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粉物の食べ物を流行らそうか、そうすれば主食も米に偏りすぎないだろうし

 さて、なんやかんやで大奥に中見世経由でコネもできたし、暇で娯楽に金ばかりかかる奥女中たちに小説を書かせて見たり、ヘチマを栽培させてみたりすることで多少なりとも娯楽や化粧にかかる金が減ればいいなあというところだ。


 で、大奥などは一度おいておいて、主食に関して米一択の現状を変えたいんだよな。


 無論米はちゃんと育つところであれば麦などより収獲の多い可能性が高い。


 しかし、信濃や甲斐、飛騨、伊賀のように米が作れる場所が少ないところや東北のように冷害による打撃を受けやすい場所も多くそういう場所ではもっとそういった土地に適した作物を作って冷害などが起こっても大丈夫なようにしたい。


 この時代小麦などがあまり食べられないのは麦は米と違って粥だとまずく、製粉に手間がかかるのと、うどんやそうめんなどくらいしか無いからだな。


 蕎麦もやっとそば切りができたくらいだし仕方ないとは思うが小麦や蕎麦はコメに比べて圧倒的にまずいと思われているのだ。


「製粉の手間がかかるのはどうにもならないがそれを新たな仕事にできるかもしれないし小麦粉を使った料理をもっと広めないともったいないよな」


 この時代でも一応、粉もの料理の原型のようなものはすでにある。


 茶会の茶菓子として安土桃山時代の千利休が作らせていた麩焼きは小麦粉を水で溶いて薄く焼き、芥子の実などを入れ、山椒味噌や砂糖を塗った生地を巻物状に巻いて成形するものだが言ってみれば味噌味のクレープのようなものと言えなくもない。


 たぶん生クリームを塗って巻いたら美味いんじゃないかね。


 また長命寺桜餅のもとになった助惣焼すけそうやきは別名どら焼きといわれ小麦粉を水に溶いて薄く伸ばして焼き、その種皮で餡を包んだものだ。


 だがこれ等は主食ではなくあくまでもお菓子だからな、桜餅を米の代わりに主食にして食べるやつはいないし、おかずと一緒に食べるようなものではない。


 21世紀の粉ものといえばもんじゃ焼き・お好み焼き・たこ焼きなんかが有名だが、もんじゃ焼きのようなものは江戸時代の末期ぐらいからもうあったようだ、それに対してお好み焼きは戦後ぐらいにやっと現在のような姿になったらしいから結構新しいな。


 とは言えもんじゃ焼きも戦後の食糧不足の時代にうどん粉を水で溶き、それに味付けした物を熱い鉄板にたらして食べるだけのものだったし、それは駄菓子屋で作れる安い駄菓子の一種として売られているものでも有ったのだが、そのうちに沢山の具を入れるように変わっていったようではあるが。


