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正月明けの悲喜こもごも

 さて元旦をゆっくり寝て過ごした俺だが大見世は見世を開けるのは8日からだ。


 これは暮と同じで主なお客さんの大名なんかが年始のあいさつ回りなどで忙しくてそれどころじゃないからだな。


 逆に小見世や切見世は2日からもう店を開けて客が来るのを待っている。


 一般の商店も2日からはもう通常営業で初売りをやったりしている。


 そして見世は開けなくてもあいさつ回りはしないといけない。


 俺は妙とともに引手茶屋に挨拶に行く。


「あけましておめでとう。

 本年もよろしく頼むな」


「ああ、こちらこそまたよろしくな」


 吉原の総会の秘書連中のところにも行く。


「あけましておめでとう。

 今年も書類仕事よろしく頼むな」


 俺の挨拶に苦笑しながら高坂伊左衛門が言う


「ははは、できればお手柔らかに願います」


 そのほか関係各所へ挨拶回りに向かうと新年二日目はそれで終わってしまう。


 この日は遊女たちも正装して引手茶屋に挨拶回りに向かう『道中初め』をおこなう。


 それこそ着飾った太夫たちの道中はじめを一目見ようと見物人が大勢集まって来たりもするぜ。


 そして、3日目は見世が休みの大見世の遊女は仲通りで羽子板をうって、違う見世の遊女で競い合ったり、その辺を通りがかった女性と羽つきをしてわいわいと交流をしている。


「ふふふ、高尾はん。

 大晦日の歌合戦ではあんはんが一等やった。

 でっけど、羽子板では勝たせてもらいますえ」


 そういうのは勝山。


「ほほほ、できるのんならやってみるでやんすよ」


 そう言って迎え撃つのは高尾。


 ”かん””こん””かん””こん””かん””こん””かん””こん”


「あっ!」


 勝山が羽を落としてしまい悔しそうにする。


「ほほほ、わっちの勝ちでんな」


 そういって勝山の顔に墨を塗る高尾。


「くうううう」


 一方うちの藤乃はのんびり吉原歌劇のファンの女の子相手に羽つきをしている。


「お姉様行きますわ」


「いつでもええでやんすよ」


 こちらはラリーもゆるい。


「あはは、落としてしまいました」


「いやいや、なかなかの腕でありんしたよ」


 まあそんな感じで楽しく羽子板を打ち合ったり、手毬をついたりしていたりする。


 劇場も開放され正月は劇は行われていないが、遊女が集まって歌留多や双六、福笑いをしながら皆で笑いあったりもしている。


 そんな中を大黒天の姿を模して面や頭巾をかぶり、お多福や恵比寿の面をかぶったものと一緒に楼の門口で”ござったござった、大黒天がござった”と宝の小槌を打ち振って祝歌いわいうたを歌いながら、三味線や太鼓に合わせて踊る大黒舞も吉原の道を練り歩いたりした。


 そしてこの時期は凧売りも凧をたくさんはいったかごを持って売り歩いた。


 凧揚げは人気の遊びで大川の河原なんかは凧揚げに夢中になる男の子がいっぱい走り回ったりしている。


 道路ではどちらが長く独楽を回せるか男の子が競い合ったりもしているな。


「これだけ見てるとめでたいんだがな」


 そう、正月は年末の決算で昨年の利益が確定する時期でもある。


 事業に失敗したり、かけが回収できず潰れる危険性がある商店が出るのがこの時期だ。


 また病気や怪我で働けなかった大工などが大晦日のつけを逃れても、年を越したらもうつけは効かない。


 冬のさなかで炭などが買えなくなったそういった連中の娘が女衒に売られて正月早々吉原に売られてきたりする。


 さっそく、三河屋に町女衒が二人の娘を伴ってきたやってきた。


「へへ、三河屋の旦那。

 こいつらは大工の娘と商家の娘だ。

 読み書き算術はバッチリで見かけもいい。

 それぞれ20両ずつでどうだ?」


 俺は二人を見てみる。


 正月だというのに着ている着物はおそらく古着でたぶんふたりともろくに食っていないのだろう。


 随分と痩せているがルックスは悪くないな。


「分かった、あわせて40両だな」


 俺は40両を持ってこさせると町女衒にそれを手渡した。


 町女衒ははニヤニヤと笑って数を数える。


「へい、間違いなく40両受け取りやした」


 証文を交わしてそれをお互いに受け取ると俺は幼い娘達を見世にあげた。


「お前さん達、腹減ってるだろ?」


 コクコク頷く二人を広間に案内して、雑煮を持ってこさせる。


「ふたりともまずはたらふく雑煮を食え。

 その後内湯でさっぱりして来い。

 他の禿への紹介はその後にするぞ」


 おずおずと一人が言う。


「私こんなにたくさん食っていいんですか?」


 俺は笑って頷く。


「ああ、お前さんたちはもう俺の家族も同然だからな。

 ちゃんと食ってちゃんと寝て、芸事を身に着けていい生活ができるように頑張ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 まあ、こいつらを売った親の手元にも15両くらいは手に入るだろう。


 それだけあれば1年位はなんとかなるはずだ。


 最低限こいつらが売られて不幸だと思わないようにしてはやりたいな。


 ちなみに大工の娘は朝顔、商家の娘は芍薬しゃくやくと言う源氏名にした。


 商家の娘は日常的に愛想の良さの必要性が分かってるので太夫になれる可能性が高いからな。

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