんだがそういう場合に限ってなかなか入れ替えがされなかったりもするんだよな。


 現場の上の人間が下の人間の発言を握りつぶしてたりすることとそういう場所は一見すると数字の上ではいい成績を出してるように見えるからだったりするんだけど。


 企業は従業員に様々な経験を積ませることで、組織も本人も気づいていなかった適性を発見することが出来るという話もあるが、事務に営業をやらせたりなど本人の意志を尊重しないし、異動先が通勤時間がかかりすぎてそれだけで疲れが溜まってダメになることも多い。


 人が移動することで社内の横のつながりが広がるとも言われるが実際は移動してしまえば前の部署と関わることもあまりなかったりする。


 だから人の移動というのはむしろ少ないほうがいいのだ。


 経理などを任せたら横領されたなどという話もあるが金などを扱う大事な部署の人間なら十分な給料と罪を犯した場合の重たい罰則をもうけ罪を犯すのが割に合わないようにさせたほうが良い。


 会社が大事な人間を尊重しないことで不正を働くケースのほうが多いのだから。


 だから、三河屋などの遊郭の番頭や物書のように金を扱ったり帳簿をつけたりする人間には十分な給料を払い、住む場所や服なども良いものを用意してる。


 若い衆は長屋住まいだが以前は雑魚寝だったが今はなるべく個室にしている。


「熊もなんだかんだでうまくやってるみたいだし、そろそろ中見世を任せていいかもな」


 小見世を任せていた三河屋の元番頭の熊もうまくやってるようだ。


 世の中には指示を受ければうまく仕事ができるもの、指示されないでもうまく仕事ができる者、下のものに指示することでうまく仕事を回せるものなどいろいろな人間がいるが指示をしてうまく仕事をやらせることが出来る人間は案外少ない。


 かといって若い衆も少しずつ仕事の出来栄えに応じて給料や役職をあげたりもしているが上が詰まっているとなかなか昇格もできないのがこの時代ではある。


 もっとも21世紀の会社も大卒なら主任や係長になるのは難しくないが課長や部長になるのは大変だし、それは風俗のグループだってそうだ。


 もっとも風俗は脱落者が多すぎるので運がいいとすぐ店長になったりもするけど、利益を上げられなくてまた脱落ということも多い。


 風俗は門戸が広くて学歴などは問われないけどその分実績に対してシビアでもあるのだ。

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