大奥でヘチマを栽培してヘチマ水を作ることになったぜ、ついでに白粉も変えようか
さて、吉原の仲通りのぬかるみ対策のための煉瓦の舗装はいまいち上手く行ってる気がしないが、とりあえずは足元が汚れないようにするという当初の目的は果たしたたと思う。
「しかし、道の舗装をするというのは簡単じゃないってことがよくわかったな」
おそらく細かい補修などはこの先常に必要だろうから維持にかかる金も馬鹿にならないが仕方ない。
いっその事学校の渡り廊下のように屋根と床を付けてしまったほうが安がりかもしれないというのはなんだかなではあるが、このあたりは防火対策でみとめられないだろうな。
まあ、それはともかく俺がいま面倒を見ている中見世、小見世、切見世の遊女たちにも美人楼の施設などは利益なしの従業員価格でつかえるようになってるし、商品も安くしている。
遊女の外見を少しでも良くするのは集客に大きく関わるからな、流石にただというわけには行かないが。
小太夫が笑いながら俺に話しかけてきた。
「わっちらのとこが三河屋さんに引き取ってもらえたのはほんに運がいいと思いますわ。
化粧品や化粧水も安くしてもらってますし」
俺も笑いながら答える。
「まあ、化粧用品は遊女に必須の商売道具だしな。
お前さんたちからぼったくるつもりはないさ」
その俺の言葉に小太夫が頷く。
「わっちらの楼主様がええ人でホンマによかったでやんすな。
そう言えば奥向きの女中さんたちもわっちらと同じ化粧水がほしいみたんでやんすよ」
「ほう、大奥の奥女中なら美人揃いだろうにやっぱり少しでも美しく有りたいというのは変わらないのかね」
「そうみたいでやんすな」
ふむ、これはいい機会かもしれないな。
「まあ、作ったヘチマ水を売りつけるのは簡単だがどうせなら自分でヘチマなどを育てて自分たちの化粧水を作ったり体に悪い鉛じゃない、肌にもいい植物の白粉をすすめたりするほうがいいんじゃなかろうか。
もっとも俺は大奥に行けないからお前さんヘチマの種まきから育て方ヘチマ水のとり方まで覚えてくれるかい」
小太夫は苦笑する。
「それはかまいまへんが、せめて覚書は作ってもらえます?」
「ああ、それがあればみんなでヘチマを作れるようになるだろうし作ってみるぜ」
ヘチマは園芸植物の中でも比較的丈夫で成長力も旺盛なためわりと育てるのは簡単だ。
暑さや日差しに強く葉っぱも沢山しげるから夏の日よけにもつかえる。
実は乾燥させてたわしにできるしな。
俺はヘチマの種まきや藤棚のような棚づくりの方法などを紙に書き止めて、土が乾いたらちゃんと水やりをすること、ただし、土が常に湿っていると根腐れを起こすので水をやりすぎないこと。
夏に成長が早くなったら、毎日朝と夕方の2回の水やりをすることなどを書き留めた。
「まあ、ほおっておいても大体は育つと思うけどな」
「そうなんでやんすか?」
「まあ、たぶんだけどな。
けど自分が世話をしたヘチマが育ってそれを自分が使うほうが楽しいだろう」
小太夫は頷く。
「まあ、そうでありんしょうな」
自分たちで物語を作るということに対する楽しさがわかったなら、園芸も楽しめるんじゃないか。
土いじりは下賤なもののやることという思い込みがあるやつはやらないかもしれないけど。
そして、ある程度ヘチマの栽培方法を小太夫に覚えさせ俺も覚書を完成させた後、美人楼用に育ててあったヘチマの小さい苗を渡し、また白粉も鉛で作ったやつではなくキカラスウリやオシロイバナの種から作ったものを渡す。
「白粉は乳母をやってる奥女中にこれを塗れば子供が元気に無事育つものですといって薦めてくれ」
小太夫が頷く。
「あい、わかりんしたよ、ではいってきやんす」
小太夫たちが大奥で奥女中たちに進めたヘチマ栽培は一部の奥女中に受け入れられて今年から江戸城の片隅でヘチマが育てられることになった。
また、白粉も乳母役の奥女中は喜んで鉛白粉から取り替えてくれたようだ。
これで将軍の子どもたちが鉛中毒になることはなくなるといいな。
本来だと将軍直系の血筋は度々途切れていて、大奥ってあんまり役に立ってないけどちゃんと後継者が育つようになればまだ役に立ってるといえるし。




