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ある日の吉原遊廓のお客達:仙台藩士吉原遊戯場堪能編

 さて、吉原の黒湯温泉を堪能した仙台藩士の平田源左衛門ひらたげんざえもん藤枝宗輔ふじえだそうゆうは、暇つぶしにと新しくできた室内遊技場へ向かった。


 その前に彼らは吉原運動公園の前を通りかかった。


 木と縄で構成された運動施設で若い男や男の子が歓声を上げながら楽しそうに運動している。


「ほうほう、なかなかの賑わいですな」


 藤枝宗輔がそういうと平田源左衛門もうなずきつつ言う。


「ふむ、狭い場所での運動ができる施設とは。

 我々武士の日頃の鍛錬にも使えるやもしれませんな。

 しかも皆楽しそうだ」


 遊びで使う分には楽しいが軍事的鍛錬でこういった施設をブートキャンプ的に使った場合でも楽しいかどうかはまた別問題だが、場所が狭くても体を鍛える場所として有効的に使えるのは事実であろう。


「ふむ、殿に武家屋敷の敷地にこのような運動公園を設営することを進めてみても良いかもしれませんな」


「はい、休みの日に外出もまままならぬ身としてはこういった施設があれば運動不足も防げますしまこと良いことかと」


「では少し試していきますか?」


「はい、それも良いかもしれませぬ」


 二人は運動公園施設の受付へ向かった。


「運動公園のご利用をご希望ですか」


 受付の娘がにこやかに言う。


「うむ、利用させていただきたい」


「では、入園料は16文になります」


「なに、入園料がとられるのか?」


「はい、運動公園の維持管理にも費用がかかりますのでご了承ください」


「わかった、ではこれで」


「ありがとうございます。

 ではいってらっしゃいませ」


 受付嬢はにこやかに二人を送り出した。


 そして早速運動施設を使い始める。


「うむ、縄で木の壁を登る訓練か。

 しかしちともの足りぬな」


「そうですな、もうちと壁が高いほうが良さそうですな」


「もしくは縄を腕の力だけで登るのも良さそうですな」


 そして二人は次の施設へと移動した。


「今度は揺れる木の板を渡る訓練だな」


「しかし幅が狭すぎますな。

 訓練とするならばもう少し幅を広くしたほうが」


 そんなことを言っていると後ろから子供に声をかけられた」


「なあなあ、おっちゃんたちぶつくさ言って止まっていないで早く進んでくれないとあとから来るものの邪魔になるよ?」


 二人はここが子供も遊べる運動公園であるということを思い出して咳払いした。


 吉原の中では士分と町人の上下の位は適用されぬものとされている。


 無論明らかに無礼なことをすればただでは済まされぬが。


「う、うむ、そうだな、すまぬ」


「では、ささっと進んでしまいましょうか」


 しかし二人はその後も童心に戻ったように運動公園施設を堪能するのであった。


 もっとも遊具の数は少ないのであっという間に全部を使い終わってしまったが。


「うむ、実に素晴らしき施設であったな」


 藤枝宗輔がそういうと平田源左衛門もうなずきつつ言う。


「ええ、これはぜひとも我が藩の武家屋敷にも作りおくべきでありますな」


 そう言いながら二人は運動公園を後にして室内遊技場に向かった。


 こちらもなかなかの賑わいを見せていた。


「いらっしゃいませ。

 2名様でいらっしゃいますか?」


 受付嬢が二人にそう聞いてきた。


「うむ2名である」


「ではお一人様16文お願いします」


「わかった、16文だな」


 二人は16文ずつ払うと室内遊技場へはいっていった。


 室内には非番の遊女や浅草観光ついでに遊びに来た女が多いが男の姿もちらほら見かけられた。


 少し広くなった場所でいろはかるたや百人一首、絵双六などをワイワイ行っている者や碁や将棋を静かに打っているもの、ざわざわした雰囲気を漂わせる麻雀や盤双六を行っている場所、酒をクイと飲みながら談笑しつつ棒玉突を行っている場所など雰囲気は様々。


 麻雀スペースなどはなんだか不穏な雰囲気が漂っている。


「くくっ、きたぜぇぬるりと」


「ロン、国士無双です。

 お客様のトビで終了ですね」


「あははは、麻雀って楽しいよね」


 などという女性の声とともに


「うぎゃあ、もうやめてくれ」


「ばかな、この局面で単騎待ちだと?!」


「私の完璧な理論が通用しないとは」


 などという男の悲痛な声が上がっていた。


 二人は冷や汗を流しながら見合った。


「あそこに行くのはやめておきましょうか」


「う、うむ、そうですな」


 そして二人は将棋盤のおいてある空間に移動する。


 そしてそこで相手を待っていたらしい遊女に声をかける。


「よろしければ一手お相手してもらえるかな」


 遊女はニコリと微笑んでいった。


「あい、わっちでよろしければ喜んで。

 どうぞこちらへきなんしはれ」


「では、私が」


 平田源左衛門が将棋盤の前に腰掛けた。


「先手はお客様からでやんす。

 長考は無しで行きやしょう。

 お相手の代金で16文いただきんす」


 平田源左衛門は頷いて16文を払った。


「うむ承知した」


「ではよろしくお願いたしんす」


「お願いします」


 二人はぱちぱちと一手一手を指していく


「む、そう来たかでは……ここだ」


「ふふ、なかなか厳しゅうありんすなぁ」


 結果としては平田源左衛門の勝ちであった。


「ふむ、君もなかなか悪くはなかった」


「あい、ありがとうござんす」


 将棋を一局指して時間も昼見世の開かれる時間になったところで席を立って彼らは室内遊技場を後にして、遊郭へ向かうのであった。


「しかし安く遊女が遊戯の相手をしてくれる場所というのもいいものですな」


「今の遊女は安かったが、相手によるぞ」


「そうなのですか?」


「非番の大見世太夫などであれば1000文は間違いなくかかるからな」


「ふむしかし、大見世の太夫であればそれでも安いと思いますがな」


「まあ、たしかに、見世に上がれば二刻で30両の太夫と遊べるなら将棋一局1000文は安いものですな」


 600石の知行地を持つ武士は決して貧乏ではないがそれでも太夫クラスになると彼らには手の届かぬ存在であったのだ。


 そしてそんなことを話しながら道をゆく二人は非常に楽しそうであった。


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