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2月8日は事納めで針供養の日でもある

 さて、初開催の素人のど自慢は正直微妙な感じでは有った。


 やっぱ歌の種類が少ないのはいまいちだったな。


「やっぱもうちょっと事前調査も必要ってことか」


 それに吉原の劇場はもともと遊女の副業としての脱衣劇ストリップや小規模な歌劇を行うためのものなので、そもそも音響を意識しているわけではない。


 江戸時代初期の能楽の舞台というのもそこまで音響を意識しているとも言えないんだよな。

 基本的には舞のほうが主体で、声などはそれに準ずるものなのだろう。


 そもそも能って歌舞伎のように大勢の観客の前で見せるようなものでもないしな。


「となると、そろそろちゃんと音響まで考えた歌劇や音楽専用の劇場も必要かね」


 そうなると本気で建物の構造そのものを考えないといけない。


 音響を考えるなら火山灰と石灰を使ったローマン・コンクリートに竹筋を加えて強度をもたせた建築物を作ってもいいんだが……。


「あまり強度の高い建築物を作ったら幕府に警戒されそうな気もしないでもないんだよな。

 いま水茶屋摘発用の浪人も雇ってるし」


 もちろん俺には武力を集めて幕府に逆らうつもりも治安を乱すようなことをするつもりも無いのだが、このあたりはちゃんと奉行所に届けるべきだろう。


 今回は吉原の中だから勘定奉行の管轄かね。


 早速俺は妙と一緒に勘定奉行に陳情を行うことにする。


「お奉行様吉原の中に総漆喰というか漆喰に火山灰をまぜたもので弁天様をお祀りする楽器を演奏したりする大きな劇場の設立の許可をいただきたく」


 勘定奉行は俺に問い返した。


「ふむ、漆喰の建物で楽器の演奏を行わせる理由はなにか?」


 俺はそれに答える。


「はい、木材の建物では木の壁に音が吸われてしまいなかなか響きませぬ。

 しかし、漆喰作りであれば壁から音が跳ね返ってくるためより聞きやすくなり音も良くなります。

 弁天様のご加護もありまして吉原は人が集まってきておりますのでそのための施設をぜひ作りたいのでございます」


 そう言って俺はお奉行様に金子を差し出す。

 お奉行様はそれを受け取って言う。



「うむ、良い心がけであるな。

 よろしい漆喰での音楽劇場の設立を許可する」


 俺達は深々と頭を下げた。


「は、ありがとうございます」


 これでローマン・コンクリート造りの弁天様のコンサートホールが作れるか。


 本格的な歌劇オペラなんかもこっちでできるようになるかね。


 日本では西洋のようにオーケストラが発達することはなかったんだよな。


 だから楽譜などもそこまで発達しなかった。


 五線の楽譜と音符があったほうがやはり、演奏は覚えやすいだろうし、それも導入するか。


 さて二月八日は事納め、十二月八日の事始めと対になりこの日で正月は完全に終わりだ。


 そして江戸ではこの日は針供養はりくようの日でもある。


 ちなみに農家では農作業の始まりの日で二月八日は事始めになる。


 針供養とは、折れたり曲がったり錆びたりして、使えなくなった縫い針を供養し、近くの神社に納める行事だ。


 針仕事は、江戸時代では女性の重要な仕事で、それに使う縫い針も生活に欠かすことの出来ない道具の1つ、何しろこの時代に着るものはほぼ全て手縫いなのだ。


 だから今日は針に感謝して針に休んでもらうために針仕事は休み、一年間頑張って働いた、折れたりして使えなくなった針を豆腐やこんにゃくなどの柔らかいものに刺し、針への感謝と裁縫の上達を祈って寺社に収めて供養したのだ。


 これは主に淡島神社や淡島神を祀る淡島堂がある寺院で行われ、浅草では浅草寺がそうだ。


 淡島神は婦人病の治癒を始めとして安産・子授け、裁縫の上達、人形供養など、女性に関するあらゆることに霊験のある神とされる。


 針に関係するのは頗梨采女はりさいじょと呼ばれる神様であるかららしい。


 頗梨采女は針の才女というわけだ。


 針供養の風習は元は中国から伝わり、平安時代にはすでに行われていたが、針供養の風習が江戸にも広まったのはやはり江戸時代だな。


 使えなくなった針をこんにゃくや餅などの柔らかいものに刺した後、土の中に埋めたり川や海に流して供養する場合もあるようだ。


 柔らかいものにさす理由は布等の硬いものを刺してきた針を最後くらいは柔らかい所で休んでくださいという意味と神様への供え物としての意味もあるらしい。


 桜も花嫁授業のため沢山針仕事をしてきた。


 最初は縫い目が雑だったりもしたが今じゃ立派に着られるものを縫えるようになってるな。


「だいぶ上達したみたいでよかったな」


 桜は微笑んでいった。 


「あい、ほんまに大変でしたが嫁に行く前に覚えられて良かったです」


 そして針子や遊女たちを集めて俺は言う。


「じゃあ、皆で針供養に行くか」


 針子が頷く。


「はい、一年の間一緒に働いた針たちを供養してあげたいです」


 俺は頷いて、こんにゃくを皆の前に出した。


「じゃあ、使えなくなった針をさしてくれ」


 針子は沢山の遊女はポツポツと使えなくなった針をこんにゃくにさしていく。


「よし、みんなもう大丈夫か?

 じゃあ、浅草寺に行くぞ」


 みなに確認してから俺達は浅草寺淡島堂へ向かった。


 淡島堂境内はやはりごった返している。


 そして針をさしてあるこんにゃくを渡して供養をお願いする。


「どうか供養をよろしくお願いします」


「あい、任せられよ」


 浅草寺との関係は良好であるし淡島堂への参拝ができたのも良かったな。

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