「とりあえず熱した鉄板で焼いて食べるお好み焼きを広めたいな」


 まあ、お好み焼きが主食なのかおかずなのかは意見が別れるんだろうが俺は主食だと思っている。


 問題はソースなんだがこれはうちでの独占販売にとりあえずしておこう。


 大島に行けばおんなじようなものはあるかな?とは思うけどな。


「親方、真ん中を丸くくり抜いて、その下に七輪をおいてその上に熱した鉄板をはめ込める卓を作って欲しいんだができるかい?」


 俺は権兵衛親方に鉄板焼きができるテーブルの製作を依頼する。


「んあ?また変な依頼だな、ああ、できるぜ。

 また4日位は貰いたいがいいか?」


 俺は親分の言葉に頷く。


「じゃあよろしく頼むぜ」


 七輪はいつもの七輪職人に頼む。


「と言うわけで座卓の高さに合わせて七輪を作って欲しい。

 七輪の上に丸い鉄板を乗せても炭が燃えることができるように七輪の横に穴を開けてほしいんだが大丈夫か」


「あいよ、まあそれくらいなら大丈夫だ。

 今回はさほどへんな依頼じゃなくて良かったぜ」


「じゃあよろしくな」


 21世紀だと熱源はガスだったり電熱だったりするがこの時代にはないからな。


 そんな感じで二人に鉄板焼きができる座卓を注文した後、俺はお好み焼きに必須のソースを作る。


「こいつがないと美味くはならないからな。

 まあ明石焼みたいにだし汁につけて食べてみてもいいかもしれないけど水っぽくなっちまうといまいちな気がするし」


 自分たちでワイワイ焼けるお好み焼きを最初に作れるようにしたいんだよな。


 それが美味いと思えば小麦粉も使われる機会が増えるかもしれないし。


 そうすれば寒いところで無理に米を作らなくても済むようになるだろう。


 そうすれば餓死する人間だって減るはずだ。


 まあ、麦も稲ほどじゃないにせよ沢山水はいるから、旱魃で山の雪解け水を期待できない西日本や島にはやっぱ芋を広めたほうがいいと思うけど。


 そして4日ほどして鉄板焼用座卓と七輪は出来上がってきた。


「よう、出来上がったぜ」


「ああ、ありがとうな親方」


「これでいいのか?」


「ああ、助かるぜ」


 早速試してみるとしようか。


 といっても三河屋の座敷の中でやって万が一にでも火事になっても困るから外でやるとしよう。


「あら、貴方様一体何をやっているのですか?」


 俺が三河屋の外で茣蓙を敷いてそこに座卓などを運んでいると妙が声をかけてきた。


「ああ、去年の蛍狩りの時に殿様たちに出した料理を自分たちで作れるようにできないか試してるんだ。

 ああ、どうせなら一緒に食べてみないか?」


 妙は笑っている。


「あらあら、それではお言葉に甘えて」


 茣蓙の上に七輪をおいて火がついた炭を入れてそのうえに丸い鉄板をおいて、そこに座卓をかぶせれば準備はできた。


「じゃあ俺がまずやって見るな」


「はい、私はそれを真似すればいいのですね」


「おう、そのとおりだ」


 俺と妙は向かい合うように座ってお好み焼きを焼いて食べることにする。


 水で溶いた小麦粉に小さく切ったイカやすりおろした山芋、刻んだネギ、解いた卵の入ったお好み焼きのネタを手桶から柄杓でそれをすくって、刷毛で油を引いた鉄板の上に垂らすとジュウっとそれが焼ける音とともに良い匂いがしてくる。


「まずは片面を焦げ目が付く程度に焼いてから」


 俺はヘラでそれをひっくり返す。


「反対にひっくり返して熱が十分通るのを待つ。

 焦げたら上手くないから適当に見計らってな」


 妙は頷く。


「では私もやってみますね」


 妙が柄杓でお好み焼きのネタを鉄板に垂らす。


「あ、これなかなか面白いですね」


「だろう?」


 お好み焼きが両面焼けたら鉄板からすくい上げて皿に載せマヨネーズとソースをかければいい。


「こんな感じだ」


「分かりました」


 妙も無事に皿に焼けたお好み焼きを載せてマヨネーズとソースをかける。


「じゃ食べてみるか」


「ええ、そうしましょう」


 箸で適当な大きさにしてからお好み焼きを口にする。


「ん、やっぱ美味い」


「そうねとても美味しいわ。

 鉄板で焼くだけでいいのだから割りと手軽だし」


「だろ?」


 試した限り問題はなさそうなので、万国食堂用に一セットずつを追加で頼み、それを設置した。


 お好み焼きはたちまちのうちに評判になって鉄板焼きの座卓には予約が必要になるくらいだった。


 なので俺は万国食堂とは別にお好み焼きやソース焼きそばなどを自分で焼いて食べられるお好み焼き屋を一つ立ち上げることにした。


「これで小麦粉を使った料理がいまより広まればいいんだけどな」


 ショウロンポーのように出汁と肉汁がたっぷり詰まった、酢も入れてある味付け餃子とかも今度試してみようかね。


 小麦の料理だって結構美味しいんだってわかれば麦の生産を勧めても大丈夫だろうし。


 ソースの製法を公開してもいいんだが西洋野菜は知らないやつも多いだろうし、お好み焼き屋はソースや鉄板焼用の座卓セットなども含めてフランチャイズ的に展開してゆこうと思う。


 別にフランチャイズのオーナーとして暴利を貪るつもりもないし、似たような店ができてもそれはそれでいいと思うけどな。

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