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今年のえびす講はフリマなどをやりつつ人紙芝居を広めよう

 さて、藪入での実家帰りから妙や下女たちも吉原に戻ってきた。


「妙のお父さんやお母さんは元気だったかい?」


 妙は嬉しそうにニコリと微笑んだ。


「はい、お父もお母も元気でしたし孫の顔がもうすぐ見れるとそわそわしていました。

 そしてやはりお母の料理というのはいいものです」


「うむ、そいつはよかった。

 本当にそろそろきつかったら無理しなくてもいいんだぞ」


 それに対して笑いながら言う妙。


「まだまだ大丈夫ですよ。

 実家の木材の売上も順調でしたし実家の方は心配事もないです。

 それにある程度動いていたほうが気が紛れますよ」


「ふむ、そんなもんなのか」


「そんなものなのです」


 さて1月20日はえびす講の日だ。


 本来は裕福な客を招いて宴席のものに値段をつけて売り買いのまねごとをするのだが今年はもっとオープンに行こうと思う。


「今年のえびす講は座敷の中でなく店先で茣蓙を敷いて売り買いをするぞ。

 一緒に紙人形芝居もやろう」


 そこで楓が手を上げた。


「はーい、売り買いって何を売るんでっか?」


 俺はそれに応える。


「それは自分で作って売れると思うもんを売ってくれ。

 今年は俺は細かく指示しないから好きなようにやっていいぞ。

 ウズメはん人形でもいいしもっと他のものでもいい。

 何かを書いて小冊子にしてみてもいいし古着をうってもいいぜ」


 そういうと楓は眉を寄せた。


「うーん、そらまた悩みますな」


 俺は苦笑しつつ言葉を続けた。


「どういったもんをどうすれば買ってもらえるか皆で考えてくれ、屋台で食べもんを売ってもいい。

 茶を点ててもいい、人形みたいなものを売ってもいい。

 もちろん恵比須回しをしてみてもいい。

 まずは自分の客に金を出してもらえることを考えればいいさ」


 楓は頷く。


「あい、わかりんした」


 うん、なんだかんだでやる気があるのは良いことだ。


 そこで桃香がおずおずと聞いてくる。


「わっちら禿もやっていいでやすか?」


「おう、全然構わんぞ。

 なんか必要なものがあれば俺に言ってくれな」


「あい、わかりんした」


 今年のえびす講はフリマと言うか学校の文化祭みたいなのりだな。


 しかし今更ながら考えてみるとえびすは七福神の唯一の日本の神で、本来はおそらく漁業の神だったものがいつの間にか商売繁盛の神とされた謎な神様だったりする。


 東夷(あずまえびす)などと言われるように、本来は異邦人そのものを指したのだがおそらく農業を中心としていた民からみた漁業、これは貝や海藻などの海の幸を主食としていた民族のことなのではないだろうかと思う。


 更には漂着したクジラそのものを指して「えびす」と呼ぶ場合もあるらしい。


 なので本来は商売とは関係ないはずなのだが、平安末期から鎌倉時代にかけて魚の市の守護神としてまつられその後の商業のさらなる発展とともに商人の信仰も集めるようになった。


 そしてえびすの信仰が広まった背景としては、西宮神社を本拠地とする。


 夷舁(えびすかき)もしくはは夷まわしと呼ばれる傀儡子集団が重要な役割を果たしたらしい。


 五穀豊穣の属性がついたのはさらにその後らしい。


「さて、みんなどんなものを作って売ってくれるか楽しみだ」


 えびす講の当日、三河屋や十字屋の見世前は結構カオスなことになった。


 桃香たちは将棋盤と将棋の駒を並べた”将棋倒し”つまりドミノを並べるところからやって見せて通行人をわかせている。


「おお、将棋の駒が倒れるとこんな形になるとは」


 通行人の反応も悪くなくおひねりをおいていく連中も結構いる。


 小さな禿が一生懸命将棋の駒を並べていく様子はドキドキハラハラさせるものがあるしな。


 楓は紙人形の芝居をやっている。


 中身は”山幸彦と海幸彦”で浦島太郎のもとにもなった話だな。


「かくして山佐知毘古はなくしてしまったと思った釣り針を豊玉毘売命に探してもらって見つけ出し針を取っていってしまった鯛を釣り上げて海幸彦に返したことで兄弟は仲直りして末永く暮らせたのでした、めでたしめでたし」


 うん、内容はひねってあるな。


 もとのままだと割と残酷な話だしいいんじゃないのか。


 これは家族連れの子どもたちが楽しそうに聞いていたぞ。


 赤小本や定本の応募は公家、僧侶、武士などある程度教養があるもののほうが有利すぎたけど、一般的な町人の子供とかにももっと広まってほしい。


 本を買ったり借りたりして読むにも文字の読み書きができないと駄目というのはやはり敷居も高いし、傀儡芝居や紙芝居のようなもので物語というものに親しんでもらうのはいいんじゃないだろうか。


 藤乃は優雅に茶の野点をしているし、茉莉花と鈴蘭はお好み焼きよりも薄い”もんじゃ”のようなものを屋台で焼いて売っている。


 十字屋でも古くなった着物を売ってみたり、甘酒とキビダンゴを合わせて売ったり、生パラパラを披露してみたり。


 皆座敷の中でこもって商売ごっこをするよりずっと騒がしくて楽しそうにしていたぜ。


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