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たまには穏やかに一日過ごすのも良いものだ

 さて、日々忙しく過ごすうちに季節は秋になっていた。


 チェンバロの評判を聞いた寺にチェンバロの製作依頼を受けて権兵衛親方たちにつくってもらいそれを売ったりもしてるし歌声茶屋へおいてそれを弾き語りさせたりもしているがなかなか評判は良い。


 その他にも遊郭経営に特に大きなトラブルなどもなくごく平穏な日常を過ごしているが平穏な日々は良いものだ。


 で、俺は今、清花の面倒を見ている。


 清花はハイハイしながら活発に動き回るようになってるがつかまり立ちをしてあるき回るのもそう遠くはないだろう。


「おーい清花?」


 俺は清花を抱き上げて顔を覗いた。


「あ?」


 清花は首を傾げてるがうん可愛い。 


「清花もだいぶ大きくなったな。

 元気に育ってくれて嬉しいよ」


 俺の言葉に答えるように清花は大きく手足を伸ばす。


「んあ!」


「ん、清花はいいこだぞ」


「あーい!」


 清花が俺の言ってる意味をちゃんと理解しているかはわからんがなんとなくは理解してくれてると思う。


 赤小本の読み聞かせをしたりガラガラで遊ばせたりもしているがすごく賢くなってくれなくても別にいい。


 大きくなったときに遊女になったり遊郭経営に携わらなきゃいけないとも限らないしな。


 そして妙は清花の着ている産着を新しく合わせのものを仕立てて”背守り”と呼ばれる刺繍を入れている。


 この時代では魔物は背中から忍び寄って幼い子どもの魂を奪っていくと信じられたので、母達は着物の背中に籠目と呼ばれる六芒星を縫って魔除けとするのだがそれが「背守り」だ。


 大人の着る着物には背中に1本の縫い”目”が必ずあるので、その背中の「縫い目」が魔物をにらんで退散させる力があるが、小さな子供の着物には縫い目が無いので、魔物をにらみつける目として縫い目をわざと付けたのが背守りの由来らしい。


 後には松や鶴・亀などのめでたい模様を縫い付けたり、逆に古くは寺社の御札の入ったお守りや魔を払うと言われる小豆を入れた小袋を縫い付けていたり、明治から戦前だと小さなぬいぐるみを縫い付けたりもしたらしいな。


 この風習ももともとはやはり平安時代に公家や豪族などが行っていたものであったようだが江戸時代には一般大衆にも広まっている。


 そして別名子取り歌ともよばれる”かごめかごめ”は”かごめかごめ、籠の中の鳥は、いついつ出やる、夜明けの晩に、つるつるつっはいた”というのが江戸時代の歌だが「つるつるつっはいた」と言うのは「ずるずると引っ張った」と言う意味、すなわち背中から引きずり出されたという意味合いで夜中に子供が死んでいることを示すのだと思う。


 だからといって親も寝ないわけにも行かないから夜は怖いよな。


 ”後ろの正面だあれ?”というのは明治以降に歌われるようになったものらしいが後ろの正面にいる者こそが子供の命を持っていくものだと考えられていたのだろうな。


「はい、清花新しいお服ですよ」


 そういって妙は清花を新しい服に着替えさせた。


「やーん」


 しかしせっかく新しい服に仕立て直したのに清花は古い服のほうがいいらしい。


 ああ、でも枕とかぬいぐるみなどもそうだがあんまり新しい物よりちょっとよれて自分の匂いのしみついたもののほうが安心したりするよな。


「新しい服はいやか?

 でも清花、今のお服のほうがあったかいだろ?」


 清花はんーというふうに首を傾げてる。


「お母さんはお前のためを思って一生懸命縫ったんだから感謝しないとだめだぞ?」


「あーい」


 多分意味はわかってないだろうけどコクとうなずく清花。


「ん、いい子だ」


 俺は清花の頭をイイコイイコと撫でる。


「妙もおつかれさんだ。

 大変なら針子に頼んでやってもらってもいいんだぞ」


「いえいえ、私の大事な子ですから自分でやりたいのです」


「ああ、その気持ちはわかるよ」


 これから寒くなると乳児は体温を維持できなくて夜中に寝てる最中に突然死する可能性が増える。


 風邪なども引きやすくなるし心配だな。


 かと言って温め過ぎも良くはないらしい。


 どうにか冬を乗り切って元気に春を迎えさせたいものだ。

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